2 怪奇事件と録音器
21世紀初頭――。
神秘、怪奇、幻想…どれだけ人類が発展と滅亡を先急いでも、それが本質的な意味で存在していた時代。
先進的で利己的な情報主義社会が、何世紀も続くオカルティズムを淘汰してもなお、世界中で怪奇事件は続発し続けていた。
都市伝説、UMA・妖怪、神秘と魔術、超古代文明の発見、超能力に超科学 ――。
どれも三流ネット記事の食い扶持なりと、誰もかれも、したり顔で嘲笑う魑魅魍魎。
否、誰もかれも、起きていることすら知らないのだ。
各国が、正確に言うなら、宗教的文化的に違う、あらゆる組織勢力が、血眼になって怪奇事件の解決と、その制圧に力を注いでいるからだ。
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その目的は平和維持や人類間の混乱を防ぐためといった、至極ありふれた戯言だけでない。
遥か昔より、不可思議怪奇な事件の現場に現れると伝えられてきた、ある記億媒体、“録音器”を手に入れるため。
とどのつまり、それだけが大きな目的でもある。
俗に「アカシック・レコード」と呼ばれる“録音器”には、人類の過去、現在、未来がすべて記録されており、人々はその因果応報の渦中に従って生き続け、歴史を刻み続ける定めにあると言われている。
そして、この“録音器”を手にしたものは真の意味で“世界”を制する。言い換えるのならば“人類の覇者”となることができるという――。
人類は既知の歴史の裏で、この録音器を巡る争奪戦を繰り返してきた。
それこそ、エデンの園で禁断の果実を口にした、その瞬間から、今に至るまで。
時に怪物や魔術に出会い、怪奇や幻想を打ち倒しながら、幾重もの屍を積み上げて――。
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だが、世界中で王朝たるものが淘汰され、近代政治が支配する国家が樹立し、化学が人類から媒体への興味を取り上げた今、覇者となるため伸ばし続ける手は、もはや3つのみ。
石工の過激原理主義を尊ぶ秘密結社―欧米 「合衆国建国連合」。
古の魔物と魔導士を統べる同業組合―日本 「陰陽寮 八咫鞍馬」。
始祖に祈り異端を蔑む最小にして最強の象徴―カトリック 「バチカン」。
彼らの争いは、時に歴史を変え、時に人を救い、何世代にも渡って怪奇事件と録音器に拘り続けた。
文字通り、血で血を洗い、その血で盃を満たしながら――。
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しかし、この戦争に突如、もう一つの勢力が加わった。
それは唐突であり、刹那に感じるも、予期できぬ抑止力。
冒頭、シントラのヒッチハイカーを打ち倒した3人の美少女探偵。
名は「ノクターン探偵社」
リスボンに事務所を構え、猫探しから近所トラブルまで、なんでも解決する万事屋探偵事務所。
というのが ――表向きの顔。
察しの通り、その正体は、怪奇事件専門の私設特捜機関である。
個人から政府機関まで、誰であろうと依頼を引き受け、世界中のあらゆる場所に飛んでいく、少数精鋭のエージェントたち。
その解決率は、99パーセント以上。
彼女らもまた、怪奇事件と録音器を探し求めるのだが――。
おや…前説が過ぎたようですね。
では、始めましょうか。
これは誰もが知り、彼もが知らない、近くて遠い彼方の大戦記。
その名は…「クロス・ノクターン」