妄想
仄暗い道。
この世では無い場所。
ヴァルナの案内で進む。
「気をつけて下さい・・・私から離れると、出られなくなります」
ヴァルナが真剣な顔で言う。
ごくり
俺は息を呑んだ。
「いや、むしろ、規定のルートから外れたら、即座に元の世界に放り出されるよね」
フィンが半眼で突っ込む。
嘘か?!
「ああっ、フィンさん、酷い!」
ヴァルナが抗議する様な声を出す。
ヴァルナが、こほん、と咳払いすると、
「緊張をほぐそうとしたんです」
そう告げた。
まあ、緊張し過ぎるのも良くないな。
恐らく、出口で待ち構えている者。
魔将軍オセ。
下半身はヤサ男。
顔は、豹。
ライトメイルにマント、俊敏なフットワークで剣を操る。
そして・・・神級魔法を息をするように行使する。
その力は、まさしく悪魔。
相手が攻撃に移る前に、レミアが突撃・・・隙を見てフィンが援護。
俺とヴァルナはフィンの隠れ蓑。
単純だが、これが俺達の作戦だ。
出口が見えてきた。
ごくり
誰ともなしに、息を呑む。
そう。
前哨戦、と言うよりは、本戦・・・
俺達は──負ける訳には、いかない。
出口を潜り・・・視界に飛び込んできたのは・・・オセ。
ラスボス戦らしく、いきなり戦闘は開始しない。
見ただけで分かる。
強い。
むしろ華奢に見える、豹頭の男・・・
「勇者よ、残念であったな。お疲れ様、私が来てしまった」
とつとつ、とオセが語る。
全知全能の存在、余裕に満ちた態度と声音──ではない?
何故か、戸惑った様な印象を与える声音だ。
むしろ、余裕に満ちていてくれた方が、つけ込む隙が有るのだが・・・警戒を怠らないと言うのか。
所謂、豹は兎を捕らえるのにも全力を尽くす、か。
「やはり、読んでいたか。オセよ。そして、やはり妨害に出てくるか・・・貴様から、魔王を──父を、そしてこの世界を、解放する!」
ヴァルナが叫ぶ。
ゴウッ
今までとは比較にならない魔力が、ヴァルナを渦巻く。
・・・強い!
ヴァルナ、此処まで強かったのか?!
オセは、ヴァルナを一瞥すると、俺の方を向き、
「勇者よ。そなたの事は、知覚していた。そなたの能力・・・魅了。そして、それを用いて、呪われし姫の神器を解放する・・・その組み合わせを引き当てたそなたの運命力、誠に見事である」
全部ばれてる。
神器の対策もされていそう・・・
その割に、何だか、オセの様子がおかしい・・・?
「・・・我は全知全能と称えられし存在・・・だが・・・」
オセはヴァルナを見て、
「・・・何をやっておるのだ?魔王軍総司令官ともあろうそなたが、何故勇者と共にいる?」
魔王軍総司令官だったのか。
そういえば、魔王の娘なんだよな。
「言わずと知れた事・・・オセ、貴様の企み、我が気付かぬとでも思ったか?!」
ヴァルナが叫ぶ。
「・・・企み、とは如何?」
オセが困惑した様な声を出す。
おや?
「・・・まさか、また、変な妄想をして、信じ込んで、暴走しているのではないでしょうな?何時も言っている通り、確かな情報を、論理的に組み立てた事。もしくは、事実。それ以外は、ただの妄想ですぞ?」
オセが半眼で呻く。
・・・まあ、魔王が再誕を望んでいなかった、これは事実だろう。
生まれ変わった魔王が記憶を一部失っていた、これも事実だろう。
それがオセのせいだ・・・それは、ただの想像だ。
魔王の再誕にオセが関わっている、これもただの想像だ。
こほん
オセが咳払いをする。
「・・・まあ、敵対するというのでは、仕方が無い。大切な友人の娘であり、我が孫の様に可愛がっていた存在ではあるが・・・その命、此処で散らすもまた運命、か」
ヒュッ
オセが剣を抜き放つ。
ブッ
オセがかき消えた。
速い?!
ゴウッ
俺の横側から、何かが雪崩れ落ちる。
食材やら、水やら、衣服やら。
何だ?!
俺は為す術も無く流され。
何とか体勢を立て直し、雪崩れ落ちた物の山の先を──
そこには
オセに剣で貫かれた、マリンの姿があった。




