第七話『蠢くものは』
今回も文字数多めで申し訳ありません、第七話です!
「さて、この辺でなら良いか」
街の外れ、と言っても、街から出た直ぐの草原に、イクスとエルミナは立っていた。
イクスは右腕に巻き付けた腕輪を見ながら、念じ始める。
「『召喚』」
「キリュルルッ!」
その言葉を口にした途端、腕輪から、光が射出され、そこから先程見た『陸鷲』が姿を見せる。
「おお、これは便利だな。何処へでも持ち運べる移動手段、最高じゃないか」
「もう、愛想の無い言い方しないの!この子はもう大事な仲間よ?名前、付けてあげないと」
「名前ねぇ……」
名義上、イクスがこの『陸鷲』の持ち主なので、名前をつける権利はあるはずだ。
だが、彼自身余り、名前のセンスはある方とは思えない。
「私、名前は大体考えてあるんだ〜」
「それなら、こいつの名前はエルミナに任せるよ」
なにやら張り切っている様子のエルミナを見て、イクスはあっさりと命名の権限を彼女へと譲渡する事にする。
「じゃ、ベリット!」
「今までの前置きとかは関係無いんだ……。まあいいや、別に異論は無いし、それにしようか」
エルミナの素早い命名により、ベリットと名付けられた『陸鷲』は小さく喉を鳴らす。
商人や、傭兵の運搬、幅広く活躍する『陸鷲』は、知能が高いので、もしかするとこの会話の内容に対しての返事かもしれない。
「よし、じゃあ出発するぞ。エルミナ、ベリットの背中に乗ってくれ」
「はぁい、んしょっと」
二人は、テキパキとベリットの背に乗り、胴体に巻きつけられた革のベルトを、自身の腰に巻きつけて、結ぶ。
「ベリット、北へ真っ直ぐに飛んでくれ」
「キリュル」
意思の疎通は、ベリットに巻かれた魔法道具によるものなのか、それなりに取れているようで、ベリットは、強靭な脚を稼働させ、徐々にスピードを上げていく。
「おおっ、もう飛ぶのかな!」
「だろうな、顎とかぶつけないようにしとけよ!」
その直後、二人の身体は一層強い風圧を浴び、若干の浮遊感に包まれる。
ふと、イクスは周りを見渡すと、既に地上とは中々の距離があった。
「凄いな、全然不快感が無いぞ。これが『陸鷲』か……!」
イクスも、初めて『陸鷲』に乗った為か、感動を隠せない。
外界で活動していた時も、空を移動する事はあったが、大体が粗末な飛行船での移動。
これ程、心地が良い飛行は経験した事が無い。
「凄い、凄いよ!ベリット!」
あまり感情を出さない彼よりも、素直な少女は、イクスよりも声を大にして、喜びの声を上げる。
「ハハハ、これならすぐに着きそうだ!」
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「よう」
何気無い挨拶、にしては、少しばかり人を馬鹿にしたような声音。
その声の主の少年は、それほど大きな声を発してはいないが、この声はよく響いた。
「……グゴ」
少年を一瞥するのは、巨大な体躯を持つ大男。
もはや『人間』どころか、『魔族』でもかなり大きい部類に入るほどの巨体だ。
小さく唸りを上げ、両腕を振るおうとしても、強固な鎖が反逆を許さない。
「おっと、まだ反抗心があるとは、大したもんだねぇ」
もうその巨体には、数多の傷が刻まれ、いずれもまだ新しい傷が、痛々しく表皮に残っている。
この巨躯が何度も暴れた証拠だろう。
「でも、もう殆ど残っちゃいねぇよな、理性なんてよ。殆ど笛の支配下の筈なんだけどな」
「おん?何だ、来てたのか」
巨躯を興味深く見つめる少年の元に、別の野太い声が投げかけられる。
少年は、その方へと振り向くと、茶色く焼けた肌と、目に切り傷がある巨漢が現れた。
「別に良いだろ?俺も関係者なんだ」
「ーー確かにここはアンタのもんだけどよ。あんまり堂々と来られて、他の奴にここがバレたらヤバイんだぜ?」
「まあまあ、ここの場所知ってる奴は皆グルだ。そうはバレやしないさ。それで、そいつはどうなんだ?扱えるのか」
これが本題とばかりに、少年は、巨漢に向けて、疑問を投げつける。
ここに縛り付けられている巨躯は、やはり彼らに利用されている事を決定づける言葉だった。
「もう少し時間が必要だ。まだ完全じゃねえ。アンタに敵意を向けた時点で、完全だなんて思ってないだろ?」
「フフフ、どうだろうな。お前が俺への嫌がらせに、そう仕向けたっていう事もあり得るぞ?」
「ヘッ、そんなこたしねぇよ。まあ兎も角だ。こいつはやっぱ魔法に耐性があるし、再生力も薬で抑えたとはいえ、かなりのモンだ。重ねがけしちゃいるが、回復するせいで、中々上手く進まねぇんだ」
「フフ、それは必要な苦労だろうよ。もしこいつが運用出来れば、かなり強力だぞ?強靭な身体に、圧倒的膂力と再生力。ほぼ無敵だろう」
「クク、そりゃ買い被り過ぎだぜ、アーカスの旦那」
「まあ、そりゃあアンタのボスの所の幹部とかと比べる気は無いさ。たぶん、こいつじゃ敵わないだろうからね。俺は、軍事的な意味で言ってるんだ、個体の強さでは無く、兵器としてだ」
「クハァッ、血も涙もねぇな!ヴェントリスの血統ってのは、そういうもんなのかねぇ!」
「さあな?あまり似て欲しく無い所だよ」
「グゥゥ、ギャガァァァッ!」
二人の会話に割り込んで来たのは、轟音。
巨躯の秘める膨大な肺活量から繰り出される咆哮は、空気すら目に見えて歪むほどの音量。
加えて、地下施設であるここでは、二人にはとてつもない音量がのしかかった。
「うおおおおッ!」
「ちぃッ!」
二人共、こういった、時折起こす咆哮の対策として、魔法や、魔道具で音に耐性を持っているが、それでも余りある威力は容赦なく鼓膜を殴りつけ、脳髄を揺らす。
「全く喧しい。これでは先が思いやられるな」
「しょうがねぇよ、こればかりは。急いだって成果は出やしねぇよ」
「それもそうだがな、ここまで効き目が薄いとは、『禁忌の遺産』というのも疑わしく思えてくるぞ」
「ッ!そりゃ言っちゃいけねぇ。こいつだってそれに匹敵する力を秘めてる。ランクで言えば、こいつも同格だ。寧ろ抑え込めてる事が、何よりの証明だと思うんだがな?」
あくまでも、自分の雇い主への侮辱は看過できないようで、大男は眉間に皺を寄せ、血管が隆起する。
「悪かったよ。にしても、酒に溺れた腕っ節が取り柄の男が、どうしてこうも雇い主に執着するんだろうなぁ。どうも解せん」
「ハッ、そりゃあ、あの方のカリスマ性って奴だよ。俺はああいう人を欲してた」
「カリスマね、しかも『禁忌の遺産』まで持っている。それにあの武力だ、一大帝国を作っていても可笑しくはないぞ」
「いずれ作るんじゃねぇか?まあ、互いに出過ぎた真似はしないようにしようじゃねぇか。俺も短気だからな」
彼等を支配する存在。
うち一人は、『人間』の国家でもかなりの権力を誇るヴェントリスの一族。
それを易々と牛耳る存在というのは、関係者の二人にも底が知れない。
考えても仕方がない。
そんな曖昧な結論で締めくくり、下らない考えは、酒に酔いしれる事で、忘れる事にした。
今回、謎の二人が登場致しました!
場面転換って**の記号で良かったのかハラハラしている作者の胸中です……
徐々に伏線回収していくので、お楽しみに!




