第六話『使役獣』
お久しぶりです!今回は物語の都合上長めになってますが、ご了承下さい!
街並みは、閑静な住宅街と言った所か。
宿などが並ぶ通りは、夜でも明るく、目立つ為に見つけられないという事はほぼ無い。
土地勘が余り無い彼には有難い。
「夜分遅くに済まない。一部屋貸して欲しい」
こうなれば、一刻も早くガタープの街へと向かう手筈を整える必要がある。
エルミナに説明する為にも、イクスは二百ネイド程を、宿の受付に差し出し、忙しない様子で鍵を持ち去っていった。
「どうしたの。そんなに急いで」
「いや、少しでも説明に余裕が欲しかったんだ。エルミナ、これからの指針は大体定まった」
「そうなの!?じゃあ教えて!」
「ちょっと待ってくれ。『形状変換』」
彼の立てた指針の内容を他に聞かれては困るので、イクスは部屋の壁に触れて、能力を発動させる。
今回は壁の外見は変えず、防音効果のある壁へと変換する。
「凄いイクスって用心深いよね」
「俺はあまり他人を信頼出来ない性質なんでね。悪いな」
「ううん。いいの。それで、その指針って?」
その言葉を合図に、イクスは地図を広げる。
すると、その様子にエルミナはイクスの顔を見る。
どうやら、この地図をどこから持ってきたのかが気になるらしい。
「ん?この地図か?それなら宿の受付のとこにあったから、パクってきた」
「あ、だから何か急いでたのね。ま、いっか」
存外、イクスが平然とやってのけた盗みを咎める事も無く、あっさりと受け入れた彼女は再び広げられた質素な地図に目を落とす。
「それでだ。今いる街はここ。で、次に向かうガタープの街はここにある。ざっと北に二百キロルってとこだ。適当な魔獣を買って、そこへ向かう。明日それを買って、食料諸々の買い出しを終えたら即出発だ」
「了解よ。ガタープの街では何するの?」
「さっきの話の通り、ヴェントリスに会いに行く。まだカーボル鋼は残してあるから、金銭は足りている。そこから情報収集だ」
「ヴェントリス、さっきの悪い噂が立ってるって一族?」
「そうだ。まずは移動手段だ。『使役獣屋』へ行くぞ」
街にある、様々な用途に使われる魔獣を売買する『使役獣屋』と呼ばれる店に、イクス達は立ち寄っていた。
「はいよ。ちょっと待ってくれ」
年季の入った木製のカウンターに立っていた中年の店主は、イクスの要望の為に、店の奥へと消える。
「ところで、どういうのにするの?」
「ああ。値段は高めになるかもしれないけど、『陸鷲』かな。空を飛んで移動出来るから、いざって時に逃げやすいだろ」
『陸鷲』とは、基本的には、巨大化した鷲であり、人を三人くらいなら乗せることが出来る程の巨体を持つ。
優れた運動能力と、防御可能な風の防壁を展開できる点で評価は高い。
「ここで金を惜しむつもりは無い。追っ手から逃げやすくするのには、少しでも有力な方が良いからな」
「なるほどね。その為のカーボル鋼なんだ」
そこで、需要が高く希少なカーボル鋼がうってつけなのだ。
人工で作る事も可能なのだが、かなりの労力を要する。
自前で魔力さえあれば生産できるイクスには都合の良いモノだった。
「待たせたな。『陸鷲』の小屋の鍵だ。基本的には温厚だし、無闇に噛み付くことはないだろうけど、あんまり下手な事はしないでくれよ」
そう言われて、鍵を手渡されると、その小屋に案内される。
すると、数頭の『陸鷲』の視線が一気に集まる。
「……随分警戒されているな」
「まあ、しょうがない。こいつらも言い方は良くないが、人間に捕らえられた身だ。それなりに自由にはしてやってるつもりだが、不満もあるだろうさ」
となれば、個体の体格といった面だけで決めるのは少々危険だ。
確かに、移動するのに優れているのに越した事は無いのだが、まずこちらの言うことを聞いてくれる事が最優先。
「みんな怖がってるみたいね」
エルミナは、その小屋の中に居る『陸鷲』達の顔を眺め、そんな事を呟く。
この様子では、この店は品揃えは良くとも、店の管理は今ひとつといった所か。
「まあ、少しでも扱いやすそうなのを見つけよう。店長、この中で一番大人しそうなのはいるか?」
「そうだねぇ。一度懐けば従順なのはコイツだ。だけど、コイツはだいぶ気位が高いからなぁ。最初から扱えるってやつなら、コイツだ。ちょっと能力は落ちるが」
店主の言葉と共に、指を指された二頭は、素人のイクスから見ても、印象は大分異なっていた。
「ん?こっちが従順とか言ったっけ?」
「えっ!?いや、そんな筈じゃあ……どういうこった」
「ふふ、どうやら俺の事を気に入ってくれたのかもな。理由は分からんが」
どういう事かは分からないが、気位の高いといって難色を示されていた一匹は、イクスが近付くと、顔を擦り寄せて、甘えているように思える。
「決まりかな」
この様子なら、イクスの言うことも聞いてくれそうだ。
エルミナが近寄っても、別に敵対する姿勢は見せない。
その上、個体としての力も優れているのなら、言うことは無いだろう。
「この子をくれ」
そう言って代金分を詰めた袋を置いて、店主へと差し出す。
「ま、毎度ぉ、と、とりあえずこいつを付けときますね」
店主は恐る恐る、『陸鷲』の首へ手を回し、首輪のようなものを取り付ける。
その首輪には魔法が込められた宝石が埋め込まれているようだ。
「これは?」
「ああ、これはですね、『召喚印』っていって、連れまわすのが大変な『魔獣』に取り付けるもんなんですよ。あと、こいつを」
そう言って、店主はいそいそと戸棚から金属製の腕輪を持ち出して、イクスに手渡す。
重厚感のある見た目だが、不思議と重さはあまり感じない。
これも何かしらの魔法道具だろう。
「こいつはその『魔獣』を連れて行く為の腕輪です。念じて、言葉にするだけで、『魔獣』を格納したり、召喚したりできる魔法道具ですよ。凄いレアなモンなんで、失くしたら大変ですからね」
「あ、ああ。分かった、有難う」
やたら釘を刺してくる店主の言葉に従い、その腕輪を付けてみる。
あまり時間もないので、早々に『陸鷲』を格納しておく方が良いだろう。
「格納」
すると、『陸鷲』の身体が淡い光に包まれ、その光が、腕輪に吸い込まれていく。
それと同時に、『陸鷲』の姿は眼前から無くなった。
「そうそう、そんなもんですよ。じゃ、その分の代金も頂けますかね?」
何処か積極的だと思ったらこういうことだったらしい。
幸い、有り金は足りていたので、その金額を支払って、二人は店を後にした。
「ね、後でこの子に名前付けてあげようよ」
「そうだなぁ。まず一旦落ち着いてからな。後は食料とか買い込んで、移動することにしよう」
そこからというもの、もう昼過ぎの時間帯で、太陽の光が最も眩しい頃合いだ。
市場も活気があり、それに比例して品揃えも豊富。
必要な食料は、十二分に買い込むことが出来た。
「……『人工聖霊』でも普通にもの食べるんだな」
「何、失礼よ?確かに『人工聖霊』は食事は、人間と比べて圧倒的に少ないけど、必要無い訳じゃないのよ?」
「ああ、そうなんだ。悪い、あんまり知らなくてな」
イクスの言葉に猛烈に反論するエルミナに、大人しく謝りつつも、イクスは『人工聖霊』について、殆ど知識が無い。
そもそも、そんな単語は今まで聞いた記憶が、博士のやり取りでしか聞いた事が無い。
「じゃあいよいよ出発だ」
誠に申し訳ありませんが、これから投稿が諸事情により疎かになります。




