第一話『人工精霊』
Twitterでの予告から大幅に遅くなりました!申し訳ありません!次話投稿の予約を入れたと思っていたんですけど、どこかで変えちゃったのかもしれません笑
「こりゃあ凄い威力だな」
爆発の中心となった研究所は、もう見る影も無く、瓦礫の山と成り果てている。
昨日の夜、爆発してから、既に八時間程経過しているが、未だに煙が上がり、ガスが漂っている。
足場の悪い場所を歩く為に使う、頑丈なブーツを履き、ガスマスクを着用した男は、その瓦礫を踏みしめて、進んでいく。
「この分じゃ、『人工聖霊』も覚醒せず……といった感じか?」
『竜人族』の男が言う話なら、生命の危機に瀕すれば、まだ覚醒していない『聖なる天輪』を起動させる事ができるかもしれないとの事だった。
もしその起動に成功していれば、即座に防壁を展開する筈なので、生存しているという推測の元、瓦礫の山に目を凝らしていた。
「普通、防壁が出てるなら、ここまで見つからないものか?何処か被害を受けてない所に居る筈なんだが……」
瓦礫だらけの不安定な足場を踏み、未だに煤煙が上がる研究所跡で、首謀者は周りを見渡す。
「む、彼処だけ人工物の痕跡が比較的はっきりしているな。其処におるのか!」
駆け足で、注意深く其処へと向かうと、其処に倒れていたのは、彼もよく知る者だった。
「……あの爆発でまだ、身体が吹き飛んでいなかったとは、やはり『聖なる天輪』が発動したのか?」
そこで倒れ伏していたのは、ローダイン本人が創り出した『混沌種』イクスの姿だった。
一思いに、吹き飛ばせるよう、彼らに嘘を吐いて、『異能力』の力を減衰させておいた筈なので、この爆発を耐えられるだけの能力の行使は、ほぼ不可能に等しい。
「やあ、まだ生きていたのかい」
「……生憎な」
ローダイン本人、彼の殺気立った態度は、悪寒を覚える程だ。
だが、この爆発のダメージは大きく、暫くはまともに動く事もままならないだろう。
いざという時の護身用の武器も持っている。
「回復されると厄介だ。ここで君には死んでもらう」
ローダインは躊躇なく、イクスの額に銃口を当てる。
だが、イクスは何一つ動じる事なく、冷たい目で彼を見るのみ。
「これがアンタのやり方か?」
「何だ、命乞いか?どうにしろ、これは政府からの命令だ。背く事は出来ん」
イクスは声音を変えること無く、感情を失った声で問いかける。
だが、ローダインはより強く、銃口を押し付ける。
「命令なんだろ?撃てよ。金と国に踊らされたアンタに、もう期待しない。俺に味方は居なかったってだけさ」
「生意気な小僧だ。だが、殺す前に訊いておく事がある。他の個体は何処だ」
「教えるつもりもないし、そもそも知らないな。あの短時間じゃ、そんなに念密な事は決められる余裕なんてなかった」
「なら、死ね」
そう言って、ローダインは銃の引き金を引き、イクスの額を撃ち抜く、筈だった。
「……くッ」
「おい、何で引き金を引かない。この期に及んで今更怖気付いたのか。殺すなら殺せよッ!」
煮え切らないローダインの様子に、イクスはただ憤慨する。
本来なら、これを好機と見るのだろうが、それ以上にそんなに甘い覚悟で、自分達を裏切ったという事実に、怒りを覚えていた。
「何をモタモタしておられる」
其処へ現れたのは、先程、ローダインと会話していた『竜人族』の男。
背中に、槍を携え、黒と所々に金属の装飾のある外套を纏っている。
最初に陰から盗み聞きしていた時は、姿が上手く見えていなかったが、こうして対峙すると、それなりの覇気がある。
壮年の強者を思わせる眼光が、その場二人の動きを鈍らせる。
「イクス……と言ったか?元『英雄』とか言われていたんだったか?」
「何の用だ?幸いな事に、今の俺は身動きが出来ない。殺すなら今の内だぞ?」
「いや、その前にだ。『人工聖霊』は何処にいるか教えろ」
「『人工聖霊』?知らないな。でも手伝ってやるつもりは無い」
あくまで、この男の目的はその『人工聖霊』らしい。
もう昨日の夜の事になるが、二人の会話で、浮上していたものと見て間違い無いだろう。
「ふむ、元より協力は期待していない。だが、誘き出す方法はある」
すると、その『竜人族』の男は、背中に差していた槍を抜き取り、その穂先をイクスの首筋に接近させ、ギリギリの所で止める。
「『構造変換』だったか?触れたものの形や性質を変化させるんだったな」
「は、ご丁寧にどうも。でも、そんなに近づけて大丈夫か?もし俺が動いて、触れたらどうする?」
「ふん、反撃の隙も与えるつもりは無い。お前がこの状況を打開する方法は、『人工聖霊』が、お前を守護対象としている事が条件だ」
「お前の誘き出すってのは、そういう意味か。完全に俺は役に立たないと見られてる訳だな」
「否定はしないな。さて、長らく会話に付き合ってやる義理もない。そろそろ、審判と行こうか」
そう告げると、槍の穂先に魔力が集中し始める。
流石に、この一撃をまともに浴びれば、致命傷は免れない。
「悪い、やっぱり頼むわ」
刹那、目の前が真っ白になる。
それは、彼の意識が失われた訳ではない。
目の前に立っていた二人を、閃光が吹き飛ばしたのだ。
「大丈夫?」
何処か間が抜けたようだが、凛とした声音で。
目の前に、銀髪の少女が、男二人に立ち塞がるようにして、立ち尽くしていた。
今回は二千文字程度に書き上げました!元々の第二話をキリのいい所で分断した結果なんですけどね笑