魔王様に微笑みを
どうしてこうなったのかしら・・・
はぁ・・・とため息をつきたくなるのを抑えて私は私の目の前にこちらをみて甘く微笑んで座る美形の男をみる。
全体的に黒いシックな服を着た20代くらいと思われる外見と、筋肉が程よくついた肉体。顔は少し目付きが鋭いせいか恐いがそれも彼の内面を知ると、ただ〈目付きが悪いだけ〉と納得できる。
もう一度、今度は静かにため息をつく。
ほんとになんでこんなことになったのだろうと。
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私の名前はルーチェ・アクテスク。
一応、ビーンズ王国のアクテスク公爵家の令嬢でした。
過去形なのは、今は違うからです。
なにせ、私は婚約者に婚約破棄されて、尚且つ知らない冤罪で国外追放されましたから。
当然、家からは勘当されましたので、今はルーチェとしか名乗れませんかね?
さて、何があったのかというと、話は少し前に遡ります。
私にはこの国の第一王子であるハルバート様という婚約者がおりました。
さて、それとは別に、ここ最近魔物の活動が活発になってきています。
魔物とは、魔力をもつ生き物。
私たちも魔力という力を持ちますが、私達人間のもつ魔力を光としたら魔物の魔物は闇。つまりまったく別物とされています。
魔物は人を喰らいます。
対処に困った国は、古来から伝わる異世界人召還の儀式を行いました。
そこで召還されたのが、聖女と呼ばれる存在の異世界人。名前は確か・・・マリコ様でしたかね?
いえ、わざと惚けてはいません。ほんとに興味なかったので・・・。
さて、非常に強い光の魔力をもった聖女様は次々に魔物を駆逐していきます。
しばらくして、魔物が落ち着いてくると同時に何故か聖女様は私達の学園に入学してきました。
私は、その頃様々な問題を王宮で対処していたので、ほとんど学園に通えずにいましたので、姿をみたことはなかったのですが、卒業間近になり、久しぶり学園に行きました。
その日は調度、卒業おめでとうの夜会が行われており、久しぶりの夜会を楽しみにしておりました。
ただ、その日は何故か婚約者のハルバート王子はエスコートに来てくれず、一人で行きましたが・・・
「ルーチェ・アクテスク公爵令嬢。貴様との婚約は今をもって破棄とする!また、聖女であるマリコへの様々な嫌がらせや殺人未遂で貴様を国外追放とする!当然家も勘当だ!」
着いてそうそう何故か罪人になってしまいました。
「えっと・・・殿下?婚約破棄は構いませんが、嫌がらせとは・・・」
「とぼけおって!何も知らぬと思っておるのか!」
いわく、私は学園にて様々な嫌がらせ聖女様にして、その上で、こないだ暗殺者を差し向けた容疑がかかってるらしいです。
そもそも聖女様にはじめてお会いしたのに何故?
「公爵家勘当は父達も了承済みだよ、まったく、愚かな姉だよね。聖女様を害そうとか・・・」
義理の弟はそう言ってこちらを睨みます。
「幼馴染みが悪の道に行くとはな・・・恥を知れ!」
仲の良かった幼馴染みはそう言って私を責めます。
「・・・・さいてー」
王子の近衛は私を蔑んだ目でみます。
そして、当の本人のマリコ様は・・・
「わ、わたし・・・ルーチェ様に、ひ、酷いことされて・・・でも・・・何も出来なくて・・・ etc・・・」
等々、いかにも悲劇のヒロインをしてました。
ちなみに、王子達はそれを見て、我先にとマリコ様を慰めて、その後にこちらを睨みます。
「貴様の顔など二度と見たくない!衛兵!この者をこのまま国外追放・・・いや、魔の森に棄ててこい!」
そうして、弁明も別れもさせて貰えずに私は魔の森にそのまま連れてかれて下ろされました。
正直、このときは悲しみよりも戸惑い、怒りよりも驚きが大きくて、しばらくその場でぼーっとしてました。
よくよく、思い返すと意外と私は神経が太いのかもしれませんね。
さて、魔の森とはその名の通り、魔物の住むとされてる森で何千もの魔物がいるらしいという噂です。
過去に森に入った者は二度と出てこれず、罪人の刑罰にはよく使われます。
まあ、事実上の死刑ですよね。
さて、そこそこ強かな私でも女の身で・・・ましてや、そこまで剣術などを嗜んではいなかったこの身体ではどう考えても魔物に会った時点で終わりでしょう。
《きゅー》
そんなことを考えて歩いているとさっそく魔物に会いました。
幼い子犬のような魔物は怪我をしているのか、足から血が出て倒れています。
私はなんとなく放っておけずに、その子を手当てしました。
幸いにも水辺の近くで、着ていたドレスはそこそこいい布だったのでそれで手当をします。
しばらくして、落ち着いたその子は何故か私になつきました。
私も何故かその子を撫でて癒されていました。
場所がここではなければなんともアットホームな光景だと思いますね。
「ユーン!どこだ!ユーン!」
そうしていると、遠くから人の声が聞こえてきました。
私の膝の上にいた子犬の魔物はその声に反応すると一声《わん!》と鳴きました。
声の主はしばらくして、木の陰からこちらに出てきました。
鋭い目付きと、少し大柄な体格。そして、この森の中で全身黒という不審者丸出しな格好の男の人・・・
怪しさでいえば、アウトなレベルでしょう。
その男の人は子犬の魔物を見つけると顔を綻ばせて、そして、私をみて驚いたような表情をしました。
意味もなく見つめう、私とその人・・・
「えっと・・・この子の飼い主ですか?」
沈黙に耐えきれず思わず先に言葉を発してしまいました。
「ああ・・・。」
男の人も戸惑いながらも返事をします。
「そうですか。怪我をしていたので、軽く手当てはしましたが、念のため後でしっかりと治療した方がいいと思います。」
「怪我を・・・そうか・・・あなたがこの子を?」
「はい。たまたま見つけて。」
「そうか・・・ありがとう。」
素性の知れぬ私にお礼をいうとは・・・ある意味凄い大物に見えます。
そんなことを考えていると、男の人ははたとして今度は困惑気味に聞いてきます。
「ところで、君はこんなところで何をしているんだ?見たところどこかの国のご令嬢に見えるが・・・」
「えっと・・・簡単に言うと、無実の罪で追放されまして・・・」
「ほう・・・」
気づくと私は彼にこれまでのことを語っていました。
彼は私の話を聞いて、次第に眉間の皺を濃くします。
すべて話終わった後に一言彼は言いました。
「だったら、俺と来ないか?」っと。
行く宛もなかったので、私はそれに乗りました。
そして、連れてかれたのは・・・
「どうした?」
「えっと・・・あなたって、王様か何か?」
物凄い豪華な城でした。
それこそ、王城よりも大きいです。
「ああ。言ってなかったか。俺はビーン。一応魔王とか呼ばれてるらしいな。」
その衝撃の説明に私は・・・
「魔王様とか呼んだほうがいい?」
これしか返せませんでした。
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さて、なんやかんやあって、私は魔王様と結婚しました。
えっ?飛ばしすぎ?
とはいえ、自分の情事とか説明できませんて。
強いていえば、時に甘く時に極甘なことがあっただけです。
糖分しかないだろってツッコミはなしでお願いします。
さて、魔王様と結婚してから、2年後・・・魔王城にお客様が来ました。
「魔王!貴様を倒してみせる!」
登場したのは、いかにも勇者みたいな少年と、複数の女の子。
それに、何やら見覚えのある少年二人・・・というか、多分あれ、私の元義理の弟と元幼馴染みっぽい。
ちなみに、魔王様はその襲撃者を10秒で地に沈めました。
私は、その間、魔王様の椅子の後で静かに佇んでいました。
突然の襲撃に魔王様は事情を聞くために、勇者と仲間を拘束しましたが、なかなか口を割りません。
しばらくして、面倒になったのか、勇者の仲間の一人の女の子に催眠の魔法をかけて事情をききます。
いわく、魔物動きがここ最近酷いので、今度は異世界から勇者を召喚したこと。
いわく、前の聖女様は王妃になり、仕事をしなくなったこと。
いわく、ここ最近、王国で様々な問題が起きていてそれが、魔王のせいであるという噂をきいたとのこと。
まあ、ようするに、聖女様は仕事面倒になってしまい、また新たに異世界から勇者を呼んで、国の問題を解決してもらおうとしているらしいです。
・・・多分ですが国の問題には魔王様はノータッチだと思います。
だって、魔王様だったら、そんなせこいことはせずにそのまま滅ぼしそうですし・・・
さて、程よく会話が終わったので、私ももとの知り合いに声をかけます。
「お久しぶりです。私のことを覚えてますか?」
そう言うとみんな訝しそうにしていましたが、流石に旧知の方々は私の顔をみて驚いた表情をしました。
「お、お前・・・ルーチェ?」
「ね、姉さん・・・?」
「まあ。覚えていたのですか。」
私の返事をきくと、二人は呆気にとられたような表情をしたあとに、希望ができたといわんばりの笑みを浮かべます。
「ルーチェ!生きてたんだな!それよりも助けてくれ!俺たち聖女様に騙されてたんだ・・・」
「そうなんだ!姉さん。助けてくれ!」
必死にこちらに助けを求めてくる二人。
「あら?騙されていた?」
「そうなんだ!あの魔女が・・・」
聞けば、どうやら王妃になったマリコ様は見事に国庫を食い潰しているそうです。
税率は、マリコ様への貢ぎものに比例して上がり、もはや国は崩壊寸前。
王には元婚約者の第一王子がなり、彼はマリコの言われる通りな傀儡王としてやってるそうです。
ちなみに、前の王と王妃は毒殺されたそうです。
正直、あの人達はすごくよくしてもらったので少しショックでした。
「そう。それで?」
すべて聞き終わった私はそう二人に問いかけます。
「「えっ・・・?」」
呆気にとられる二人に私は続けます。
「あら?だって。他所の国のことなんて私には関係ありませんもの。」
「か、関係ないって・・・そんな!」
「か、家族だろ!」
その問いに思わず笑いがでます。
「ふふふ・・・家族ねぇ・・・。」
「そ、そうだ!それに、確かお前俺に惚れてたよな?だったら助けてくれよ!」
「ほう・・・」
元幼馴染みの発言に眉を潜める魔王様。
あれで、私を溺愛されてるから、嫉妬してそうですね。
とまあ、それはさておき・・・
「うふふ。まだ覚えていたのね。嬉しいわ・・・それに、家族ねぇ・・・」
「ああ・・・!だから、ルーチェ!」
「頼む!姉さん・・・!」
必死な二人に頬笑みかけます。
二人は私の頬笑みに一瞬助かったと思ったのか、顔が明るくなりますが、そこで我慢が出来なくなったのでしょう、私は隣に来ていた魔王様に腰を抱かれます。
「茶番は終りか?」
「ええ。ありがとう。あなた。」
私はうっとりと頬笑みながら魔王様を見つめます。
すると、魔王様は我慢の限界だったのか、私に顔を近づけてキスをしてきました。
「うぅん・・・はぁ・・・」
思わずこぼれる吐息と、魔王様の厚いキスにしばらく浸ります。
やがて、一息ついて、二人の方をむくと、まさにぽかーんとした表情でした。
「ごめんなさいね。今の私は魔王様の妻ルーチェ。昔のルーチェ・アクテスク公爵令嬢ではないの。」
「そういうこった。こいつは、俺のものだ。」
愉快そうに笑みを浮かべて私を抱き締める魔王様。
やっぱりさっきのに嫉妬したのかしら?
「ねぇ・・・元幼馴染みさん。私は確かに昔あなたに惚れてたわよ。でもね・・・」
名前も思い出せない元幼馴染みから魔王様へと目線をかえる。
「私の一番は魔王様なの。」
「くだらねぇ、男には靡かねぇわなぁ。」
にやりと笑ってもう一度私にキスをする魔王様。
元幼馴染みはそれに顔を青くして俯きました。
少しは心が折れたかな?
あとは・・・
「マルス。おいで。」
「はい。なんですか?母上。」
私が呼ぶと、近くの柱隠れていたマルスが姿を現す。
私は、マルスに近づいてもらうと、元義理の弟にわかるように笑顔で言った。
「紹介するわね。私の息子のマルスよ。私の家族よ。」
「む、息子って・・・」
「おや?彼が母上の元弟ですか。なんていうか・・・残念な感じですね。あれが家族だったとは、母上もお気の毒です。」
「ふふ・・・そうね。残念な・・・ほんとに下らない男だったわよ。」
笑いながらそう言ってあげると、元弟は俯いてしまいました。
これでこちらも取り敢えず大丈夫かしら?
ちなみに、マルスは私の息子だけど、魔王様の亡くなった奥さまの息子・・・つまり、前妻の息子で、私にとっては義理の息子なのです。
とてもなついてくれているので今では本当の家族です。
さて、そんなこんなで、結局元幼馴染みと元義理の弟はしばらく牢屋に入れて放置です。
魔王様いわく、「ルーチェを傷つけた男で暇なときに遊ぶ」らしく、そのための牢屋です。
残りの勇者とその取巻きみないな女の子・・・おそらくハーレム?とかいうものだと思うのですが、そちらはそちらでそこそこエグいことをしてました。
詳しくは言えませんが・・・好きな人の前でやるのは酷なこととだけ言っておきます。
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さて、そんなこんなであっさり勇者を討伐した魔王様は、ついでに私の祖国を潰すことを思い付きました。
私としては、もう魔王様に会えたことから、どうでもいいのですが、やるならそこそこしっかりとやりたいと思うのが心情です。
魔王様は意外と平和的に市民のほうは制圧しました。
もはや、腐った国に飽き飽きしていた民は私たちの侵攻を進んで受けてくれました。
また、王城でも同じようなことがおきて、結果的にほとんど無血で侵略できました。
とはいえ、流す血もありますが・・・
「くそ!売国者が!復讐か!ルーチェ!」
私の目の前にはこの国の王にして、元婚約者がいます。
名前は・・・思い出せない。
まあ、それはいいとしてもです。
「復讐?私はあなたを恨んでませんよ?だって、こんなに素敵な旦那様に会えましたしね。あなたみたいな小さい男は好きではありませんでしたしね。」
そう言っていちゃいちゃする私と魔王様を見て王は悔しそうにしていましたが、諦めたのか目を伏せます。
「さて・・・テメェにはこれからおこるショーをみてもらうぞ。」
「何?」
「楽しい楽しい余興だ。それが終わればそのあとは夫婦仲良く首が飛べるぞ?」
楽しげにそう言う魔王様に私も頬笑みます。
私と魔王様は王を連れて地下牢へと向かいます。
そこで見たのは・・・
「なっ・・・ま、マリコ・・・!」
服はビリビリに破かれて、どうみても弄ばれた後の焦点の定まってないぐらい虚ろな目をした元聖女様です。
「こいつへの恨みはやばいからな・・・男達は特にすごかったらしいぞ。」
「そ、そんな・・・」
絶望したような表情の王。
「でだ。これから処刑までの間は、お前はこの女が壊れるのを目の前の檻でみてもらう。当然お前もそれなりに痛め付けるがメインはこっちだ。」
そう言って元聖女を指差す魔王様。
それから一週間後・・・民の前で二人は仲良く処刑された。
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結果的にするつもりのなかった復讐を終えて、私は馬車のなかで、ため息をつきます。
「どうかしたのか?」
魔王様は甘い笑みでこちらを見てきます。
わかってるくせに・・・
「少し疲れました・・・魔王様・・・」
「なんだ。」
「この子と一緒に楽しく過ごしたいですね。」
私は自分のお腹を撫でながらそう笑いかけます。
「ああ。愛してるぞ。ルーチェ。」
「はい。私もです。」
私は心から笑いました。
愛する夫に・・・魔王様に微笑みを。
お読みいただきありがとうございます。