第三話 その後と希望と異世界と
《私は幸福の女神メリリュード。君をこの世界に転生させたんだよ》
「女神って何だよ。厨二乙」
聞こえてくる声に茶々を入れる優人。もしこれが幻聴だとしたら、幻聴で女神を作り上げている優人も十分に厨二なのだが。
《うぐっ!厨二……。いや、気にしない、気にしちゃ駄目だ!頑張れ私っ!勝手に話すって決めたじゃんっ!!絶対に話し切るんだっ!!》
優人の暴言により、落ち込んだように声のトーンを落とすが、自分を励まして立ち直る女神(仮)。かなりイタイ。なまじ声が綺麗なばかりに、残念感が半端ではない。
だが、そんな態度がより人間味を増す。
「……普通に会話出来てるんだよな。まさか、マジで幻聴じゃない?」
《最初っからそう言ってるじゃんっ!!酷いよ、まったく。お姉さん傷ついちゃうぞ!!》
女神(仮)の勢いに気圧される優人。少しだけ、幻聴ではない可能性を考え始めた。
「お、おう。え?じゃあ、マジで女神?」
《うん、そうだよ。マジで女神。凄いでしょ》
《ふぅ。それじゃあ、改めて。私は幸福の女神メリリュード。君をこの世界に転生させたんだよっ!!》
女神は息を整えてから改めて用件を告げた。優人は納得したような、苦虫を噛み潰したかのような顔で問う。
「この世界ということは、ここは本当に異世界なのか?それに転生っていうことは、やっぱ俺死んだのか?」
《うん、その通り。君の人生がさ、あまりにも酷くて酷くて。転生させたのは同情したしたからなんだよ。いや、もう、何かね?君可哀想すぎるでしょ~。長年神やってるけど、君くらい運の無い人初めて見たよ》
《君って死んでも運がなかったんだよ?君を刺した通り魔、精神疾患があってさ、責任能力が無くて結局不起訴になっちゃったんだよね。》
《君の恋人、美鈴ちゃん。君の死後、精神疾患持ちを裁けるように、法律改正を訴え続けたんだよ。誰とも結婚せずに、生涯独身で》
女神は、優人の居なくなったその後について語る。通り魔がわざわざ警察署の近くで犯行に及んだのは、判断能力が無かったからかもしれない。
女神は美鈴にまで言及する。どうやら、美鈴は一生を優人のために捧げたようだ。優人は嬉しいような悲しいような、何とも言えない顔になる。
「そっか……美鈴……。って、ん?生涯?何?美鈴死んだの!?」
《うん、そうだよ。と言っても、ちゃんと寿命で。心配しなくても怪我や病気じゃないよ。時間軸が違うからね。もう地球の時間は大分進んでるんだ》
「へえ、成程な。美鈴……」
優人は空を見つめながら、愛する人の名前を呟く。「幸せにになれって言ったのに……」と独り言を小さな声で言った。
少し間が空き、優人が女神に質問をしようとした時、「あっ」と女神は思い出したかのように、優人にとっての最重要事項を言う。
《そういえば、美鈴ちゃん記憶を持ったままこの世界に転生したよ。君とは違って赤ちゃんからのスタートだけどね》
「……え!?本当に?」
《うん。今は……十五歳だから、君の年齢と同じだねっ!!》
女神が何気なく放った言葉が、優人に疑問を抱かせる。だが、その疑問は自分の姿と今の一言で半ば解決しており、どちらかと言えば確認のようなものだった。
「やっぱり、今の俺は十五歳に若返っている、ということか?」
《あ、そういえば説明していなかったね。新しい人生だし、どうせなら長く生きた方が良いでしょ?だから、最低限一人で自由に動ける年齢、つまりこの世界での成人年齢である十五歳にしたんだよっ!!》
「十五歳で成人なのか。だとしたら美鈴も成人してるってことだよな?」
《うん。早く彼女の元に行かないと、誰かに取られちゃうかもよ?良い男もよりどりみどいだしね。美少女だし地位も高いから》
くすくすと笑いながら、女神は優人をからかう。もっとも、彼女が地球にて生涯誰ともくっつかずに優人への思いを貫き通したことは知っているので、そんなことは無いと女神自身も確信しているのだろうが。
だが、それでも優人は傷ついたようで、顔を顰めながら女神に問う。
「……嫌な事言うなよ。まあ、でも、その言い方ということは、まだ美鈴は誰ともくっついていないんだな?だったら絶対に見つけて今度こそ結婚してやる!」
《うん、うん、頑張れっ!!お姉さんは君の恋を応援するよっ!!》
おどけたような口調で、彼女は優人に語り掛ける。人をからかっているという行為は先程と変わっていないが、少し前に言った言葉の後で応援するは無いだろう。
だが、女神はすぐに気を引き締め、優人に確認する。
《それで、そう言うってことは、この世界で生きることを容認してくれた、と思って良いのかな?》
「……どうせ、こっちに拒否権は無いんだろ。まあ、転生?と言うか、生き返らせてくれただけでも感謝してるし、もうそれ以上は望まないよ」
爽やかな笑顔で優人は言う。
《欲がないね~。さっきは哀れんだと言ったけど、実は神々のごにょごにょとした都合も混じってるから、もっと何か言ってくれてもいいんだけど……。いや、欲張ると災難が起きるという環境で生きてたからかな?もう君の運は悪くないんだから、もっと高望みしてくれても良いんだよ?》
「運が悪くない?本当か?まあ、今はどうでも良いか。……他の願いも叶えてくれるんだよな?なら今すぐ美鈴と会わせてくれ」
女神の言った『ごにょごにょとした事情』については深く追求しないようだ。しかし、そのかわりと言わんばかりに新たな望みを言う優人。図々しい。
だが、自分の運が正常になったという言葉を聞いた時、彼の顔は綻んでいた。
《望みを叶えるとは言ってない(キリッ)。何の努力もしてないのに望む通りになるなんて思わないことだねっ!!》
「は!?おい!!ふざんけんよ!!」
《まあ、でも、それは可哀想だし、少しだけヒントをあげるよ!!彼女の今の名前は『ミレルディリイ』、良い名前だよねっ!!》
自分で願いを言えと言っておきながら、1/100くらいしか叶えない女神。下衆の極みである。
だが、それでも、ヒントをもらえたことは嬉しいらしく、優人は笑みを浮かべながら「ミレルディリイ」と何度も呟いていた。
「よし、絶対に探してやる!待ってろよ、美鈴!!」
《やる気が出たようで何よりだよっ!!それじゃあ、この世界の説明をするね》
「ああ、頼む」
女神は一度、「コホン」とわざとらしく咳をしてから説明を始める。
《とは言ったものの、私から説明することはあまり無いかな~》
「どういう意味だ?」
《神々のルールみたいなものがあってね、常識とかについてはあまり詳しく教えちゃ駄目なんだよ》
「何故に?」
女神は、ハァとため息をついて、勿体ぶってから続きを言う。
《あたふたしてる転生者や転移者を見るのが、神々の楽しみだからだよっ!!》
「最低だな、おいっ!!」
どうやら、神と言うのは性格が悪いようだ。理不尽なルールに優人はツッコミを入れる。
呆れたような表情になりつつも、優人は女神に疑問をぶつける。
「『あまり無い』ってことは、少しは説明してくれるってことか?」
《うん、そうだよ。教えてあげるのは、能力……と言うより、ゲームで言う『ステータス』と言った方が分かりやすいかな?これは、この世界で生きていく上での生命線だからねっ》
女神のその言葉によって、優人はテンションが急上昇する。
「おお、あるのか!ステータス!!」
《興味を持ってくれたようだね。それじゃあ、心の底から、お腹の底からの大声で『ステータスオープン』と言ってみてっ!!》
「……大声で言う必要あるのか?」
《当然だよっ!!》
女神の言葉を不審に思いつつも、知識が無いので従ってみるしかない優人。
一度深呼吸し、息を大きく吸ってから、大地が震えるほどの大声で叫ぶ。
「すぅぅぅぅぅぅ。ステェェェェェェェタスッッオォォォォォォォォォッップンッッ!!!!!!!!!」
すると、優人の目の前に、ゲームのような表示のウィンドウが現れる。




