PART 3 彼はPREDATOR
「かほる殿は社へお立ち寄りなさいませぬのか?」
「ええ、少しばかり急用ができたので失礼するわ。宮司さんにヨロシク」
そして風祭美樹と扇谷要の側へ寄って囁いた。
{もし響也が出て来て文句を言ったらネ、捕まえたのは私だから『自分達には関係ない』って言うコト♪。アレを押し付けられたら、二人とも迷惑でショー~~~}
{困る困る。ゼッタイ嫌!}
{金輪際、お断りしたいでぷ~~~~~}
{ソーデショー? だからぁ、飽くまで突っぱねちゃうのよー~~~~~}
Ω Ω Ω
吾輩を運んでいるヒトの雌たちは、一頻り歩いたのち少々騒がしげな場所へ留まっている。嚢を持つ者が吾輩を膝の上に乗せ座ったみたいだ。
先程とは打って変わって淑やかな囀りを交わしている。自らは歩いてない筈が進行しており、滑っているみたいな感覚であった。
時おり揺れたりして微かな断続音も混ざって聞こえる。不思議なものである。辺りの様子は窺い知れないので、これ以上どうとも言えぬ。
やがて吾輩を膝へ乗せていた雌は立ち上がり、吾輩をぶら下げて再び歩きだした。
今度は移動しつつ、何故か元通りピーチクパーチク大きな声で啼いていたが、幾許も無く鴃舌の遣り取りも減ってきた。
どうやら平地ばかりではなく、随分急な斜面を上り出したらしい。それを表わすかに息を切らせている雰囲気が伝わって来る。
こうして暫し歩んだ後、立ち止まって頭を突き合わせ小さく鳴き交した。
漸くヒトの雌共の囀りも跡切れして、嚢を持つ者が再び動き出し、吾輩を地面へ置いた。
ガサゴソ上で音がしたかと思うや頭が下になり、転がりながら周りの視界が開けた次の瞬間、円形の仕切りの中だったのだ。
吾輩は嚢へ詰められて運ばれた挙句、今度は丸い狭域に放り込まれていた。
此処へ吾輩を連れて来た雌が、顔を近づけ覗き込んでいる。
ただ空は見えたし、囲いの高さはもそれ程では無い。その気になれば飛び出す事も容易だろうと思い、まだ精神的な余裕もあってなすがまま大人しく成り行きを見守った。
さあて。ここは何処で、吾輩をどうするつもりか。
遠くからざしざし砂を蹴る音が近づいて来る。さっそく嫌な予感がした。
吾輩を囲いへ放り込んだ雌の正面で留まった〝何か〟が其に唸り声みたいのを浴びせた後、此方を一瞥して咆哮をあげる。
その生き物を見た吾輩も愕然とした。
やはりヒトの雄ではないか! 続いてチラリと覘いたのは頭しか見えなかったが白いネコで、吾輩を見るなり凡ての皺を鼻の中央へと寄せた醜いツラで〈シパッー〉と異様な鳴き声をあげ威嚇した。
この瞬間、おそらく奴の全身は恐怖で逆立てた毛の為、倍ほどの大きさになっていた事だろう。
Ω Ω Ω
「 何じゃ、こりゃ――――っ!! バケモノ!? 」
体を曲げても桶いっぱいのサイズがある太い蛇を見て、彩の『御主君様』である土御門響也は絶叫した。半ノラの飼いネコ千代も、中の生物を窺い知り『シャァーッ』と大声で威嚇する。
全身が逆立つ毛のため1.5倍ほど膨張して、尻尾はホットドッグみたいな太さである。
そういえば、手足を体の下へ隠して寝ている丸々と太った猫みたいにも見える蛇(?)だ。
「遮那堂が飼うといったんだろーが! どうして社へ連れてくるんだよ?」
「申し訳ございませぬっ……!」
経緯を告げた彩は低頭して詫び、恐る恐る〝お持ち帰り〟の理由を述べた。
「かほる殿の家は狭く、対して此処は広大な敷地があるから。と」
「じゃあ風祭、お前の家が引き取れっ!」
「えーと、無理無理っ。家族だけで一杯だから……!」
「大体お前らっこの間は生きた人形やクマのぬいぐるみなんぞ持ち込んで押し付けただろ! 未だ家に居座ってんだぞ、どーしてくれるっ」
「悪かったデシね」
眉根を寄せた幼女人形が舌打ちして、スーティーベアは側でシャドーボクシングを開始する。今さら厄介払いは許さない、という重圧を加えているのだ。
「あら、アレは舞や仁子でしょう?! 私じゃないし」
「ちくしょうめ。――……扇谷! お前は居たよな、あの時っ」
「アタシはぁ~、単なる付き添いですよぉ~~……」
「勝手な事ばかり言いやがって! 明日生徒会長の家へ突っ返してやる。おい、ちゃんと厳重に閉じ込めておけよ」
「御意」
Ω Ω Ω
とうとう吾輩は、この木の板で覆われた狭い場所へ取り籠められてしまった。
被せ物をされ真っ暗である。上を塞ぐ前、例のヒトの雌が覗き込んで、吾輩に向け小声で囀りかけた。
そういえばどこと無く申し訳なさそうな顔をしているなとも感じたが、気のせいだろうか。
何故そう見えたのか。平たいもので〈ゴトリ〉頭上を覆われ、真の晦冥となり漸く分かった。
この体を真っ直ぐ伸ばすことも叶わぬ狭い囲いの中へ、吾輩をいつまで監禁すると言うのだ。
おーい、吾輩はこう見えても閉所恐怖症・暗所恐怖症なのである。
『暗いよ――~~~、狭いよ――~~~、怖いよ――――~~~~~、』
Ω Ω Ω
その夜。
自室で寝ていた響也は、どこか遠くで〈ばたん、どすん!〉何か重いものが跳ね、ネズミの鳴く声や盛んに走り回る音が聞こえた様な気がして、眠りから醒めかかった。
「ほわぁ?」
瞬間、大音響共々天井が破れ、突如腹の上へ重たいものが落下し、ボディーブローの衝撃に『ぐおっ!?』呻いて飛び起きる。一瞬遅れて幾つかの軽い物体が周囲へ散らばる気配がした。
電灯コードに付け足して長く脇へ垂らした無精紐を、彼は慌てて引っ張る。
「 な、何だァ!? 」
明るくなると同時に、跳ねるが如く四方へ駆け去る複数のネズミの姿を視界の隅に捉えた。だが、より響也の注目を引いたのは、壁際からむっくり上体を擡げる大きな黒い影。
こちらを振り返った生物――。昼間彩が持ち帰ったあの寸胴ヘビだった。
上体をゆらゆらと小さく揺らしながら垂直立ちし、薄気味の悪い目でジッと見ている。
「あっ、テメ――わ!」
大声を出すと、蛇は赤っぽい口腔内を全開で晒す。頭が消え、胴体から上全部が菱形の口だけ状態。
そのままバネが弾けるみたいな勢いで、飛び掛かってきた。
「いぃっ!!」
夢中で彼が避けるとヘビは障子を突き破って逃走、簀子上へ物音を残しつつ暗がりに消えた。
「 ご主君――――――っ!! 」
『霧刃』を抜き放った彩が雄叫びを上げ、襖を蹴破り部屋へ入ったのはその直後だった。
響也は硬直したように、破れた障子の前でへたり込んでいた。
「ご主君様、お怪我はっ?」
「彩っ! お前きちんとアイツを閉じ込めておけと言っただろう!!」
「……あいつ…………?」
「例のオムスビ頭でボンレスハムみたいな黒い蛇だっ」
Ω Ω Ω
……ハッ! 知らぬうち、意識を失っていた?!
気が付くと吾輩は寝ていた。イザ暗くなってみれば、どうと言う事も無い。
いつも休むとき潜り込んでいる土の穴倉とそれほど環境は変らないではないか。
違うのは自分の自由意志で入った塒か否かというだけ。
目を閉じて(脱出するにせよヒトが寝静まった頃合いを見計らって出なければ)などと暫く沈思していたら寝落ちしてしまったみたいだ。
すぐさま体を擡げて、頭上の蓋を頭と首の付け根で押し上げてみる。
おお……重い! 狭い空間なので甚だ力を入れ難い。
たぶん真中あたりへ何かを乗せた様子だったから、入れ物の縁と蓋の接点に口先を押し付けて心持ち上へ力を込めると、意外や簡単に開いてしまった。
そのため当然音がしたのだが、見ればヒトの頭大のごろた石が3つ乗っていたのだった。
周辺は一寸先も見えぬし音も無く、気付かれてはいないようである。
腹が減っていたので、さっそく獲物の居そうな場所へ行った。
天井裏に入り込むとネズミどもの匂いがして、埃を塗したフンがぽつりぽつり散見される。
吾輩はなるべく音を立てぬよう、体温と臭気の濃いポイントへ接近してゆく。
やがて僅かな物音と鳴き声がした場所に向って跳びかかった。
最初のアタックで見事、一匹の体を丸ごと口の中へ放り込む。
奥歯から口先に食み出した獲物の尻尾をブチと噛み砕いて切り離す。標的たちは恐慌状態へ陥り、総離脱を図る。
逃がしてなるものか! ネズミどもが放つ強烈な臭いと微かな振動で動きは登時捕捉できる。
吾輩は追いつくや片っ端から丸呑みして、次の獲物に襲い掛かった。
口の中から鼻へかけて含んだ獲物の体臭が風味として伝わり、吾輩の食欲と狩猟本能を誘爆させる。
相当派手な物音を立てていた筈であるが、この時は一切念頭に無かった。
だが獲物の臭いで酔っ払った挙げく飛びついたため、天井の骨組みの一部へ己の背中をぶち当ててしまい、反動で天井板の上に激しく叩き付けられる。
途端、足元が抜けて身が軽くなり、己が真っ逆さまに下へ落ちてゆくのが分かった。
漆黒の冥府が拡がっているのかと思いきや、柔らかいものの上に落下したのと合わせ大きな声がして、体ごと横へ撥ね飛ばされた吾輩は、平たい地表を転がり身構える。
直後、急に辺りが昼間の如く明るくなって目が眩んだ。
『 ёШ、£$――――#Ф! 』
意味不明な雄叫び。
(うっ、あのヒトの♂(雄)か?! ヤバイ!)
思わず口をパカリと開いて顔を隠しざま、矢庭ヒトの雄へ向け飛びついて行った。
ご感想等お待ちしています。




