六 フェアリー
「 要は異世界よっ! 異世界転移だわぁ――~~!! なンてステキなんでショ!! 」
嬉々として叫び出した留美を除く3名はピンと来ない。
ゲームやアニメ・ラノベ等で留美としてはお馴染みのファンタジー世界も、雪城舞は関心のない分野。一部で流行りであるという以外の情報は持ち合わせていない。
ダイヤの説明では、彼女を作った〝お父様〟は元々異世界の人。
偉大な賢者そして魔導師も兼ねる一方、人形師という職能を持ち合わせていた。彼は遍在する魔法力の強制的な収束と制御・開放させる革新的な術式を開発する。
時代は人間同士の国家間戦争が頻発している動乱期で、世界は不安定であった。
彼の編み出した術式を【魔導兵器として応用すべし】魔術教会を擁するローディアス皇帝への意見具申が行なわれ、元老院に於いても協議が開始される。
その終末的破壊力を知る彼は秘密を守る手段を講じ、地位や名誉も捨ててこの世界の鎌倉へ移住してきた。
今からおよそ八十年前の事であるという。
異世界で制作されたダイヤは、父の手で魂魄と術式を記載したグリモワールを封入後、自立型自動人形として誕生した。
事情は当時とかなり変化しているが、魔術教会は現在でも神以外が生命を創造した証拠である人工生命体を抹殺、魔導書をも奪い去り我が物としたがっている。
まるでおとぎ話だが、目前の生きている人形が証拠だし、自分達だって戦国時代からタイムリープして来たと自称する友人を持っている。
ともかく、あちらの世界では魔法を発動させる未知のエネルギーが自然界に存在しているらしい。此処の世界はそれが無いため攻撃的な魔法は殆んど使えない。
上級魔導師も普通の人間と変らないので、前回の襲撃は巧くかわす事が出来た。
「それでも、またやって来るとダイヤちゃんは思っているのですわね?」
「次は役立たずの魔法使いでなく、教会が派遣業者へ依頼を丸投げする形で冒険者共を差し向けてくる筈デシ」
「冒険者ってカッコ良さげで実はハケン労働者のこと!? 向こうもかなり世知辛そうだな。…………ああ! さっきのはもしかして、私達をその冒険者パーティーと勘違いしてたのか」
「その通りデシ。女ばっかなので変と感じてはいたのデシが、ここまで辿り着けるのは尋常な連中じゃないデシ」
「今日は来てないけど、私らの友達に優秀な魔導師がいるんですよねぇ。コレが」
「……おまい自身がその魔導師では無かったのデシか?」
幼女人形は不信の眼差しを怪女へと向ける。
「いや、だからその人がくれたのがこの御札って話で……ニャハハハハハ」
「適当なこと言うなよ留美。彩ちゃんは魔法使いじゃなくて、忍者だろ」
「でも仁子。私達にはどちらのやっている事も区別がつきませんわ」
これまで見てきた忍術への感想を述べ、雪城舞はダイヤに語りかけた。
「今度派遣されて来る冒険者というのは、腕っ節が強いうえ敏捷い人材という事ですわね」
「おまいらの友達の『サイ』って魔導師は、それほど優秀なのデシか?」
「とてもハイスペックですわ。校舎くらい大きな怪物を、八角形の魔法陣の中へ誘い込んで消滅させるのを見ましたもの」
「そうそう! 金色の光がドバーッと溢れてきてね。スゴかったなぁ~~あれは、うん!」
「信じ難い話デシ。それほど巨大な神威魔法を、外の世界で発動させる者がいるとは……」
「ケンカだって強いぜ。信じられない様な技を使って、軽々とやっつけるからな」
「証言、肯定しますう~~~~~~~」
「そういう訳ですからダイヤちゃん。どうか私達を信用して、考えてみてくれませんか?」
魔法を使える者がいる。断然有利な形勢と考えてか、幼女人形の心も動いた様だった。
「我が結界を出た時点で向こう側が探知する可能性が高いのデシ。それでもおまいは面倒をしょい込むと言うのデシか?」
「どうしてもですわ」
「……仕方ないデシ。案内してやるから、付いて来やがるデシ」
スーティーベアを木の根元に寄りかけて座らせ、みんなで変った形の小屋へ歩いて行く。その時扇谷要は視界の上端を横切る小さな光跡を見た気がして、フト目を向けた。
「はわわっ…………! たいへんですよう~~~っ、コレは~~~~~~!!」
吊られて見上げた全員が、またしても驚くべきものを視認した。
それはトンボみたいな羽根を生やし、ホバリングする小さな人型の生物――疑いなく『妖精』である。
叶仁子が叫んだ。
「 オイオイ! マジか!? 」
「ピーターパンに出てきたティンカーベルみたいですぅ~~~!」
「私は〔エルフィンフローリー〕シリーズ思い出した!」
要と留美は各々が連想したものを言って顔を見合わせたが、葦舘留美の方は些かマニアックな感想なので、舞と仁子はどんなものを指しているのか思い浮かばなかった。
葦舘はいきなりその妖精を〈鷲〉と掴んで、抵抗する彼女のスカートの裾を指で摘んで捲り、興奮で声を弾ませながら言った。
「見てみてっ、この妖精すごぉ! ちゃんとレースドロワーズまで穿いてる♪」
「 何てコトするんだっアンタは!! 」
怒鳴った仁子が後頭部を思い切りはたき、留美は悲鳴を上げて妖精を放して踞った。眼を剝いて肩を怒らせた彼女は大声で叱り倒す。
「小学生のバカ男子じゃあるまいし! クダらない事すると、ぶん殴るわよっ」
「もう……殴ってるじゃ……ないのサ…………」
四人の頭上を旋回する妖精は、再び自由を得た喜びを表しているかの様だった。
「私も、妖精なんて初めて見ましたわ!」
「イチチッ……さすが市内全域パワースポットの鎌倉だニャあ」
「実際は鎌倉と言えない場所ですけれど」
驚く雪城舞と、涙を浮べながら頭を擦る葦舘留美の会話を聞いて、扇谷要は呆然と呟いた。
「パワースポットのレベル、超えてますよぅ~~~……。ウソみたいですう……」
一行が建物へ近づくと扉が普通の人間サイズであったが、下半分左隅にミニ扉が設けてある。普段出入りするのはこの小さな方だろう。
内部も人形サイズで設計された様子はない。
お父様が作って用意し、当初は娘と暮らしていたのだろうか。
六根少女自身が語った通り、小さな家の狭い範囲だけ魔法を使った呪的結界で取り巻き、周辺の次元断層を設け発見されない仕組みの様だ。
中はそれほど広くはない。対面した壁の小さな窓まで3メートル程。革装幀の古書がつまった本棚、乾燥した薬草・薬品の瓶が並んだ棚。二階へ上るための、丸太を削って作られた階段も見える。
壁はウォールシェルフの古い飾り棚やプチフレームが掛けられ、キャビネットや机いずれも古いが、猫脚で彫刻が施してある。小窓の前は、不釣合いなフリル付きのレースカーテン。
煌びやかな王侯貴族風。――とまでは決して言えないが、欧風の乙女チックな雰囲気を醸し出そうと工夫した様子が見受けられる。またアケビの蔓が丸めて壁隅天井から吊り下げられていた。こうして乾燥させた後、水に浸けて柔らかくすると籠などを編むのが容易だという。
役割分担があって、これらは〝ヨシツネ〟ことスーティー(ベア)が集めた物らしい。
完成品は蔦の太さで大小のばらつきがあり、造花が差してあってそれぞれささやかな額の値札が付いていた。
これを売っていたと言うので方法を尋ねたところ、麓のハイキングコースの出口付近で値札を貼り下げて置くと、観光客が料金箱へ代金を入れて買って行くのだという。
彼女達はその話を聞いて、少なからず感動した。
ただし無人店舗とは言っても、金箱は常時スーティー・チョップが近くの切り株の上でじっと座って膝の上に持っていたそうだ。
つまり人々はスーティーを店番代わりの単なるクマの縫いぐるみと思っていたワケで、もし代金を払わず品物だけ持ち去ろうとする不届き者がいたら、大変な騒ぎが起っていたかも知れない。
事実、ダイヤがスーティーから聞いた話では、ある観光客の連れていた女児が彼を抱き上げようとしたので突き放し、慌てて商品をかき集め森へ逃げ込んだ事があったそうだ。
その女の子も幼いので悪気はなかったのだろうが、突然ぬいぐるみに突き飛ばされ、さぞやビックリした事だろう。
卓上やそこらじゅうの小さなアイテム類へと葦舘留美の興趣は向けられ、尽きる事がない。
「この編み上げブーツお手製! 本皮を7.5サイズで縫って、本格的でスゴイや!! あれっ……ゴムの靴底滑り止めが刻んであるっビブラムソールってか、こんちくしょ――!!」
ミシンを使わず手縫いのため、縫い目の長さが微妙にまばらだという。よく見ればその通りだった。歓声を上げエキサイト気味な葦舘留美の様子を見て、叶仁子がニヤリとする。
「留美、あんた今トッテモ悔しがってるだろう」
「ええっ? なンですとっ!」
「随分、凝り性なマスターらしいからな。物作りの拘りでとても敵わんとか?」
「……ニャハハハ。…………」
仁子の指摘を受け照れ笑いした留美は表情を顰め「うっ…」と声を詰らせ、涙声で言った。
「このマスター……よっぽどこの子を愛してたんだろうなァ……悔しいし、切ないよぉ~」
「留美…………!?」
泣き出すという彼女の思わぬ反応で三人は戸惑い、慌てて慰める。
雪城舞は葦舘留美が材質や加工の手順まで見抜き、次々と解説してみせる造詣の深さを知って(やっぱり。大した才能ですわね、この子も)と甚く感心した。
一頻り部屋を見終えた後「二階もあるみたい」ワザとらしく催促してみる。
「そこは寝室で、妹が眠ってる他はベッドがあるだけデシ」
――――聞き捨てならぬ事を言い、全員が色めく。
急いで階段をのぼり確認すると、成るほど寝台が二つあった。
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