Ⅰ ◆◇◆ 岬の百合は鐘に散る
*今回は微GL要素含みを投下します(*'∀'人).☆苦手な方はご注意くださいね。
母親譲りの淫乱で子供の時から損ばかりしている。
昔、幼友達の愛しい女の子がいた。
思いの丈を告げてキスしたら、泣きながら走り去っていった。
その後、絶交された。――――…………
思えば私は、決して父さんが死んでお袋が幾人もの男と付き合った挙げ句、若いのと再婚したからグレた訳じゃない。
親愛の深さを解って貰いたい一心で取った行動(衝動)を相手から拒絶され〝親友〟と思い込んでいた幼馴染みを失った。そのトラウマこそが、全ての始まりだった気がする。
聖ルイス・フロイス学院。
それは、私たち144期生の一人遮那堂かほるが、入学とほぼ合わせ生徒会長として就任後、僅か三ヶ月余りの期間で創り出した王国だった。
彼女は当時現職だった会長から、面会を求められると並行して就任要請を受け、事実上地位を禅譲される形で全職責を引き継いだ。
面倒事を押し付けられるだけの名誉職と見られていたそれを引き継ぐ事への異議申し立ては無く、彼女は信任投票で全校生徒を束ねる地位に就いたのである。
「 素晴らしい新入生だ。もう出番はない。オレは引退する 」
それが会談後の前職が残した最後の言葉だったという。
横浜市内の中学校へ通っていた私は、当然ながら彼女の存在をぜんぜん知らなかった。
ましてや《伝説の生徒会長》なんて三流学園ドラマのありふれた設定みたいな噂など、聞いたこともない。興味も無かった。
4月の春真っ盛り。
高校入学初日というのは誰しも不安でいっぱいの時期だ。
話し相手は出来るだろうか。
友達が作れずハブられまいか? 授業で落ちこぼれないか、部活の雰囲気や先輩の人柄は? いじめは…………普通ならその筈だが、この頃の私は無謀というか恐いもの知らずと言うか。異常なほど尖っていて、後先の事など念頭に無かった。
今となれば赤面ものだが。
高校生活開始と並行して、思いも寄らぬ所で始まっていた新たな伝説。
それがまだ起こる数週間前、入学初日の私ときたら――――取り敢えず獲物を探してた。
教室で。
気の弱そうなヤツ。暗くて 孤立し 抵抗の術を知らず、強く押すと逆らえない家畜みたいなタイプの人間を。そうしてしばらく物色していると――――――
――いた……! 見ぃーつけた、っと。
私はソイツの前へ立った すると、一瞬びくん、として上目使いコチラを見てすぐ視線を落とし、黙りこくっている。
(睨んだ通りの良い反応だ! ビューティフルじゃないかね、キミ♪)
「いやいや~~、どうも。やだよねー、入学したての時の雰囲気とか。クラスに友だちいなくてさぁ」
私は前のイスを後へ向け直し、机上に両肘を乗りだして女の正面を陣取る。
「ねえー知ってる?! この学院って、三年間クラス替えが一切ないんだって。理事会の方針でさ。親睦を深めて『一生の付き合いが出来る友愛を育てる』とかなんとか。
でもさ、もしイヤ~~な奴とかいたらどうしよう。地獄、マジで地獄! の三年間が決定しちゃうよね――、ヤバイよね~~~まいったまいった」
「……」
「私 叶ちゃん。ヨロシク、鉢巻きちゃん」
「……ハ イ ……」
「 はあっ!? なンだって!! 」
ことさら大きな返事で威圧。蚊が鳴いたみたいな小さな擦れ声をだしたかと思うと、その声を自ら恥じているのか
(益々縮こまってら……ぷ。カワイソオでちゅね~~~)
目を引いたのは、ソイツが頭へ巻き付けた赤っぽい色の刺繍入りの鉢巻だった。
ああ知ってる。これって、多分アイヌとかいう奴だろう。
「ねえ、あんたコレさ。もしかしてどっかの少数部族?! デーハーでかっこいいですね」
「……」
「 でも教室で帽子みたいの被るって失礼じゃないの 」
はっきり居心地悪そうな表情が、加虐意識を刺激する。
「なあ。取ったら?」
机の正面で重ねた両腕上に顎を乗せた低い姿勢で、ソイツの目を覗き込む。冷たい視線を向けながら少しドスを効かせた声でプレッシャーを掛けていった。
もう目を背ける先はない。……ソイツは伏し目がちのまま、追っ付け泣き出しそうな苦悶の表情だ。
――そろそろ頃合いだねぇ。
ガチで泣き出されても困る。ここで「ツマんねぇヤツー」とか言って、まず離れるのが一日目の流儀だ。 ところが、その時――――
* * *
――フチ……
私の虚ろな記憶は、遠い北海道の故郷を彷徨っていた。……人間はきらい。フチはどうしても行けと言ったけれど…………本当はこんな遠くへ来たくはなかった。
あの日、お祖母ちゃんと私は囲炉裡の傍に座って、夜遅くまで名残を惜しんでいた。
フチは自分が縫い上げたマタンプシ(鉢巻き)を手渡してくれた。餞別だという。
私は「行きたくない」そう言って泣いていた。
「これを何時も付けておいで。必ずおまえを守ってくれる。おまえは其処で、生涯の友達や家族と出会うじゃろうよ」
マタンプシは臙脂色の生地へ、モレウという渦巻き文様を施した独特のものだった。
「だから行きなさい。フチはの、巫術師じゃからわかるんにょ。努々忘れるんじゃないよ」
フチは私の愛する家族でただ一人の味方だった。でも今回だけは強く背中を押された。
「いいね、いつでも付けていなさい。これが心の良い人を呼び寄せてくれる。何時もおまえの幸せを念じているからね」
(でも今、目前のショートヘアで背の高い子は…………)
〔トゥス〕の血を引くせいか、自分も何となくわかる……事情は知らない。でもその境遇のせいで、黒い憎しみが心の内で渦巻いている。
「 ねえ、取れっつーの 」
――中学校の頃と何も変わりはしない。――――やはり 来るんじゃなかった!
* * *
『 ゴメーン! ねね、ちょっといいかナ!? 』
(ああっ? なんだコイツはっ!?)
癖っ毛の短髪女が、いきなりピント外れた陽気な口調で割り込んできた。
「参っちゃうわね~~、入学したてってさぁ、友だちいなくて。チミたちは中学、一緒なのかナ!?」
「 ちげ――――よ! 」
私は冷たく突き放す。
(なーぜ一人ハイテンションで浮かれてんだ。バーカ)
「すごいわねぇ。もう仲良くなってるんだ! でもそうだよねー。どうせ親しくなるなら、早い方がイイもんね!」
「……なってねぇし!」
不愉快極まる私はぶっきらぼうな返答をした。しかしソイツの調子はまったく崩れない。
「ねえねえ、知ってる?! この学校三年間クラス替えが無いんだって。一生の付き合いが出来る友情を育てるんだって。ステキだよねー、ウ~ン。友だち100人、出来るかナ?」
(――コ ノ ヤ ロ ウ !!)
顎へ人差し指を当てて首を傾げつつ、考え込む仕草をしていやがる。この時の私は、きっと目を三角にした様な表情で怒っていたことだろう。
「ね、私ね、遮那堂かほる。チミは?!」
「教えてやんねー」
『 そぉだ! 』
ぽん。と握った右手で左手の平を叩いて間髪を入れず、ソイツは言った。
「折角だからさ、この三人で始めよっか!」
「あぁ!? 何いってんの? イミ不明ー」
「だからさあー、まず三人で『ここへ集った違う学校の者同士がすぐ仲良くなれたよー』って、このクラスのお手本に、な る、の よォ♪」
「(クダらん…)どうしても仲良しごっこがやりたいならさ、其処の暗いのと始めればぁ」
私は捨て台詞を残してさっさとその場を離れた。最初からそうする筈だった予定が狂って……いや、狂わされちまった。
――付き合ってられっか! あんな馬鹿丸出しの、馴れ馴れしいお調子者。
(シャナドウ?! 変な苗字)
何しろ色々むしゃくしゃして、最初の印象はこの程度。
でも間もなくこの子が居るだけで心を乱されるとは、まったく想像もしていなかった。
* * *
――ああ! これを奇蹟というのか……空を覆い垂れ込めていた暗雲を破って、差し込む光みたいな一人の女の子が、私の目の前へ…………。
『 ねえねえ、チミは?! 』
「ハ、……ハヒ?!」
【黒雲】みたいな同級生の背中を見送っていたその女の子は、輝かんばかりの笑顔でくるりと向き直って、立ちどころに照準を変えた。
「 だぁ・か・らぁ。私ね、遮那堂かほる。チミは?! 」
「ハ ハイ、……オイノ サオリ、です。…………」
その人は、右手を添えた耳を私の顔の傍へ近づけて聞きながら「ふむ、ふむ」と頷いた。
「名前は漢字でどう書くの?」
「……三水偏に少ないと書く『沙』、機織りの『織』……です」
「〝沙織〟ちゃんね。うん、ステキ。いい名前だわ!」
――私、その場でもっと気の利いた返事ができたらよかった……「シャナドウカオルさんも」って。……この時、すぐそう言えたら…………。
「ねえ沙織。今度からお昼、私と食べよっか!」
「ハ、エッ…… エェ!?(名前の方を呼び捨てで呼ばれたの、はじめて)」
「ね、いいでしょ。いろいろお話ししよう!」
――シャナドウさんの、期待いっぱいのきらきらした目と表情を見ていたらイヤとは言いづらくなった。
「……で、でも わたし……つまらないです。たぶん 同席しても…………」
「ノープロブレム! 大丈夫。まず私の方がどんどん話すから聴いてて。さっきの子も呼んで、仲良く三人でね!」
(“エッ!! さっきのって……まさか【カノウちゃん】って人も!? なんで? 私をイジメから助けてくれたのかと思ってたケド…………違うの?!)




