父の心配(ショートショート37)
今夜もノックの音がする。
ドアが乱暴に開き、お父さんがずかずかと部屋に入ってきた。いつものことだが、私のようすをうかがうために……。
飾り棚に並んだドラエモンがゆれている。
娘の部屋だからといって、了承もなしに入ってくるなんて、いいかげんにしてほしいものだ。
「ねえ、いつも言ってるでしょ。かってに入ってこないでって」
「ノックしただろ」
「ノックだけじゃ、ダメなの。入っていいって、返事があってからにしてよね」
私は口をとがらせた。
「オマエ、また増えたんじゃ?」
お父さんはあきれたように、私の集めたドラエモンを見ている。
「まあね」
私はドラエモンが大好きなのだ。
「最近、帰りが遅くないか? 酒も飲んでるみたいだし……」
不良でも見るような目を、私に向ける。
父親からすれば、赤く染めた髪は今どきのギャルに見えるのかもしれない。けれど、いらぬ世話というもの、いいかげんほっといてほしい。
「いいじゃない。もう子供じゃないんだし、何時に帰ってこようとね」
私は強く反抗した。
そうでもしなきゃ、これからも父に干渉され続けてしまう。
「心配なだけだ、オマエのことが……。それで、つき合っている男はいないのか?」
また、いつもの質問。
「心配しないで。つき合ってる人なんていないし、ボーイフレンドもいないから」
安心させるように言ってやる。
まあ、これはウソではなく、ホントのことなのだが……。
「だから心配なんだ。いいかげん、オマエも少しは考えたらどうだ」
「考えろって?」
「結婚だ。オマエ、もう四十だろ」
お父さんは深いため息を吐いてから、部屋を出ていった。
ドアの閉る大きな音がする。
同時に……ドラエモンがひとつ、棚から落ちて転がった。