庭いじり令嬢(アランディオール殿下視点)
たくさんのブクマ、評価、ありがとうございます!
出会いから前話までの殿下視点です
参った…
セイント・リリーフの育て主になれそうなのが、辺境伯令嬢とは。
年頃の女性への接し方などわからない。
パーティーでの貴族令嬢との会話すら時折イアンに助けられているというのに…
ましてや辺境伯のチェスター家といえば、領主はもちろんのこと、長男が近衛隊長、長女が宰相夫人、次男が生まれつき統治センス抜群で若くして領主代行などを行うこともあるという、なんというか一家揃って秀ですぎたモンスター貴族だ。
その中で次女と言えば社交界になかなか姿を現さないことから"深窓の令嬢"とも、新種の花を生み出したり育てのスペシャリストとして"植物学の革命児"とも言われているし…あぁもうひとつ呼び名があったな。
確か……そうだ、
夢中で土いじりをしている小柄な女性がこちらを見上げた時にそんなことを考えていて。
「庭いじり令嬢とは貴方のことか」
頰に土をつけ一気に困り顔になった令嬢と、後方からくるイアンの激しいツッコミに悟る。
……どうやら一言目を失敗したらしい。
これが彼女との初対面だった。
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庭いじり令嬢から深層の令嬢へーーそれがしっくりくる表現だろうーー変身してきた彼女は…なんというか、人形のような女性だった。
俺と違いふわふわと広がる柔らかそうなブラウンの髪、長い睫毛に縁取られた大きな紫紺の瞳、作りの小さな鼻と口。
一瞬、誰だ!と突っ込んでしまいそうだった。
常にビクビクおどおどしていたが、花の話となると饒舌になるということだけはわかった。時に得意げにすらなる。
その知識と見聞は俺にはないもので、賞賛に値する。
そんな彼女が土に触れて"挨拶"やら"診察"やらを始めた時の集中力は特に凄まじく、他の立ち入りを赦さない雰囲気があった。
華奢な体から放たれるオーラのようなものは、貫禄すら感じられたから驚きだ。
そんな彼女が王宮への道程で手にした花を、セイント・リリーフのための庭の脇にそっと植えた。
「紅い花…」
リュダシス、と言ったか。
環境が合わねば毒を作るという、深紅の花。
幼き頃から王位継承権を持つが故に狙われ、それを返り討ちにし、他国との諍いにも炎と剣を以って解決してきた自分は巷で"業火の番人"と呼ばれていることは知っている。
紅の瞳は地獄の炎で染まっているのだと。
馬鹿馬鹿しいがーーーそれで畏れ壁をつくる者が多いのも事実だ。
令嬢なんかはそんなもの気にせず、次期王妃の座を狙って近寄ってくるが…
…そう考えると、仮にでも婚約者にすると言った時の彼女が絶望的な顔をしたのは少し面白かった。笑うのは失礼かもしれないが。
「リュダシスです。土と馴染んで育ったら、殿下に素敵な物をお見せしますね」
そう言ってにっこり笑った顔が、思いがけず俺の心臓を驚かせたので、思い切り眉をひそめ口を引き結び耐えた。
なんなんだ、発作か?医師に見せたほうが良いだろうか。後でイアンに相談してみよう。
あぁその前に、伝えることがあったな。
王家のプライベートエリアに泊まるように言うと、口をパクパク魚のように開閉している。
…その顔はやめてくれ、笑ってしまう。
これ以上見ていると吹き出してしまいそうなので、サッサと歩き出す。
チラッと後ろを確認すると、手を胸元で握りしめ苦しそうな顔をした彼女が…………
気絶した。
なぜだ!?
病気か⁉︎
と、とにかく部屋に運んで医師を呼ぼうーー
俺は意識を失った彼女を抱き上げ、王宮内を走り出した。
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