幻の花とシアラ
たいっへん間が空きまして申し訳ありません。
お待たせした上に
楽しい話ではありません(苦)
「シアに、避けられている…かもしれない」
朝、アランがシアラの様子を見に部屋に行くと、ジェシカに「体調を崩されています。恐れ入りますが、殿下にうつると申し訳ないのでご挨拶できないことをご容赦下さい、と申されております」とそそくさと扉を閉められてしまった。
顔は笑っていたが心なしか目が冷たかった気がする。
昨夜あれだけ雨に当たったのだからシアラが具合が悪いのは本当かもしれないが、でも避けられているように感じるのだ。
昨日だって何か様子が変だった。
「急な呼び出しで何の案件かと思いましたら。それはそれはようございました。では、失礼いたしますね」
「待て待て待て!」
立ち去ろうとするアデルの肩をがっしりつかんでソファーに戻す。
おい、舌打ちが聞こえているぞ。
「僕も気になるな。アデルは何か聞いてる〜?」
「それが、私にも聞いても何も言ってくれないのよ。何もないの一点張り…もう……」
夫のデヴィッドにはスラスラ話すアデルにジト目になるアランだったが、彼女にしては珍しく焦るような雰囲気なのが気にかかる。
シアのことが心配で、というのもあるだろうが……おそらくデヴィッドもそれが気になって口を挟んできたのだろう。
「シアが脇目も振らずセイント・リリーフのことに必死になる姿を見ると、嫌なことを思い出しますわ」
「嫌なこと?」
「………ええ…長い話になりますけど」
構わない、シアラのことであれば聞いておきたい。そう思い頷くと、アデルはふう…と扇の内側で息をついて、ポツリポツリと語りだす。
まだチェスター家の母アリーヤが生きていた頃。
病気がちだったがとても優しく美しく、いつも庭の花々に囲まれながらたおやかに笑う、そんな母が子供達は大好きだった。
シアラが花を好きになったのも、母が花が大好きで贈ると喜ぶからというのが始まりで、そこから天使の庭の物語を聞いてどんどん本格的にのめり込んでいった。
魔力特性が高かったり何かで秀でているチェスター家の中で、唯一"開花させる"という、役に立つのかよく分からない能力が発覚したのもその頃だ。なぜこの能力がシアラに宿ったのかアデルにはわからない。
まだ10歳ほどで新種開発まで成し遂げた時には家族が一番驚いたものだ。
そんな幸せと花で溢れていたチェスター家は、母の病が悪化したことで、変化した。
医者にもかかり、治癒魔法も試したが、原因不明の病には効き目がなく。
今思えば、チェスター家の足を引っ張ろうとした輩による呪いが、たまたま病気がちの母を悪い方へ引きずってしまったのではとアデルは思っているが、当時は八方手を尽くしてどうしようもなく、途方にくれた。
そんな時、書斎から出てきたシアラが真剣な顔で言ったのだ。
"セイント・リリーフ"という幻の花は、万病、死の傷を癒すようだと。
伝説の花で存在するとは思えなかったし、さすがのシアラも自分のツテを辿り専門家に尋ねたものの全て徒労に終わり、幻の花は存在しないのだと思っているようだった。
が、この花を作れないかやってみる、と言い出した。
文献から成分などの考察と実験を繰り返し、それからというもの、シアラはろくに食事もとらず、庭と書斎と研究室で一心不乱に作業を始めた。
薬草で体力を回復させながらほとんど寝ることもせず、時折気を失ったように床で目を閉じているのを発見した弟のリアムが泣きながらノエル達を呼びにくる、そんな生活が続いた。
家族は必死に止めたが、シアラは耳を貸すどころか早く成果を出さなくてはと余計に篭ってしまった。
母の容態は日に日に悪くなり、シアラも弱っていく。
どうすればいいのか、家族も家の者たちももはやわからなくなってしまった頃。
シアラが研究しているとどこで耳にしたのか、商人が「セイント・リリーフの花がある」と話をしに来たのだ。
研究室から飛び出てきたシアラによると姿形は確かに文献と似ている花だというが、なにせ誰も本物を知らない。
だというのにシアラは自分が使わずに貯めてきた研究用のお金を全て出してその花を買い取り、調べ始めた。
そこで事件は起こった。
「シア!!」
ノエルが血相を変えて研究室からシアラを抱えて飛び出してきた時、何事かと覗き込んだアデルも顔色を変えた。
真っ青な顔をした可愛い妹は、息をしていなかった。
幸い、すぐに発見されたこともあり、素早い応急措置と医師の処置でなんとか一命を取り留めたものの、本当に危なかった。
買い取った花を研究する最中、抽出した植物の液を口に含んだところ、人間に大変害のある類のもので、その場に倒れてしまったというのだ。
普段のシアラならこんな失態は天地が逆さになってもあり得ない。
極限まで体力が落ち抵抗力が低かったこと、早く結果を出したいと焦って口に含んだことが原因だ。
病床でそのことを知った母はシアラを呼び出し、2人だけで長く話をしていたようだった。
そのあと部屋を出てきたシアラは、久しぶりに家族の顔を真っ直ぐに見て「ごめんなさい」と泣きじゃくったのだった。
その数日後、家族に見守られながら、アリーヤ・チェスターは天国へと旅立った。
お読みくださりありがとうございます。
色々と枝分かれした道で迷っていました!
まだ迷いながら書いてます笑
のんびりお待ちいただければ…
早くシアラと殿下のいちゃいちゃ書きたい…




