割れたクッキー
お待たせしました
ブクマ、評価、ありがとうございます!
「〜〜♪」
許可をもらって出来上がったクッキーを持ち、軽い足取りで執務室へ向かいます。
いつもは寝泊まりする部屋と庭の往復以外出歩かないようにしていて気が緩んでいたのか、
ドンッ
角を曲がる際にぶつかり、尻餅をついてしまいました。
「シアラ様!」
ジェシカが助け起こしてくれました。
盛大に転んだので恥ずかしい…
ぶつかってしまったのは、どこかのご令嬢。
キリリとした金色の瞳に豊かに広がるキチンとお手入れされた髪、薔薇のような唇、とても華やかでお綺麗な方です。
なかなか辺境の地からでないため、お恥ずかしいことに貴族当主のお顔は覚えても、そのご令嬢まで覚えきれていません。
「ちょっと、痛いじゃない!」
「あ…も、申し訳ございません。」
「ていうか貴方、どなた?侍女…じゃありませんわね、王宮内で何をしてますの?」
キッと強い視線で問われて狼狽えそうになりますが。えっと、こういう時は確かこう話してくれとアラン様に言われていたはず。
「お初にお目にかかります、わたくし婚約者候補として城にお招きいただき暫く滞在しておりますの。」
「婚約者候補……ですってぇ⁉︎」
突然目の前の美女が目を吊り上げ、グイッと距離を縮めてきます。
こ、怖いです。
「アラン様の婚約者は、昔からこのミリヤ・ゾディアークと決まっているのよ!候補なんか必要ない!あなたなんていらないんだから!勘違いしないでさっさとどっかいきなさいよ」
ゾディアーク、と耳にして驚きを隠せません。
国の中でも特に古くから歴史がある公爵家のご令嬢ーーー
『アラン様』
わたくしのようにモゴモゴもせず堂々と、気兼ねなくそう呼べる、本物の婚約者様がいらしたのですね。
何より王宮内を自由に行き来されてるのがここでの存在を許されている証拠ですよね。
ならなぜわたくしを婚約者候補になどとややこしいことを?
よく分からないモヤモヤを感じながらも礼を欠く訳に参りません。
「左様でございましたか、きちんとご挨拶もせず申し訳ありません。わたくしは辺境伯チェスター家が次女、シアラともうします。…では、御前、失礼いたしますわ。」
挨拶を聞いて相手が驚いたようでしたがそれだけ言って辞し、当初の予定をすっかり失念してぼうっとしたまま部屋まで戻ってきてしまいました。
「あ、クッキー…」
せっかく焼いたけれど、あんな綺麗な婚約者がいるのなら、こんなものあげても処理に困るだけではないでしょうか。
手にしたままだったそれは、転んだ際にかけたり割れたりしていて、それがなんだかいまの自分の心の中を表しているようでした。
読んでくださりありがとうございました。
定番!ようやくライバルみたいな人がきました。