葉の異変と夢
お待たせしました。
ちょっと長いです
芽が出たことを報告すると、殿下はとても喜んでくださいました。
これでようやく王妃様を救うことができるかもしれないのですから。
わたくしも優しい王妃様に早くお元気になって欲しいと思っています。
思って、いるのですが……
なんだか胸のつかえがとれないのは何故なんでしょう?
ふぅ…
と溜息をつきふと顔を上げると、セイント・リリーフの様子が違うことに気がつきました。
というか、
「なぜこれに気が付かなかったの…!」
わたくしの声にお姉様が「どうしたの⁉︎」と慌てて駆け寄ります。
おそらく余程震えた声だったのでしょう。
葉が、黄色の部分がある…!?
調子が悪いのか、先ほど土の中の力の流れを整えた時は普通だったのに…
もう一度土に手を当てて探ると、
「これ…なぜ…?」
乱れができて力が滞ってる箇所があり、それがちょうどセイント・リリーフの根のところで溜まってしまっていました。
わたくしの力の流し方が良くなかった、のでしょうか。
気もそぞろに流れ作業的にやってしまったことで、顕著に反応が出てしまったのかもしれません。栄養剤どころか毒になるようなことを。
自分の気の乱れを植物に伝えてしまうなんて、こんなことでは庭師になんてなれっこない。最低です。
グッと唇を噛み締めてから、一呼吸おいて。
「お姉様、すこし葉に異常が出たので治療に入ります。ジェシカ、力を使い果たしてしまうかもしれないから、あとをよろしくね」
「わかったわ」
「心得ております」
その声を遠くに感じながらすべての意識を土の中に。
ふわふわ、優しく包み込んでくれる土の中は意識を潜り込ませると微睡んでそのまま眠ってしまいそうになります。
ここで眠ってしまったら、きっと2度と土の中から目覚めることはないのでしょう。
浮遊しそうになる意識を歯を食いしばって留め、力のシコリを少しずつ流す別の力に溶け込ませてほぐしていきます。
お料理で固まりになった調味料を溶かしていくイメージというとわかりやすいでしょうか。
前にこの作業を説明した時、料理長がそんな感じかと言っていました。
真剣に、かつ、かなり繊細な作業を繰り返し。
どれくらいの間そうしていたでしょうか。
結論を言うと、無事に力の流れは整いました。
固まりが何箇所かにあったり、頑固でなかなかほぐれなかったりしたのですが、なんとか。
「はぁ…良かった……」
口の中はカラカラなのに滴り落ちる汗の雫をのろのろと手で拭います。うまく立ち上がれずよろけてしまいました。
慌てて此方に来たお姉さまに支えられながら日陰に場所を移し、ジェシカが用意してくれた紅茶で喉を潤せば、すこし気力が湧いてきた気がします。
「…と、邪魔をしたか?」
廊下からこちらに向かって歩いてくるのは…
「殿下…」
ジェシカとアデルお姉様がすすす、とわたくしの側を離れ、殿下がわたくしの隣に腰掛けました。
「かなり疲れているようだが、大丈夫か?」
「セイント・リリーフは無事ですわ」
「いや、植物もだが、そうでなく………まぁいあ、先程宰相のところにアデルから少し異常があったようで作業すると念話がきたが……そうか、流石だな。」
そもそもは自分の不注意が招いたこと。
何とも言えずぼんやりと会釈したわたくしに殿下は不思議そうな顔をしましたが、それ以上セイント・リリーフについては触れてはきませんでした。
「…シアラは昔から植物を育てるのが好きなのか?」
「え?えぇ」
優しげな瞳で問われ、一仕事終えた開放感もあったのか、いつもなら言わないことをそっと打ち明けました。
「実は……将来は、庭師になるのが夢なのですわ。貴族だとなかなか難しい道のりなのですが…」
普通の貴族令嬢は土などいじりませんし、必要以上に何かに精通することはかえって家や旦那様のことを蔑ろにしていると捉えられ、この国の貴族は嫌がられることなので、専門職・研修職などに貴族の女性はほとんどいません。
「もともとは、お母様が昔読んでくれた本にあった、天使の庭を手掛けることが目標でしたの」
「天使の庭?」
「はい。それはそれは美しく花々が咲き乱れ、天使たちが昼夜問わず花を愛で踊り楽しむ庭園なのだそうですわ」
「それは凄いな」
「ふふ…でしょう?大人になるにつれその庭は天国でしか見られないのだと気付かされましたが…」
「いや、きっとシアラなら、貴方らしい素敵な庭が手掛けられるだろう。…その日が楽しみだな」
その言葉に目を丸くして殿下を見つめてしまいました。だってそんなこと言ってくださる方なんてこれまでいませんでした。
家族は見守ってくれていますしそれ以外の方々もみんな否定はせずとも、庭師なんて無理だと思っているのが伝わってきますから。
初めて夢を認めてもらえたことが、すごくすごく嬉しい。
ふわふわと気持ちが浮上して、頬が緩むのも目が潤むのも止められません。
あぁ、きっと今すごくだらしない顔をしている気がします。
見られるのが恥ずかしくて俯き加減のままちらりと殿下を見上げると、「む…⁉︎」小さく呻き声を上げられて飛び退きました。
えっそんなに見られないほどだらしない顔をしてました⁉︎な、なんてこと…!
「もっ申し訳ありませんでしたぁ…!」
疲れも一気に吹き飛び、顔を覆って淑女らしからぬスピードで走りさったのでした。
読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、評価も嬉しいです!
なかなか更新出来ずですが頑張ります!




