殿下に花束を
途中まで殿下視点です
コンコン
ひたすらに机に齧りついていたにもかかわらず夜まで執務がなだれ込み、何枚目かわからない書類に判を押した時、控えめなノックが耳に届く。
ーーまた追加の書類か?
はぁと溜息をつきながら唸るように応答する。
かなり嫌そうな響きを帯びたのも仕方ない。朝起きて今までこの部屋を一歩も出ることなく執務をこなしてきたのだから。
最近、セイント・リリーフのことにつきっきりで他のことは後回しだったからな…
なんとか育て主としてシアラが来てくれたことで、ようやく他のことに手が回せるようになったのだ。
「……ん?」
入室の許可をしたにも関わらず、訪問者は入ってこない。
なんだ?
いぶかしみながら、座り続けたせいで固まった体を伸ばして扉へ向かい、勢いよく開ける。
「びゃっ⁉︎」
そこには青い顔で震える小動物、もとい、シアラが立っていた。
++++++++++++++++++++++++
ど、どうしましょう
まだ執務室にいらっしゃるということでしたので花束を届けに伺ったのですが、ノックへの返事は明らかに不機嫌MAXな気が。
あ、開けるのが怖いです!
わたくしがノックしたとバレる前に戻りましょうそうしましょう。
振り返ろうとしたその時、ガチャッ!と大きな音を立てて扉が向こうの方から開きました。
「びゃっ⁉︎」
あぁっ!逃げ遅れました!変な声も出ました!
で、殿下は………怒っては、いらっしゃらない??よかった………
ふぅ、久しぶりに震えてしまいました。
「シアラ、どうした?」
「あの、お、お仕事中申し訳ございません。お渡ししたいものがありまして、少しお時間よろしいでしょうか?」
殿下は一歩引いて中に招き入れてくださいました。
「それで、渡したいものとはーーそれか?」
手にした花束を見て首をかしげる殿下。
唐突ですよねそうですよね。
「その、花畑を教えて頂いたお礼と、少しでも執務中安らぐようにと……お邪魔かもしれませんが、よろしければ…」
しどろもどろなんとか差し出した花束をキョトンと見つめています。
どことなく今日出会った少年のようで、なんだか微笑ましく感じてしまったのが表情に出たようで、「何笑ってるんだ?」と問われて慌てて首を横に振りました。激しく。
「…まぁいい。ありがとう。花を貰ったのは初めてだ。」
「殿下をイメージして見繕わせていただきました」
「俺のイメージ?」
「はい!色や形から。凛として、逞しいのに優しげで、温かく情熱もあって、……殿下?どうかされまして?」
口元を押さえてそっぽを向かれてしまいました。
「……ッいや、そう、そういうイメージなのだな、なんというか、ありがとう」
イメージの例えが悪かったのかしら?もうひと声言っておかなくてはいけませんね。
「わたくし、殿下のことをとても素晴らしいお方と思っております!殿下…王族の皆様はこれほどまでに色んなことがお出来になるのだと、まだまだ己の不出来を感じますもの」
「え?王族として?」
「はい!もちろんですわ!」
しっかり尊敬の念をお伝えしたのに、何故だか複雑そうなお顔をされてしまいました。
殿下のお心はとても理解し難いものですね。
でも、花束はそれからすぐに飾ってくださったようで、後日お義兄様が「あれ見てニヤニヤしてて気持ち悪いんだよねぇ」と言っていました。
気に入っていただけて、よかったです。
お読みいただきありがとうございます!
もう少しほのぼの続きます