秘密の花畑
たいへんな間が開きまして、申し訳ありません。
中々進む方向を決められず。。
一夜明け、やってまいりました!
ビバ!お花畑!
あぁ方々から芳しくも柔らかなお花達の香りに包まれて…癒されます。
花畑といっても大きなものではなく、木々の中を進んでぽっかりと空いた空間に色とりどりの花が密やかに咲いています。
あまり大勢で移動すると目立つということで、ジェシカはお城でお留守番。わたくしはお姉様の馬に乗せてもらい、護衛をしてくださるイアン様と一緒です。
ノエルお兄様や殿下も来たがっていたのですが、各々仕事があるからと、周りのみなさまが必死に止めていらっしゃいました。
それにしても、ここは小さな湖が側にあって日当たりも良いおかげか、ほかでは咲きづらい花もここにはあるようですから素敵な花束ができそうです。
「素敵な所ですね、お姉様!」
「ふふ、そうねぇ。じゃあ、まずちょっと湖ぐるっと回って水を確認してくるから、シアはあまりフルシアンテ様から離れないようにね」
「はいっ」
水の魔法を使うお姉様には、どこにどんな質の水があるか、把握しておくことも魔法を行使する際に大事なのだそう。
水が近くになくとも使える技があるとのことですが、詳しくはわたくしにはよくわかりません。
馬を繋いでいるイアン様から離れすぎないように早速花を見繕います。
病床に飾るのですから香りが強すぎないものを…となるとそれほど多く種類は入れられないので、あれもこれも、色が鮮やかですがまたの機会にして…と、案外すぐに出来上がりました。
白の大きめの花を基調として高貴な王妃様の雰囲気にもあう大人っぽい花束。
うん、とっても綺麗!
とりあえず大きな木の根元に花束を置いて…あとで長持ちするように水につけましょう。
思ったより時間が余ったところで閃きました。
「そうだ、殿下にもお土産を持っていこうかしら?」
殿下はお部屋も執務室もかなり殺風け…サッパリとしていたので、小さな花束ならお邪魔にならないでしょうし、お部屋がすこし華やかになってお忙しい殿下の疲れも癒えるとかもしれません。
殿下のイメージ、殿下のイメージ………
スッと背筋が通って凛として。意思が強そうな紅の瞳。赤の花は…見当たりませんね、残念。
「えーと。あっ、あのお花素敵…でも形はいいけれど殿下には可愛すぎるかしら?もっとキリッとしたものがいいかも……」
殿下のことを考えながら、時間も周りに気を配ることも忘れて夢中になって花を集め。
さわさわと木々の葉の擦れる音、さえずる鳥の声…ふとすでに懐かしい我が家のことを思い出して、ようやく空を見上げました。
「あら?」
ここは………………どこ、でしょうか?
いつのまにか離れた場所に来てしまったようです。
2人の所に戻らなくては心配しているかもしれません。
来たらしき道を戻ろう、と見回しましたが。
「どっちから来たかしら……」
いつもなら森に入るとき適当な木や花を目印にするのですが、ずっと下を向いて歩いたせいで、方向すらもちんぷんかんぷんです。
湖すら見つけられません。
そう思った時背筋にスッと寒気が走りました。
「そんなわけないわ、だってそんなに歩いていないもの…あんな大きな湖が、見えなくなるはずない。」
じゃあここはどこ??
手元の殿下への花をぎゅっと握りながら不安が高まったそのとき。
パキッ
背後から枝を踏みしめる音が。
「ッ!」
バッと振り返ると、木の隙間からわたくしと同じくらいの背の少年が此方に向かっています。
キラキラと木漏れ日を光を反射するサラサラの銀の髪と瞳。中性的な雰囲気はまるで……
「天使…様?」
きょと、と少年が目を見開いたのを見て、わたくしは赤面して謝りました。
「ご、ごめんなさい、昔本で見た天使とそっくりだったものですから」
「…キミ、どうやって入ったの?」
「あっ、ええと、お見舞いのお花を探していて道に迷ってしまって…」
「ここ、ボクの花畑…」
「えぇ⁉︎ご、ごめんなさい!勝手に摘んでしまいました!!」
「別にいいけど…さっさと「いえ、本当にすみません。摘んでしまったコが早く咲いてくれるようにお祈りします」…お祈り?」
わたくしは慌てて、自分がこの辺りで花を摘んだところに膝をついて、魔力を流します。
これで、地中にある種が元気に早く成長しやすくなるのです。栄養剤のようなものですね。
「その魔力…キミなんなの?」
「?…あ!失礼致しました。申し遅れましたが、わたくし、シアラ・チェスターと申しますわ。貴方は?」
それをサラリと無視した少年は、畳み掛けるように問うてきます。
「キミは花の成長に関わることができるの?」
「えぇと、少し手助けをする程度でそんなに大層なものでは」
そのまま少年が黙り込んでしまったので、わたくしはどうしたものか逡巡して、思い切って帰り道を尋ねることにしました。
「あの、勝手に花畑にお邪魔したうえに大変恐縮ではあるのですが、湖のある方に戻りたいので方角を教えていただけますか?」
「ーーこっち。」
案内してくれるようです。
あぁよかった、これで無事にお姉さま達のもとに行けそうですね。
ほとんど音もなく木々の間をぬって歩きながら、少年がぽつりと「……さっきの、別に魔力なんか流さなくても良かったのに」とこぼしました。
「そんな訳にいきませんわ。だって、丹精込めて咲かせたのでしょう?」
素敵なお花ばかりだったので、見ればわかります。それを摘んでしまったのですから当然のことをしただけ。
そう返した際、間を置いてから「…そう」と小さな声が返ってきましたが、そのあとは何を話すでも無く、さわさわと森のざわめきの中歩き続けました。
ようやく湖が視界に入り、安堵で胸がいっぱいに。
意外に近くにあったのに何故わからなくなっていたのでしょう…
遠くからお姉さまとイアン様がわたくしを探して呼ぶ声が聞こえます。
早く戻らなくては!
「あの、ありがーーー」
とう、と続けるはずの言葉を思わず飲み込んだのは、告げる相手がどこにも見当たらなかったから。
キョロキョロ見渡すも、どこにもあの少年の姿はなくて……
「まさか天使様じゃなくて幽霊だったとか…?」
少し怖くなって肩を抱いたその時。
「シアッ!」
「きゃあっ⁉︎」
「も〜!フルシアンテ様から離れないようにと言ったじゃない!」
がばりと後ろから抱きついてきたのはアデルお姉さまでした。
遠くからイアン様もこちらへ駆けてくるのが目に入ります。心配をおかけして申し訳ないです…
「ごめんなさいお姉様、お花を摘むのに夢中になってしまって…」
「あら、でも王妃様への花束は木の幹に置いてあったものよね?」
「ええ、殿下へもお世話になっているお礼に花束を差し上げようと思って」
会心の出来の花束を目の前に差し出すと、お姉様は苦い物をしこたま口に含んだような顔。
花束、どこかおかしいでしょうか?
思わず眉尻を下げて情けない顔をすると、お姉さまが慌てて手をパタパタさせます。
「あ、違うわよ!花束はとっても素敵!」
ほっ良かったです。お姉さまは未だ渋いお顔ですけれど…
殿下、喜んでくださるでしょうか?
早くお渡ししたいなぁ。
そんなことを思いながら王宮への道を急いだのでした。
ショターーー(※キターーー)
お読みくださりありがとうございます。
もう暫くしたら登場人物まとめのせます