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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
92/107

バベル




「ここ、だよな……?」


 【神】に言われた通り中庭を北に進んでいくと、不思議な場所へと辿り着いた。

 しばらく歩き、霧が出て来たなと思ったら目の前にとてつもなく巨大な塔がそびえ立っていた。

 思わず背後を振り返ると、霧が見えるだけ。


 そう言えば、ここは雲の上なのに何で霧が出るんだろうか。

 だが、そんなことを考えても所詮俺には分かるはずもないと決めつけ、霧のことを考えるのを止めた。

 きっと、そういうものなのだろう。


 目的地である塔を目指す。

 近づけば近づくほどその塔の高さに圧倒され、見上げていた首が痛くなってしまった。

 どことなく見たことがあるような気がしたので記憶を漁ってみると、俺にしては珍しくその記憶を発見することが出来た。


 この塔はこの神代に来るための塔、バベルの塔に似ているのだ。

 色合いや質感、雰囲気がもはやそれ。しかし、俺が知っているバベルの塔は朽ちてボロボロだったはずなのだが、この塔は真新しい。

 ……いや、真新しいと言うよりかよく手入れされていると言った方が良いだろう。


「おう、逃げずによく来たな」

「で、なんだよ」

「まぁ、まずは話を聞くんだ父つぁん坊や」


 塔の麓までやってくると、俺の頭上に【神】が現れた。

 フヨフヨと浮かんでおり……浮かんでいると言うよりは力なくぶら下がっているという言葉の方が当てはまる。

 どのように浮かんでいるのか気になったが、武空術でも会得しているのだろうと思い片付けた。


「俺はぶっちゃけお前らに必要以上に肩入れするのは何だと思うから、あの連中を下げさせたんだけどよ、俺の兄弟にあそこまでやられたら何もしないわけにもいかなんでな」


 そう悪態を吐き、溜息を漏らす【神】

 その姿は仕方なくやっていると言わんばかりの態度で、本心でないことは素人でも分かる。

 だからこそ、このようにぶら下がるように浮かんでいるのだろう。


 あの連中とは神代メンバー。兄弟とは先々代【魔王】

 砦に突入する前に【神】が神代メンバーを帰らせたのがようやく分かった。砦の中で激戦になると知っていてわざとそうしたんだ。俺たちに乗り越えさせるために。

 あそこまで神代メンバーの力を貸してもらっていたら意味が無いとの事であろう。そして、実力が足りないばかりか仲間を危険な目に会わせてしまった。


 そして、この【神】の口振り。

 先々代【魔王】が実の娘のために【神】に頭を下げたんだ。

 きっと、この【神】に頭を下げるのは相当な努力を要した……のでもないのだろう。娘のためなら、どんな相手であろうとも頭を下げる。俺の中での勝手な妄想だが、先々代【魔王】はそう言う人物だと思っている。


 そんな先々代【魔王】の頼みを断れる【神】でもないのだろう。内心、面倒だと思っているのだろうが、俺に手を貸してくれるとはそう言うことなのだろう。


「だから、俺の方でお膳立てしようじゃないか」

「この塔は何だ? バベルの塔とよく似ているが」

「俺が復元したバベルの塔の尖頭だ。良く出来ているだろう?」


 なるほど、バベルの塔があのまま何事も無く作られていたなら、こんな風になっていたのだろう。

 しかしながら尖頭と言いつつかなりの高さだ。神代の前にあったバベルの塔も頂が見えないほどの高さだったが、この尖頭も頂が見えない。

 躯をどれだけ仰ごうが見えやしない。


「んでな、俺はこの塔を【七英雄】の試練場にしたわけだ」

「この塔を? だったらラルも登ったのか?」

「いいや、アイツは登ってねぇ。ま、そんなことはどうでもいいじゃねぇか」

「お、おう」


 訊けば、この塔は【七英雄】の試練場にしているとのこと。

 ということは、歴戦の【七英雄】はここを登って【神】に認可されていたのか。

 しかし、ラルはここを登っていないとのこと。それを訊ねようとしたが、露骨に話を逸らされたので訊くに訊けない。

 そう言うことは、訊くなってことだろう。


「今からお前にこれを登ってもらう」

「え? ここは【七英雄】の試練場なんだろ? 何で俺が? 俺も【七英雄】になれるのか?」

「バーカ。【七英雄】は全員健在だろうが。それに、お前にそんな実力ねぇよ、調子に乗んな」


 淡い期待も水泡に帰す。

 もしかしたらと言う俺の考えが一蹴されてしまった。

 それにしても気に障る言い方だ。俺でなかったらキレているぞ。


「ともかく、コレを登ってもらう。俺は上で待ってるぜ」


 そう言うなり【神】は消えてしまった。

 その際に、また“トランザム”と聞こえたような気がしたが、そんなことは無かったぜ。


 って、コレを登るって……このゴールの見えない登攀をしろってのか。

 やる気が削がれ……ている場合ではない。せっかくお膳立てされているんだ、イリシアを助けるためならどんなことだって乗り越えるつもりだ。

 このくらい、なんてことはない。


 塔の内部に入ると中は思ったより暑くなく、至って快適な温度だった。

 そこはゴッドクォリティーなのか。そこは酷く暑いのが王道だと思っていたが、そんなことも無いのか見知れない。


 この塔もバベルの塔と同じく壁に沿うように階段が設けられており、ある一定の段数のところに階段からはみ出ない程度の小さなフロアが設けられている。そして、そのフロアに隣接する壁にぽっかりと人一人分入れるくらいの入口がある。

 その入り口の上部にはプレートが填められており、そのプレートには古代文字で文字が彫られていた。


 その一つをよく見て見る。


「……【天眼】?」


 一番低い位置にある入り口のプレートには【天眼】と彫られていた。

 となると、ここが【天眼】の称号をえるために必要な場所と言うことなのだろう。

 あの車椅子の【天眼】様もここに来たということに、なんだか感慨深くなる。


 しばらく登ったところで、適当なフロアのところで腰掛けて休む。

 手すりが設けられていないため、階段から身を乗り出すと一番下が見える。一番下が見えると言うことは、まだまだ全然登っていないことになる。

 そこで、そのまま階段から身を乗り出した状態で上を見て見ると、果てしないほどの螺旋構造が目に入った。ゴールまではまだ遠い。


 ふと、顔を上げてそのフロアに設けられてある入り口のプレートを見て見る。

 そのプレートには【世界脳】と言う文字が刻まれていた。ということは、かつてこの世界には【世界脳】という【七英雄】が存在していたことになる。

 きっと、俺なんかが想像できないほど頭が良かったのだろう。ノイマンより知能指数が高かったのだろうか?


「よいしょっと」


 充分に休憩を取った。

 脚は重たくなってきたが、登り続けよう。




◆ ◆ ◆




 【神】に対しての愚痴がそろそろ尽きてきた頃、とあることに気付く。

 階段の外周間隔が段々と狭くなっている。もしかしてと思い、階段から身を乗り出して上を見上げてみるとなんと最上階らしきものが見える。


 それでも、まだまだ先のことなのだが、俄然やる気が出て来た。ゴールの見えたマラソン程、気が楽なことは無い。


 ついでに下も覗きこんでみる。

 すると、奈落が見えた。その深淵を見たかのような感覚にゾクゾクと背中に何かが走り抜ける。

 アカン、興奮する。高い、高いよ、意味も無く楽しくなってくるよ。

 バカと煙は何とやらとはよく言うけど、本当の事だったんだな。


 少し駆け足気味で感覚の無くなった脚で階段を上る。

 テンションが高くなったせいか二段抜かしで登ってみたり、ちょっと飛び跳ねてみたり、後悔したりしているうちに最上階と思しき所に辿り着く。

 塔の尖頭と言うことで天井は三角錐状だ。もちろん、最上階にはこれまでと同じように大きく口を開けたようにぽっかりと入り口がある。


 その入り口のプレートに自然に目が行くのは仕方ないと思いたい。


「……【聖王】?」


 最上階のプレートには【聖王】という文字が彫られており、他にはなにも見当たらない。

 なぜ、ここに【聖王】と書かれているのか俺は理解できない。そもそも、【聖王】は【七英雄】ではないし、【聖王】は今もどこかで生きているとされている。


 何分、【聖王】についての文献はほとんど残っておらず、初代【聖王】を除いて歴史の表舞台にはほとんど出てこない。

 ただ、どの【聖王】も【神】とは縁があることは分かっている。


「おうおう、良く辿り着いたな。正直、根を上げるかと思ってたぜ」


 背後からムカつく声が聞こえてくる。

 ということなので振り向きざまに鉄拳をぶち込もうと右腕を振り抜くが、空しく空を切る。

 その勢いでフロアから落ちそうになったのは内緒だ。


「いきなりご挨拶だな」

「あたぼうよ。どれだけ辛かったんだと思ってんだよ。ここに来てなにも無かったらせめて傷を一つでも作ってやろうと言う勢いだ」

「無駄なことを」


 背後……俺の手が届かないところに【神】が同じく力なく浮かんでいた。

 その様子は俺の苦労をいたわっていると見せかけて貶しているのだから質が悪い。


 【神】はとりあえずと言った感じで【聖王の間】を指さしてこういう。


「そこに入れ」

「は?」

「聞こえなかったか? そこに入れってんだよ」

「何で俺が?」


 至極尤もな質問。


「お前に【聖王】の試練を受けさせてやる。その資格はお前は充分に持っている」

「ちょっと待て、俺は理解が遅いんだ。順を追って説明してくれ」


 俺が【神】に説明を求めると、【神】は仕方ないと言った感じに肩を竦ませる。

 その一連の行動がムカつくが、口に出したら説明してくれないだろうから飲み込む。

 こんな奴でもイリシアに繋がる希望なわけだし、蔑ろには出来ない。


 【神】は俺が腰に差している金具を指さすと、面白そうに説明し始める。


「先ずだが、お前が持っているその金具は俺の対魔機でだな、かつてアーサーにあげたものなんだよ」

「アーサーって……初代【聖王】のことか!?」

「御名答。何の因果か、お前がそれを持っていて、なおかつ加護が使える時点でお前には素質がある」


 なんということ。

 金具が初代【聖王】ことアーサー王が使っていた聖剣だと言う。

 確かに金具は刃こぼれはしないし、錆びないし、手入れ不要の剣だったことから普通ではないと思っていたのだが……まさか聖剣だったとは。

 そして、金具の加護が使えるということは金具に認められている……つまり主人だと認められているのが【聖王】の試練を受けるに値するらしい。


 その事実に驚愕する。

 旅の合間に髭剃りに使ったり、調理に使ったり、暑いときに水具で水撒きに使っていたのが申し訳なくなってくる。その他にも物干し竿に使っていたり、枕に使っていたりと罰が当たっていても文句は言えない使い方をしていた。

 それなのにも拘らず、金具は俺を主人と認めてくれるのか。


「第二に、現代【聖王】は既に死去していてな、代わりが必要だったんだよ」

「死んでいたのか……」

「あぁ、結構前にな。そこで、お前を【聖王】にしようかとな。感謝しろよ、お前は本当は【聖王】にするつもりは無かったんだからな」


 とのこと。

 俺が【聖王】になる……って考えてみても現実味が無くて笑える。

 何の変哲のない冴えない男が、何の因果かこうして【神】と話し、【聖王】になれるかも知れないってんだ。

 これが面白くなくて何が面白いのか。


 それに、この試練に受かれば更なる力手に入る。

 俺が渇望してやまなかった力が手にはいるかも知れないんだ。護れる力が手にはいるかも知れないんだ。

 コレを受け入れない理由が無い。


「……ありがとう」

「うわ、鳥肌立った。気持ち悪い」

「おいコラ」


 素直になった途端にコレだ。

 この【神】には敬意を一生払うことは無いのだろう。

 それでいいのかも知れない。この【神】は嫌いだが。


 俺は【神】に背を向けて【聖王の間】に入っていく。

 これで受からなかったら笑いものどころじゃないな。

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