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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
89/107

生きた、愛した、戦った



 目に生気を取り戻したラル。

 ちょっと危なげだったが、どうにかなって良かった。

 というか、これでうじうじしていたら怒っていたかも知れん。俺を見ているようで嫌だからな。


 当のマハトは当たり前だと言わんばかりにラルを見つめる。

 これくらいで意気消沈していてはつまらないとでも言いたげだ。


 改めてマハトを観察する。

 やはり、武器らしきものは持っているようには見えず、杖すらも見えない。

 そういえばマハトが王だった頃は別に武芸に長けていたとか、魔法が得意だったとか聞かなかった。

 その能力だけで勝負していたので、むしろいらないのだろう。


 しかし、この余裕。

 何か隠し玉があると見ても間違いない。

 さすがに、ここにきて俺たちと取引しようだとか思わない……とは限らないな。

 例えば、相手が俺たちの望むものを提示した場合、俺たちは余程のことが無い限り拒否することは出来ないだろう。

 商売とは、相手との同意の上で行われるものであり、相手は無理矢理その土台に持ち上げることが出来る。対等に商売をするのだ。


「……では、先々代【魔王】よ。我が其方の望むものを用意すると言ったら……どうだ?」

「なに……?」


 来た。

 これに乗せられてはダメだ。

 なんとしても止めなくてはならない。


 標的をイリシアにしたマハトが提示するのはイリシアの望むもの。すなわち【魔王】の座。

 この旅の最終目標であり、俺たちの永訣の時。それを望んでここまで来たんだ。

 それを、マハトは用意すると言っている。そうなれば、この旅の存在意義も無くなる。


 つまり、俺たちはマハトと戦う理由が無くなる。

 商売と言うのはそう言うものだ。


 俺は焦るようにイリシアを見る。

 しかし、俺の焦りとは裏腹にイリシアは俯きながらも、目が光を失っていなかった。

 決意の光がまだイリシアの眼に宿っている。と言うことはイリシアはまだ屈してはいない。


 それは、強靭な精神のなせる業なのか。


「はっ……何を申すと思うたら……妾が望むもの……? 片腹痛いとはこのことじゃのぉ……」


 強靭な精神……いいや違う。

 そんなものではない。現に、イリシアの肩は震え、握りしめた拳はローブに皺を作っているじゃないか。


 これは何を意味する?


 商売に心が抗っている?

 違う。


 目の前にいるマハトを恐がっている?

 ありえん。


 ではなぜか?


「我は嘘など吐かない。用意しよう、【魔王】の座を」

「何をふざけたことを……そんなもの、いらぬ」


 今度こそ、マハトは驚愕の色を顔に見せる。

 なぜなら、俺たちですらもイリシアが望むものだと思っていた【魔王】の座を要らないと言ったのだ。

 この旅の意味を否定したのだ。俺たちが【魔王】を倒すという名目を否定したんだ。


 ここにいる誰もがイリシアを見つめる。

 依然としてイリシアは裾を掴んで震えたままだが、俯いていた顔はマハトを睨み付けるように上げていた。

 その眼には依然とした覚悟の色。今目の前にいる敵を食いちぎろうとする覚悟。

 爛々と燃え盛るように。


「妾が望むものは……用意なぞ出来ぬもの。誰の手でも、例え【神】でさえも、お父さんでさえも用意できぬもの」

「……それは、いったいなんです?」


 痺れを切らしたようにマハトはイリシアに訊ねる。

 しかし、マハトの表情は先ほどの下卑た笑みではなく、少しイライラした様子のしかめっ面だった。

 その表情から察するに、本当に分からないのだろう。


「……この者たちと共に、【魔王】の玉座で笑い合うことじゃ」

「…………それはそれは、確かに我には用意できぬものですな。いやはや、なかなかどうして泣かせることを言うではないですか」


 ――それは、絶対に叶わぬこと。

 その一方が叶えば、もう一方が叶わない。矛盾した願い。

 それが分からない俺たちではない。ラルもその言葉を聞くと、俯いて下唇を噛む。

 ラルだからこそ、思うものもあるだろう。【勇者】だからこそ、思うものもあるのだろう。


 それも、このままいけば、必ず待ち受ける結末。

 【勇者】と【魔王】は戦うもの。決して相容れない存在。互いに生きることが叶わぬ存在。

 人間と魔物。磁石。反発する者たち。


 だからこその、イリシアの願いなのだろう。

 叶わないことを想うことが、願いなのだから。


「交渉は決裂じゃ」

「そのようですね」


 イリシアはマハトに向けて杖を構える。

 マハトも立ち上がり、俺たちと相対する。


「往くぞ、糞野郎」


 その言葉を皮切りに互いに動く。

 俺たちも遅れないように、事前に構えていたそれぞれの得物を手にして走り出す。

 敵はただ一人。このためだけに何万の軍勢を用意していた者が、何の準備もしていないわけがないが、今は用心する他ない。


 と言うことで戦闘。

 俺がやることと言ったら一つ。二人と状況をよく見て、隙あらばマハトに大技をぶつけること。

 俺がちまちまとした戦いでは役に立たないなんてわかりきっていること。だったら、何気に威力のある獅咆哮を放つことしかできない。


 ここが屋外だったのなら炎具を使っても良かったのだが、二人を巻き込むわけにはいかない。その他大勢の人間だったら良いものの、この二りは巻き込んではならない者たちだ。それくらいの分別は付く。


「っ、っ!」


 イリシアが杖から次々と炎の蛇を繰り出し、マハトに襲わせるがマハトはその手を払うだけで炎の蛇は掻き消えてしまう。

 通じないと理解したのか、イリシアは下がって俺たちの援護に回った。魔術を唱えるたびに俺たちの躯は軽くなり、胆力が湧き上がってくる。


 今度はラルが前衛に躍り出て雷撃を繰り出し、地面を迸る。

 イリシアはそれを援護させるように雷撃と相性の良い旋風を巻き起こして、雷撃がより精度が増すようにする。

 これは別に事前に打ち合わせていたことではない。戦況を見て各々が判断して協力しているのだ。

 それが如何に凄いことか。俺には真似できない。


 迸る雷撃がマハトに迫り、マハトは躯の前で腕をクロスさせて防御態勢をとったが、雷撃はマハトの届く寸前で軌道を変えて手前の地面へと落ちる。

 それにより、塵やら破片やらが舞い上がり、一時的にマハトが煙で見えなくなる。


 俺はそれを機と見て走り出す。

 構えるは居合の構え。直前で足を大きく開き、振り抜くように剣の腹で空気をぶっ叩く。


「獅咆哮っ!」


 途端に一瞬だけ晴れる煙。その煙を突き破って衝撃波は目の前にあるものを粉砕しようと唸る竜の咆哮。

 晴れた先にはマハトの姿。そして、再び獅咆哮の衝撃で舞い上がる煙。

 空気が震えて轟音が鳴り響き、爆発的な衝撃波が障害物に当たったことで拡散する。


 確かな手応えを感じた。

 全力で放った獅咆哮の反動か、手が若干痺れている。今の今まで、全力の獅咆哮はバハムート以来放ったことは無かった。

 命中精度がいくら悪いとはいえ、肉薄して放ったのだから命中、悪くて掠ってはいるだろう。


 だけど、こういうのがフラグになるんだよなぁ。

 やったか=やってないの方程式だ。有名すぎる。


 その考えが的中したのか、マハトが煙を突き破って俺と肉薄する。

 その刹那の表情は冒涜的までにとても笑顔であり、俺の顔を見ながら鉄拳を腹にぶち込んできた。

 そのぶち込んできたところは一寸の狂いなく鳩尾に吸い込まれ、衝撃に躯がくの字になると同時に俺の躯が吹っ飛ばされた。


 腹に響く重く苦しい痛み。

 込み上げる吐瀉物を耐え切れずに嘔吐する。

 朝に食ったものが全て吐き出されてもなお止まらぬ気持ち悪さ。

 よく見て見れば吐瀉物と一緒に混じる赤い液体。胃に傷がついたのか吐血までしていた。


 そばに誰か駆けつけてくれたのか、俺の背中をさする感触を感じた。

 しかし、その人までに回す心の余裕は無く、ただただ腹の痛みと吐瀉物と格闘する。


「アラン! アラン、しっかり!」

「むぼろ、うぉろろろろ!」


 よくもまぁ……尊敬するよ、世の主人公たちを。

 あいつら、肋骨が折れようと躯の一部を吹っ飛ばされようと平気そうな面してるもんなぁ。

 これは無理だ、耐え切れるものではない。凄まじい痛みに何もかもが真っ白になってしまう。吐瀉物に混じった胃液のせいで喉まで焼けるように痛くなってきやがった。


 ダメだ、カッコ悪いな。


「くふ、くふふふふ! 少しばかり泳がしてみて分かりましたが……貴女たちはある程度強いみたいですが、それでもある程度です。我には敵わないようですねぇ。【勇者】に至ってはせっかく強化された能力を扱いきれていないようですしねぇ」


 マハトは笑う。

 滑稽な俺たちを見て笑う。

 痛みを堪えて顔を上げて見れば、傍らにはラル。

 イリシアは俺たちの前に立っており、俺を守るように杖を構えていた。


 情けない限りだが、今はそうでもされない限り身を守れそうにない。


「興が冷めました。……いえ、この場合はもっと圧倒的な力で潰したくなった……とでも言いますかね」

「なんじゃと……?」


 嘔吐物感がようやく収まってきたころ、マハトは恐ろしいことを口にした。

 あの一連の動作で俺たちの実力を量ったところ、俺たちを一気に潰すと言ったのだ。

 すなわち、まだマハトは本気どころか力も入れていなかったことになる。それなのに俺たちの攻撃は通じず、まるで地を駆け回る蟻を潰すような物言いだ。


 マハトは懐から一つの歯車の様なものを取り出して、上へと放り投げる。

 放り投げられた歯車は慣性の頂点まで行き付くとピタリと止まり、そのままフヨフヨと浮かぶ。


「あのバカどもが足止めしてくれたおかげで完成しましたよ。いやはや、疲れました」


 その一言共に、急激に回り出す歯車。

 それと同時に聞こえてくる低く鈍い金属同士を擦る様な音。

 その音は時間が経つにつれて大きくなり、より鮮明に聞こえるようになる。


 俺たちは周りを見渡し、一か所に集まることなく辺りを用心する。

 このマハトが何かをやろうとしていることは明白だ。一か所に集まろうならば何か魔法的なもので一網打尽にされてしまうかもしれない。

 イリシアはそれを警戒してか、俺たちに魔法障壁みたいな膜を張る。あまり効果は期待できないが、無いよりはマシだろう。


「……我は、誰とでも分け隔てなく平等な商売をすることが出来る。それは……神々も例外ではない」

「なっ!?」


 ともなれば、ここに神々が召喚されるのか!

 だったらあの歯車は神々に対しての対価か、求めるもの!

 あれを早く止めなければ取り返しのつかないことになる。


「っ! っ!」


 ダメだ、声が出ない。

 腹の痛みのせいで虫を踏み潰したかのような声しか出ず、空しくもその想いは仲間に通じない。

 逆に、治まった嘔吐物感が再発してまた吐いてしまう。


「いったい、なにを……?」

「そうですねぇ、名前くらい伝えてもいいかも知れませんかねぇ」


 そう言ってマハトは笑い出し、背後を振り返って天井を仰ぐ。

 そこにはなにも見当たらないが、おそらくそこに呼び出されるのだろう。


「名をデウス・エクス・マーキナー。【機械仕掛けの神】とも呼ばれる神々です」

「っ!」


 その名を聞いた瞬間、俺の額や腋から汗が噴き出す。

 当の二人は今一ピンと来ていないようだが、俺はその神々を知っている。

 【機械仕掛けの神】とはその名の通り予め決められた抑止力のこと。


 とある公園前の派出所でいう巡査部長や、某ネコ型ロボットや、印籠を見せて場を宥めるじいさんみたいな、その場で最良な大団円をもたらせてくれるのがデウス・エクス・マーキナーだ。


 それまで聞こえていた金属同士を擦る様な音が、時計の振子が動く際になるような音に消えるまでなると、徐々にその姿を現す。

 マハトが仰ぐ先に現れたのは巨大な時計に振子をつけたようなもの。丸く巨大な時計からぶら下がるように揺れる振子は時を刻むたびに音を刻む。

 そして、時計の最長部には角の生えた頭蓋骨が鎮座していて、その眼が赤く不気味に光っている。


 これがデウス・エクス・マーキナーの全貌。

 この場合の大団円はつまり――




 ――俺たちの死。


「おめぇら逃げろぉおお!!!!」


 喉の痛みや嘔吐物感なんてこの際気にしていられない。

 とても俺の声とは思えない様なガラガラにしわがれた声が砦内に響き渡る。

 それと同時にデウス・エクス・マーキナーに見入っていた二人は気付いたようにこちらを振り向く。


 血反吐を吐きながらももう一度痛む腹に力を込める。


「早く外へ逃げろ! 勝てるモンじゃねぇ!」

「どういうこと!?」

「説明している暇が惜しい! 早くっ!」


 俺の叫びを理解すると同時に入口へ走り出すイリシア。

 ラルはまだこの状況をよく理解できていないのか混乱している様子。そんなラルの肩を掴み、無理やり出入り口まで引っ張っていく。


 のだが、


「開かぬ! なぜ開かぬ!」


 イリシアが必死に叩けど、観音開きの扉はうんともすんとも言わずに動かない。

 あれ程すんなり開いた扉が動かないのならば、やはりこの砦はもうマハトの手中の中か、それとも予期せぬ不具合化のどっちかだ。


 背後を振り返ってみれば、マハトの姿は無く、デウス・エクス・マーキナーが俺たちを見下ろしているだけ。

 その赤く光る瞳が、俺たちの何を見ているかまでは分からない。


「ぶち破れ! 壁でも何でもいいから!」


 扉が開かないのならばぶち破ればいい。

 俺はラルから離れて、倦怠感と戦いながら金具を構える。この状態での獅咆哮の威力は望めないが、仕方がない。

 少し離れた場所ではイリシアが壁に向かってなにやら次々と魔術を当てているが傷一つ付いていない。魔法障壁的なものが張っていると見ていいだろう。


 なんせ、最初からコレをしようと思っていたはずだからな。


「ちぃっ」


 やはり俺の獅子咆哮でも傷がつかない。

 いよいよ八方塞がりとなってきた。ここでデウス・エクス・マーキナーと戦うのはいくらなんでも無謀すぎる。蛮勇に任せて戦うのは主人公たちの特権。俺の特権ではない。


「非常口を探せ! それか構造的に弱くなっている壁を集中攻撃するんだ!」


 実際、今できるのはそれくらいなものだ。

 今は何としても早く逃げなくてはならない。俺の予想が正しければ、この神々は俺たちを殲滅しにかかってくる。

 輪郭は完全に整っているものの、まだ完全には現界していないのか何もしてこない……訳ではないようだ。デウス・エクス・マーキナーはゆっくりと動き出し、動くたびに錆びた金属が擦れるような音が鳴る。


 それが向かう先は……俺。


「アランには手を出させない!」

「ラル!?」

「私がコイツを引き付けるから! 二人は早く逃げ道を!」


 ラルの言うことは尤もだが、いくらラルと言えども神々……それも【機械仕掛けの神】には敵わない。

 だが、ラルの眼には依然とした闘志の炎が燃え盛っている、決して諦めていない目だ。


 俺はラルの背を向けて砦の奥にへと走り出す。

 非常口があるとしたら砦の奥だ。だったらこの好きに探すしかない。幸い、デウス・エクス・マーキナーはまだ不完全の様でまだ覚束ない動きだ。この機を逃してはならない。


 と、思っていたところだ。


「あぎゃああうぅぅ!」

「ラル!? どうしたぁ!?」


 すぐ背後からラルの悲痛な悲鳴が聞こえてくる。

 見て見れば、ラルが右脚を押さえて地面にのたうち回っている。

 傍らには女性の脚。押さえている右脚を見て見ると膝から下が無くなっているのが分かる。


 つまり、ラルは今の一瞬で右脚を千切られたのだ。


「ラル!」


 俺はラルに駆け寄り、言うことを聞かない躯に無理を言わしてラルを担ぐ。

 いつもより力の入らない躯は結構辛く、脚がガタガタと振るえる。しかし、ラルを見捨てるわけにはいかない。


 もう二度と失わないと決めたんだ。

 絶対に生きて帰る。ラルを二度も殺してなるものか。


「うおっ!?」


 すぐ横の地面が抉れる。

 見上げてみれば、、デウス・エクス・マーキナーがつまらないものを見るような眼で俺を見降ろしていた。次は当てるとでも言わんばかりに。


 俺は一目散に駆け出し、決して攻撃が当たらないようにジグザクに走る。

 しかし、それを嘲笑うかのように攻撃をしてこない。だが、真っ直ぐ走っても攻撃してこないと限らない。

 俺は結局そのまま走り続ける。


「アラン!」

「イリシア! 出口は!?」

「どこにも見当たらぬ!」


 イリシアとも合流し、出口を訊ねてみるが見当たらないと言う。

 イリシアは砦の奥から来たところを見ると、奥にも非常口は見当たらなかったようだ。


 これでは本格的に手詰まりになってきた。

 俺に掴まるラルの力もだんだんと弱くなってきている。このままではあの時の再現だ。

 それだけは避けなければならない。最悪、俺の命と引き換えにでも二人を助けなければ。


 そんな時、イリシアが少し申し訳ないような声色でこんなことを言ってきた。

 それは、どことなく諦めにも似た……けれど笑顔で俺を見る。


「実はの、お父さんから教えてもらったとっておきの転移“魔術”があるのじゃが……」

「なんだって!?」


 その話が本当ならここから出れる。

 本来は魔術に転移系の魔術は無いはずだが、先々代【魔王】だったら知っていてもおかしくない。

 転移魔法は存在するが、術者は転移できないという欠点があるため、使用できないが……その口ぶりだと術者も転移できるみたいだ。


 なるほど、だから申し訳ないような声色なのか。


「頼む、やってくれ!」


 イリシアにそう頼むと、イリシアは頷き、デウス・エクス・マーキナーの動向に気を配りながら魔法陣を展開させる。

 その魔法陣から出ないようにしながら、俺もデウス・エクス・マーキナーを睨む。


 俺を掴むラルの力が弱い。

 早く医者に見せなければならない。


 早く、早く、早く!


 そして、魔術が発動する瞬間、イリシアは今一度俺の顔を見た。

 とびっきりの笑顔で、俺が愛した笑顔だ。この笑顔を失ってはならない。

 守らなければならないんだ。


 そして、


「アラン、愛しておったぞ」


 イリシアが目の前から消えた。

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