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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
75/107

弔辞



「なぁ、最後に一つだけいいか?」

「なんだ?」


 俺の確認に【神】はヘラヘラしながら応えた。

 質問を赦された俺は頷き、口を開く。


 その問いとは、もちろんこれだ。


「なんで、魔物と人間は争っているんだ」


 これだ。

 これが一番の問題だ。

 聞けば、イリシアは元々人間と共存をする道を選んでいたというし、その志は親父さんから受け継いだと言っていた。

 となれば、少なからず先々代【魔王】は共存の道を目指していたわけだ。


 だが、結果はどうだ。

 先々代【魔王】が死んだことになる前から人間と魔物は争っていた。

 もちろん、お互いにお互いを敵視し、喰らい、糧としてきた。ここだけを見ると喧嘩両成敗なような気もするのだが、そこで終わらないのがこの怨恨だろう。

 喧嘩両成敗で終わっていたのならば、とっくの昔に条約なり決めて不可侵の約束を取り付けていただろう。


 それで終わらない何かがあるはずなんだ。


 そんな思いを胸に秘めて【神】と先々代【魔王】を見つめる。

 【神】はキョトンとした表情をしており、なんだかムカつく。先々代【魔王】はどこか遠くを見るような眼で天井を見上げている。

 そんな二人が先に口を開いたのは【神】の方だった。


「そりゃオメェ、磁石みてぇなものだからだよ」

「磁石?」

「おうとも。磁石にはN極とS極があるだろ? 俺と【魔王】ちゃんもそれみたいなものでよ、俺が人類の総括担当なら【魔王】ちゃんは魔物総括担当。お互いがお互いに反発し合う特性なんだよ」

「じゃあ、共存は無理なのか?」


 お互いが磁石の両極端みたいなもの。

 それならば相容れないのにも理由が持てる。だからこそ共存が出来ない。

 しかし、先々代【魔王】はそれを分かっていたはずなのに、なぜ共存を目指したんだ?


 だけどこれは共存しない理由に成れど、争う理由にはならない。

 それだけなら拘わらなければ良い話。だけど、大変な労力を払ってまで争う理由。

 いったいそれはなんだ?


 先々代【魔王】の方を見ると、依然として遠くを見るような眼をしている。

 昔を思い出して感傷に浸っているのだろうか?


 と、思えば先々代【魔王】は【神】に向けて口を開く。


「……彼らには話しても良いのではないかい?」

「ダメだ」

「そうか」

「……何の話だ?」


 話しても良いだって?

 いったい何の話だってんだ。そして【神】は話してはダメだと言う。

 つまり、俺たちに話しては何か不都合なことがあるということ。


 俺たちにとって不都合なこと。

 なんだ?


「お前らにはまだ早いわ。良いからお前らは目先のことだけを考えてりゃ良いんだよ」

「なんだそれ」

「ダメなものったらダメだ。お前らに部屋を用意した。ゆっくりしていくと良い。お前らの協力とかなんだかの話は後だ」


 【神】はそこまで言うと、ふっと煙のように消えてしまった。

 転移魔法でも使ったのだろうか?

 いや、転移魔法は術者は使えないはずだ。だったら、魔術とか魔道的なものだろう。


 しっかし【神】の物言いにはムカつくな。

 俺たちには話せないことがあるのは仕方ないかも知れないが、ものには言い方ってモンがある。

 これでは余計に反発心を煽って知りたがる輩が現れるのがテンプレートってモンだ。


 だが、俺たちの中にはそこまでの子どもはいないらしく、イリシアもラルも落ち着いている。

 特にラルは二人に申し訳ないという気持ちのためか、さっきから静かだ。

 俺も先々代【魔王】に恨みが無いとは言えない。殺された友達も知り合いもごまんといるんだ。

 さっきも言った通り、なんのために死んだのか……とかな。


 だが、なんだろうか。

 今先々代【魔王】を前にしても何ら憎しみの感情は浮かんでこない。

 それどころか敬意を示してまでいる。恐怖とかの感情も浮かばない。

 信頼はしていないが、嫌悪を抱いていないこの状況に軽く混乱しそうになる。


 そんな風に半ば睨み付けるように先々代【魔王】を見ていると、ふと袖辺りに引っ張られる感触が。

 目を向けてみると、そこにはどこか嬉しそうなイリシアの姿があった。

 顔を上げてみれば困った顔ののラルの姿も見えた。どうやらイリシアに半強制的に引っ張られてきたようだ。


「お主も行くぞ」

「どこへ?」

「お父さんの元へじゃ!」

「え?」


 そう言われて理解が追い付いていない俺をラル同様に半強制的に先々代【魔王】の元へ引っ張っていくイリシア。

 だからどこにそんな力があるんだよ。


「お父さん!」

「おぉ、どうしたんだいイリシア。腋に二人も抱えて……って、いつの間にそんなにパワフルに……」

「うむ、旅をしておるうちにの。それよりもじゃ、妾の自慢の仲間を紹介するのじゃ」

「ほう……」


 うわぁ、自己紹介タイムはまだ続いているのかよ……。

 俺、自己紹介って苦手なんだよ。あまり謙遜が過ぎると嫌味に聞こえるし、自慢げに話すと疎まれるからな。その中間点というものがようわからん。

 とりあえず今までは無難な謙遜を選んできたんだが……ここで謙遜なんてしたら怒られそうだ。


 なんせ、今イリシアは“自慢の仲間”と言ったんだから、先々代【魔王】に自慢しに来たんだ。

 自分はこんなにも凄い仲間を持てたんだ、どうだ凄いだろう、と。

 そこで謙遜なんかしてイリシアを悲しませてみろ。

 悪の権化が目の前にいるんだ。塵も残らねぇ。


「まずは言わずとも知れたラルじゃ。お父さんも知っておるじゃろう?」

「あぁ、知っているよ。【七英雄】の【勇者】を担っている娘だ。それに、カエサルからはよく聞かされていたよ。俺の娘は絶対大物になるとね」

「父さんがそんなことを?」

「うん。少し子煩悩なところが玉に瑕だったけど、君のことを本当に愛していたよ」


 へぇ、あのカエサル=ブレイドが子煩悩ね。初めて聞いたな。

 地方によっては阿修羅とも称された程の戦士も、結局は子供には甘かったわけだ。


「ラルは凄いのじゃぞ。雷を使い、空を飛べるのじゃ。敵に槍を刺して雷を直に流すことも出来るしの。雨天ならば雷雲を操って落雷を起こせるのじゃぞ?」

「それは凄い。雷の応用ならまだしも、伝説上の生物や神々でも天候を操ることは容易くない」


 素直に褒める先々代【魔王】。

 その様子に少しくすぐったそうなラルの照れた顔が何とも言えぬ芸術。

 今にも口端が綻んで笑顔になりそうだ。


 確かにラルの戦闘技術は目を見張るものがある。

 さすが戦闘経験豊富なだけあって魔物の弱点や特徴を分かっているし、なにより的確な指示が飛ばせることが大きい。

 俺たちがいる時はそこまで使わないが、たまに雷を使って空を飛んだりする。戦闘ではもちろんのこと、道に迷った時などに使っている。

 何より驚いたのは雨が降っていて、辺りで雷が鳴っている状況で雨雲を操ってしまったんだからな。あれには度肝を抜かれたよ。


 俺の雷具が玩具に見える。


「後は……そうじゃの。ラルは一度死ぬほどの怪我を負ったにも拘らず、一瞬で完治することが出来るくらいかの」


 その時、確かに空気が凍り付いた。

 先々代【魔王】の笑顔が張り付いたように感じ、ラルの表情も真面目のそれだ。


 あの時のこと。忘れもしない。

 そのことを、おそらくこの反応からして先々代【魔王】も知っているんだろう。

 なぜそうなのかを。そしてそれが、あの時ラルが言っていたことが嘘だったことを如実に表している。


 次の瞬間にはしまったと言わんばかりのイリシアの顔。

 イリシアなりにも触れないようにはしていたんだろうが、そのことが印象に残っていたがために言ってしまった言葉なんだと思いたい。


「お、おい。そろそろ俺のことも紹介しろよ」

「そ、そうじゃの! このハンサムな(おのこ)はアランじゃ! 他でもない、妾を助けてくれた恩人じゃ」


 助け舟を出してやるとイリシアは助かったと言わんばかりに食いついてきた。

 ハンサムと言う単語に口を出してしまいそうになるが、そこはグッと飲み込む。

 先々代【魔王】は俺の方を向き、俺の眼を見つめる。彼は俺の何を見ているのだろうか?


「他にも獄炎を思いのまま操り、英雄の友を追い払ったりしたのじゃ。フォボスも救ってくれたのじゃぞ」

「フォボスを……」


 あぁ、そんなこともあったな。

 金具様様だったけど。しかし、金具はホントになんなんだろうなぁ。どこを探してもそんな対魔機は無いんだよ。

 親父の対魔機ってくらいしか情報が無いもんなぁ。俺の印象としては恐ろしく頑丈で調理に最適な対魔機って感じなんだけど。家の金具は料理で大活躍してます。


「アラン君、フォボスは私の元腹心でね。彼を救い出してくれたことに感謝するよ」

「いえ、そんな……成り行きで……」


 あの白き竜は先々代【魔王】の腹心だったのか。

 それもそうか、信頼できる者にしか娘なんて預けられないし。

 そう言えばバベルの塔の壁画に書かれていたあのドラゴンってフォボスのことだったんだな。ってことはフォボスも神話の生物なのか。


「さて、では皆も疲れただろう。エルト君、客室まで案内してあげてくれ」

「かしこまりました」


 先々代【魔王】がそう言うと、相も変わらずどこから現れたか分からない動きでエルトさんが現れた。

 ここでは先々代【魔王】もそれなりの位置にいるのだろう。なんせ、【神】の兄弟なんだしな。

 エルトさんの案内で、俺たちに用意した客室まで案内してもらうことに。


 そんな俺は先々代【魔王】に感謝されたという一生が三回訪れても経験できない事に反芻しながら思う。

 先々代【魔王】が生きていることが分かった今、先々代【魔王】がまた【魔王】の座に戻れば厄介事はあるかも知れないが、ある程度落ち着くのではないだろうか?

 先々代【魔王】の統治力は大したものだと思うし、民衆の支持はそこまで良くなかったもののその溢れる力で無理やり屈服させていたという話だ。ならば、その今も健在な力で治めてもらうことは出来ないのだろうか?


 ……いや、どっちにしろダメだな。

 魔物と人間がどうしても争うことになるのなら、先々代【魔王】が【魔王】になろうとも、イリシアが【魔王】になろうとも変わらない。結局、争うのだから。


 しかし、イリシアと長い時間一緒に過ごしてはいるが、別段に争うとかそういうことは無かったぞ。

 喧嘩することはあれど、それは意見の食い違いから生まれたものだ。恨み妬みで生まれたのではない。


「どうしたのアラン。また何か考え事?」

「ん? いや、ここの飯はどれだけ美味いんだろうかって考えていてさ」

「それならばその悩みは杞憂に終わりますよ」


 気が付くとラルの顔が目の前にあった。

 どうやら考え込んでいる俺を不安に思ったらしい。

 しかし、別に話すほどのことではないので適当に返すと、なんとエルトさんがそれに応えてくれた。


 エルトさんは嫌に自信気な顔でこちらを向いており、その瞳で俺が映っている。

 そんなに見つめないでくれ、恥ずかしい。


「ここの料理長を担っているシルと言う神々がいるのですが、料理の腕は世界一と言っても過言ではありません」

「そうだよ、シルさんの料理は美味しいんだから」

「へぇ、それは楽しみだ」


 どうやら神代で料理を作っている神々がいるらしい。

 ラルも便乗して言っているあたり、これは期待できそうだ。

 最近、美味い飯(意味深)にありつけていなかったからな。神代の料理と言うのだからさぞや美味いのだろう。


 というか、神々を料理長として雇っているって……そこまで【神】の威光は力があるのか。

 神々は単体でも都市一つ滅ぼせる力を持っているんだから、それは凄いプライドを持っているはずなんだけど……。


 まぁ、いいや。

 余計なことを考えていたら腹が空くな。

 今日の夜ご飯が楽しみだ。

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