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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
73/107

旧支配者



「待っているように言われたけど、娘が来ているんだ。我慢できる親はいないよ」


 イリシアに抱き付いた男性はそう言う。

 男性は【神】様と同じ髪型でオールバックだが、白髪だ。

 服装は黒い法衣を着ており、その法衣の下は同じく黒い燕尾服のようだ。

 顔からして、見た目年齢は四十歳くらいだと思う。痩せ型のせいか、より老けて見える。


 しかし、問題はそこではない。

 問題とは先ほどイリシアが言ったこと。

 イリシアはこの初老の男性のことをお父さん……つまり自分の“父親”だと言った。

 見間違えにしてはおかしい。何故なら、既にラルが臨戦状態だから。

 ラルは先々代【魔王】を見たことがある。それならば、この反応は頷ける。


 だとすれば、この男性はホントにイリシアの父親……?


「御隠居様、イリシアさんが苦しそうですよ」

「おぉ、済まない。元気だったかい? イリシア」

「お父さん……なのか、の?」

「そうだ、パパだ。今まで寂しい思いをさせて済まなかった」

「…………うぅ」


 イリシアはようやく自分の父親だと確信したのか、顔を歪めて父親の広い胸に顔を押し付けた。

 肩がプルプルと震えているところを見ると、胸の中で泣いているようだ。

 その様は正に親子。娘を心配する父親が、父親を心配する娘が、それらが至って普通な様に。


 しかし、感動の再会を好しとはしない人も、世の中にはいる。


「……どういうこと?」

「君は……確かカエサルの娘、だったかな」


 ラルは困惑しながらも目の前にいる“敵”を睨む。

 確かな殺意。けれど、イリシアを気にしてか対魔機は手に掛けてはいるが構えていない。

 確か、ラルの親父さんは三年前の戦いで亡くなっている。そう、今目の前にいる先々代【魔王】によって。


 まさに親の仇。

 聞くところによれば、ラルの親父さんは片腕だけが家に帰って来たのだと。だから、墓下には片腕しかない。

 そこまで聞かされた俺も、ラルがイリシアの親父さんに凄い恨みを持っているということは痛いほど伝わってきた。

 だから、今目の前にいる彼女が、どれだけ怒っているのかも伝わってくる。


 よって、俺は恐怖で動けない。


「イリシアの父親だということで私は私に対しての最大の譲歩を提示します。貴方が……私の父親を殺した、あるいは間接的に殺した。もしも貴方が関与していないと言うのなら、私は矛を治めましょう」

「ら、ラル……お主、何を……」


 譲歩。

 つまり、ラルはこう言っているんだ。

 イリシアの親父さんだからこそ、話し合いで解決すると。イリシアの血縁でも仲間の知り合いでも何でもなかったのならば、この場で斬り伏せている、と。

 だからこその譲歩。イリシアの実の父親だから、答えによっては攻撃をしない。

 もし、イリシアの親父さんがその手でラルの親父さんを殺した、または命令で殺したのならば、このままアンタと戦う。

 そう言っているんだ。


 だが、こうとも言いとれる。

 ラルの親父さんは常に戦いの中に身を投じてきた。

 そして、先々代【魔王】の与り知れぬところで死んだのなら、攻撃をしない、と。


 今出来る最大の譲歩。

 しかし、それはかつて魔界最強を誇った先々代【魔王】に、譲歩として成立するのだろうか?

 おそらく、いや、絶対と言って良い。ラルは単騎でイリシアの親父さんには勝てない。

 天上天下無双の【神】様が手を焼いた相手だ。【神】様以上の実力をもってすれば、可能なのかもしれないが、俺たちが過去に戦った英雄の友に三人で精一杯だったのだから、それは絶望的。


 これらを踏まえて、譲歩として成立するのだろうか?

 俺が思いつく限りでは、一つある。

 それは先々代【魔王】の目の前にいる“娘”をその譲歩の“交渉材料”として提示すれば、対等とは言わないものの極めて近く戦えるだろう。


 だが、この手はラルが最も嫌いとする方法だろう。

 俺だって嫌だ。どうしようもなくなった時以外ならそんな方法は選ばない。


 だからこそ、譲歩。


「や、止めるのじゃ! ラルよ、今一度考えなおしたもれ!」

「ごめんね、ちょっと待ってて」

「アランからも何か言うのじゃ!」

「済まん、俺はまだ死にたくない」

「むうううう!」


 当然、このことを好しとしないのはイリシア。

 それもそうだ。死んだと思っていた父親が生きていたが、今目の前で仲間によって父親が危険に晒されているのだから。

 しかし、仲間を信じたいのか、ラルを本気で止めることはせずに説得によって仲間を止めようとしている。

 その行動に、イリシアの信じる心が垣間見えて俺は嬉しいです。


「……カエサルはね、最初は私の前に何度も立ち塞がったものだよ」

「……」

「その度に諭したものだ。帰りなさい、君にも家族がいるのだろう? と。彼は何度も頷いたよ」


 いつの間にか、ルナさんはどこか遠い記憶を思い出すかのような神妙な表情でこの光景を見ている。

 イリシアもよく見ると半泣き状態で俺の傍に寄り添い、服の端を掴みながらもこの光景を見守っている。


 俺?

 俺は……あれだよ。

 肌に感じる殺気が怖くて見守るどころじゃないよ。


「やがて彼は……私に謝罪をした。戦うべき相手を間違えていたと、ね」

「え……? どういうことよ」

「言葉の通りさ。彼の敵は私ではなかったってことになる」


 どういうことだ?

 ラルの親父さんは先代【勇者】だ。そのカエサルさんは死ぬ時まで【魔王】と戦い、人類を守り抜いた英雄、もとい殺戮者だと世界では言われている。

 彼ほど人類に対して貢献した【勇者】はいない。そのカエサルさんが【魔王】が敵ではないと謝罪しただって?

 それも、先々代【魔王】に?


「【魔王】ちゃん、それは俺の役目だぜ」

「ヤロ、今までどこに行っていたんだ。迎えに行って来るって言っていたじゃないか」

「それがよ、聞いてくれ。俺がな、ステンドグラスを割ってだな――」

「分かった。ヤロが悪いんだな」

「辛辣ッ!」


 今にも殺気が暴れ狂いそうになっていたところに、手が血だらけになった【神】様が現れた。

 やはりと言ったところか、【神】様と先々代【魔王】と知り合いのようだ。それもかなり親しく話ている。


 突然の訪問に、ラルは【神】様に向けて弩級の眼光を放つ。

 もちろん、【神】様には効かないようで、先ほどと同じようにヘラヘラとしている。


 とりあえず【神】様が説明するとのことで、空を仰いでいる【神】様に注目する皆。

 ルナさんはいつの間にかその手に救急箱を持っており、【神】様の手を治療している。

 凄くシュールだ。


「まぁ、話は謁見の間で聞く。それと、お前らに神代の面々を紹介するから、何かしらの言葉でも考えておけよ」


 そう言って【神】様は気色の悪い笑い声と共に掻き消えてしまった。

 それと同時に、手を治療していたルナさんは溜息を吐く。


「申し訳ありません。これよりは、謁見の間に着いてから双方よろしいですか?」


 お互いに頷く。


野暮用が終わったので、更新を再開します。


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