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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
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一触即発

 岩場の割れ目へと飛び込んだ俺たち。

 中は意外と広く、三人がくつろぐには十分な広さだった。

 実は俺、化物から逃げつつこういう隠れ場所を探していたんだ。

 ここは“始決の二栄原”と言い、三年前【神】と【魔王】がドンパチやらかしたところで、その影響かは知らないがこういう自然には出来ない地形が多くみられる。

 なんてったってこの“始決の二栄原”の真ん中にはどうやってできたかわからない大穴が開いているんだからな。

 噂じゃ、その穴の奥はこの星の中心だと言われているが、残念ながら先遣隊の報告によると、途中で穴が瓦礫で塞がっているとのこと。


 そんなどうでもいい話は置いといて、今は目の前の二人に傾注しよう。

 【魔王】様は自身が来ている妙に色あせた茶色いローブに付着した砂などの汚れを払い、【勇者】様をなんの思いがこもっているかわからない視線を向けている、と思いきや【魔王】様はこちらに向きかえり、年相応な笑みを向けた。


「お主、先ほどのことと言い、此度のことと言い助かったぞ」

「は、はぁ」


 そんな感謝の言葉を述べる【魔王】様には悪いのだが、【勇者】様を助けたのは良いとして、【魔王】様を助けなくてもよかったんじゃないかと思うのは俺だけか?

 だって、【魔王】様をあのまま放っておけば……いや、こんなことを考えるのは止めておこう、夢見が悪くなる。

 なおかつ、俺の性格が悪いと思われてしまう。


「あ、あの! 助けていただき、ありがとうございました。」


 【魔王】様が俺に礼を言っているのを見て、【勇者】様も慌てて俺に礼を言った。

 ぶっちゃけ、この世界に影響できる二巨頭に礼を言われて素直に受け止められるほど俺は心が強くない。

 むしろ、言われたら困ってしまい、逆に申し訳なくなってしまうがな。


 しかしまぁ、改めてみてみると凄い光景だよ、ホント。

 【魔王】と【勇者】が同じ空間で一息ついているんだからさ。

 右に【魔王】様、左に【勇者】様。

 場所とタイミングが違えば最終決戦が始まってもおかしくないよ。


「ねぇ、君の対魔機(●●●)を見せてもらえないかな?」

「え、えぇ、いいですよ」


 【勇者】様は俺の腰に納まっている先ほど頑張ってくれた相棒に目を向け、それを見せてはくれないかと言ってきた。

 別段に断る理由はないし、【勇者】様の頼みを断ったらどうなるか知れたものじゃないので二つ返事で返す俺。

 ほら、よく言うだろ、【勇者】様は合法的に他人様の家を物色して金品を持っていくって。

 実際がどうなのか知らんが。


 【勇者】様は俺の相棒を食い入るように見ており、どこも不思議な個所はないと判断したのか首を傾げた。

 はて?


「特別な業物ではない。じゃあ……さっきの技はいったい?」


 さっきの技、『獅咆哮』のことか?

 あれは口で説明できることじゃないしな、どう言ったものか。

 そもそも獅咆哮は俺のシショーに教わった技で、しかもそのシショーは魔物というから説明しづらい。

 【勇者】様の前でまさか魔物と繋がりがあります、なんて言えるわけがない。

 この場で切り捨て御免されるかもしれない。

 仕方ない、隠すか。


「いやぁ、あれは小さいころに師から学んだものでして……自分でもよくわかっていないので説明できないんですよ」

「そう……」


 【勇者】様は大変残念そうにしているが、【勇者】様だったらもっと凄い技を持っているだろう。

 だって雷を操れるんだから。


「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね。私はアラン=レイト。この国の兵……だった者です」


 誰のせいか話し辛い空気になってしまったので、俺は流れを変えるために自分の自己紹介をした。

 そうしたら自然とみんなも自己紹介すると思ってのことだ。

 そんな俺の考えは的中し、いち早く反応した【勇者】様が高らかに自己紹介をし始めた。


「えぇと、私は『ラル=ブレイド』! 一応この大陸の【勇者】をやっています」


 そんな【勇者】様の自己紹介にピクリと眉を動かす【魔王】様。

 それもそうか、先ほど自分を吹っ飛ばした張本人なのだから。

 しかしなんだ、この口ぶりからすると【勇者】様はここにいる少女が【魔王】様だと知らないのか?

 いまだって、次はあなたと言わんばかりに【魔王】様を見つめているし。

 ここで【魔王】様が自己紹介すれば一波乱あるかもしれないな。


「次は妾じゃな。妾の名は『イリシア=アブイーター』と申す。……【魔王】をやっておった」


 瞬間。

 ぞわりと逆立った殺気。

 その中心地はもちろん【勇者】様、目的地は【魔王】様。

 完全に関係ないのに殺気の流れ弾に当たってしまった俺は怒っていいと思う。

 怒れはしないが。


「……この状況でその冗談は笑えないよお嬢ちゃん?」

「冗談ではない。先ほどまで暴れていたのは妾が手塩にかけて育てたバハムートじゃ。それに、そこの者なら証明してくれるはずじゃぞ?」


 そう言って俺にキラーパスをしてくる【魔王】様。

 ほらー、【勇者】様が凄まじい表情で俺を見てるじゃないですかー。

 ここは本当のこと言うしかなさそうだ。


「えっと、そこにいらっしゃる方は本当の【魔王】様です、はい」

「へぇ……」


 えっ?

 何この空気。

 今すぐにでも最終決戦が始まりそうな雰囲気なんですけどぉおお!?

 誰だよこんな空気にしやがったのは……俺だよちくしょう!


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