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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
47/107

きっと同じく



◆ ◆ ◆




「んじゃあ、次の章を……浅菜、読んでくれ」

「はい、刀剣とは刃や切っ先のある刀身と、それを握るための柄があり、一般的には斬ることや突くことに特化した武器である。携行のしやすさや威力も高め等により、世界中で親しまれている武器である。しかし、その一方で個人の素質や習熟期間により大きく左右される武器でもある」

「もういいぞ。今のところ赤線引いておけよー。こういうのはテストの最初で出るモンだからなー」


 俺がここに来てから約一週間が経った。

 授業にもだんだんと慣れ始め、生徒たちの顔も何とか覚えることも出来た。

 唯一心配していた生徒たちが俺の授業を聞いてくれるかどうかっていうのも、蓋を開けてみれば何の問題もなかった。


 というのも、俺と騎士団長が戦ってから生徒たちの態度が一変、俺を慕うようになったのだ。

 おそらく、俺が騎士団長との戦いで納得がいかないが勝利を収めたからだろう。

 それからというもの、俺に剣術についての質問や、獅咆哮を教えてくれとせがまれたりもしている。


 授業態度も良いもので、普段の授業は当たり前のこと実技訓練の時も皆真面目に取り組んでくれている。

 しかし、真面目なのは良いのだが、このクラスには一体感が足りない。

 仲の良いグループでは助け合うのだが、それ以外のグループには全く興味を示さないと言う。

 これではいつも組んでいるグループで実技訓練なんてやってもまるで意味がない。

 相手の癖が分かっている以上、緊迫感が無いからな。


 どうやって皆を混ぜ合わせられるかな。


「えーっと、刀剣で代表格なのが、バスタードソードだろう。昨今の冒険者でもっとも使っている者が多いのがこの剣だ。片手でも両手でも扱え、長く細いのが特徴の剣だ。盾を持って片手で持つもよし、両手で力を込めて振るうもよしな剣。また、両手剣ほど持ち運びに不便が無いからここまでの人気を誇っているんだろう」

「はーい、先生! ロングソードが一番使われているんじゃないんですかー?」

「ロングソードは主に馬上で使われるために騎士ぐらいしか使う人がいないんだ。有名な剣だが、実際使っている人は少ないだろうよ」

「へー!」

「逆に歩兵が使用していたのはショートソードで、混戦の時に扱いやすい様に軽く短いという造りになっているぞ」


 しかしなんだ、ここで俺の剣の知識が役に立つとは思わなかったな。

 憩場にいた頃は粋がって商人から剣を勝手に持ち出したり、冒険者からいろんなことを教えてもらっていたから、剣や槍についての知識はある程度ある。

 我ながらクソガキだったな。


「おっと、もうこんな時間か。じゃあ課題のプリントを配って今日は終わりだ」

「えー!」

「課題はワルーンソードとスキアヴォーナの似ている特徴と、似ているようで似てない特徴を纏めてくること。以上だ、五分くらい早いが、終わっていいぞ」


 時計をチラリと見ると、あと五分ほどで授業が終わる。

 しかし、次に進んでは中途半端になるため、ここで終わっておこう。まぁ、コイツらも授業が早く終わることに悪い気はしないだろうし。


「ふぅーう……次は……道徳か。……道徳て。高校生が学ぶモンじゃないだろ」


 教室を後にして出席簿をぼやく俺。

 授業をするのは結構楽なものだ。教科書に書いてあることをある程度把握しておいて、生徒たちが質問しそうなものをある程度考えておいて、課題のプリントなどを作る。

 それらを考えるだけで授業はある程度成り立つ。


 まぁ、分からないものを根気よく教えるっていうのも中々骨が折れるが、元々何かを教えるのは嫌いではなかったし、結構楽しい自分がいるから何とか成り立っているようなもの。

 雑務をしなくても良いってのは一番の利点だな。財務処理とか月末清算とか棚卸をしなくてもいいんだからな。

 それらをこなしている先生方には頭が下がるよホント。


「おや、アラン殿ではありませんか!」

「んあ? こ、これは騎士団長!」

「あはは、もう騎士団長ではないのだからそんな畏まらなくてもいいですよ」


 廊下をトボトボと覇気のない態度で歩いていると、前からスーツをビシッと着こなしているイケメン……もといフェル=ラパスが気品を纏いながら現れた。

 というか、あの実技訓練以来だな。どこへ行っていたんだ?

 それに、なんでここにいるのかさえも説明されていない気がする。


「実は僕はここで教師として働くことになったんですよ」

「え? 教員免許とかは……」

「あぁ、それに関してはご安心を。この一週間で取得して参りました」


 教員免許って一週間で取れるものなのかよ。

 それともこの方がそれほど優秀なのか……優秀ということにしておこう。


「それでこの一週間いなかったんですね」

「えぇ、それでですね。少しお時間よろしいですか?」

「え?」


 チラリと腕時計を確認する。

 休み時間は十五分で……次は道徳の時間だから特に必要なものはない。

 少しくらいなら大丈夫だろう。


「えぇ、大丈夫ですよ」

「それではこちらへ」


 そう言って案内されたのは貴賓室。

 勝手に使っても大丈夫なのだろうか?


「貴方ともあろう方とお話しするんですから、使っても罰はないでしょう」


 だから貴方の中での俺の評価はいったいどうなっているんだ。


「……お話というのは、マハト王のことに関してです」


 カーテンを閉め、部屋の至る所をチェックしてようやく俺の向かいに座ったフェルさんはそう切り出した。

 無論、その話だと俺も思っていた。


 彼の表情と、部屋の確認の度合いからいって他に聞かれたくない話のようだ。

 それなら他にも適任の部屋ぐらいあるだろうに。


「率直に申しますと、僕は首都から逃げてきました」

「……」

「けれど、僕は最近まであることをマハト王から命じられていました。それは……【勇者】一行を尾行し、それを報告するというものでした」

「ということは……憩場とかにも来ていたのですか?」

「えぇ、ですが……本人を前にして言いづらいのですが、僕の監視対象はほとんどアラン殿、貴方でした」

「え? 俺ですか?」


 ということは……憩場で感じていた視線はフェルさんのものだったのか。

 しかし、なんでまた俺なんか。

 もしかして、彼にはそっちの気が?


「えぇ、なにしろバハムートを一撃で葬り去った剣技を我がものとするために必死でしたから」

「あ、そっち……」


 どうやら俺の初めては守られたようだ。戦闘狂で助かる。

 しかしながらこれで俺に感じていた視線の正体は分かったわけだ。

 別に【魔王】が送り込んでいたわけでは……いや、マハト王が送り込んでたんだけどさ。

 けれど、フェルさんの口振りじゃあ今は違うという風に感じ取れる。


 ん?

 ちょっと待てよ?


「今、マハト王の命って言いました? マハト王は生きているんですか?」

「生きているも何も、首都ルートビッヒに魔王軍を招き入れたのはマハト王ご本人ですから」

「な、なんてことを……」


 ということはマハト王は最初から【魔王】に味方していたのか!


 そうだとしたら辻褄が合う。

 あの国が他の国からの援助を断ったことも、【勇者】が図られた様に来なかったのも、すべてマハト王の策略だったのか!

 なんて、ことを……っ!


「話を続けます。この頃のアラン殿を含めた【勇者】一行ならばマハト王を止められると、僕は確信いたしましたゆえ、こうして頼みに来た所存であります」


 な、なんだ。フェルさんの空気が変わった……?


「アランさん、お願いです。マハト王を、あの大陸を、この世界を、救ってください!」

「っ!?」


 俺は初めてだ。

 俺に対する土下座を。

 今、俺の直属の上司で、階級が少将で閣下と呼ばれるほどの者が、俺に頭を下げている。


 それなりのプライドもあるのだろう。

 それなりに譲れないものもあるのだろう。

 そんなもの全て捨て去り、格下である俺に土下座をして頼み込んでいる。


 一瞬、俺の頭は考えることを放棄した。

 あまりにも唐突で予想外が起きたことによるためだ。


 けれど、俺の頭はちゃんと理解していた。

 珍しいことに。


 しかし……あぁ、ダメだ。

 また俺では役者不足だと思ってしまう俺が居る。

 俺では身に余ることだと情けないことに思ってしまっている。

 ダメだ、俺はちゃんとした【勇者】一行なんだろ。おこぼれだとしても【勇者】一行なんだろうが。

 甲斐性ぐらい見せろ……とは心の中で思ってみても、実際に口に出すとなれば途端にダメだ。


 あぁ、くそったれ。


「ふんっ!」

「アラン殿……?」


 気づけば、俺は自分の膝を強く叩いていた。

 臆病者めと、力強く。


「……一つ聞いても良いですか?」

「えぇ、僕に答えられることなら」


 逸る鼓動を隠さずに。


「それは……俺でないとできないのでしょうか……?」


 体の言い逃げ?

 いいや、違うね。この臆病で仕様の無い俺は後押しが欲しかったんだ。

 俺でないといけないという、逃げ道を無くすため。


「……えぇ、僕の中では貴方にしか出来ないと、勝手ながらにも思っています」

「……そう、ですか」


 逃げ道は、無くなった。


「……分かりました」

「本当ですか!?」

「はい、どうせ俺たちの最終目標は【魔王】討伐ですから。その目的には必ず途中でマハト王とも決着をつけなければならないはずですから」

「っ……ありがとう、ございます!」


 あぁ、後悔。

 言い切ってしまってからではもう遅く、戻れぬ道。


 なお深く(こうべ)を垂れるフェルさん。

 非常に申し訳ないが、その願いは恐らく俺では叶えられない。

 だけど、できる限りの助力はしよう、そう思う俺の心は成長しているのだろうか?




◆ ◆ ◆




 フェルさんとの話が終わり、一旦職員室に戻る俺。

 雑務の無い俺の机は書類などが無く、至ってキレイキレイ。

 次の時間は道徳だ。持っていくものは……出欠簿だけでいいか。


 しかし、道徳か……何を話せばいいんだ?

 俺の考えなんて教師としてはダメだ。生徒に金が人生のほとんどだ、とか、復讐はするなという風潮は信じるな、とか言った時には俺の給料が全面カットされてしまう。

 ちくしょう……なんかないか?


 ん?

 そうだ、あるじゃないか!

 皆を一つに纏める方法が!


 そうと決まればさっそく行こう!

 ちょうどもう少しで予鈴が鳴る、俺も行かねば!


 俺はルンルン気分で教室へ向かう。

 途中、ラルを見かけたような気がするが、何やら引きつった笑みを浮かべていたような気がする。

 なんだ、変なものでも食ったか?


「ほら、席に着け―」


 教室へと入り、生徒たちに席に着くように促す。

 しかし、生徒のほとんどが席に着いており、俺が促すまでもなく席に着いただろう。


 俺は道徳に必要なものをドカッと教卓に置く。

 当然ながら生徒たちは何を持ってきたのかとそれを観察する。


「テープレコーダー……ですか?」

「そうだ」


 そう、俺が持ってきたのはテープレコーダー(旧式)だ。

 中々に重いため、鈍器としても使える優れもの。


「えーこれよりある曲を聴いてもらいます。その曲を聴いた後に先生が皆に質問するから、それに答えるように!」

「曲って何ですか?」

「まぁ、聴けばわかる」


 俺は教卓の上に置いたテープレコーダーの再生スイッチを仰々しく押す。

 すると、誰もが聴いたことのあるフレーズが流れ始めた。


 ――口笛はなぜー 遠くまで聞こえるの あの雲はなぜー わたーしを待ってるの――


「はい、なぜ?」

「「「わかるかぁ!!!!」」」


 皆が一つに纏まった瞬間だった。

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