四葉の白詰草は元々黒魔術で相手の幸福を奪うことに使われていた
◆ 一般ぴーぽー ◆
これだけは言っておく。俺だって男だ。健全なアラサー男だ。
それ故に女性には並々ならぬ興味がある。誤解してほしくないが、これは例外を除いた全ての男に当てはまることだ。
そんな男どもが花も羨む女子高校生と共に同じ学び舎で、同じ教室で過ごしたらどうなることか。
当時、健全で普遍的象徴的一般的男子高校生だった俺は彼女が欲しいなどと寝言をほざいていたが、それは至極当然な反応だったと思う。今でもそうだから。
居れば顔がキモイと言われ、呼吸すれば同じ空気を吸いたくないと言われ、歩けば視界に入れたくないと言われたこともある。けれども俺は諦めなかった。
同胞は次々と離脱していった中、俺とシンだけは決して諦めなかった彼女作り。
そんなことばっかりしていた学び舎が、今目の前にそびえたっている。
「ソ〇モンよ! 私は帰ってきたぁああああああああああ!!!!」
時は初夏。場所はこの大陸の州都に当たる『イース・ロンド』。俺たちの目的地でもある都。
ここには大陸に一つしかない勇者育成学校があり、通称北部勇者育成学校と呼ばれている。
さらに、この北部勇者育成学校はこの街の三分の一を占めており、その面積はここに来る前にいたアレクに匹敵する。俺もこの学校に通っていたが、一年の頃は毎日のように迷っていたっけな。
ちなみに、イース・ロンドのもう三分の二はギルドや商業施設、娯楽施設や住民と学生の住居で占められている。また、ここの卒業生は必ずギルドに属することが義務付けられているために職が無いということはほぼ無いという。まぁ、例外がここにいるがな。
「それじゃあ私は学校に行って【永炎者】に鍵を借りれるか聞いてくるよ」
「じゃあ、俺はギルドに顔を出して何か仕事がないか見て来るよ」
「妾はどうするのじゃ?」
「イリシアはせっかくだから街を見てきたらどうだ? 治安は裏に行かない限り大丈夫だし、学校の区域に入らなければ迷子になることは早々ないと思うから」
「う、うむ」
ラルはこのまま学校の区域に入り、【神】に会うための鍵を【七英雄】の一人である【永炎者】から借りてくるという。イリシアは街の散策で、俺はギルドに行って仕事を探してくることに。
俺だって一応この学校の卒業生だからギルドに登録してあるため、自分のランクに合った仕事を探すことが出来る。ちなみに俺のギルドランクは最低ランクだから受けられる仕事も限られるがな。
ギルドは世界中にあり、どこかでギルドに登録されていれば世界中のギルドでも通用する。けれども一口にギルドと言ってもギルドは“戦士ギルド”“魔術師ギルド”“商業ギルド”の三つがあり、それぞれにギルドランカーと呼ばれる者が治めている。そしてそのギルランカーを束ねるギルドマスターこそがここの北部勇者育成学校の理事長だというんだから驚きだ。
ちなみに俺は戦士ギルドに属している。
ギルドは学区外にあるが、その規模はさすがで小さな城並の広さがある。今まで言わなかったが、俺が居た首都や憩場、アレクにだってギルドに所属している人はいる。というか、ほとんどいずれかのギルドに所属していると言っていいだろう。なにも学校の卒業者だけがギルドに入れるわけではないから。
ギルドから紹介される仕事には二種類あり、普通に即戦力を求める就職か、その日限りの日雇いに分けられる。俺の場合日雇いの仕事を求めているから履歴書などは必要ない。
俺は戦士ギルドに所属していると言ったが、やはりギルドごとに集まる日雇いの仕事は違う。戦士ギルドはもっぱら力仕事や納品・採取、護衛・傭兵などの仕事がよく集まる。魔術師ギルドは研究や納品・採取、護衛・傭兵などの仕事がよく集まる。商業ギルドは会計や納品・採取、補佐などの仕事がよく集まる。
まぁ、日雇いだから簡単なことが多い。それに比例して報酬も少ないが。
「おっと……」
そうこうしているうちに着いたか。
見上げればその光景。木造建築で平屋建てのバカでかい建物。戦士ギルドに俺はやってきた。
俺はしばらく来ていなかったことに別段に気にすることなく扉を開いて中に入っていく。
戦士ギルドの中には酒場もあり、昼間から酔いつぶれている人も少なくはない。まぁ、それほど人が集まるってことだし、冒険者を生業にしている人も多いから情報の活きが良いことも多い。
俺はカウンターの前まで行き、掲示板に張られている日雇いの仕事に目を通す。これらもギルドランクごとに区分けされており、俺が選べるのは最低ランクのGランクだから一番下の欄だ。
「迷子猫の捜索……薬草採取の手伝い……竜退治…………竜退治!?」
俺は目を疑った。最低ランクであるGランクに本当ならSランクに依頼されるはずの竜退治がそこに貼ってあったのだから。
そもそもランク分けは本人の技量はもちろんのこと被害を減らすためにランク分けしてあるわけで、ほとんどトーシローなGランクにこんな危険な仕事を任せてしまったら被害は計り知れない。徒党を組んだって無理だ。俺ならブレスで一発だ。
コレは……いわゆる手違いというやつなのか?
俺はそうだと心の中で決めつけて受付嬢に何も聞かずに他の仕事を探してみる。
仕事を選ばなければ仕事はあるんだが……選べば無いな。魔物退治もちらほらあるにはあるんだが……これは二日三日で済むものでないばかりだ。
コレは疲れるし……汚れるし……時間かかるし……って、こんなことをしていたらいつまでも仕事は決まらない。最近の若い人たちにも多いと聞くが、そりゃ仕事を選んでいたら決まるものも決まらないか。
仕方ない、この広場清掃の仕事にするか。俺だって元王宮掃除係だし、何も知らない仕事をするよりかマシか。うん、そうだ。そうに違いない。
「すんません、この広場清掃の仕事を受けます」
『はーい、お名前を伺ってもよろしいですか?』
「アラン=レイトです」
『アラン=レイト様ですね……はい、ではここに手を当ててください』
仕事を決めた俺は受付嬢に仕事を受ける旨を伝えると、名前を聞かれた後に石板のようなプレートに手を乗せるように言われた。
このプレートは魔力を検知する装置で、ギルドに登録した際に自分の魔力も一緒に登録するんだ。魔力は人それぞれ微妙に違っていて、同じ魔力を持つ者は先ず居ないそうだ。この装置は防犯にも使われており、ほとんどの王城や貴族の館に使われてもいる。曰く、魔力は嘘を吐かないらしい。
俺はプレートに手を乗せて、しばらく待つ。
やがて、認証されたのか受付嬢から掃除に必要な道具を渡された。モップに竹ぼうきに塵取り、それに作業着だ。
よし、ちゃっちゃとやって終わらせよう。コレが終われば銅貨二十枚だし、節約すれば三日分の食料にはなる。
作業着に着替え、もはや歩き慣れた道を少しずつ確認しながら広場へと向かう。このゴワゴワとした感触がどこか懐かしい、一か月前には着ていたというのに。
広場へと付いた俺はまず竹ぼうきを手に取り、設置されているベンチやゴミ箱の下から手を付け始める。その時に腰にゴミ袋とトングを着けると良い。いっぺんにゴミ拾いも出来る。さらにベンチの下には意外とタバコの吸い殻や空き缶が落ちているところが多いから竹ぼうきだけでは掃き残る可能性がある。そういう面でもトングとゴミ袋だ。あ、タバコの吸い殻はちゃんと火が消えているか確認してな。
そして、案外ゴミ箱の周りはゴミが落ちていることは少ない。そういうのを気にする人間が多いというわけだ。だから、誰も見ないであろうベンチの下にゴミを隠す。結構、クズ人間が多い証拠だ。
ベンチに座っているカップルの前でわざと埃を荒立てるように掃き、ベンチで寝ているオッサンには充分に配慮をして掃き終わったら次は茂みに落ちているゴミ拾いだ。
茂みで気を付けたいのは放置してあるペットの糞だ。後は空き缶くらいだろう。
ちゃっちゃと茂みのゴミ拾いをした俺は次の段階である地面の掃除にかかる。今日は風が吹いていないから掃除がしやすい。しかし、そこは絶え間なく人が踏破する道だ、掃除してもキリがない。
だから目につくゴミを拾って地面の掃除は終わり。それでも不安なら大きく円を描くように丸く掃いておくと良い。何も変わらないように見えるが、遠くから見たらキレイに見える。まぁ、目の錯覚だから汚いままなんだけどな。
よし、報告に帰ろう。これで銅貨二十枚だ。
おっと、ベンチの上を掃除するのを忘れていたな。ベンチは洗剤を使わずに乾拭きで終了、と。
よし、今度こそ終わったな。帰ろう帰ろう。
「アラーン!」
「ん? ラル、どうしたんだ?」
俺はまとめたゴミをゴミ箱へ入れた後、道具を全部持ったか確認していると突然に俺を呼ぶ声が。声が聞こえた方へと振り向くと、そこには大分息が切れた様子のラルの姿。少し扇情的……なんて言ったら殴られるんだろうなー絶対。
「ギルドに行ったら、ここにアランがいるって聞いて……ちょっとタンマ。息を整えさせて……」
「お、おう」
ラルが何かを言おうとしているんだが、如何せん息が切れているために中々説明できないようだ。そこでラルの生きが整うまで待つことに。
そして、ラルは息が整ったのか妙に真面目な顔をしたラルが俺の眼を見つめながらこう言った。
「教師……やってみる気はない?」
「……あーはーん?」
ありがたいことに、近くにいた少女が私にくれたんですよ。
四葉の白詰草を。
つまり、そういうことか。




