表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
38/107

Au pas Camarade pas camarade pas au pas



◆ ??? ◆





「ここがアレクか……」


 気付けば、アランたちを追って一ヶ月が過ぎていたことに最近気づいた今日。僕はアレクに来ていた。


 無論、アランたちが来ているからである。


 街の景観は煉瓦造りの建物で埋め尽くされており、自然と呼べるものは街路樹のみだ。いや、街路樹も人の手によって植えられたものだから自然と呼ぶには些か可笑しい気もする。


 子供たちの遊び場である空地も、地面が煉瓦のため走り回るには物足りないものを感じるだろう。


 そんな感じで街の中を歩いていると、とあることに気付く。嫌に衛兵の数が多い。まるで何らかの襲撃を恐れているかのように。


 というか、衛兵がこっちに向かって来てないか?


 うん、確実にこっちに向かって来てるや。僕何かしたっけか?


『恐れ入ります。ドーレンの首都ルートヴィッヒからお越しとお見受けしますが……』

「えっ? あ、あぁ、そうだよ」


 僕は衛兵の問答に正直に答えると、衛兵は連れて来ていた他の衛兵と小声で何かを話し出した。


 いまさらだけど、なんで僕がドーレンのルートヴィッヒから来たのをわかったのがわかった。だって、僕はドーレンの騎士団長に渡される鎧を着ているから。


 そりゃそうか、今や魔王軍に占領されたところから騎士がやってきたら嫌でも目立つ。


 今度そこらの防具屋からでも鎧を調達しよう。


 衛兵たちは話し合いが済んだのか再び僕の元へとやってきて、妙に何かを恐れながらこう尋ねてきた。


『貴方の階級と、名前を伺ってもよろしいでしょうか?』

「…………」


 これは……正直に答えてはまずいだろう。もし僕が騎士団長なんて言ったら、魔王軍に支配されているはずのところからどうやって騎士団長が来れたのかと尋ねられるに決まっている。


 僕はこの質問の返し文句は直ぐには思いつかないだろうし……ここは適当なことを言っておこう。


「僕は……とある貴族のお抱え騎士だった……アラン、そうだアラン=レイトって言います。階級は准尉でした」


 本当の階級は少将だけど、そう答えたら旅団長が部下も引き連れずに何をしているんだと思われてしまうからね。閣下なんて呼ばれたくないし。


 准尉なら将校の格好をしている下っ端程度だろうし、下士官が貴族のお抱え騎士に成れ無いしさ。


 僕の答えに疑問を抱かなかったのか衛兵は続けてこう質問してきた。


『ではアラン准尉。ルートヴィッヒからなぜここに?』

「それは……逃げてきたんです。魔王軍に占領される前にそこから。ですからその階級はもう意味はないですし、僕は騎士でも何でもありません。今はお金が無いのでその頃の鎧を着ているだけであって、ルートヴィッヒの使いでもなんでもありませんよ」

『そう、でしたか……これはご苦労様です』


 衛兵はそう言って憐みの視線を僕に向けた後に僕から離れていった。僕を【魔王】の使いだと思わなかったのだろうか?


 僕だったら問答無用に兵舎に連れて行って尋問するけどなぁ。危機感が足らないんじゃないのかな?


 仮にも【魔王】に占領されているところから来たんだからさ。


 でも、僕に対する注目が外れたからどうでもいいんだけどね。


 さてっと、そろそろアランを捜さなきゃ。


「…………」


 なんだか客観的に考えたら僕がストーカーしているようにしか思えない。いや、実際問題そうなんだけど。


 でも、僕にはちゃんとした理由がある。アランの強さの秘訣を見つけるって。


「…………」


 あれ?

 何か違うような気がするけど……まぁいいか。アランは多分宿屋を探しているだろうし、街の中心に向かってみよう。


 おっと、その前にマハト王に定期報告をしよう。

 僕は近くにあったベンチに腰掛けて懐にしまってある紙きれを取り出した。


 コレは魔力が籠められていて、紙飛行機にして飛ばすと任意の場所まで飛んでいく代物。もちろん防水加工はしてあるし、鳥や小型の魔物程度の攻撃には耐えることが出来る。ただ、難点があるとしたら目的の場所から離れるほど到着まで時間がかかるところだ。定価は銀貨一枚分、お高いお高い。


「ええと……」


 僕は最近あった出来事と、【勇者】の動向や苦手なもの。行こうとしている場所や現在いる場所を書いて紙を飛行機状に折る。ここ最近で紙飛行機を折るのが大分上達した。最近じゃあ折るのに工夫してみて速く飛ぶものやバランスを重視したものを折ってみたりしている。


 よし、折れた。さっそく飛ばしてみよう。


「よっ、と」


 僕が飛ばした紙飛行機は空を緩やかに飛行し、そしてそのまま流れるように街路樹に刺さった。


「…………」


 ……この歳になってまさか木登りをするはめになるとは……っ!


「ふぅ……」


 木登りをする僕に対する子供たちの視線に耐えて、ようやく紙飛行機をマハト王に向けて飛ばすことが出来た僕。鎧に着いてしまった枝葉を掃いながらベンチで一息つく。


 そこで、ふと思い立ち懐をまさぐって自分が持っている路銀を確認する。金貨が数枚に銀貨が十数枚、それに銅貨が数枚だ。銀貨四枚程度でそれなりの皮鎧が買えたはずだ。少し防具屋に寄っていくとしよう。


 思い立ったが吉日。僕はベンチから立ち上がり、街の中心部に向けて歩き出す。アランを捜すのはその後でもいいだろう。今日はこの街で一泊するのが決まっているんだから。


 と、思った矢先だ。


「あれは……アラン?」


 アランと思しき人が路地裏に入っていくのが見えた。【勇者】や緋色の髪を持つ少女を連れずに。


 そうとなればアランを追うしかあるまい。防具屋は後回しにしよう。もしかしたら秘密の訓練場に行く途中かも知れないから。


 そう思い、アランを追って僕も路地裏へと入っていく。


 路地裏はまだ開いていない店が連なっており、至って静かだった。大通りは人の喧騒で一杯だが、一本外れただけでこんなにも静かになるんだな。


 夜は賑やかになるだけ、この静かさはどこか寂しい様な気もする。


 路地裏を進んでいくと、日が届かなくなったのか徐々に暗くなっていき、店の蛍光看板がネオン色に彩られていく。どうやらもうそんな時間のようだ。


 この光景を見て思うが、、アランはただ単にスナックとかに行きたかっただけなのかもしれない。アランだって男だ、そういう店に通っていてもおかしくはないし、英雄色を好むとも言う。


 今回は僕の思い過ごしなのかもな。さすがにこんなところに秘密の訓練場があるとも思えないし、何よりスペースがない。


 そうと決まったら帰ろう。でも、これは一筋縄ではいかなそうだ。


『ねぇ、そこのお兄さん? 銀貨一枚ポッキリよ。どう?』


『イケメンさん。こっちいらっしゃいな。サービス……しちゃうわよ?』


『うほ、イケメンじゃないの。お兄さん下とか元気になっちゃうわ』


『マンマミーヤ!』


 振り返ればその群れ。至る所に呼子が配置されており、そこを通ろうとするたびに、その腕を僕の腕に絡めて来ては店に連れて行こうとする。こういう無理やり乗って犯罪なんじゃなかったっけ?


「ぼ、僕は間に合ってます!」

『大丈夫よ、ほらこっちこっち』


 いったい何が大丈夫だろうか?

 僕は迫り来る勧誘を何とか巻いていると、一気に冷静になることが起きた。お店の勧誘がどうのこうの言っている場合ではない。もっと大変なことを彷彿させること。


 それは、とてもその場には不釣り合いなこと。


 その正体は爆音。それも、何かを崩したような爆音。それと同時にどこからか聞こえてくる悲鳴。


 お店の呼子たちも、その並々ならぬ出来事に思わず動きが止まってしまったようだ。僕はそれに便乗して路地裏を一気に駆け抜けた。もちろん、それを追ってくる呼子はいない。


 僕は辺りをキョロキョロと見渡し、その爆音の出所を探す。もっとも、その出所は直ぐにわかったが。


「南門の方か!」


 言葉の通り南門の方から爆音が聞こえてきたようだ。なぜなら、南門の方角に幾つかの煙が上がっており、その方角から悲鳴が聞こえてくるからである。


 よって、何かの非常事態が起きたと想定する。


 この街の壁は強固で損所そこらの魔物では破壊することは不可能。となれば上級の魔物か破り方を知っている人間の絞られる。ぶっちゃけその考えは早急なのかもしれない、何らかの間違いで爆発しただけかもしれない……が、何もわからない以上そうだと仮定して進んだ方が何かと対処の仕様がある。


 僕は早速その場所まで行こうと走り出すが、思いもよらぬ邪魔でその足は止まらざるをえなくなった。


『き、騎士様! いったい何が起きたのですか!』


 それは、混乱した市民だった。

 僕をこの街の騎士だと思ったのだろう、一人の老婆が僕に縋り付くようにそう尋ねてきた。もちろん僕はソレを知る由もないから答えようがない。だからと言って無下にも扱うことは出来ない。


 僕はどうしたものかと考えていると、同じ考えを持った者たちがどんどんと集まってきた。


『騎士様! さっきの爆音はいったい!?』

『騎士様! どうか守って下せえ!』

『何が起きたのですか!?』

『魔物! 魔物がやってきたんですか!?』

『教えてください、騎士様!』


 うぅ、こうなってしまったら中々前に進めない。僕がこんな鎧を着ているから勘違いしてもしょうがないが……若干イライラしてくるのが人間というもの。まさかこんなところで鎧を変えなかったツケが回ってくるとは……!


 とりあえず、どうにかしないと!


「皆さん落ち着いてください! 皆さんは衛兵の指示に従って避難してください!」

『なら早く安全な場所に避難させてくだせぇ!』

「僕はこの街に侵入した、もしくは起きた問題の究明に向かいますので、近くにいる衛兵の指示に従ってください!」

『あっ、騎士様!』


 僕はその場から転がるように逃げると、再び南門に向けて走り出す。


 正直、この街の避難場所なんてわからないからおいそれと避難させるわけにもいかない。それに衛兵なら至る場所にいたから大丈夫だろう。


 というか、衛兵が多かったのってこの事態を予想してのことなのか?

 それならあの数は納得できる。


「あれは……」


 しばらく進んだところで再び僕の足は止まる。なぜなら、明らかにこの街を襲っていると思われる人間の集団が民家に火をつけながら略奪している姿が目に入ったからだ。


 やはり人間の仕業だったか。しかもこんな大規模な略奪行為……おそらく首都が陥落したことによる便乗だろう。でなければ首都の警備隊を恐れてこんなことはしないはずだ。


 僕は小さく舌打ちをして腰に携えていた剣を抜刀する。


 僕の得物は『コリシュマルド』と言い、根本は太いが先端に向かって急激に細くなる刺突専用の剣だ。見た目はエストックと非常に似ているが、エストックよりも短く軽いのが特徴だ。


 コリシュマルドは刺突用というだけあって鎖帷子を貫通してダメージを与えることのできるメイル・ピアシング・ソードの一種だ。板金鎧を貫くことは難しいが、皮の鎧程度なら有効して使える。また、レイピアと違って剣身に刃は付いていないので斬ることは出来ない。


 僕のは騎士団長仕様というだけあって装飾はされているが、それが足を引っ張ることはない。なぜなら、装飾されていようとも実戦用だからだ。


 本当はもう一本携えてある『フリッサ』と呼ばれる剣があるが、蹴散らすのではなく前に進みたいのならこっちの方が使い勝手が良い。と言っても、乱戦になったらコリシュマルドは使い辛くなるため早々に先に進まなければならないが。


「ふっ!」


 一人。


「ふっ!」


 二人。


「はぁああ!」


 三人と、襲い掛かってくる野盗を突いては棄てて前に進んでいく。野盗は比較的軽装が多かったので、何も身に着けていない場所目掛けてコリシュマルドを突き出していく。


 しかし、あまり深く刺し込んでしまうと抜けないことがあるので腹筋のある腹を避けて胸辺りを重点して突いていく。筋肉があると抜けない時があるからな。


 そして、胸辺りを突いていくとなれば命を奪うこともある……が、そんなこと戦いで気にするほど僕は愚か者じゃない。戦いで命を奪いたくないというやつから死んでいくし。


「ん?」


 野盗を突きながら前に進んでいくと、チラリと見慣れた背中が目に入ったような気がした。


 僕は迫り来る野盗に気を付けながら目を凝らしてみると、その背中は見慣れていて当然だった。


「アラン……!」


 そう、僕の憧れる剣士の背中だった。それも、アランは野盗と戦っている。ということは、今僕はあの剣士と肩を並べて戦っている……!


 嫌でもテンションが上がった。いや違う、“嫌”じゃない、むしろ必然!


 しかし、僕の憧れの剣士は仲間の緋色の髪を持った少女にこの場を任せて先に進んでしまった。反射的に僕は追いつかなければと思い込む。


 僕もアランと一緒に行かなければ!


「退けろぉお! 僕は何としてもあの方の元へと辿り着かなければならないんだ!」


 しかし、そう簡単にいくわけもなく目の前には野盗が現れる。


 僕は怒りを覚えコリシュマルドを乱暴に野盗へ叩き付け、代わりにフリッサを抜刀する。


 フリッサは片刃の直刀で、長さは九十~百二十センチメートルくらいまである。非常に細長い刀身が特徴で、刃自体を波打たせることにより曲刀の様な撫で斬りを可能にした剣だ。上手く扱えば切れ味は絶大。そして、見た目のわりに重いので重心も取りやすい。


 僕の見せ場はこれからだ。


 そんな時だ、僕がフリッサで野盗を蹴散らしていると、野盗の群れから突然に茶色いローブを着た人が同じく蹴散らしながらやってきたのは。


 僕は一瞬新手かと思い、身構えたが杞憂に終わることになる。


「おい、貴様! 貴様もこの先に用があるのか!?」

「き、君は?」

「俺もこの先に用があるんだ、もしそちらが望むなら手を貸そう!」

「っ! ありがたい!」


 なんと、このローブの男もこの先に用があるらしい。藁にもすがる思いとはこのこと。僕は二つ返事で承諾した。


 少しの間だが、仲間が増えた。


「貴様は左を! 俺は右をやる!」

「わかった!」


 この男は右をやるということなので右側を任せたが、ぶっちゃけ言って足を引っ張らないかと心配になったが、それは嬉しい方で裏切られることになる。


 このローブの男、強い。それもかなりの強さだ。


 得物はブロードソードのようだが、その剣筋に一切の無駄がなく、滑り込むように相手を切り裂いていく。さらに、見た感じはそこまで力がありそうに見えないが、かなりの力を保有しているようだ。でなければ紙のように相手の骨を切り裂けるはずがない。


 僕がまだ首都の騎士団長だったならすぐさま勧誘したんだけど……この手の剣士はそう言うのを嫌う。それよりも、今はアランだ。右側は全面的に任せて左だけを集中しよう。


「っ! 君、あれを!」

「……どう見ても大将だな」


 しばらく共闘が続いた後、僕の視界に不自然なものが映った。他の野党は暴れまくっているのに対し、僕の視線の先にいる野盗はボディガードの様な野盗を連れて悠々と歩いている。


 どう見ても頭目なのは確かだった。


 僕とローブの男はお互いに顔を合わせて頷き、同時に駆け出す。きっと、僕と同じく先に進みたいという気持ちだろうから。


「その首、貰い受ける!」

「陛下を危険にさらした罪は重い!」

『ん? ンギッ!?』


 ボディーガードの野党を適当に斬りつけ、次に頭目の足などを斬って動けなくする。死んでしまったら困るしね。


「おい下郎! 早くこのバカどもを退かせろ!」

『へっ、へへっ。そいつは無理だな。もうコイツらはそう簡単に止まらないぜ……』

「そうか、なら死ね」

『ギャ……』


 ローブの男が頭目の胸ぐらを掴んでこの大軍を退かせるように脅すが、一度暴れだしてしまったら止まらないとぬかすので、次の利用価値のために頭目の首を切り裂く。


 言葉に意味を含ませるのは大切だからね。それがトップの首ならなおさら。


「君たちのリーダーはこの僕とこの男が討った! 君たちの後ろ盾はもういない! それに周りをよく見て見ろ! 君たちの仲間だった者で床がいっぱいだ! 次は、君たちの番だ!」


 これは人間の習性を利用した脅しだ。こういう人間はトップという後ろ盾がいるから好きにやれるだけであって、一度『どうしよう』という疑心を植え付ければ後は勝手に自滅する。過去にも司令官を失った軍が無謀にも突っ込んで全滅したというお笑い話があるくらいだし。


 結果からいうと、それは成功した。


 野盗たちは各々武器を投げ出して逃げ出していったのだ。


 ここで僕は野盗が逃げ出してはアランの戦闘が見られないと気付いたが、横に立っている戦友が握手を求めてきたのを見て、まぁいいかと思ってしまうのであった。


皆さん、明けましておめでとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ