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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
35/107

見敵

◆ 魔王 ◆




 それは突然のことだった。

 近くにあった雑貨屋から訊いた宿屋へと向かい、部屋を取ることが出来た私たち二人。フロントへ外に出ることを伝え、アランと約束した広場へと向かおうとした時だ。


 轟音。その音を表現するには適切すぎる言葉。そんな音が突然街の出入り口から聞こえてきたのだ。


 無論、私たちは音の方へと顔を向ける。そこから見えたのは黒い一筋の煙と唖然とした人々。


 もちろん私たちも何があったのか分からず、ただただ音のした方を眺めるだけ。


 そして、動かざるをえない状況が起きた。


 徐々に大きくなっていく人々の悲鳴。それに比例するように聞こえてくる怒号。


 私とラルは見合わせて同時に頷き、お互いが出せる全速力で現場へと向かう。


 そこで目にしたのは、人の群れだった。


「ラル! これはいったい……!」

「まさか、野盗!? とりあえず私は衛兵に協力してくる! イリシアはさっきの広場に戻って! もしかしたらアランがくるかもしれないから!」

「心得た! くれぐれも気を抜く出ないぞ!」


 理解できたのは、この街が襲われているということ。そして、私がやるべきことはアランと合流して一刻も早くラルの場所へ駆けつけること。


 ラルに背を向けて広場へと走り出す私。アランだったらこの惨状にすぐ気が付くだろうし、なにより戦力となる。そして、良い司令官になることも。


「おい! イリシア!」

「っ! アラン! 野盗が……!」

「わかってる! ラルはどうした!?」

「今しがた最前線で戦ておる!」

「わかった! 行くぞ!」


 僥倖か。広場へと向かう途中で偶然にもアランと合流することが出来た。その眼には闘志が宿っており、得物は既にその手に握られていた。


 その姿に、頼もしさが垣間見えたような気がした。





◆ 一般ぴーぽー ◆





 街はもうすでに戦火の真っ只中だった。

 あちこちから上がる黒い煙。どうやら街に侵入してきた野盗どもが火を放ったみたいだ。


 野党の流れからして目的はギミックなどが集まる市街地のようだ。


 なんでこんな時に野盗なんか攻めてきたのか見当もつかないが、そんなことを考える前にしなければならないことがたくさんあった。


 いや、民間人である俺がやることなんて避難以外にないのだろうが、どうやら俺はラルとイリシアに事が心配らしい。イリシアとは合流できたが、話によるとラルは最前線で野盗どもと戦っているのだそうだ。だとしたら、俺も救援に行かねばなるまい。


 俺は仲間なのだから。


 ちなみにヒバリさんは避難を促している衛兵のところに預けて来た。娘だと言ったら何の疑問を持たずに預かってくれたことにヒバリさんは不満そうだったが、もうこれでヒバリさんは心配ない。


「どけろぉ!」


 逃げ惑う人々をかき分けて進んだ先には、我先にと猛進してくる野盗たち。その数は……正直分からないが百には届かないと思う。その野盗どもと遂に交戦する俺。


 しかし、相手は経験慣れしている野盗。剣術に秀でているわけでもない俺は一人を相手にするのが限界というもの。だから、俺しかできないことをしなければ。


「獅咆哮ッ!!!」


 金具を持ち直し、足を大きく開いた状態になり、居合の要領で金具の腹で叩き付けるように振りぬく。もちろん、幾らか手加減して。すると、まるでドラゴンの咆哮みたいな衝撃波が巻き起こり、野盗数人を巻き込んでいく。


 手加減はしているから人がバラバラになるとかスプラッター的なことはない。しかし、骨とかは無事ではないと思う。


 我ながら結構強い技だと思うんだ。


「人相手に放つのは些か気が引けるが、仕方のないことじゃて。恨むではないぞ。【炎蛇】!」


 イリシアも負けじと蛇のような焔を放ち、野盗を蹴散らしていくが、俺とは違って全力で殺しに行っている。手加減した俺がなんだか間違っているかのような清々しさだ。


 しかし、このたった一挙動で俺とイリシアは野盗どもの注目を浴びてしまう。ギラリと光る眼光はどこか怒りを孕んでいるような気がした。


「チッ!」


 こうなってしまったら中々前に進めない。獅咆哮があるにしろ、後ろから回り込まれてしまったらさすがに対応しきれない。いくらラルに鍛えられてそれなりに戦えるようになったと言っても、腕の方はまだまだ普通の域を脱せない。


 俺は動かし続けていた足を止め、向かって来る敵をよく見定めた。


 敵は見える範囲では三人。多分背後に二人いると思う。それぞれの得物は槍が一に剣が二。さてどうするか。


「アラン! ここは任せて早く行くのじゃ!!!」

「イリシア!?」


 俺が敵をどう捌こうと思っていると、突然目の前にいた三人が蛇の焔により吹っ飛んでいった。横を見ればイリシアがしたり顔で蛇の焔を操っているのが目に入った。


 いやいやいや、どう見ても突破力のあるイリシアさんが先に行くのが普通ってものじゃないですかねぇ。俺なんかがこの先に言って役に立てるかと言われれば、正直言って厳しい。


 引く気はないが、先に進んだって戦えるかどうか……って考えているうちにも敵はどんどん迫ってきている。ましてやイリシアは俺の分も捌いてくれているのでかなりきつそうだ。


 俺に選択権はないってことですかコンチクショー。


「任せろって言ったんだから死ぬなよ!」

「ふっ、妾を誰と心得ておる? 妾は……【魔王】ぞ?」


 そうニタリと口端を吊り上げて答えるイリシア。確かに、愚問だったな。


 俺は今いる場所をイリシアに任せて先に進むことに。しかしながら、いくらイリシアが引き付けてくれているとは言え、他にも野盗はいるので俺は瞬く間に囲まれてしまう。


 アカン、さっきよりヤバい状況になった。かっこつけたは良いが、よく考えたらこれって、ただ仲間と別れて敵地のど真ん中を突き進んだだけなんじゃね?


「どけよぉおおおおおお!!!」


 死ぬ。死んでまうわ。

 今更イリシアと別れなければよかったと思うが時すでに遅し。俺は闇雲に腰の入っていない獅咆哮を連発しながら先に進むしか選択肢はなくなっていた。


 というか、俺が向かっている先にラルがいる保証はないとか……ゴールが袋小路とか笑えないぞ、オイ。


「あ、アラン! 来てくれ……!」

「ラルゥ”!!! 助けて! 死んじゃう!」

「えぇー……」


 藁にも縋る思いで走り続けると、ひときわ開けた場所でラルが野盗と戦っているのが見えた。もちろん俺は一目散にそこに向かって行くわけでして、俺を見つけたラルは一瞬表情が明るくなったと思ったら心底めんどくさそうな表情になった。


 マジで足引っ張ってんじゃんかよ。俺ってば。


「と、とりあえず後ろは任せたから!」

「うわぁ……囲まれてんじゃん……」

「この前の頼もしさはどこへ行ったのさ!」

「いやだって……あの時は金具様々で……」

「いいから! ほら来てるよ!」

「もぉおお! 金具が使えればなぁああああ!!!」


 ザ・金具頼り。

 こんなところで炎具になってみろ。野盗どころかこの街が消し炭になってしまう。水具は……ぶっちゃけ戦闘向きじゃないし、水を操る時は動けないから格好の的になってしまう。


 他の状態変化は……うん、ないな。炎具みたいに災害が起きてしまう。


 つまり、状態変化の使えない俺は普通の兵士と大差ないのです。





◆ ◆ ◆





「!? 野盗が引いていく!?」


 ラルの背中を預けられてどれくらい経っただろうか?

 街で略奪行為を働いていた野盗どもが突然引き始めたのだ。俺の足元には結構な数の野党の死体が転がっている。


 がむしゃらに戦っていたが、案外どうにかなったようだ。金具には血がべったりと付着しており、それが俺が野盗どもを斬り伏せたという証拠となっている。


 いつからだろうか、人を斬るのに抵抗がなくなったのは。


「ふぅ……って、アラン! 危ない!」

「えっ?」


 ラルの叫ぶような声で俺は背後を振り返るが、そこにはギラリと光る何か。それが俺に襲い掛かろうとする刃だと気付いた時には……もう人間並みの反射神経では反応できない距離にあった。


 そう、人間並みなら。


「せいっ!」

「グフッ!?」


 人間並みではない反射神経の持ち主のラルの顔が目の前にあった。っと、思ったら次の瞬間には俺の眼は空を捕らえていた。


 そこで気づく。俺は突き飛ばされてしまったのだと。


 それと、地面に倒れ伏すラル。


 流れ出る黒々とした血。


 掻き消える喧騒。


 鳴動する鼓動。


 吐く息。


 白。


「ラル!」


 駆け寄り、名を呼ぶ。返事はない。


 揺すり、肩をたたく。返事はない。


 流れ出る黒々とした血。血。


 吐く息が震えていく。


 そこでの俺の行動は早かった。ラルを抱え、服を破くように無理やり脱がす。背中右肩口から切られたようで、袈裟斬りの傷口は深かった。


 右の腋か左の肩まで破いた服で傷口が塞がるようにきつく巻きつけ、止血を図るが意味はなし。


 やらないよりはマシと自分を無理やり納得させて次のステップへ。


 消毒して縫合してやりたいが、あいにく針も糸も消毒液もなし。


 俺は恨み言を漏らし、ラルを背負って走る。傷口に響かないように。


 目的地は病院。この大混乱でまともに取り合ってもらえないかもしれないが、そんなのは関係ない。


 ドーレンの【勇者】だと言えば優先してもらえるかも知れない。順番待ちしている患者なんて関係ない。


 今。この。怪我をしている俺の仲間はどんな大怪我をしている人よりも、優先なんだ。優先しなきゃいけないんだ。


 我儘だと怒ればいい。何なら怪我人を蹴飛ばして道を開いたっていい。


 だからさ、だから、生きてくれ。頑張っているのは知っている。もっと頑張れなんて言わない。その頑張りをせめてもうちょっと続けてほしい。


「…………ラル?」


 気づけば、雨が降っていた。


 雨は体温を奪う。ラルになるべく雨に当たらないようにしようとした時だ。


 背中から伝わる生の足掻きが聞こえなかった。


 俺はラルの心臓を確認する。


「…………」


 その日、俺の旅は二人旅になった。

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