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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
25/107

作戦

◆ 一般ぴーぽー ◆



 どうしてこうなった。

 思わず心の中でそう呟く。


 どうしてこうなった。

 だれにも聞こえないようにボソリと呟く。


 どうしてこうなった。


「どうしてこうなった!!!」

「本当にどうして……」


 両の腕を左右に大きく広げ、膝は若干曲げ、雄大な空を仰ぐように天井へと叫ぶ。その俺の雄叫びに呼応するように【天眼】様が呟いたのだが、【天眼】様の言葉の意味と俺の言葉の意味じゃ、まるっきり意味が違ってくるから言葉ってのは面白い。


 今俺がいるのは高台に建てられたパオの中。中にはラル、イリシア、【天眼】様中はそれほど広くはないが、四人が話し合うには充分な広さだ。そんな中で俺だけが異様な行動している、仕方ないと言いたい。


 なにがいけなかった?

 やっぱり俺には荷が重すぎることだったのか?


 けどよぉ、あのイリシアの“仕方なく絶望する”顔は卑怯だって。あれを見たら誰しも俺と同じような行動していたって。なぁ、頼むからそうだと言ってくれ世界の紳士淑女諸君。


 しかも、イリシアがやろうとしていたB級……いやC級映画でありがちな『私が犠牲になれば皆が助かる』っていうパティーンなんざ現実じゃまずありえない。相手がプロならば関係した者たち全てを口封じするだろうし。まぁ、なんにせよイリシアだけが犠牲になるってのは御免だ。


 でもさ、でもさ?

 その戦う役割って何も俺じゃなくてもいいだろ?

 さっきラルにも言った通りここらに出るハウンドドックにすら俺は劣る。ハウンドドックというのは大型犬型魔物だ。常に群れで行動しており、大勢で襲われると大変危険だ。しかし、魔物にしては賢いのか自分より各上は狙わない習性があることで有名。つまり、ラルとイリシアがいる限り俺は襲われない。わーい、俺コバンザメ。


 えっと……なんだったけか。あぁ、ハウンドドックより弱いって話だったな。ぶっちゃけラルやイリシアみたいなレベルになれば魔物の群れに出くわしてもなんてことないのだが、俺はそうもいかない。そんな雑兵レベルな私がここにいるのが釈然としないわけですたい。


 後、薄々気づいていたが、ラルとイリシアは俺が強いと思い込んでいるらしい。バカな、俺の戦闘力は五だぞ、『たったの五か、ゴミめ』と言われる五だぞ。何をどうしたらそうなると言いたいが、どう考えてもバハムートの下りですよねー笑えない。はっきり言ってしまえば俺ではなくこの俺の“相棒”こと『金具』が強いんだよ。


 いや、ぶっちゃけこの金具かなり強いぞ。なんせどこの刀匠か知らないがとんでもない加護が付いているからな。属性を操れる剣なんて聞いたことがない。さすが親父の形見。


 そんな相棒が腰に納まっているのを左手で確認しながら三人の話に耳を傾ける。さすがに【天眼】様に魔物がイリシアを狙いに来ているなんて言えないが、大方のことは話した。俺たちがドーレンから逃げ出してきたこと、それをその魔物が追ってきたかもしれないこと等々。


 それを聞いた【天眼】様は一切疑うことなく俺たちの話を信じた。ラルの友人ということもあるだろうが、【天眼】様の人の好さがわかる出来事だ。しかし、彼女もまた俺に信頼を置いているのだが……いや、ホント信じてたら裏切られまっせ。


「……どうやら憩場の皆さんは避難を終えたようです。魔物の進行方向は依然として変わっておりませんので、このままいけば憩場の皆さんは無事です」

「よかった……」


 【天眼】様からその一報を聞かされて安堵の声を上げるラル。どうやら避難していた憩場の皆が無事に目的地に着いたようだ。俺も一緒に……なんて言い出したら怒るんだろうなぁ。


「それで? その向かってきておる魔物はどのような魔物なのじゃ?」


 そう声を上げるのはイリシアだ。確かに魔物がどのような魔物なのか分かれば随分と違う。二足歩行なのか、四足歩行なのか、はたまた鳥獣型の魔物なのか。それだけで戦法が大分変わってくるからな。


 ちなみに魔物は大きく三種類に分けられる。俗に俺たちが魔物と呼ぶのは魔の総称だが、本来“魔物”というのは知性が乏しい魔の者のことである。逆に知性が高い魔の者が“魔族”と呼ばれ、イリシアがこれに該当する。そしてその二つに属さないのが“妖怪”と呼ばれる。妖怪は自然が顕現したものや、人や魔族の不幸幸福で生まれるもの、噂とか疑いで生まれるものが多い。例えば、誰もいないのにどこからか笑い声が聞こえてくるなど、本当は風鳴かもしれないのに、その疑心暗鬼がいつしか妖怪『ケタケタ女』を生むのである。


 大まかに分けるとこんな感じだが、妖怪に関してはまだまだ分からないことも多いので、学者の中では解明しようと躍起になってるとのこと。俺には関係のない話だが。


 話を戻そう。向かってくる魔物がどれに属するかだけわかれば作戦の立てようがあるのだが……魔族でないことを祈ろう。


「……空を飛んでいます。足は四足あって……歪な翼のようなものが見えます。そしてとても大きい。すいません暗いものでよくわからないのですが……分類的には魔物に該当するかと」

「魔獣型か……だとしたら突進力が怖いな」


 そこでようやく向かってきている魔物は知性に乏しい“魔物”に属することがわかった。だとしたら何とかなりそうな気がしてくるから不思議なものだ。知性が乏しいってだけで作戦の幅が広がる広がる。


「ふむ、定石じゃが罠で迎え撃つというのはどうじゃ?」

「どんな罠ですか?」

「古典的な罠が良いのう。幸いここらは背丈の高い木が多い。何とかして森にまで誘い込み、火を放てば退路も絶てるじゃろう」

「ちょっと待てい!」


 いやいやいや、さすがに森に火を放つのはさすがに危険だってばさすがに。

 これにはラルや【天眼】様も反対をした。それは俺たちも死ぬ可能性があるってばイリシア。


 イリシアにその旨を伝えると、渋々といった感じで納得してくれた。


「なればどうするのじゃ?」

「本当はアランが開幕であの衝撃波を放ってくれればわけないんだけど……」


 イリシアの件が解決して油断していた。

 ラルが恐ろしいことを提案し、三人そろって俺をどこか期待を込めた目で見てきているではないか。俺はその期待に首が千切れ飛ぶんじゃないかと思えるくらに横に振って答える。


 そんなチキンハートの俺に勇敢なことは出来まへんがな。あれはもう命の瀬戸際まで追い詰められていたからやったことだし、なにより衝撃波……獅咆哮は命中精度が悪すぎる。今だから言うが、ぶっちゃけ眉間を狙ったんじゃなく左足を狙ってアレなんだからさ、正直期待はできない。超至近距離なら別だが。


 俺が首を振るのを見た三人は軽く溜息をつき、俺から視線を外す。どうやらその提案は無かったことになったようだ。


「やっぱり正面から真っ向勝負しかないのかなぁ……」

「妾は後衛で援護じゃろ? ラルとアランは前衛で……リト殿はどうするのじゃ?」

「私は戦う術を持っていませんので……お役に立てることが……」

「ふむ、安心なされ。そなたは十二分に役に立っておるぞ」

「……ありがとう、ございます」


 どうしよう。さっきから話がてんでで進んじゃいない。こうしている合間にも魔物は驀進中だというのに。


 あっ、そうだ。


「【天眼】様? 【天眼】様の能力で未来がどうなるかわかりませんか?」

「すいません。先ほどから観ているのですが……無数の未来が見えるのです。これではどの未来につながるのかわかりません」


 ふと浮かんだ光明にも思えた案は呆気なく撃沈。【天眼】様の能力で未来が観れるなら、どうなるかわかるかと思ったけど、観える未来が無数にあるなら選びようがない。たとえ、その通りに手順を踏んだとてその通りになるなんて保証はないんだから。それが無数という意味になる。


 ……仕方ない。俺もその気でやらなければならないようだ。これは本当にやりたくないことだけど。ましてやさっきのイリシアの提案を蹴った手前こんなことはしたくなかったんだが……背に腹は代えられない。


「あるっちゃある。……俺のとっておきが」

「えっ? えっ!?」

「だけど、コレは広範囲すぎて皆を巻き込む恐れがあるんだ。それこそ……森を焼き尽くすほどの」


 とっておきとはこの相棒の金具に付けられた加護のこと。これは本当に使いたくないから奥の手になる。なぜこれを使いたくないかというと、コレを使ったら向う三日間は動けなくなるし、なおかつ強力すぎる。そして、この強さが俺ではなく金具の強さだという事実が……こう嫌じゃないんだけど自分が情けなく見えるんだ。俺の強さじゃないんだ。


 なにより、俺はこれ以上強いとは思われたくないから。


「そんなものがあるなら早く言ってよ、もうっ。そしたらこんなに悩む必要なんて……」

「ごめん、ラル」

「ならば妾が周りの森に被害が及ばぬよう、なんとかしてみせようぞ」

「じゃあ私はそのチャンスを作るね。アランはそれを使う前に必ず合図してね、そしたら私とイリシアは離れるからから。なんだ、作戦決まったじゃん」


 そう言って無邪気に笑うラル。

 金具には頑張ってもらわないといけないな。そう思い、腰に納まっている相棒をポンポンと叩いた。

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