帰還
◆ 一般ぴーぽー ◆
とりあえずここに居ても仕方ないので、俺たちは首都である『ルートビッヒ』に戻ることに。
王にこの惨状を説明するためだ。
この戦いで、人類は敗北を喫したと。
俺は平原に転がっている元同胞たちに軽い黙祷を捧げると、二人が待っているところへと走り寄る。
というか、この二人と俺は行動する必要があるのか?
「お待たせしました、行きましょう」
「そうじゃな」
二人と合流し、なぜか俺を先頭に進み始める。
右斜め後ろに【魔王】様、左斜め後ろに【勇者】様を率いる体験をした人物はこの世界で俺だけなのではないだろうか?
しばらく歩いたところで【魔王】様は何かを思い出したような声を出し、俺に向けて質問を投げ掛けた。
「ところで……アランと申したか?」
その声はとても申し訳ないという雰囲気が出ており、おずおずとした様子で訊ねる様は心によろしくない。
俺は粗相が無いようになるべく下僕的な雰囲気を醸し出しつつ答える。
「左様でございます、【魔王】様」
自分で言っといてなんだが、教育がなってないのが手に取るようにわかるな。
そのせいか、【魔王】様はどこか不機嫌な様子。
あぁん、心臓に悪い。
「……対魔機というものを教えてもらえぬか?」
……おいおいどうすんだよ!
まさかのバットエンド選択肢がそちらから来ますか!?
……対魔機とは人間が強靭な躯を持つ魔物に対して作られた武器だ。
普通の武器と製法が違うらしいが、職人でもない俺に製法はもちろんわからない。
見た目は他の武器と違いはないんだけどなぁ。
ちなみに、普通の武器で魔物を攻撃すると一振りでなまくらになります、はい。
その対魔機は作る途中に特殊な段階を経ることにより、魔法が宿ったり、特殊な技が使えるようになる。【勇者】様の武器がいい例だ、【勇者】様の対魔機は槍型で特殊魔法の“雷”が宿っている。
俺の武器にも加護は付いている。それもどこで造ったのかとても強力なものが。その籠のおかげでどれだけ助けられたか。
それはそうとして、どうするよ?
まさか【魔王】様に実は魔物を殺すための武器なんですぅ、なんて言ってみろ。目の前が真っ暗になって最後に行ったセンターに戻されるに違いない。
俺がそう考えている時、唐突に【勇者】様が声を上げた。
もしかしていい抜け道でも見つけたのか?
「対魔機は、魔物に対抗するために作られた武器だよ」
「ほう……」
おいぃ!?
何で魔物で総大将だった【魔王】様の目の前で言うんですか、ケンカ売ってるんですか!?
それ、頭が寂しい人に『焼野原(笑)』って言っていることと同義だぞ!?
しかし、俺がおそれた事態にはならず、【魔王】様はそれ以上何も言わなかった。けれども、【魔王】様は何か難しい顔で歩いているので、相当機嫌が悪いのが窺える。それもそうだ、本人からしたら自分たちを殺す兵器と言われているんだから。
しばらく無言で進んだ俺たちだったが、その空気を破ったのは意外にも【魔王】様だった。
【魔王】様は俺の前に躍り出ると、何やら俺の顔色を窺うような表情で言葉を放ってきた。
「ところでアラン、妾との契りを覚えておるか?」
「契……?」
はて?
契……って約束って意味だよな?
俺は【魔王】様と何か約束でもしていただろうか?
よし、脳内会議を開こう。
◆ ◆ ◆
俺A「緊急脳内会議を開く! 議題は【魔王】様との約束だ」
俺B「なんだったっけ」
俺C「心理はゴミ箱が見詰める仏壇の中にある」
俺C「そういうオメェ何か思い出したのかよ?」
俺A「いや、さっぱりだ」
俺C「つまりそういうことだ。俺はオメェなんだから、オメェが知らないなら俺も知るわけないだろう?」
俺A・B「あぁ……納得」
俺C「ワッフルワッフル」
◆ ◆ ◆
脳内会議、終了。
結論、知らない。
(じゃダメだろうが!!!)
どうすんだよ!
【魔王】様との約束を覚えていないとか許されるはずがない。
せっかくさっき奇跡的に回避できたのにこれじゃあ八方塞がりじゃないか。
「もしや……忘れたのか?」
そういって俺の目の前で顔を覗き込むように訊ねる【魔王】様。
途端に嫌な汗が背中や腋から滝の様に流れ出して来る。
もう眉毛が役割をはたしてないくらいに。
もしや今度こそサヨナラか?
「契って何?」
と、そこで助け舟と言わんばかりの【勇者】の一声。
そのおかげで【魔王】様は俺ではなく【勇者】様の方へ顔を向けた。
助かった。
ここで【勇者】様に俺との約束とやらを話してくれれば俺が思い出す必要もなくなる!
「そうじゃったな、お主は知らなんだ。話せば長くなるが、よいかの?」
よし、これで俺は――――
「長いならパス」
――――死んだな。
「っていうのは冗談。教えてもらえる?」
「うむ、よいぞ」
……今日だけでどれだけ心臓が止まるかと思ったか。
しかしなんだ、この二人はもういがみ合ってないのだろうか?
今の二人の様子を見る限り良好って程ではないが、少なくとも敵対しているようには見えない。
俺の胃的には実にいい状態だ。
「妾が自らの配下によって失脚した話は申したな?」
「うん」
「……そんな状況での、妾はそこのアランに身を挺して助けられたのじゃ」
「あ、それ私もだ」
何その美化された話。
ぶっちゃけ俺のいるところに二人が降ってきたのは全くの偶然で、俺は何もしていないんだがなぁ。
しかし、二人はそうは思っていないようで、俺の方を振り向いて再びお礼の言葉を言った。
実にむず痒い思いである。
「妾は思ったわけじゃ。この者となら再び【魔王】の座に返り咲くことが出来るのではないかと。そこで契じゃ。妾と共に妾の座を奪った者を倒してくれまいか、とな。今としては、その選択は間違っていなかったと胸を張れるがの」
「……」
あぁ、確かにそんな約束したなぁ。
それからいろんなことがあってしばらく端に追いやっていたよ。
けれど、それを【勇者】様に言っちゃってよかったのか?
【勇者】様からしたら、それは今から【魔王】になりに行きますって言ってるモンんだからな。
その証拠に、【勇者】様は黙りこくって何かを考えているじゃないか。
これはもしかして俺の命も危うい?
「そうか、そうだよね……だったら……」
【勇者】様は何かブツブツと呟きながら俯いている。
それはどこか異様な光景で、しかし目が離せない光景だった。
そして、【勇者】様が出した答えは、
「利害の一致。私も【魔王】討伐を目指しているわけだし、協力するよ」
「えっ!?」
「真か!?」
なんと予想外にもほどがある答えだった。
どうしてその結論に至ったのか過程を聞きたいが、そんな勇気が俺にあるわけでもない。
俺と同様に目を見開いてた【魔王】様は平静を取り戻すと、【勇者】の言った言葉をしっかりと受け止めたのか一回だけ頷くと、
「心得た。共に至ろうぞ、頂へ」
「えぇっ!?」
了承してしまったのだ。
今ここに、史上類を見ないパーティーが結成されたのだった。
というか、俺……その約束を了承した覚えがないんですけど……そうですか、俺の意思はそこにないんですね、そうですか。
やがて、首都のルートビッヒまでたどり着いた俺たち。
ここから見える範囲は城門だけだが、何やら城の守衛が門の前で鉄壁と言わんばかりに守りを固めているのが見える。
この城壁は土系統の魔法が施されており、ちょっとやっそっとの衝撃では壊れない。まぁ、バハムートなら簡単に突破するだろうが。
どうやら早馬を飛ばした者がいたらしく、城は魔物に対する襲撃に備えていたようだ。
俺たちが城門まで歩み寄ろうとしたら、当然待ったがかかる。
『止まれ! 止まらんと撃つぞ!』
そう言って城門の上から俺たち目掛け弓を構える守衛。
距離にして多分三00メートルくらいだと思う。
和弓であれば届く距離はせいぜい五0~から七十メートルくらいが関の山、遠射でも一00メートル程度。
しかし、守衛が構えているのは短弓、勢いがあり、遠くまで飛ぶためここは安心できない。
「聞いてください! 俺たちは先ほどの戦いの生き残りです! 王に報告したいことがあります!」
『信じられるか! 魔物は人に化けることも出来ると聞いた! 貴様らが魔物でないとするなら証拠を示せ!』
「証拠……」
証拠……なんてあるわけがない。
俺は一介の一兵士、顔パスが出来るわけもない。
俺は苦虫をかみつぶしたような表情になり、どうしようか迷っていると突然【勇者】様が俺の前へと歩み出て、未だに警戒している守衛たちに大声で言い放った。
「私はドーレンの【勇者】! ラル=ブレイド! 早急に王と話がしたい! 取り次いでもらおう!」
『……』
【勇者】様の手には対魔機である豪槍。
その槍と【勇者】様の姿を見た守衛たちにどよめきが走り、口々に何かを言い合っている。
なるほど、確かに【勇者】様ほどの人物ならば顔パスが出来るかもしれない。
しばらくして守衛にしてはえらく装備のいい青年が城門から小走りで走り寄る姿が見えた。。
青年はいわゆるイケメンで、その凛々しく頼れる風貌は見ているだけで怒りが込み上げてくる。
その青年は【勇者】様の前まで来たと思ったら汚れることも厭わずにその場に跪き、息が乱れながらも声を張ってこう言った。
「先のご無礼をお許しください。私、この王国の騎士団長を担っている――――」
「社交辞令はいいよ『フェル』、それよりも早く王の元へ案内して。……騎士団長であるアンタが何故“ここに”いるかは聞かないからさ」
「相も変わらずあなたは手厳しい……」
そう言って我らが国軍最強の男『フェル=ラバス』が困ったような笑みを浮かべて【勇者】様を見つめる。
イケメンってどんな表情でも絵になるよなー、耕し――おっと何でもない。
そんな騎士団長様は傍らにいる俺と【魔王】様を不思議な表情で見ていたが、構わず俺たちを城門の中まで導いてくれた。
途中、守衛に突き刺さるような視線を浴びながら。




