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俺の頑張り物語  作者: 谷口
プロローグ
10/107

一方の発端

◆ 勇者 ◆



「ちくしょう……」


 思わずそんな言葉が口から漏れ出す。

 それもそのはず、私は本当なら今朝から行われている国軍対魔王軍の戦いに参加しているはずなのに、この国の王であるマハト王から直々の魔物討伐依頼がこの緊急事態に横入りしてきたものだから、私はいまだに戦場の“始決の二栄原”に着いていない。


 この国どころか世界がかかっている状況にぶっちゃけ放っていてもいい魔物の討伐依頼を寄越すとかどうかしてるわよあのエロ親父。


 私は自身の“能力”でもある雷の応用で空を飛んで目的地までかっ飛ばしていると、目的地の方角から音が聞こえ始め、小さい音から徐々に轟音へと変わっていった。

 それと同時に、かなりの高さまで砂埃が舞っているのが視認できたところを見ると、すでに戦争は始まっており、激戦となっているようだった。


「なんでったってこんな時に依頼なんか……!」


 もう一度私は悪態を着く。

 国王だってこっちが大切だとわかっているはずなのに!

 いくら【勇者】である私でも所属国であるこの国の王の勅命は断れない。

 王はいったい何を思って私に――――


「っ!?」


 私はそこで思わず止まってしまった。

 私が見た光景、戦場の状況を確認しようとある程度まで進んだところでそれを見たから。


「なんてこと……」


 私が見た光景。

 それは地獄絵図……なんて言葉では温く聞こえてしまうものだった。

 なぜか下半身だけで立ち尽くしている者、写真を握りしめて絶命している者、頭が石ころのように転がっている者、原型が何だったのかわからない肉塊、何かに向けて必死に手を伸ばしたままの者。


 そして、その状況を作り出したであろう戦場の中心で暴れまわる“化物”。


 それを見たからか、いつの間にか私は化物と肉薄していた。


「ライジングエア!!!」


 私は自身の対魔機に雷を纏わせ、己自身が槍となるように化物目掛け思い切り豪槍を突き出す。

 しかし、その技は化物の背中に命中したのにも拘らず、化物は構わず暴れまくっている。


 こんな魔物……今まで見たことがない。

 【魔王】も本気で来ているということか。

 けれども……何故この化物は仲間であるほかの魔物まで……。


「くっ!」


 今はそんなことを考えている場合ではない!

 早くこの化物を何とかしないと……!


 私は再び化物に肉薄し、暴れまわるそのトリッキーな動きに何とか合わせて攻撃をくらわせているが、痛みを感じていないのか痛みを感じないのか定かではないが、まるで効いている素振りがない。

 このままでは……!


 私は顔にならダメージが通るだろうと踏み、顔に回るために背中からうなじ辺りに向かった、瞬間。


「しまっ……!?」


 完全に不意を突かれた。

 化物のうなじ辺りで突如視界の端に現れた細長い物体。

 それが化物の『尻尾』だと気付いたのは私に当たる直前だった。


「キャアァアアアアアア!!!」


 鞭のようにしなる尻尾に打たれ、なすがままに吹っ飛ばされる私。

 誰が予想できただろうか、あそこまで尻尾が届くだなんて。


 私は普段しないだろうミスに憤りを感じながらも、助かるために雷を応用した磁場を周りに発生させているが、減速する気配は全くなく、むしろ速くなっているようにさえ感じた。


 ここら辺の土地は何か不純物が多いの!?


 そして、せめて衝撃を和らげようと着陸態勢をとったが、その着陸態勢が思いもよらずマイナス方向へと左右することに。


「グヘァ!!!」

「ぐふっ!?」


 何故なら着地したのは地面などではなかったのだから。

 意外にも柔軟らかい感触に私は戸惑い、状況を確認しようとする。


「うぐぅ……」

「【勇者】様……」


 ふと、軟らかい物からそんな言葉が発せられる。

 驚いて顔を上げると、そこのはこの国の兵士だろう人が驚いたような表情でこちらを見ているのが見えた。

 そこでようやく状況を理解する。

 私はこの兵士の上に落ちてきたのだ。


「国軍の兵士ですか? よかった……まだ生き残りがいたなんて。貴方は急いでここから離れてください。そして王にこの状況をつたえてくだ……うぐっ!」


 よかったの言葉に偽りはないが、この体勢はいささかよくない状況だったので、私は平静を装い、素早くその場から立ち上がろうとした……が、それは叶わなかった。

 先ほどの着地態勢からの無理な着地に躯がついていかなかったのか私の右足首が悲鳴を上げていた。


 こんな時に……!

 こうなったらちょっと強引だけど完全治癒(自爆)を使うか……?


 そう考えている時に、不意に化物が暴れる以外の音が耳に届いた。

 痛む右足首から視線を外して音のほうへ顔を向けると、信じられないものが見えた。

 なんと、先ほどの兵士が立ち上がり、化物の方へ抜刀した対魔機だろう剣を構えていたのだから。


「あなた、何を……」


 まさかあの化物に挑もうというの?

 なんて無謀な、勝ち目があの兵士にあるとは思えない。

 待って、ダメ、そんな一つしかない命を簡単になげだしちゃ……!


 しかし、そんな私の願いも悲しく兵士に届かず、兵士は――――


「獅咆哮っ!!!」


 ――――化物にダメージを与えていた。

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