英雄達の帰還
完結後も投稿できるということを知り、思わず書きました。後悔はしていません!
時系列的には第二章の第18話の後。
設定はあったので、書こうかなーと思いつつ、結局書かずにいた話です。
今更感がすごいですが、少しでも楽しんで頂ければ……。
~サイドアウト~
ここはスイーツ王国の首都ケーキ、そのほぼ中心にある城……スイーツ城。
城を構成する内の1つの塔の上、そこには数十人が並べる程の大きな魔法陣が描かれており、現在、そこから少し離れた所に、数人の兵士が立っていた。
「……そろそろか」
その内の1人、金髪に赤いマントを羽織った女性が、時間を確認して呟く。
「……ドラゴニス大将」
「なんだ?」
「いえ……よろしいのですか?国王の側近である貴方がここにいらしても……」
後ろに立っていた兵士の1人が、恐る恐るといった様子で声をかける。
無理もない、彼の前に立っているのは、この国の騎士部隊の隊長……『黄竜』と呼ばれ恐れられる、エルド・ドラゴニスなのだから。
「国王様は自室へと戻られた。側近といえど、24時間傍に仕えているわけではない」
「それはもちろんですが……しかし……」
「……なんだ?」
エルドは兵士を横目で睨む。
赤い瞳がギラリと光り、兵士は思わず息を呑んだ。
冷や汗を流しながら、それでも口を開く。
「……あ、貴方ほどの方が、出迎えをする必要はないかと……い、いくら、『ソレイユ』とはいえ……」
「……ふん」
エルドは顔を魔法陣の方へと戻し、呟くように言った。
「お前の言うことは尤もだろうな……だが、久しくなかった『ソレイユ』の大仕事だ。
それを終え、帰ってくる者達に労いの言葉の一つでも掛けなければ、精鋭部隊『ソレイユ』隊長の名が廃るというものだ」
「ドラゴニス隊長……」
顔も向けられず、ぶっきらぼうに言われたが、兵士はその背中に、頼もしさと感動を覚えた。
流石は、若くして騎士部隊及び精鋭部隊の隊長を任され、国王の側近を務めているだけのことはある、と。
その時だった。
床に描かれた魔法陣が、淡い虹色に輝き出した。
「……来たか」
エルドはフッと笑みを浮かべ、魔法陣を……その上に現れた、白い光を見つめる。
数秒後、魔法陣の上に現れた光は人型に変わっていき、段々と色がついていく。
そうして転移を終えた11人の『ソレイユ』達……その一番前に立っていた女性は、エルドに気づくと、一瞬驚いた顔をした。
けれど、次の瞬間には真剣な表情になり……エルドの前まで移動すると、高らかに告げた。
「精鋭部隊『ソレイユ』副隊長イア・ランディア、及び『ソレイユ』メンバー10名。
『チョコレート町防衛』の任務を終え、無事に帰還いたしました」
「……あぁ、御苦労。よくぞ無事に戻った」
エルドはイアの両肩に手を乗せ、誇らしげに微笑む。
イアもそれにならい、安心したように、にっこりと笑顔になった。
……次の瞬間。
「よくぞ戻ったイアーーーーーー!!!」
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!?」
ガバアアアァァァ!!と効果音がつきそうな程思い切り抱きしめられ、イアは思わず悲鳴を上げる。
エルドは鎧を脱いでいたため痛くはないが……いや、痛い、力が強過ぎて痛い。
「た、たたた大将!!みんなの前で何をするんですか!?」
「むっ!!何だイア!大将などと他人行儀に……いつも通りエルドと呼んでおくれ!!」
「呼び捨てにしたことなんてありませんよエルドさん!!」
「あぁ、お前の声……お前の香り……一週間ぶりだと感動も一入だ……」
「だ、誰か!!誰か助けて下さい!!」
身の危険を感じたイアは悲痛な声を上げるが、一緒に戻ってきた『ソレイユ』の面々は……。
「あー疲れた、さっさと帰ろうぜ」
「今日はメシがうまいだろうな」
「ねぇねぇ、打ち上げにどっかで飲まない?」
「みんな無視ですか!?」
イアがさらに声を上げると、全員に『だって、いつものことだし……』という眼差しを向けられた。
あぁ、流石は精鋭部隊、こんな時でもチームワークは抜群だ。
「ロ、ロギさん!!助けて!!」
「……はぁ」
1人、魔法陣の上でこちらを見ていた頼みの綱に声をかけると、呆れ顔でため息をつかれる。
「隊長、作戦の詳細を報告しますので、戯れはそこまでにして下さい」
「チッ……」
エルドは隠さずに舌打ちすると、切れ立った赤い目でロギを睨みつけた。
名残惜しそうにイアを離すと、イアは慌ててロギの後ろへと逃げ去る。
それを見て、エルドはさらに眉間に皺を寄せた。
「お前とは一度、しっかりと決着をつけねばならんな、ロギ」
「……今の段階で決着はついているのでは?」
「なんだと……」
「ふ、2人とも、ケンカはやめて下さい……」
バチバチと火花を散らす騎士部隊の隊長と副隊長を見て、イアはロギの後ろから控え目に仲裁を図る。
……が、争いの火種が自分なので、この上なく複雑な表情だ。
「はっはー!2人共その辺でやめた方がいいと思うぜー?」
と、そこに割って入る1つの声。
こんな軽い口調で2人の間に入れる者など、『ソレイユ』……いや、軍全ての人間の中でも、1人、いや、2人しかいない。
「……エンジ」
「2人が本気でケンカなんかしたら、この城半壊するぜー?」
「ふん、そんな無粋な真似はしない」
「いやーエルド大将、それでもあの辺十分ビビってるぜー?」
エンジは軽快に笑いながら、クイッと指で指し示す。
その先には、先程エルドと話をした兵士他数名が、エルドとロギの殺気に当てられ、怯え切っていた。
なお、イア、ロギ、エンジを除く8名の『ソレイユ』はとっくの昔に退散している。
「全く……仕方がない、今日の所はここまでにしておいてやろう」
エルドは不満そうにしながらも、殺気を収める。
「はっはー!エルド大将、それ負けた方の台詞……」
「斬られるか?」
「はっはー!ごめんだぜー!!」
エルドが柄に手を掛けるのを見て、エンジはロギの後ろへ避難する。
「……なんでお前まで来るんだ」
「はっはー!あれー?ロギ准将ってば、俺を庇うのは嫌なのかー?
イア中将が来るのはいいのにー」
「拳魔一同流、纏魔剣」
ゴオォッ!!という音と衝撃波を発し、いつの間にか抜いていたエルドの剣が、白いオーラに包まれる。
「ちょっ!?エルド大将!!それやばい!!マジでやばいぜー!?」
「本気か……!!」
「ロギ准将も!!臨戦態勢になってる場合じゃないぜ―!?」
愛剣シルバーファングを構えたロギと必殺の魔剣を発動したエルドに、エンジは本気で冷や汗を流す。
もし、この状態で2人がぶつかったら、その衝撃だけでこの塔が崩れかねない。
「もうっ!!お二人ともいい加減にして下さい!!」
と、ここでイアが2人の間に割って入った。
先程までロギの後ろに隠れていたが、そろそろ本気で止めないとまずいと思ったのだろう。
「………はぁ」
「………イアがそういうのならば、仕方がないな」
ロギはため息をつき、エルドはしぶしぶといった様子で剣を収める。
まぁ、もちろん本気でぶつかる気はなかったと思うが……たぶん、きっと。
「隊長、そろそろいいでしょうか」
「ふむ?あぁそうか、報告だったな」
エルドは完全に今思い出した風に言う……というか、今思い出したのだろう。
「立ったままする話でもあるまい、部屋で聞こう」
「はい」
「それではな、イア。今日はゆっくりと体を休めてくれ」
「は、はい、ありがとうございます……」
いましがた、貴方のおかげでとても疲れたんですが……とイアは思ったが、心遣いは純粋に嬉しかったので、素直にお礼を言っておく。
「エンジ、お前もご苦労だった。昨夜の報告で聞いたが、兵士、冒険者含め1人の死者も出さなかったらしいな。
良くやってくれた」
「はっはー!もったいない言葉だぜー!」
エンジも、大将から直々の労いを受け、誇らしげに笑う。
……さっきみたいなのはもうごめんだけどなー!!と思ったが、それは口に出さない。
「行くぞ、ロギ」
「はっ」
エルドの後ろに付き従うロギ、それはまさしく、この国の軍、スイーツ王国軍の騎士部隊隊長、副隊長のあるべき姿だった。
……さっきまでのは何だったんだ!?と、殺気に当てられていた兵士は心の中で叫んだが、未だ恐怖に震える体では、それを声に出すことはできなかった。
「それではロギ准将、報告を聞こうか」
「はい」
「まずは、イアの身に危険がなかったかどうか」
「………」
騎士部隊の隊長室に入ったロギは、今回の事件の報告を始めようとしたが……イア優先の考えが全く揺るがない上司に、本気でため息をつきたくなった。
なぜこれほどまでに、イアのことが気に入っているのか……最初は、反乱軍に参加していたこともあって、警戒していたはずだが……と心の中で思考を凝らすロギ。
まぁ、考えても仕方がないか、とそこで考えを中断する。
「どうした?」
「いえ……そのようなことは全くありませんでしたよ。中将に限って、ありえません」
「そうか……いや、まぁ当然だな。私としたことが、心配が過ぎたようだ」
ホッとした様子で笑みを浮かべるエルド。
それに少し緊張を解いてしまい……ロギは、あることを思い出した。
「あぁ、ですが……」
「なんだ?」
「いえ、戦闘に向かう前に、冒険者の1人が騒ぎまして」
「……騒ぎ?」
「はい」
エルドの目が鋭くなる。
それには気付いたものの、緊張を解いていたせいで、ロギはあまり深く考えず、軽くそれを口にした。
「『星の賢者』の姿が想像と違っていたせいか、中将に罵声を浴びせて殴りかかろうと……」
「もしもし、あぁ、私だ。
『チョコレート町防衛戦』に参加した全冒険者の素性、居場所、一族郎党全て調べ上げろ。
援軍はいらん、私1人で殲滅する!!」
「……冗談です」
「すまん、今の話はなかったことにしてくれ」
携帯型通信機を切り、エルドはロギを睨みつけた。
「貴様、タチの悪い冗談を言うな。危うく罪もない人々を殺してしまう所だっただろう」
「……申し訳ありません、そこまでしようとするとは……」
自分もあの冒険者には憤りを覚えていたため、愚痴を零すようなものだったのだが……相手がまずかった、とロギは反省する。
本当のことを言ったら……流石に今言ったようなことはしないだろうが、イアを罵った冒険者を捜し出して斬りかねない。
「全く……それでは、報告の続きを頼む」
「はい」
ロギは了承し、今回の作戦の詳細……魔物の群れの規模、その内分け、雇った冒険者達の人数、報酬、怪我をした者への保障などを、資料と共に、事細かに説明する。
「ふむ……成る程な。御苦労、お前も今日はゆっくり休め」
「はっ」
ロギは一礼し、部屋を出ようとする……が、ここであることを思い出し、もう一度エルドへと顔を向けた。
「隊長」
「どうした?」
「いえ、大したことではありませんが……」
「……なんだ?」
ロギは、わざわざ報告する程のことか、一瞬迷ったが、恐らくエルドは興味を持つだろうと思い直し、口を開いた。
「今回の件に参加した冒険者の中に……『拳魔一同流』の使い手がいました」
「……ほう?」
もう一度資料を確認していたエルドだが、ロギが思った通り興味を示し、顔を向ける。
「名はレイラ・エラルド……『エラルド一族』の者のようです」
「レイラ……か。話は聞いている、13歳という若さ……否、幼さで、C級にまで上っていると」
エルドは目を閉じて、思考を凝らす。
自分と同じ『拳魔一同流』の使い手、それも、天才と呼ぶに相応しい実力者だ。
「実力はもちろん、それだけ大きな事件を解決しているということだろうな。
やれやれ……あまり冒険者にばかり活躍されては、兵士の面目が丸潰れだ」
「魔物がはびこるこの世界、いつ、どこで事件が起こるか分かりません。
自由に動ける冒険者は、それだけ事件にも出くわしやすいのでしょう」
「……そうだな。残念だが、国の手の届かぬ場所では、冒険者に助けられているのが現状。
国民の安全を守る、という意味では、立場は同じだ。
その者には、これからも活躍を期待しよう……そして」
そこまで言って、エルドは口角を上げる。
「一度会ってみたいものだな。同じ、『拳魔一同流』の使い手として」
「……なかなかに、面白い人物でしたよ」
「それは楽しみだ。他にはいなかったか?面白そうな人材は」
エルドは目を鋭くし、真剣な面持ちで問う。
「はっきり言って、この国には兵の数が足りていない。
上層部の間では、冒険者からの引き抜きの話も出ている」
「……そうですね」
ロギは今回の作戦を……それを共にした者達を、思い出す。
イアに鼓舞され、大声で団結する者達。
大魔法を見て、唖然とする者達。
自分が走り出したのに続き、魔物の群れへと向かっていく者達。
町に少しでも被害が出ないように、などという理由で、ジェネラルドラゴンを相手取ろうとする冒険者達。
そして……『ソレイユ』3人が魔物に囲まれた時、その外から魔物に攻撃し……援護してくれた冒険者達を。
……思い出して、フッと笑みを零した。
「『ジェネラルドラゴン』を相手にしようというだけあって……命知らず達ばかりでしたよ」
「……そうか。随分と、楽しそうな顔だな」
「………」
ロギは思わず元の無愛想な表情へと戻る。
それを見て、エルドは笑いだした。
「はっはっは!お前も、少しは人と馴染むようになったようだな、良いことだ」
「………」
「まぁ、それとイアとの関係はまた別の話だがな」
「………はぁ」
エルドの赤い瞳が、『私の可愛いイアに手を出すな』と語っていて、ロギは思わずため息をつく。
「……それでは、失礼します」
「あぁ、ではな」
ロギを見送ると、エルドはもう一度、笑みを浮かべる。
「……本当に、あの頃と比べれば、随分と優しい表情をするようにするようになったものだ」
エルドは昔のロギを……自分の故郷を救ってもらえず、軍を恨んでいたロギを、思い出す。
それでもロギが軍に入ったのは、自分の故郷のように、国の手から零れ落ちる村を救うためだという。
そしてその目的通り、ロギは非凡な才能と努力……そして執念により、騎士部隊の副隊長にまで上り詰め、数々の村を、無数の人を救っている。
「私は、この国の核である王族及び城、そして首都を守ることに誇りを持っているが……奴が見ているものは、また少し違うのだろうな」
「まーな、っていうか、お前はもう少し外を見てもいいと思うけど」
「………」
独り言のつもりで言った言葉に返答をされ、エルドは押し黙った。
続いて、振り返り、言葉の主を睨みつける。
「けどさ、お前がそうやってちゃんと首都を守ってるから、あの2人も安心して遠征に出れるんだ。
そーいう意味じゃ、バランスは取れてると思うぜ?」
「……いつからいた?アジル」
「おいおい睨むなよ、俺の方が先に入ってたんだぜ?」
「鍵は掛かっていたはずだが?」
「空けた、んで、その後閉めた」
カラカラと笑いながら平然と告げる様子に、ビキリ、と音を立ててエルドの表情が歪む。
アジル……精鋭部隊『ソレイユ』の1人、そのNo3である『戦の支配者』アジル・ロディアは、そのオレンジ色の髪を揺らし、深い赤橙色の瞳をエルドへと向ける。
「本当に貴様は油断ならんな……」
「ははっ、忘れたのか?俺は補助部隊隊長だけど、魔法も軍全体で3番目なんだぜ?
鍵の掛かった部屋に入るぐらい簡単簡単♪」
「全く……貴様といい、ロギといい、やはり、私の癒やしはイアだけだな……」
「うわー、それ俺の前で言うかよ?」
「不満ならば、少しは慎むということを覚えるがいい。
……それで?一体何の用だ」
「おいおい、ひっでーなー」
アジルは楽しそうに笑って、告げる。
「恋人に会いに来るのに、理由が必要か?」
「………」
エルドは一瞬呆けた後、バツが悪そうにアジルから目をそらした。
当のアジルは、その反応に満足したのか、また楽しそうに笑った。
「……我ながら、酔狂な事をしたものだ。貴様のような男を、交際相手に選ぶとは」
「へー、じゃあフるか?」
「……答える必要はないだろう、異能者め」
「あー、それ言われるとちょっとヤな気分になるんだけど」
エルドが横目で睨んで嫌味を言うと、アジルは困ったように笑った。
「チッ……悪かったよ」
「じゃあ、さっきの返答を高らかにどうぞ!」
「……斬られたいのか?」
「ははっ、それは返答としては適当じゃないな?」
ニヤニヤと笑いながらも引く気を感じないアジルに、エルドはため息をつく。
「……貴様の性格に問題を感じていないわけではないが、交際相手としては特に問題はないと思っている」
「うんうん、で?」
「……今の所フるつもりはないと言ってるんだ、それぐらい分かれ」
目を逸らして告げるエルドに、アジルは満足げに笑う。
「いやー、俺、エルドのそういうツンデレな所大好きだぜっ!」
「黙れ愚か者」
「ははっ!罵倒されるのはあんまり好きじゃねーけどっ!」
それでも楽しそうなアジルに、エルドはもう一度ため息をつく。
「もういいだろう……そろそろ要件を言ったらどうだ」
「うん?」
「とぼけるな、まさか本当にサボっているわけではないだろう」
エルドは切れ立った赤い瞳でアジルを睨みつける。
その目は『もしそうだったら、本気でお仕置きだ、剣で』と語っている。
その様子に、流石にからかい過ぎたか、と反省し、アジルは真剣な顔になって言った。
「3日後、ビスケット町に危険度Cの魔物が2匹、常駐の兵士だけじゃきついな。確率は87%。
外れた場合、付近の村にその魔物が同日中に向かう可能性86%、向かった場合、一番確率が高いのはタマゴ村、92%」
「……脅威になる可能性が高すぎるな、排除するか」
「だな。このまま放って置いた場合、5日以内に人里を襲う確率が99%を超えてる。
確立から考えて、恐らく人の味と臭いを覚えてるんだろ。補助部隊の奴らに捜させて、早めに倒した方がいい」
「分かった、他には?」
「危険度Cの魔物3~5匹が、一週間以内にヨーグルト港町に行き着く可能性92%。
当たった場合、何らかの損壊を引き起こす可能性99%以上、ただし、俺達が何もしなかったとしても、死者が出る確率は10%弱、死者が10名を超える確率1%未満」
「ヨーグルト港町か……」
「あそこ、確か『紫黒の魔女』がいたろ。遠いし、情報だけ渡して冒険者に対処してもらった方がいいかもな。
標的の割に重大な事件になる確率が低いのは、そいつがいるからだろうし」
「ふむ……分かった」
「新しく視えたのはそんぐらいだ」
「了解した、対処しておこう」
アジルの報告を書き留め、エルドは呆れたように笑った。
「やれやれ、便利なものだな、異能とは」
「さっき異能者めー、とか言ってたじゃねーか」
「それに関しては謝罪しただろう、いつまでも根に持つな」
「へいへい、まーそこまで便利かっつーと微妙だけどな。
全ての未来が視えるわけじゃねーし、視えても確実に当たるわけじゃない。まー、確率まで分かるのは便利だけどさ」
「それでも、その能力で事前に防いだ事件は数知れないんだ、誇っていいことだ」
「……ははっ!まーな!」
エルドに笑みを向けられ、アジルは嬉しそうに笑う。
「そんじゃ、そろそろ戻るわ」
「あぁ、そうしろ」
「……っと、そーだっ!」
扉へと向かう途中、アジルは思いついたようにそう言うと、エルドの前まで戻ってくる。
そして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「エルドー、お前さっき、異能者め、とか言ってくれたな」
「……謝罪したと言っただろう。いつまで根に持つ気だ」
「いやいや、根に持つ気なんかねーさ。その代わり」
「なに……っ」
瞬間、2つの影が重なり、すぐに離れる。
突然の行為に、エルドは真っ赤になって口を押さえた。
「貴様っ……!」
「これで手打ちってことで。
そんじゃ、互いにお仕事頑張りましょーや」
アジルはすごくいい笑顔でそう告げると、楽しそうに部屋から出ていった。
「………全く」
エルドは呟き、机へと向かう。
「これだからお前といるのは……全く、刺激が強過ぎるんだ」
小さくひとりごちて、心の中で思う。
……とりあえず明日、またイアを抱きしめて、癒やされよう、と。
というわけで番外編でした。
他にも番外編として書きたい話があったりしますが……正直、書くかどうかは微妙です。
サブタイトルの割に、帰還した英雄達(ソレイユメンバー11人)の場面が少ないなぁ……『騎士部隊隊長の一日』とかにした方が良かったかもしれません。
ちなみに、本文中に携帯型通信機が登場してますが、この世界の電話は固定電話と限定された相手としか通信できない携帯型通信機のみです。
カオスが第39話で携帯電話を使ってますが、この世界に携帯電話はありません。




