第51話 絶望
約3カ月ぶり……本当にすみません、言い訳は活動報告にて……。
真っ暗……。
漆黒とも呼べる程、俺の目の前は真っ黒に染まっていた。
……あぁ……俺、死んだのかな……。
死ぬ前には走馬灯が見えたりするらしいけど、それを見る時間すらなかったみたいだ。
……メリス……グリー……イリナ……。
……みんなは、どうなるんだ……?
……“あれ”から、逃げられるのか……?
……くそ……くそっ……!!
……みんなを……助けたい……!!
……俺には、死んでる暇なんて……ない、のに……!!
「じゃ、死ななきゃいいんじゃねーか?」
「………え?」
闇の中で、声が響いた……つい最近、聞いたばかりの声だ。
そして、ゆっくりと……俺の前の闇が、扉のように開いていく……。
「………カ……カオス……!?」
「よー、ハディ」
俺の前に立つそいつは、いつものように、不敵な笑みを浮かべていた。
でも、どうしてこいつが……もしかして、幻か何か……。
「全く……てめぇらが俺の予想より有能だったせいで、死なせちまう所だったじゃねーか。
俺は死が嫌いだって言っただろうが。俺の前で死ぬんじゃねぇよ」
……いや、間違いなくカオスだ。
こんなめちゃくちゃな事言う奴、他に知らない。
「ハディ!!!」
「うわっ!?」
突然、何かがぶつかってきた。そのせいで、せっかく体を起こしかけてたのに、また地面に倒れてしまう。
「メ、メリス……」
「大丈夫!?生きてる!?生きてるよね!?」
メリスは泣きはらした顔で、大声で叫ぶ。
「だ、大丈夫だって。落ち着……」
ドガッ!!
言い終わらないうちに、なぜか殴られる。
「バカッ!!なんで……なんで、あんなことしたの!?」
「な、なんでって、そりゃあ……」
言いかけて、思い出す。
……俺、なんかとんでもないこと口走らなかったっけ……?
「うれしくない……」
「え?」
「助けられたって……それでハディが死んじゃったら!私、うれしくなんてないよ!!」
そう叫ぶメリスの目には、また涙が浮かんでいた。
「ご、ごめん……メリス」
「………」
メリスは無言になったかと思うと、俺に体を寄せてきた。
「メ、メリス!?」
「良かった……ハディ……」
ぎゅっ、とメリスは俺の服を強く、握りしめる。
「生き、てて……良かった……」
「……メリス……」
俺が生きてることを、こんなに喜んでくれる。
俺が死ぬことを、こんなに悲しんでくれる。
その事実が嬉しくて……俺は、そっとメリスの背中に腕を……、
「悪い、そろそろいいか?」
回しかけたところで、カオスが話しかけてきた。
そして同時に気づく、俺とメリスの体勢って……。
『っーーー!!!』
「器用な発音だな、おい」
声にならない叫びを上げて、俺達はばっ、と離れる。
「とっ!とにかく無事で良かった!!良かったよ!!」
「お、おう!!心配かけてごめんな!!」
「……まぁ、別にいいけど」
俺とメリスの様子を見て、カオスは呆れ顔だ。
……カオス?
「って、カオス!?お前、なんでここに!?」
「なんだよ、いちゃいけねぇのか?」
「そりゃそうだろ!!
お前、『面倒だから』って『願いの珠』の捜索を俺達に頼んできたのに!!」
「バカかお前」
いきなりバカ呼ばわりされた。
「ひどいよカオスさん!!確かにハディはバカだけど!!」
「うるせぇメリス!!」
「……その時言っただろうが。
俺は自分がやるより、他の奴がやってるのを笑って見てるのが好きだってよ」
「……お前……まさか……今までずっと見てたのか!?」
「まーな。
……まぁ、森の途中からは入れなかったから、『千里眼』で見てたけどよ」
「……入れなかった?」
「そ、あれの『領域』だったからな」
そういってカオスは、『願いの珠』を見る。
「……あれって、『願いの珠』じゃ……」
「はぁ?あれ見て、まだそんなこと言ってんのか?」
カオスはまたも呆れ顔になる。
「『どんな願いでも叶える魔導具』なんて、あるわけないだろ」
「……は?」
捜索を依頼した本人が否定しやがった。
「まぁ、似た物なら作れなくもねぇがな。とりあえず、あれは全く違うものだ」
「じゃあ、あれは一体……」
「『土地神』だ」
………は?
「……『土地神』?」
「おう、まぁ、詳しい話は後だ」
そう言ってカオスは、1人で『願いの珠』へと向かう。
「おい、カオス!?」
「あれの意識を少し逸らしてくれれば十分だったんだが……まさか、覚醒させちまうとは思わなかった。
悪かったな、危険な目にあわせちまってよ」
「お前……あんな『化け物』と1人で戦う気か!?」
「む、無茶だよ!!カオスさん!!」
「……『化け物』?『無茶』?」
俺とメリスの言葉を聞き、カオスは小さくふき出した。
「そりゃまぁ、こいつは魔物でいえば危険度A相当だからな。
てめぇらにとっては、『化け物』だろうが……」
小さく笑い、そして、不敵な笑みを浮かべるカオス。
「俺にとっては、雑魚だ」
「……は……?」
カオスの言葉に、俺は唖然とする。
ブゥン……!!
その時、『願いの珠』の頭上に、巨大な光の塊が浮かび上がる。
「っ!カ、カオス!!」
「せっかくだし教えてやるよ、お前ら。『化け物』ってのはな……」
振り下ろすような軌道でカオスに襲いかかる光の弾、カオスは一歩も動こうとせず、ただ、それに向かって右手を伸ばした……。
ズドォォォォォォォォン!!
『カオッ……!!』
……叫びかけたが、俺とメリスから、それ以上言葉が紡がれることはなかった。
俺も、メリスも、目の前の光景に唖然として、声を出すどころじゃなかったからだ。
「……こういう奴のことを言うんだ」
カオスの右手から、光の弾を受け止めた右手から、煙が出ている。
だけど、その手も、もちろん、カオス自身も。
「無……傷……!?」
レイラのように、魔力を纏って対抗したわけじゃない。
とっさに『結界』を張ったわけでもない。
完全に生身の状態で、地面にクレーターを作るような攻撃を受けたのに。
……カオスは、全くの無傷だった。
俺はそのありえない光景を見て、思わず声を出した。
「お、お前……人間じゃ……!!」
「おいおい、失礼なこというんじゃねーよ」
カオスは余裕たっぷりに振り向き、不敵な笑みを浮かべた。
「俺は一応人間だぜ?……ただ、『化け物』なだけだ」
俺とメリスが唖然としていると、カオスの後ろに光が集まっていく。
見ると、『願いの珠』の口に、光が集まり始めていた。
「あー……これが直撃するのは、ちょっと面倒だな」
次の瞬間、カオスの周りが黒く光る。
……いや、黒い光に包まれる。
さらに、カオスの周りの景色から、色彩が失われていった。
「な……なんだ、あれ……!?」
「……『集中』の時点で、周りに影響……」
驚いていると、メリスの呟きが聞こえた。
「これ……まるで、イアさんの……」
「あ……」
それを聞いて、思い出した。
『チョコレート町』での、ランディアさんの魔法。
あの時は確か、ランディアさんが『集中』をしてたら、地面が割れて……。
「虚ろより来たれ 虚無へと誘う黒き扉 黒葬結界ブラックホール」
カオスが魔法を発動するのと、『願いの珠』からレーザーが発射されるのは、ほとんど同時だった。
しかし、『願いの珠』から発射されたレーザーは、カオスが作り出した『黒い壁』にぶつかると、吸い込まれるように消えていった。
「え……?」
「あ、あのレーザーを、あんな簡単に……!?」
「……『黒葬結界ブラックホール』」
驚く俺とメリスの元に、声が聞こえた。
「あらゆる攻撃を呑み込み、無へと帰す、闇属性の中では最強の結界魔法だ」
「そんな魔法を、あんな数秒の『集中』で発動させるなんて……」
「グリー!イリナ!2人とも、気づいたのか!」
グリーとイリナは、少しよろけながらも、俺達の元へと歩いてきた。
「メリス、大丈夫かい?」
「うん!!」
「おい、グリー、俺は?」
「見れば大丈夫なことぐらい分かるよ」
「そりゃそうだけど……」
なんか、釈然としない。
「ねぇ、あの人……一体、何者なの?」
「『絶望』カオス・スフィアだよ」
「……『絶望』って、あの?」
グリーからカオスの名前を聞き、イリナは驚いた顔をする。
やっぱり、冒険者に憧れてるんなら、カオスのことも知ってるか。
「……冒険者から、聞いたことあるの。いろいろと、噂を……」
「噂、ね。確かに、噂通りだ」
グリーはカオスへと目を向ける。
「『絶望』カオス・スフィア。
いかなる強力な兵器を以てしても、強大な魔法を以てしても、彼には傷1つつけられない。
『無傷』を以てして、戦いの相手を『絶望』させる、ってね」
「別にそんな大したことじゃねーぜ?」
くくっ、と笑いをもらしながら、カオスはグリーへ顔を向けた。
「お前ら、マグマの中に放り込まれたことあるか?」
「………は?」
とんでもない質問に、驚愕する俺達。
カオスは不敵な笑みを浮かべたまま、さらに続ける。
「-50℃の極寒地帯にいきなり強制転移されたことあるか?
水面から水深1000mまで投げ込まれたことあるか?」
『………』
そこまで言い終わると、カオスは小さく、自嘲的に笑った。
……まるで、なつかしいことを思い出してるかのように。
「人間の適応力ってのはすげぇもんだ。
そんな修行を何年も続けてれば、こうなったっておかしくねぇだろ」
「い、いや!!おかしいだろ!!適応とか、そんな問題じゃ……!!」
「前に言ったよな、ハディ。『人は地獄の底でもがき苦しんでこそ強くなれる』ってよ」
カオスの笑みが、また不敵なものへと変わる。
「あの地獄に比べたら、ぬるいもんだぜ?こんな雑魚の攻撃なんて」
唖然として声も出ない俺達から、目線を『願いの珠』へと向け、カオスは呟いた。
「『Massacre God』……か、随分と歪んだ願いだな」
パチン、とカオスは右手を鳴らす。
次の瞬間、その手には漆黒の剣……『ダークネスソード』が握られていた。
「……っ!?い、今……!!」
「え、ど、どうした?グリー」
グリーだけじゃなく、イリナも、そしてメリスまで、驚愕の顔でカオスを見ている。
「……『呪文』の、省略……!?」
「バカな……ありえない!!
いくら簡単な魔法でも、どれだけ使い手の魔力が高くても!
『呪文』を省略したら、魔法はまともに発動しない!!魔法使いの常識だ!!」
「それは『お前らの常識』だろ」
カオスは振り向きもせずに言う。
見えないけど、たぶん、その顔はいつも通りに不敵な笑みを浮かべているんだろう。
「『俺の常識』では、できる」
カオスは淡々と、特に興味もないように言い捨てた。
話を終わらせると、カオスは『願いの珠』へ剣の切っ先を向ける。
「……かかって来いよ雑魚、遊んでやる」
『願いの珠』に動きが出る。
さっきカオスが受け止めた光の弾、あれが大量に『願いの珠』の周囲を旋回し始めた。
「……悪いが、それはもう覚えた」
カオスは小さくため息をつき、言葉を紡ぐ。
「魔法変換」
その言葉に、先程カオスが使った魔法『黒葬結界ブラックホール』が反応する。
黒い壁が細長い縄のようなものへと形を変え、『ダークネスソード』へと伸び、その刀身に巻きついていく。
「刃と化して彼のものを喰らえ黒き影」
言葉に……言霊に応えるように、漆黒の刀身を包んだ闇が渦巻き、その形を刃へと変える。
「……黒影刃」
カオスが剣を振るうと、その軌跡から現れた1つの黒い刃が『願いの珠』へと襲いかかる。
同時に『願いの珠』は20にも達する大量の光の弾を放ち、迎え撃った。
「無駄だ」
カオスの言葉通り、大量の光の弾は黒い刃の前に為す術なく切り裂かれていく。
「いくら数を増やしても、同じ攻撃は俺には効かねぇよ」
黒い刃が全ての光の弾を消し去った時、『願いの珠』の体に薄い膜が現れた。
「『結界』!!」
「……で?」
『結界』を見ても、カオスは慌てるどころか、あくびをしていた。
『黒影刃』と『結界』がぶつかり……ガラスを粉々に砕いたような音と共に、『結界』が破られた。
「……は……?」
ウソ……だろ……!?
基礎魔法レベル3を連続でぶつけても、ひび1つ入らなかったのに……!!
「あんな脆いもの、障害にならねーよ」
カオスは嘲笑を浮かべ、返す刃でさらに2つの『黒影刃』を放つ。
最初の『黒影刃』と合わせて3つの刃に切り裂かれ、『願いの珠』はバラバラになってしまった。
「や、やった……?」
「……いや」
ブル、とバラバラになった『願いの珠』が動く。
次の瞬間、スライムのようにその体が流動し、集まっていき……『願いの珠』は、完全に再生していた。
「なっ……!?」
「……流体化を利用した再生か。こりゃ物理攻撃は効かねぇな、めんどくせぇ」
カオスは小さく嘆息し……再度、『集中』を始めた。
「魔法強化」
次の瞬間、カオスの持っていた『ダークネスソード』が宙に浮かび、その形状が黒い球体になる。
「冥界より瘴気の集いを呼ぶ 我は闇を作る者なり」
カオスがそこまで紡ぐと、黒い球体は突然姿を消す。
「……え?き、消えちゃった……」
「いや……」
目を瞬かせるメリスと対照的に、グリーは真剣な顔で『願いの珠』を見据える。
「闇の精霊シェイドとの契約によりて その力を我の前に現せ」
『願いの珠』の足元に、黒い……異常なほど黒い影が現れる。
蠢動するその影は、まるで真上に居る獲物を嘲笑っているように見えた。
「……もがき苦しめ シャド・ヘルド」
カオスが『呪文』を唱えると、影から黒い霧が噴き出され、あっという間に『願いの珠』を包み込む。
「な、何だ!?」
「闇属性、基礎魔法レベル4……!!」
「これが、レベル4……!?」
グリーの呟きに、イリナは驚愕する。
まぁ、基礎魔法レベル4なんて、そうそう見る機会ないもんな。
「闇属性基礎魔法レベル4『シャド・ヘルド』。
冥界から瘴気を呼び寄せ、対象を包み込む」
「め、冥界?」
「物の例えだけどな。ようするに毒霧を作り出す魔法だ」
「な、なんだ……」
まるで冥界が本当に存在するかのような言い方だったからな、思わず聞き返しちまった。
「まぁ、ないとは言ってねぇけど」
「あるのか!?」
「知るか。100年後には分かるだろ」
「……死んで確かめろと」
まぁ、そんなの死ななきゃ分からないもんな。
死ぬ前に分かるんなら、とっくに世の中に広まってるだろ。
「ちなみに俺が今作ったのは麻痺性の毒だ。人間なら一息で体が全く動かなくなる」
「……でも、あんなのに効くのか?」
「効かないだろうな、まがりなりにも『神』だし」
「おい!?」
「安心しろ」
カオスは不敵な笑みを浮かべる。
そうこうしているうちに霧が晴れていき……そこにいたのは。
「『シャド・ヘルド』によって生み出されるのは、毒だけじゃねぇ」
「な、何だ……あれ?」
そこにいたのは、地面から生える無数の黒い縄のようなもので縛られ、身動きが封じられている『願いの珠』の姿だった。
……いや、縄じゃない、あれは……。
「……手?」
「『亡者の手』って所だ。ただ毒霧を発生させても逃げられたら意味ねぇだろ。
だから、『シャド・ヘルド』は『亡者の手』によって相手の動きを封じ、そこに毒霧を浴びせる魔法だ。
今回は毒霧の意味はなかったけどな」
「……えげつねぇ」
縛った上で毒かよ。
しかも、あの黒い影の範囲からして、相当でかい魔物でも完全に動きを封じれそうだ。
流石、基礎魔法レベル4……。
「さて、まぁもって数十秒だろうし、とどめを刺すか」
「あ……ま、待ってくれ!!」
カオスが再び『集中』を始めようとした時、それを止めたのは……グリーだった。
「グ、グリー?」
「何だ、どうかしたのか?」
「『願いの珠』は、この人と……イリナさんと繋がってる可能性があるんだ!」
「あ……!」
そうだ!忘れてた!
『願いの珠』はイリナと繋がってて、それでイリナは森から出れず、『願いの珠』が消えたらイリナも消えるって……。
……いや、でも……、
「だけどグリー、実際『願いの珠』はこんな物だったんだし、イリナは魔科学者にだまされてたんじゃ……」
「でも、森からは出られなかったんだろう?」
「え、えぇ……」
「だったら、繋がっているというのは本当なのかもしれない。『願いの珠』を倒しても大丈夫なのかどうか……」
「安心しろ、大丈夫だ」
グリーの疑念に、カオスはあっけらかんとした様子で答える。
「……何で、そう言い切れるんだい?」
「決まってんだろ、見た感じ繋がってないからだ」
「そんな、適当に……!」
「適当じゃねーよ。それに、そいつが森から出られなかったのは、他に心当たりがあるからな」
「え?」
カオスはイリナを見て言う。
「そいつはこいつと繋がってたから森から出られなかったんじゃねぇ。
こいつの『領域』に囚われてただけだ」
「りょ、領域……?」
「ま、その話も後でな。
とりあえずさっき言った通り、こいつを倒してもそいつには一切影響はないから安心しろ」
カオスはそういうと、『願いの珠』へと向き直る。
「さてと……久しぶりだな、これ使うの」
カオスは呟き、スッと右の掌を返した。
「……ま、たまには雑魚に使うのも悪くねぇ」
カオスはそう言って、小さく右手に力を込める。
…………ズ…………ズズ…………
「………っ………!?」
黒い、闇のようなナニカがカオスの掌へ集まっていく。
それを見た瞬間、全身の筋肉が硬直し、体中から汗が噴き出した。
なん……だ……!?アレは……何だ……!?
本能も、理性も、あらゆる危機察知能力が、全力で警鐘を鳴らしている。
脳どころか、全身の細胞そのものが恐怖を抱いているような錯覚にすら陥る。
……アレは、恐れなければいけないものだ、と。
「おい、そこの女」
ソレを右手に抱いたまま、カオスはイリナへと目を向ける。
「これ、お前のだろ?」
「えっ………?」
意味がわからず目を白黒させるイリナに構わず、カオスは不敵な笑みを浮かべた。
「使わせてもらうぜ、お前の『絶望』」
『絶望』……?
訳の分からないことを言い、カオスはまた『願いの珠』へと向き直る。
「属は負……力は傷……型は、絶望……」
カオスが呟く度に、右手のそれはどんどん大きくなり、やがて、直径30cm程の球体となった。
その黒い球体は、まるで生物の心臓のように波打っており、直視しなくても、それが視界に入っているだけで体が硬直し、頭痛すら覚えた。
「……ディスペア・エンド」
その言葉と同時に、黒い球体は『願いの珠』へと向かっていく。
『願いの珠』は『結界』を張って防ごうともせず、それをただ黙って見ているだけだ。
……いや、違う。と俺は直感した。
『結界』を張らないんじゃない。張れないんだ。
……アレに、抗うことができないんだ、と。
……音はなかった。
『願いの珠』へと到達したソレは、膨張し、『願いの珠』を包み込み……『願いの珠』は、霧となって消え去った。
「……あばよ。くだらねぇ願いだったが……救いを残したことだけは、評価してやるよ」
カオスは呆れたように嘆息し、その霧の中心を見つめていた。
では、次回予告です!
「イリナ、です。
『願いの珠』を倒したカオスさんは、私達に事の真相を話し始めます……。
……私が言えたことではないけど、3人は怒ってもいいんじゃないかしら……。
次回、冒険者ライフ!第52話『救い』。
……私は……」