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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第五章 伝説
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第46話 よくある伝説


「そうそう、お前らにちょっと頼みがあるんだ」

「頼み?」


眠そうにあくびをしながらカオスは言う。

この日、明後日にある審査の結果発表まですることのない俺達は、適当に出店を見たついでに、カオスの店に顔を出していた。

……ちなみに、現在時刻は午前9時だ。なんで眠そうなんだこいつ。


「こ、この肉まんはあげないからね!!」

「違うだろ」


ついさっき、出店で買った肉まんを隠すメリスにツッコむ。

ちなみに、少し前に朝ご飯食べたのにもう間食かよ、とはツッコまない。面倒だからな。


「少し前に朝ご飯食べたのにもう間食かよ」

「お前がツッコむんかい!!」

「代わりにツッコんでやったんだ。感謝しろ」

「頼んでねぇよ!!」


不敵に笑うカオスにツッコむ。

ってか、ナチュラルに心読むな!!


「……あれ?なんでカオスさん、私が朝ご飯食べたこと知ってるの?」

「遅い!!んでツッコむところも微妙におかしい!!」


今の時間考えたら、少し前に朝食食べただろうってことぐらい察しがつくだろ!


「ハディが言ってたぞ、心の中で」

「あーなるほど!」

「納得すんなぁぁ!!」


なんでこいつらそろって読心できるんだよ!?しかも俺ばっかり!!


「それで、頼みごとって?」


話が脱線しかけていたのを見て、グリーが話を戻す。


「そうそう、お前ら『願いの珠』って知ってるか?」

「『願いの珠』?」


聞いたことない単語に俺とメリスは首を傾げる。


「確か……“どんな願いでも叶える、究極の魔法具”だと聞いたけど」

「……なんだ、そのうさんくさ過ぎる魔法具」


確かに魔法は結構なんでもありだし、そういう伝説の道具みたいなのも聞いたことあるけど、“どんな願いでも叶える”ってのは、流石にな……。


「なんでも、20年程前にこの町に住んでた魔科学者が、そういう道具の研究をしてたらしいよ」

「ちょっと待てグリー、なんでそんな地元の話を知ってんだ?」

「今朝、宿屋の人に聞いたんだよ」

「あ、なるほど」


それで詳しく知ってるのか。


「でも、こんなのただの伝説だろう?

 その魔科学者がいたというのは本当らしいから、そこから噂に尾ひれがついただけのものだと思うんだけど」

「ま、普通に考えたらそうだな」


カオスはグリーの意見を肯定しつつ、不敵に笑う。


「だが、今お前が言った通り、その魔科学者は実在した。んで、その魔科学者が『願いの珠』を作ろうとしていたってのも事実らしい」

「……おい、まさか、その『願いの珠』を持ってこいなんて言わないよな?」

「んなわけないだろ」


カオスが呆れたような顔をする。

だよな。いくらなんでもそんな物が本当にあるなんて思う奴は、


「その『願いの珠』を捜してこい」


……いた。俺の目の前に。


「待てコラ、今お前そんなわけないだろって言っただろ!!」

「“持ってこい”なんて言ってねぇ。“捜してこい”って言ったんだ」

「大して変わらないだろ!!」


くそ、絶対わざと言ってるなこいつ……!


「……捜してこいなんて言われても、どこにあるのかなんて、僕達には見当もつかないよ?

 当時その魔科学者が住んでたアパートも、今は違う人が住んでるらしいし」

「安心しろ。ちゃんと調べてあるからよ。

 その魔科学者だが、町の連中の話によると、毎日朝早く町を出て、夜遅くに帰ってきてたらしい。

 当時、気になった奴が後をつけていってみたら、そいつは『守護の森』へと入っていったんだってよ。

 さらに、それから数年後、魔科学者は町を出ていったんだが、その後に『守護の森』でそいつを見たって情報もあるらしい」

「『守護の森』?」

「この町から徒歩30分ぐらいの所にあるでかい森だ。なんでも『守り神』が住んでるとかで、一般人はあんまり近づかないらしいぜ」

「……なるほど、確かに怪しいな」


まぁ、本当にそんな魔法具があるとは、やっぱり思えないけど……。


「ま、俺はその伝説の真否が気になるだけだからな。別に手に入らなくてもいいし、仮に手に入ったらお前らが使っていいぜ」

「ほ、本当!?」

「メリス、あくまで伝説の物だからな?」

「あ、うん……」


しゅん、となるメリス。

本当にあったらそりゃすごいけど、やっぱりなぁ……。


「そうそう、伝説によると、『願いの珠』は『願いの守護者ディザイア・ガーディアン』とやらが守ってるらしいから、一応気をつけていけよ?」

「ガーディアン?ゴーレムみたいなもんか?」

「確かに、財宝とか古代の遺産とかには、ゴーレムなどの『自立魔導兵器』が配置されてることが多いらしいからね。

 もし本当に実在したら、そういった類のものがあってもおかしくはないよ」


グリーが俺の疑問に補足をくれる。

ゴーレムか……そういう奴らって再生能力とか持ってることが多いらしいんだよな。あんまり戦いたくねぇ。


「……というか、なんで僕達に頼むんだい?君が行ったらいいじゃないか」

「やだよ、めんどくせぇ」

「言い切りやがったこいつ!!」


グリーの質問に悪気の1つもなく答えるカオス。

めんどくさそうにあくびをしつつ、さらに続ける。


「言っとくけど、理由はそれだけじゃねぇぜ?」

「……まだあるのか?」

「あぁ、考えてもみろ。俺が『守護の森』へ行って、『願いの珠』を見つけたとする。

 伝説の通りなら、『願いの守護者ディザイア・ガーディアン』が俺に襲いかかってくるだろ?」

「まぁ、そうだろうな」

「その時、俺だったらなんの苦労もなく、簡単にそいつを倒しちまうだろ」

「……まぁ、そうだろうけど」


自分で言うか、そういうこと。


「だが、お前らだったらかなり苦戦するだろ。なんたって伝説の魔法具を守ってる奴が相手だからな」

「……ごめん。何が言いたいのかよく分からねぇ」


正確には、分かりたくねぇ。


「ようするに、俺が行ってパパッと終わらせちまうより、お前らが苦労してるのを見てた方が面白いだろ。俺が(・・)

「逆に清々しいぐらい自分本位だな、てめぇ!!」

「俺はめんどくせぇことを人に押しつけて、そいつが苦労してるのを笑いながら見てるのが好きなんだ」

「人としてアウトだその発言!!」


あっれー、こいつ確か『伝説の冒険者』じゃなかったっけ?いや、今更だけどな!


「おいおい、まさか拒否なんてしないよな?お前ら俺に“借り”があるだろ?」

「うっ……武器の件か」

「おう」


そういや、金以外のことで返せ、とか言ってたっけ……。


「頼みを聞いてくれたら、それはチャラにしてやるよ」

「……チャラ?この程度のことで、かい?」

「そうだけど?」

「………」


カオスの言葉に、グリーは訝しげな顔をする。

……確かに、下手すると数億(ゴールド)分の借りが、こんなことぐらいでチャラになるなんて、普通に考えたらありえないよな。

でも、正直、カオスの金銭感覚ってめちゃくちゃみたいだから、こいつに限ってはあり得るんじゃないかと思う。


「んで、どうすんだ?」

「……まぁ、やるけど」


不満がないと言ったらウソになるけど、これぐらいであの件がチャラになるんなら、やらない手はない。


「じゃ、行きは送ってやるからよ。準備ができたらまた来な」

「え?別に今からでもいいけど……」

「あのな、『守護の森』は『狩人の庭』の5倍ぐらいある巨大な森だぞ」

「……そんなにでかいのか?」

「この辺にある森の中では一番だな。

 そんなところを、あるのかどうかすら分からない手掛かり求めて歩き回るんだ。少なくとも、昼飯ぐらいは持っていくことをお勧めするぜ?」


カオスは笑いながら言った。

……なんか、カオスがめんどくせぇって言った理由が分かった気がする。

ってか、本当に面倒事押しつけて楽しそうだなこいつ!


「それじゃあ、昼食と夕食の食材、あと、一応テントも持っていこうか」

「テントは別にいらないだろ。今日中に見つからなかったら、一旦帰ればいいんだし……」

「念のためだよ。最悪、遭難とかする可能性もあるからね」

「あ、確かに……」

「だったら、もっと食べ物持っていった方がいいんじゃないの?」

「あー、それは大丈夫だ。『守護の森』には食べれる魔物や動物が結構いるからな。調理器具さえあれば何ヶ月でも過ごせるぞ」

「いや、何ヶ月も過ごす気はないけどな!?」

「グリーなら食用になるかどうかぐらい判別できんだろ?」

「まぁ、ある程度はね」

「うわ、無視された……」


とりあえず、宿屋から調理器具やテントを持ってきて、準備は完了、と。


「んじゃ、頼んだぜ。適当にがんばれ」

「やる気なくすな、おい……」

「んじゃ、死ぬ気で頑張れ」

「極端だなてめぇ!!」

「ほらハディくん、これから下手すると一日中歩くことになるんだから、無駄な体力は使わない方がいいよ?」

「お、おう……」


それもそうだな。ツッコミも体力使うからな……。


「死んだら骨は拾ってやるよ」

「なんでそういうことばっかり言うかなてめぇは!!」

「んじゃ、拾わねぇ」

「そういうこっちゃねぇよ!!」

「ハディくん、乗せられてる乗せられてる」

「あはは、ハディって単純だもんねー」

「お前には言われたくねぇ!!」

「ほら、無駄話はこれぐらいにして、そろそろ送るぞ」

「てめぇだ無駄話を始めたのは!!」

「あーはいはい、んじゃな。空間転移(テレポート)


カオスが魔法を発動し、次の瞬間、俺達は巨大な森の前にいた。


「っと、いきなりだとやっぱり驚くな、これ」

「……これが、『守護の森』だね」

「おう……正面からじゃよく分からないけど、とりあえずかなりでかいっぽいな」


目の前には、無数の木々が茂っている。

森だから当たり前だけど、昼前にもかかわらず、中は薄暗いとここからでも分かる。


「グリー、そういやここってどんな魔物が出るんだ?」

「そんなに強力なのはいないけど、キラーウルフが出ることがあるらしい。油断は禁物だよ」

「キラーウルフか……ま、3人なら大丈夫だよな」


俺1人だったら苦戦するけど、メリスとグリーが一緒なら、普通に倒せるはずだ。


「それじゃ行こうか。ここで立っててもしょうがないからね」

「おう!」

「出発進行ー!!」

「元気だなお前……」


無駄にテンションの高いメリスに呆れつつ、俺達は『守護の森』へと入っていった……。











~サイドアウト~


「………行ったか」


タルト町の出店の中で、カオスは呟いた。


「さて、ここまではおおむね計画通りだな。

 ……なんのイレギュラーもないのが、少しつまんねぇけど」


小さくあくびをして、さらに続ける。


「後は釣れる(・・・)のを待つだけか……あー、それまで暇だな。

 ……寝るか」


机に体を預け、カオスはその場で昼寝を始めた……。











では、次回予告です!


「グリーだよ。

 『願いの珠』の手掛かりを求めて、『守護の森』を歩く僕達。

 日も暮れ始めた頃、僕達は1軒の家を発見するんだ。

 次回、冒険者ライフ!第47話『森の中の家』。

 ……とりあえず、無関係ではなさそうだね」



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