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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第五章 伝説
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第44話 冒険者の試練


「101……102……」


翌朝、俺はいつも通り外に出て、剣の素振りをしていた。

昨日あれだけ修業したから筋肉痛が心配だったけど……驚いたことに、体の調子は怖いぐらいに良い。筋肉痛どころか、全身に力がみなぎってる感じだ。

昨日カオスがかけてくれた、あの魔法のおかげか……?


「……200、っと」


200回の素振りを終えるが、いつもと違ってそんなに息が上がってない。まぁ、昨日は1000回とかやらされたしな。

もう少し回数を増やすか……いや、今日は審査があるんだし、下手なことはしない方がいいか。

いつも通りの平常心で臨む、それが審査に受かる秘訣だ。

……まぁ、やっぱり緊張はするし、少しぐらいなら緊張も必要だろうけど。


「さてと、次はランニングだ」


剣を鞘に収めると、俺は軽く屈伸してから、ランニングを始めた。






「おかわりー!!」

「………」


今日3度目の台詞に、俺はため息をつきたくなった。

説明しよう。

1つ、今は朝食の時間である。

2つ、メリスがご飯をおかわりするのは3回目である。

3つ、朝食が始まってまだ1分しか経ってない。


「……本当に人間じゃないな(いつにもまして食うな)お前(メリス)

「待ってハディ、今2つの台詞が聞こえた気がする」

「気のせいだろ」


メリスの鋭い指摘を適当に流す。

……ってか今どうやってしゃべったんだろう、俺。


「だって、昨日あれだけ修業したんだから。お腹ペッコペコ!!」

「それにしても限度ってもんが……ないか、お前には」

「うん!!」


自信満々に言い切ったなこいつ。太るぞ。


「何か言った?ハディ」

「言ってねぇ!!言ってねぇから『集中』すんな!!」


メリスの体が赤く光ったのを見て、急いでやめさせる。

建物の中で炎魔法とかシャレにならないだろ!ってか、俺本当に何にも言ってないぞ!!


「とはいってもメリス。あんまり早く食べるのは感心しないよ?

 そんなに急がなくても、食べ物は逃げたりしないんだからさ」

「う……ごめんなさい、兄さん」

「分かってくれればいいんだ」


反省した様子のメリスに、グリーがにっこりとほほ笑む。

……なんか、俺の時と反応が違いすぎないか。


「ハディは言い方がひどいんだよ。ケンカを売ってるみたい」

「ハディくん、同じ内容でも言い方次第で印象が大きく違うんだ。ちゃんと考えて話しなよ」

「なんで俺だけ責められるんだ!?」


俺なんか悪いことしたっけ!?


「ごちそうさまー!」


考えてるうちにメリスの食事は終わっていた。

……時間にして約30秒だ。


「兄さん、試験って何時からだっけ?」

「E(クラス)の試験は9時からだよ。C(クラス)は午後1時から」

「確か、EとD、CとBは同時にやるんだよな」

「うん。もちろん違う部屋でやるけどね」

「あれ、A(クラス)は?」

「ねぇよ。今日やるのはEからBまでだ」

「え?なんで?」

「なんでって……」


小首を傾げるメリス。

そっか、こいつ今まで受けてなかったし、冒険者の試験について詳しく知らないのか。


「A(クラス)は他と違って、ギルドの本部で、年に1回しか審査が行われないんだよ」

「本部?」

「……それも知らないのかよ」

「冒険者ギルドは1つの国に4~6つ程あるんだけど、普通のギルドとは別に、首都に本部が置かれてるんだ。

 当然、この国の場合は首都ケーキにあるよ」

「まぁ本部って言っても、違いは建物が大きいのと、審査が他よりも頻繁に行われるってことぐらいだろ」

「後はさっき言った通り、A(クラス)の審査が行われるってことだね」

「ふーん……そういえば、A(クラス)冒険者って世界でもあんまりいないんだよね?

 やっぱり受かるの難しいのかな?」

「……難しいなんてレベルじゃないだろ」

「A(クラス)冒険者の数は、現在約150人。

 去年この国で行われた審査では、300名以上のB(クラス)冒険者が挑戦したけど、受かったのはたったの1名だそうだよ」

「1人!?」

「1000人受けて誰も受からないとかザラらしいからね」

「………」


なんつーか、前も思ったけど……。


「なんか……A(クラス)だけ、他よりも異常に厳しくないか?

 人数もめちゃくちゃ少ないし……」

「まぁ、ね。でも、それも仕方ないことだよ」

「……仕方ない?」

「そうだね……ハディくん、E(クラス)冒険者の戦闘力の目安、知ってるだろう?」

「え、えー……ワイルドウルフを1人で倒せる、だっけ?」

「正解、あくまで目安だけどね。

 A(クラス)にも似たような目安があるんだよ」

「……どんなだ?」

「前に、ジェネラルドラゴンと対峙したことがあるだろう?」

「あぁ、あるけど……」

「あれを1人で倒せる、それがA(クラス)冒険者の目安だ」

「………」


いや、無理だろ。


「他の例えだと……ブラッディヴァイン。あれを無傷で秒殺できる人間だ」

「人間じゃないだろそれ!!」

「『銀狼』や『星の賢者』ならできるだろう」

「………」


あ、あーなるほどな。そういうことか。

“ああいう人種”じゃないとなれないってことか、A(クラス)。そりゃ少ないわ。


「でも、それならB(クラス)ももっと少ないはずじゃ?」


浮かんだ疑問をグリーに言う。

(クラス)冒険者は世界に約5万人だ。A(クラス)と比べて多すぎないか?


「B(クラス)冒険者の目安は危険度C、つまりミドルドラゴンやブラッディヴァインを1人で倒せる、だよ」

「いや、それ十分化け物……」

「危険度Cと危険度Bの魔物では、少なくとも人間にとって、大きな違いがあるんだ」

「違い?」

「基礎魔法レベル3が効くかどうか、だよ。

 例えばブレイアム。ミドルドラゴンやブラッディヴァインには大きなダメージが与えられるけど、ジェネラルドラゴンにぶつけてもほとんど効かないだろう。

 ジェネラルドラゴンを魔法で倒したいなら、それこそ基礎魔法レベル4でもないと、決定打にならない」

「……そっか、基礎魔法レベル4って、人間の力だけじゃ習得できないんだっけ?」

「そう。魔法使いでは、基礎魔法レベル4並の魔法を習得しているか、もしくは大魔導師(ハイウィザード)に近い魔力でも持ってない限り、A(クラス)冒険者になるのは難しいんだ。

 一方B(クラス)なら、基礎魔法レベル3を習得して、後は相応の魔力を持ってれば望める。一般レベルの魔法使いでは、B(クラス)が終着点って言っても過言じゃないんだ」


もちろん、B(クラス)も普通とは程遠いけど、とグリーが付け加える。


「剣士の例えだと……例えば君でも、コンクリートを斬るぐらいならできるだろう?」

「……まぁ、無理ではないな。一太刀じゃ無理だけど」

「鉄を斬れって言われたら?」

「無理」


できるか、んなこと。


「A(クラス)冒険者なら一刀両断だよ。でも、B(クラス)冒険者は難しいだろうね」

「……なんとなく分かった。

 ようするに、A(クラス)は人間の域を超越してるわけだ。で、それに比べれば、B(クラス)はまだ人の域を出てないってことか」

「そんな感じかな。自分の得意分野を限界まで鍛え上げればB(クラス)にはなれる。だけど、A(クラス)はそれだけじゃなれない。だから数が異常に少ないんだ。

 ……実際には他にも、A(クラス)は地位が高すぎるから多くなり過ぎないようにしてるとか、そこまで極めた後は引退する人が多いとか、いくつか理由があるんだけどね」

「……そういう裏の事情は、冒険者としてはあんまり聞きたくねぇんだけど」

「まぁ、その辺りは噂の域を出ないけどね。

 ……さて、話し込んでる内に、そろそろ時間だ」


時計を見ると、針は8時30を指していた。


「メリス、心の準備はいいか?」

「もっちろん!!」

「まぁ、そんなに気負わずに、平常心でね」

「うん!!」


宿屋を出て徒歩20分、冒険者ギルドの前に着く。

10分前だからか、結構人が集まってる。200……いや、300人はいるな。


「この人達みんな、E(クラス)の試験を受ける人達かな?」

「いや、D(クラス)を受けにきた人もいるだろ。中に入ってから分かれて、別の部屋で受けるんだ」

「それに、見送りの人もいるだろうけどね。

 ……E(クラス)を受けにきた人達は、冒険者の卵ってところかな」

「私も?」

「……お前はもう、冒険者として依頼こなしてるけどな」


依頼こなしてるくせに冒険者の資格持ってないってのも、結構珍しいだろうな……。

と、そうこうしてるうちに、ギルドの扉が開いた。

集まっていた人達が、我先にと中に入っていく。


「がんばってねメリス!」

「油断して失敗するなよ?」

「分かってるって!それじゃ、行ってきまーす!!」


俺達に笑顔を残し、メリスは試験へと向かって行った。




……1時間後。




「……ただいまー」

「おー、おかえ……」

「おかえりメリス!!どうだったんだい!?」


俺の言葉をさえぎり、グリーが大声で叫ぶ。

……受験生の母親かお前は。


「えっと、それが……」


メリスが困惑気味な顔をする。

……まさか、失敗でもしたのか……!?


「ワイルドウルフを2匹フレイアで倒したら、もういいですって言われて……」

『………』


メリスの返答を聞き、俺とグリーは顔を見合わせる。

ワイルドウルフ、危険度E以下の低位魔獣だ。E(クラス)冒険者は1人でこいつを倒せなきゃいけないって言われてる。

逆にいえば、こいつを1人で倒せればE(クラス)冒険者並の戦闘力を持ってると考えることができる。

……ふむ、なるほどな。


「合格おめでとうメリス!!」

「ま、心配なんてしてなかったけどな」

「え、え!?」

「いや、正直驚くようなことじゃないだろ」


ってか、普通に考えて『魔導師(ウィザード)』がE(クラス)に落ちるわけないし。


「……こんなに簡単に、受かるものなの?」

「簡単って……まぁ、お前にとっちゃ簡単だろうよ。仮にも『魔導師(ウィザード)』だろ、お前」

「そうだけど……」

「ってか、E(クラス)でつまずいてたら、いつまでたってもプラムさんやランディアさんに追いつけないぞ」

「あ……そ、そうだよね!!」


メリスの顔から戸惑いが消え、表情が明るくなる。

それを見て安心するのと同時に、少し緊張してきた。


「さて、次は俺達の番か」

「っていっても、まだ3時間あるけどね」

「いやでも、ちょっと緊張してきた……」

「まだ緊張するには早いよ。まぁ、仕方ないことだろうけど」

「そういうグリーはどうなんだよ?」

「………」


返答がない。やっぱ緊張するよな。


「ほら2人とも!審査はお昼の後なんだから!いっぱいご飯食べてがんばって!!」

「いや、早ぇよ!まだ10時だぞ!?」

「でも、お昼は早めに食べた方がいいかもね。食べてすぐだと、うまく動けないし」

「うん!!それじゃ行こう!!」

「行かねぇよ!!せめて12時まで待て!!」

「えー……」


話し合いの結果、お昼は11時半に食べることになった。

その後、町を歩いて緊張をまぎらわせていると、あっという間に時間は12時半に。少し早いけど、冒険者ギルドへ向かうことにした。


「だいぶ集まってるな……」

「午前の部に比べたら、人数は少ないけどね」


グリーの言う通り、集まってる人数は100人前後だ。

それに、午前と比べて年齢層も高いな。多くの人が見た目30代以上だ。

と、その中に見知った顔を見つける。……正確には、髪の色で分かったんだけど。

俺がそいつを見つけたのとほぼ同時に、そいつは振り返り、俺達に不敵な笑みを向けた。


「よー」

「見送りに来てくれたのか?カオス」

「おう、“高みの見物”に来てやったぞ」

「……なんでわざわざ気に障る言い方するかな、お前は」


ってか、“高みの見物”って……実際に審査を受けてる所を見るわけじゃあるまいし。

審査が公開されることもあるらしいけど、とりあえず今回はされてないはずだ。


「あれ、カオスさん。私E(クラス)受けてたんだけど……」

「見てねぇよ。受かると分かってるのをわざわざ見る必要ないだろ」


そういってあくびをするカオス。

……寝てたのか?こいつ。


「ま、お前ら2人は受かるかどうか微妙だからな。見物に来たんだ」

「……そりゃどーも」

「落ちたら腹を抱えて笑ってやる」

「………」


落ち着け俺!殴っちゃダメだ!!

……とりあえず、話題を変えよう。


「カオスはC(クラス)の審査、受けたことあるんだよな?」

「おう、3年以上前だけどな」

「じゃあ、審査の内容とか……」

「覚えてるけど教えねぇ。行ってからのお楽しみだ」

「………」


俺の言わんとしたことを察したらしく、先手を打たれる。……理由がちょっと納得いかないんだけど。


「そもそも、冒険者の審査は戦闘だろ。それに相手も毎回違う。

 前の審査内容を知った所で、ほとんど意味なんてねーよ」

「でも、どれぐらいの強さの相手なのか、とか……」

「C(クラス)の審査なら、危険度Eの強い部類から危険度Dぐらいまでだろ。

 今言った通り相手は毎回違うから、弱点とか調べても意味ねぇし」

「……それもそうか」


と、少し話している内に、再びギルドが開く。


「2人とも、がんばってね!!」

「おう!」

「心配いらないよメリス。絶対に受かってくるからね!」


手を振るメリスに小さく振り返し、ギルドの中へと向かう。


「精々がんばれよー」

「……うるせぇな。絶対受かってやるから待っとけ!!」


入る直前、聞こえてきた声に言い返し、ギルドへと入った。

少し奥まで進むと、左右に道が分かれている。左にC、右にBと書いてあるから、当然左へと進む。

と、角を曲がってすぐのところに待合室があったので、そこへ入る。

中は結構広く、70人ぐらい人がいるけど、席は半分も埋まってなかった。

……半分ぐらいは、20代後半から30代ぐらいの人だな。後は40代以上っぽい……。

なんか、俺達より年上ばっかりだ。D(クラス)の審査の時は、同年代の人も結構いたんだけど……。

審査の前だからか、みんなピリピリしてるな。俺やグリーももちろん緊張してるけど、その比じゃない。

座って少し待っていると、ギルドの職員らしき男性が入ってきた。


「皆様お待たせしました。早速ですが、審査を始めたいと思います。名前を呼ばれた方から順に、奥へと進んで下さい」


まず、5人の名前が呼ばれる。

……ってことは、審査会場は5つあるのか。


「確か審査を受けるのって、申請を出した順なんだよな?」

「うん。だから僕達は最後の方になるだろうね」

「となると、結構待ちそうだな……」


と、1分も経たないうちに、また1人名前が呼ばれた。


「……早いな」

「メリスみたいにあっという間に実力を見せつけたか、もしくはその逆か、だね」


審査官が合格、不合格を判断するまで審査は続くため、審査時間は人によりけりだ。

短い人はそれこそ1分かからないし、長い人は20分以上かかる。


「まぁ、C(クラス)だからまだそれぐらいだろうけど、B(クラス)やA(クラス)は1人1人にもっと時間がかかるんじゃないかな。

 その代わり人数は少ないだろうけど」

「じゃあ、全体にかかる時間は一緒ぐらいか」

「受験者にもよるだろうけどね」


雑談をしている内に時間は流れ……待ち始めて約1時間後、ようやく俺達の名前が呼ばれる。2人同時に。


「珍しいこともあるもんだな」

「ま、5つ会場があれば、こういうこともあるんじゃないかい?」


職員の人の案内で廊下を歩いていると、小さく、魔物を斬る音や何かが叩きつけられる音が聞こえる。防音はしてるんだろうけど、やっぱり少しは聞こえてくるな。

と、1つの扉の前で、職員の人が歩みを止める。


「グルード・テーナス様はこちらへどうぞ」

「はい」


言われるままに、グリーは扉を開ける。


「しっかりな」

「君もね」


最後に一声かけると、グリーは中へと入っていった。

またしばらく歩き、一番奥にある扉へと案内される。


「ハディ・トレイト様はこちらになります」

「はい」


一度深呼吸して、扉を開く。

部屋の大きさは横、奥行き共に10mぐらいだろうか。床や壁は頑丈なコンクリートでできていて……一応掃除はされたんだろうけど、前の審査によってであろう、魔物の血痕が残っている。

俺から見て右側には小さな部屋があって、この部屋とは透明な壁で区切られている。審査官はあそこから見て、審査するんだろう。

部屋の中央に、1人の男性が立っていた。

その男性は俺の顔を見るなり、少し驚いた表情になる。


「おや、あなたは……」

「え?」

「あぁ、いえ……こんにちは、私はギルド所属の冒険者、シント・ブライト。

 この度、あなたの審査を担当させて頂きます」


人当たりの良い笑みを浮かべ、自己紹介をしてくれる。

薄い金色の髪は、髪質が固いのか逆立っていて、瞳は薄い栗色だ。歳は俺と同じぐらいだろうか。


「ハディ・トレイトです。よろしくお願いします!」


こちらも自己紹介をして、一礼をする。


「それでは早速審査を始めたいところですが、その前に……」

「あ、はい」


言われる前に、左腕につけた鉄の腕輪を見せる。

たぶん、念のため、本当にD(クラス)冒険者なのか、確認をしたかったんだろう。


「はい、それでは始めましょう」


シントさんはにっこりと笑うと、透明な壁にある扉をくぐり、隣の部屋へと入る。

その直後、俺が入ってきた扉のちょうど向かい側にある扉から、2匹の魔物が檻から出され、部屋へと入れられた。


「ハンターウルフ……!」


ワイルドウルフと同じぐらいの大きさの、灰色の狼。

危険度Eの魔物だが、その中では強い部類だ。

昨日は『狩人の庭』で散々苦しめられたんだよな……!


「グルルルルルル……!!」


2匹は俺の姿を見るや否や戦闘態勢になった。

そして、


「グオオオオオオオオオオ!!」


1匹のハンターウルフが俺に向かって飛びかかってくる。

身をひるがえしてかわすと、それを見計らったようなタイミングでもう一匹が飛びかかってきた。

普通なら、とっさに対応するのは難しいかもしれない。

……だけど、


「悪いな。それはもう慣れた!!」


1匹目をかわすのと同時に握っておいた剣の柄に力を込め、抜刀の勢いでハンターウルフを切り裂く。

次いで、後ろから飛びかかってきたハンターウルフをかわし、一刀の下に斬り伏せる。

昨日もこんな感じで襲いかかってきたからな。それも、5匹とか8匹だった。おかげで、2匹ぐらいなら余裕だ。

一息つくと、次の魔物が部屋に入れられる。


「げっ……!」


入ってきた魔物を見て、思わず声を上げる。

体長2m程の黒い狼……!


「キラーウルフ……!!」


間違いない、チョコレート町防衛戦で戦った魔物だ。

あの時は、レイラやメリスがいたから普通に倒せたけど、正直俺1人じゃ手に余る……。


「……いや、そんなこと言ってられないか」


ゆっくりと、夜桜を構える。


「こいつの強さは確か、危険度Dの中では、並より少し弱いぐらい。

 C(クラス)冒険者なら、1人で倒せなきゃだめだ!」


俺の戦意に気づいたのか、キラーウルフも戦闘態勢になる。


「グガアアアアアアアア!!!」


咆哮と共に、もの凄い勢いで突進してきた。

これをまともに受けるのは、まずい!

ぎりぎりのところでかわすと、キラーウルフは俺が入ってきた扉に激突する。

轟音が部屋に響き渡るが、特殊な加工でもしてあるのか、扉にはひび1つ入っていない。

それより、ぶつかった反動でキラーウルフがよろめいてる!チャンスだ!

剣を振りかぶり、間合いを詰めたその時、キラーウルフが振りかえった。


「っ!!」


突き出された爪が脇腹をかするが、それに構わず、剣を振り下ろす。

横腹を狙いたかったけど、とっさに爪をかわしたせいで体勢が崩れ、左の前足を浅く切り裂くにとどまる。


「グガアアアッ!!」

「うおっと!!」


痛みに激昂したのか、牙を向けて襲いかかってきたため、左へ移動してかわす。

そのまま懐へ入り、ガラ空きの腹へ一閃!!

今度はうまく決まり、腹を深く斬りつけることに成功する。

しかし、


「ガアアアアァァァ!!!」

「ぐっ!!」


キラーウルフは怒りゆえか、腹を斬られたことなど意に介さず、体当たりしてきた。

当然、目の前にいた俺はよけられず、剣で受け止めてなんとか衝撃を緩和する。しかし、2mの巨体を持つ狼の体当たりだ。こらえきれず、後ろに吹き飛ばされる。

壁にはぶつからずに済んだが、衝撃で体中が痛む。


「グゥゥゥゥ……」

「くっ……まだやるか……!!」


夜桜をキラーウルフに向ける。

……十数秒だろうか、俺とキラーウルフは互いに一歩も動かず、荒い呼吸の音だけがその場を支配する。

そして……キラーウルフは、ゆっくりとその場に倒れ伏した。


「……あ……」


……倒した、のか?

俺一人で、危険度Dの魔物を……。

なんだか実感がわかないでいた、その時。

パチパチ……と、小さく拍手の音が聞こえた。見ると、シントさんが隣の部屋から出てきていた。


「お見事です。キラーウルフを1人で倒せるとは」

「あ……ありがとうございます!」


審査官にほめられた……これは、もしかして……!!


「さて、お疲れの所申し訳ありませんが、もう一戦お願いいたします」

「え?」


もう一戦……!?

流石に、今からキラーウルフより強い魔物と戦うのはきついんだけど……。

俺が戸惑っている間に、ギルドの職員……もしくはバイトかなにかだろうか。3人の男がハンターウルフとキラーウルフの亡骸を片づけ、床についた血を水で洗い流す。

簡単に清掃が終わると、シントさんは俺の前に立ち、ゆっくりと剣を抜いた。


「………え?」

「タルト町冒険者ギルド所属、C(クラス)冒険者、『光芒の剣士』シント・ブライト。

 ……参ります」


シントさんは『名乗り』を上げ、剣をまっすぐ、俺に突き付ける。

その顔にさっきまでの笑顔はなく、薄い栗色の瞳には、好戦的な光が宿っていた。











では、次回予告です!


「ハディだ!

 突然、剣を突きつけてきた審査官。

 C(クラス)冒険者との戦い、その結末は……!?

 次回!冒険者ライフ!第45話『企み』!

 勝負は時の運って言うしな。相手の方が強いからって、絶対負けるとは限らないだろ!」


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