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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第五章 伝説
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第39話 路地裏の悪魔


「多人数で1人をボコるとか、そんなことしてて楽しいのか?」


『路地裏の悪魔』はそういってまゆをひそめる。

しかし、それは不良達を非難しているというより、ただ単にバカにしているような言い方だった。

一方、不良達はというと、相手が『路地裏の悪魔』だと知って少しは驚いたものの、自分達の方が人数で勝っているからか、余裕の表情になっていた。

実際、そう思うのも不思議じゃない。光を全く反射していないかのような、漆黒の髪と目は正直不気味だけど、それを除けばただの青年にしか見えない。

不良の1人が下卑た笑みを浮かべる。


「楽しいに決まってるだろ。楽しいことをやって何が悪いんだ?」


そう言って、3人の不良は笑い出す。

こいつら……!

怒りのままに不良達をにらみつけるが、3人は俺に気づいてもいない。

俺が歩き出そうとした、その時。『路地裏の悪魔』が口を開いた。


「楽しいことをやって何が悪い、ねぇ。良いこと言うじゃねぇか」


不良の言った言葉を繰り返し、不敵な笑みを浮かべる。


「だったら、今から俺がやることにも、文句なんて言うなよ?」


瞬間……『路地裏の悪魔』の姿がかき消えた。

……まるで、元々そこにはいなかったかのように。

それに不良達が驚く……前に。

さっきまで少年の胸ぐらをつかんでいた不良が吹き飛び、壁に激突して気絶した。


「………は………?」


気づけば、不良達から8m程離れた場所に立っていた『路地裏の悪魔』は、不良達の目の前に立っていた。手を開き、右腕をまっすぐ前に突き出した状態で。

……その瞬間、不良達は理解したのだろう。

今、仲間が吹き飛んだのは、『路地裏の悪魔』が……押した(・・・)からだと。


「て、てめぇっ!!」

「おいおい、何怒ってんだ?」


激昂する2人の不良に、『路地裏の悪魔』は嘲笑を向ける。


「さっきてめぇらが言ったじゃねぇか。『楽しいことをやって何が悪い?』ってよ。

 俺は、お前らみたいなクズをぶっ飛ばすのが楽しいんだ。

 “楽しいことをやって何が悪い?”」

「ふざけんなぁっ!!」


不良の1人がナイフを取り出し、『路地裏の悪魔』に襲いかかる。

しかし、またも『路地裏の悪魔』の姿がかき消え、ナイフは虚空を切るだけだった。


「なっ!?」


驚いたのとほぼ同時に、不良の体が宙に浮く。

後ろからえり首をつかまれた不良は、浮いた状態から地面へと叩きつけられた。


「がはっ……!!」


背中を強く打ちつけ、意識を失う。

不良を片手で投げた『路地裏の悪魔』は、その不良が気絶したのを確認すると、残った1人へと目を向ける。


「ひぃっ!!」


漆黒の瞳で見据えられ、その不良は小さく悲鳴を上げる。

ここまできて、ようやく理解したんだろう。

目の前の青年が、自分達では手も足も出ないような、『化け物』だと。


「さて、後はてめぇだけだな」

「ひっ……!」


その不良は気おされるままに後ずさるが、すぐに壁へとぶつかってしまう。

逃げ場所を失い、へたへたとその場に座り込んでしまった。


「ま、待て!助けてくれ!お、俺が悪かった!!」

「………」

「も、もうかつあげなんてしない!!絶対しない!!だ、だから……」


命乞いをする不良に、『路地裏の悪魔』は変わらず嘲笑を向けたままだ。

そして……『路地裏の悪魔』の体が、黒く光った。


「闇よ集え」


突き出された右手に、直径15cmぐらいの黒い球体が現れる。

……闇属性基礎魔法レベル1、シャド。

それを理解した瞬間、俺は走り出していた。


「シャ……」

「やめろ!!」


今にも魔法を発動しそうな、『路地裏の悪魔』の右腕をつかむ。

普通、予想外のことが起これば、魔法への集中を欠いてしまい、魔法は中断される。

しかし、俺が右腕をつかんでも、『路地裏の悪魔』は驚いた顔一つしなかった。

魔法も中断されず、右手には黒い球体が残ったままだ。

数秒、『路地裏の悪魔』とにらみ合いが続く。

と、『路地裏の悪魔』がめんどくさそうにため息をつき、黒い球体を霧散させた。


「なんだよお前。このタイミングで出てくるのか?」

「っ!」


俺に気づいてたのか。どおりで驚かないわけだ。


「もう、十分だろ。これ以上やる必要なんてない!」

「そうだな。でもやるぞ」

「何でだ!?」


『路地裏の悪魔』をにらみつけると、相手は不敵な笑みを返してきた。


「“楽しいことをやって何が悪い?”」

「っ!!」


瞬間、とてつもない寒気に襲われ、手を離してしまう。

今までも、戦いの中で何度か体験したことがある。

いや、今まで感じたものとは比較にならないぐらい……とんでもない、殺気……!!


「う、うおおおおおおおおおっっ!!!」


突然、へたりこんでいた不良がナイフを手に持ち、『路地裏の悪魔』に突き出してきた。


「危な……!」


俺が言い切るよりも早く、ナイフは『路地裏の悪魔』に刺さる……はずだった。

『路地裏の悪魔』が、目線を俺に向けたまま、ナイフを素手でつかまなければ。


「なっ……!?」


奇襲に失敗した不良は、目を丸くしていた。

だが、これだけでは終わらなかった。



バギャァァッ!!



『っ!!?』


豪快な音と共に、ナイフの刃の部分が砕け散る。

不良の持ったナイフは、今や柄の部分しか残っていない。

何が起こったのか、理解するのに数秒かかった。


『路地裏の悪魔』が、素手でナイフを握りつぶした、と。


「ひ、ひいいいいいぃぃぃぃぃっ!!!ば、化け物っ!!」


柄だけになったナイフを手から離し、不良は思い切り後ろへと走り出そうとした。

しかし、当然そこには変わらず壁があり、通れない。

次に俺が来た道へと走り去ろうとするが、その道には……。


「う、うわあああああああっ!!」


さっきまで俺の目の前にいたはずの『路地裏の悪魔』が、腕を組んで立っていた。

急いでまた別の道へと逃げようとするが、慌てていたせいか、足がもつれて転倒してしまう。

そうして動けなくなった不良に、『路地裏の悪魔』はゆっくりと近づいていく。


「く、来るな!!来るな、化け物!!!」

「化け物化け物って、そんなにほめんなよ。照れるだろ」


不良が悲痛な叫びを上げるが、『路地裏の悪魔』は歩みを止めない。


「た、頼む!!助け、助けてくれ!!俺が悪かった!!

 も、もうかつあげなんてしない!!これからは、まっとうに生きる!!

 だ、だから……!!」

「そのセリフ……」


『路地裏の悪魔』の体が、黒く光る。


「さっきも聞いたぜ?」


黒い球体が現れる……その前に。

俺は、もう一度『路地裏の悪魔』の右腕をつかんだ。


「やめろって、さっきも言っただろ!!」

「………」


『路地裏の悪魔』は大きくため息をつき、めんどくさそうな顔を俺に向けてきた。


「おいおい、まだこいつをかばうのかよ?

 さっきので、こいつが反省してないってことぐらい、分かっただろ?」

「………別に、これ以上そいつをかばう気なんてねぇよ。

 明らかに自業自得だし、俺はそこまでお人好しじゃない」

「じゃあ、これは何のつもりだ?」


ぐい、と俺につかまれた右腕を突き出してくる。

俺はつかむ力を緩めず、『路地裏の悪魔』をにらみつけた。


「もっと、周りを見ろ!!」

「あ?」


俺がその方向を向き、『路地裏の悪魔』にもそれを促す。

そこには、座り込み、おびえた表情で俺達を見ている、1人の少年がいた。

……そう、この不良達にかつあげをされていた少年だ。


「この子が何におびえてるのか、分からないのか?」


最初は、間違いなく不良達におびえていたんだろう。

でも、今は違う。


「この子は……不良達に一方的に暴力を加える、お前におびえてるんだよ!!」


初めは、助けてくれたんだと、喜んでいたと思う。

だけど、『路地裏の悪魔』は不良達に、必要以上に攻撃をした。

それを見て、おびえるなという方が無理がある。


「分かっただろ?もう、これ以上は……!」

「それがどうかしたのか?」

「っ!?」


『路地裏の悪魔』は特に驚きもせず、俺へ顔を戻す。


「何で俺がわざわざ、そんなことに気をつかわなきゃいけないんだ?」

「何で、って……。お前は、この子を助けようとしたんだろ!?

 だったら……」

「おいおい、何勘違いしてるんだ?

 お前、さっき俺が言ったこと聞いてなかったのか?」

「え……?」


思わず固まる俺に、『路地裏の悪魔』は不敵な笑みを向けた。


「俺はかつあげをする連中が気に入らなかったからぶっ飛ばしただけだぜ?

 別にそいつを助けたくてやったわけじゃねぇぞ」

「っ!!」


……確かに、そう言っていた。

“俺はお前らみたいなクズをぶっ飛ばすのが楽しいんだ”、“楽しいことをやって何が悪い?”、と。

本当に、そんな理由で……!!


「だが、まぁ……」


『路地裏の悪魔』は小さく笑みを浮かべると、『集中』を開始した。


「やめ……!」

「スリープ」


ボウッ!と紫色の霧が不良をおおい、数秒後、霧が晴れた後には、眠りに落ちた不良が残っていた。


「これならいいだろ?」

「お前、なんで……」


俺の説得は失敗したはず。なのに……。

疑問に思っていると、『路地裏の悪魔』は不敵な笑みを浮かべた。


「『化け物』である俺に意見してきた、その勇気に免じてやる」

「………」


『化け物』。

確かにさっき、不良は『路地裏の悪魔』にそう言っていた。

だけど……普通、自分でそんなことを言うか?

別にふてくされてるような様子でもなく、まるで、自分が『化け物』だと言われることを、完全に受け入れているようだった。


「それじゃ、こいつらの後始末は俺がやっとくからよ。お前はそのガキを送ってやれよ」

「後始末……」

「なんだ、不安ならお前も残るか?その場合、そのガキは1人で帰ることになるぜ?」

「う……」


ちらっと少年を見ると、やっぱりまだおびえた様子だった。

怖がらせないよう、できるだけ優しく話しかける。


「なぁ、家はどこにあるんだ?」

「え……町の、真ん中の方……宿屋の、近く……」

「……となると、ここからだいぶ距離があるな」


少年の様子からして、それだけの距離を1人で帰らせるってのは、少し心配だ。

……うん。やっぱり、送っていくべきだな。


「それじゃ……任せて、いいんだな?」

「おー」


『路地裏の悪魔』は先程までとは違い、気の抜けた声を返してくる。

……まぁ、これ以上暴力を加えたりなんて、しないよな。きっと。


「それじゃ、ついてきてくれ。家まで送るから」

「あ……はい……」


少年に声をかけ、路地裏から出ていく。

しかし、途中で少年は立ち止まり、『路地裏の悪魔』へ顔を向けた。


「あ、あの!」

「あん?」

「……あ、ありがとう、ございました!」


突然お礼を言われ、『路地裏の悪魔』の顔が、一瞬だけ固まる。


「……礼なんて言う必要ねぇぞ。

 俺は自分がやりたいことをやっただけだ」

「それでも!俺は、助かりました、から……」


数秒、その場を沈黙が支配する。

と、『路地裏の悪魔』が楽しげな笑みを浮かべた。


「おう。もうこんな所に来るんじゃねぇぞ」

「あ……はい!」


青年の言葉を受けて、少年は笑みを返す。

その表情には、もうおびえた様子はなかった。


「うれしそうだな。助ける気はなかったなんて言ってたくせに」

「お礼を言われたら嬉しいに決まってるだろ」


からかうつもりで言ったんだが、呆れた様子で返される。

別に照れてるとかじゃなくて、この人にとっては、これが普通なように感じられた。

……でも、1つ確信できた。

この人は、『悪魔』でも『化け物』でもない。

れっきとした、『人間』だって。


「行こうか」

「あ、はい!」


少年は最後にもう一度、青年に頭を下げ、俺と共に、路地裏から出ていった。











~サイドアウト~






「さて、と」


2人が去った後、『路地裏の悪魔』はおもむろに通信機を取り出した。

番号を押し、それを耳に当てる。


『はい、こちらスイーツ王国軍タルト町支部……』

「タート大佐につないでくれ」

『失礼ですが、どちら様ですか?』

「カオス、そう言えば分かる」

『少々お待ち下さい』


数秒の沈黙の後、通信機の声が中年の男のものに変わる。


『はい、こちらタート。カオスくんかい?』

「よぉ、大佐。用件は分かるな?」

『……またかい。場所は?』

「郊外の路地裏」

『分かった、この時間なら近くに警邏(けいら)の者がいるはずだ。すぐに向かわせるよ』

「ん、頼んだ。いつも通り、少しお灸をすえてやってくれ」


青年は意識のない3人の不良を横目で見ながら言い、通信を切る。


「さて、と、待ってる間暇なんだよな……」


壁にもたれかかり、大きくあくびをする。

ふと、彼はさっきの冒険者を思い出した。


「鉄の腕輪をしてたからD(クラス)

 だが、見た感じ実力はCの下の中ってとこか」


そこまで言って、ある考えにたどりつき、小さくつぶやく。


「……そういう手もあるな。

 こっちの方が面白そうだが……ま、今の所、そこまでやる理由はない、か」









では、次回予告です!


「メリスだよ!……今回、私と兄さん出番なかったね。

 気を取り直して!

 次回、私達はタルト町の中でも特に活気のある場所、出店でにぎわってる中央広場へ向かうの!

 そこでいろいろと見て回るんだけど、ある店の前で、ハディが驚いた顔で立ち止まって……。

 次回、冒険者ライフ!第40話『伝説の冒険者』!!

 この人が、あの……!?」



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