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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第五章 伝説
53/71

第38話 タルト町


「ん……」


朝、窓から入り込む光で目を覚ます。

時計を見ると、6時10分前だった。

ゆっくり起き上がり、部屋を見渡すと、2人の仲間の内、1人の姿が見えなかった。


「ふぁ……グリーはもう行ったか」


静かに寝息を立てているメリスを見つつ、そう呟く。

洗面所で顔を洗った後、剣を持って部屋を出ていく。

もちろん、鍵をかけるのを忘れずに。

宿屋の外でゆっくりと素振りをしつつ、昨日のことを思い出す。


昨晩、俺達は予定より少し遅れて、9時半にここ、タルト町に到着した。

まぁ、30分あればなんとか間に合うと思ったんだけど、町の入口から冒険者ギルドが少し遠かったり、他にも申請書を書いてる人が結構いたり、メリスが申請書を書くのに手間取ったりしたせいで、申請書を提出したのは10時5分前と、結構ギリギリになってしまった。

といっても、間に合ったんだから特に問題はない。

後は明後日の審査に向けて、少しでも力をつけるだけだ!



「あ、おはよーハディ」

「おはよう」

「おはよう……って早いな、メリス」


30分後、朝の修業を終えて部屋に戻ると、グリーとメリスがいた。

グリーは分かるけど、この時間にメリスが起きてるって珍しいな。


「なんだか目が覚めちゃって。

 それより兄さんに聞いたんだけど、2人っていつも朝に修業してるの?」

「んー、まぁな。

 実戦で十分修業になるけど、やっぱ基礎も大切だしな」

「僕は魔法を覚えるためだけどね」

「ふーん……じゃあ、これからは私もやろっかな!」

「え……?」

「待ってハディ、なんでそんな信じられないって顔するの?」

「いや、お前が朝6時起きとか……無理だろ」

「ハディひどい!!」


俺の返答に嘆くメリスだけど、そうは言ってもな……。


「メリス、あんまり無理はしない方がいいよ。

 魔法は、一歩間違えたら命を削りかねないものなんだから」


グリーも珍しくメリスに反対意見を出す。

筋力に瞬発力と持久力があるように、魔力には強さと多さがある、そして、メリスは魔力が強い割に少ない。

つまり、強い魔法を使える代わりに、すぐに燃料切れを起こしてしまう。

実際1つの仕事だけでも、メリスが魔力を使い切るのは珍しくないからな。

そんな状態で無理に魔法を使ってしまえば、最悪寿命を削りかねないんだ。

それに、魔力を回復させる方法は、基本的に休憩だ。

その中でも一番魔力を回復できる睡眠を削るのはまずいだろ。


「だ、大丈夫だよ!

 それに私がまずしたいのは、魔力を多くする修業なの!」

「え?」

「ほら、魔法が使えなくなったら、私足手まといにしかならないから、だから、もっと魔法を多く使えるようになりたいの!」

「メリス……」


もちろん、現状メリスは足手まといになんてなってない。

それどころか、俺達の戦いでメリスは要なんだ。

でも……いや、だからこそ、メリスがもっと強くなりたいと言ってくれるのは、心強い。

そういや、グリーも前に似たようなこと言ってた気がする。なんだかんだで、この兄妹は似てる所が多いな。


「それに……」

「それに?」

「イアさんは魔力の強さより、多さの方が優れてるらしいから!!」


……そっちが本音か。


「いや、まねりゃいいってもんじゃないだろ」

「分かってるけど!!でも、少しでもイアさんに近づきたいの!!」

「そういう問題か……?

 まぁいいや、そういうことなら反対はしないけど、無理はするなよ?」

「うん!」


話が一段落ついた所で、時間を確認すると7時少し前。


「そろそろ食堂行くか」

「わーい!ご飯ご飯!!」

「……子供か」


ご飯を前に『わーい』っていう19歳ってあんまりいないと思う。

毎度のことに呆れつつ、俺達3人は食堂へ向かう。

流石にまだ朝早いので、人はまばらだった。

ここの食堂はセルフサービスなので、適当な席に座り、自分で料理を持ってくる。

今日の朝ご飯はトースト2枚とサラダ、飲み物は牛乳、そしてデザートにミカンだ。

なんか、パン食べるの久しぶりだな。


「いただきまーす」

「いっただっきまーす!!」

「いただきます」




………。




「ごちそう様ー!!」


……やばい。

最近メリスの食事スピードが物理法則を超えてる気がする。

今ここで起きた出来事を簡潔に説明しよう。

メリスが5秒で朝ご飯を完食した、以上だ。

……異常だ。今更だけど。

まず単位がおかしいだろ、5“秒”って……。

食事にかかる時間の単位は普通“分”だろ“分”。


「どうしたのハディ?変な顔して」

「お得意の読心で分かるだろ」

「えーでも、このぐらいの量なら、普通1分もかからないと思うよ?」

「いくらなんでも1分はかかるだろ!っていうかやっぱ読んでやがったな!!」


油断も隙もない……!いや、油断とかそういうの関係ない気もするけど。


「それで、これからどうするの?」

「どうって……あぁ、審査は明後日だもんな。

 まぁ、来たる審査に向けて、少しでも力をつけておく方がいいんじゃないか?」

「……妥当な考えではあるけどね。ハディくん、家計の方はどうなんだい?」

「一応、金のことはしばらく心配しなくて大丈夫だ。

 ヨーグルト町でかなり稼げたから」


特にブラッディヴァインの事件で一気に5万近く稼げたからな。

その前にチョコレート町でも結構稼いだし、最近は懐に余裕がある。


「だったら、この町を観光するのもいいかもね」

「か、観光?」

「いいの兄さん?そんなことしてて……」

「もちろん修業をするのが前提で、だよ。

 あんまり気負い過ぎても仕方ないからね」

「……それもそうだな」


休んだり遊んだりすることも大切だもんな。

もちろん、サボるのは論外だけど。


「じゃあ兄さん、この町はなにか有名なものとかあるの?」

「このタルト町は、商人の町なんだよ。

 中央広場は出店で賑わってるらしいから、昼頃になったらそこに行こうかと思うんだ」

「へー、出店か。掘り出し物とかあったらいいな」

「それもそうだけど……僕が一番捜したいのは、武器だよ」

「武器?」


グリーの発言に、メリスは首を傾げる。


「冒険者の審査や試験では、持っている武器の力も多少加味されるからね。

 少しでも強い武器を持っていた方がいい。

 メリスはそもそも武器を持ってないから、なおさら捜さないと」


そういうことか。

流石グリー。口では観光とか言いながらも、しっかり審査のことを考えてる。


「そういやそうだな、俺の剣も安物だし。

 グリーの銃は、一応年代物なんだっけ?」

「まぁね。でも、今はもっと強力な銃がいくらでもある。

 C(クラス)の審査を受けるからには、この銃じゃ少し心許ないかな」


グリーは右手に持った銃を眺めながら言う。

肌に合った物が一番とも言うけど、やっぱり武器は強いに越したことはないもんな。


「でも、出店の商品って信用できるかどうか分からないんじゃないか?」

「その辺りは自分でしっかり判断するべきだね。

 どうしても良い物が見つからなかったら町の武器屋に行けばいいし、それでもなければ諦めてもいい。良い武器がなくても、実力さえあれば審査には受かるからさ」

「だな。それじゃ、昼までは自由行動か?」

「そうなるね……」

「それじゃ、行ってきます!!」

「あ!メリスちょっとストップ!」


速攻で駆けだそうとするメリスを呼び止めるグリー。


「どうしたの兄さん?」

「ってか、まだ金を渡してないだろ」

「あ、そっか!」

「それもあるけど、2人に注意しておかなきゃいけないことがあるんだ」

「注意?」


俺達が顔を向けると、グリーは真剣な顔で話し出した。


「この町、表通りは安全なんだけど、裏通りは少し治安が悪いみたいなんだ。

 不良とか、たちの悪い連中がうろついてるそうだよ」

「別に不良ぐらい怖くないぞ。いつもは魔物相手にしてるんだし」


メリスは少し危ないかもしれないけど……。

それでも、魔力切れにでもならなければ、不良に遅れを取ったりしないだろ。


「それは分かってる。でも、ここ1週間ぐらい、路地裏で暴力事件が相次いでるらしいんだ」

「暴力事件?」

「そう。なんでも、かつあげをしてる不良達を人間離れした力でボコボコにしてる人物がいるらしい。

 そのあまりの強さに、『路地裏の悪魔』と呼ばれてるんだとか」

「『路地裏の悪魔』……?」


なんだその異名……。

ってか、


「なんで『悪魔』なんだ?かつあげしてる不良を倒してるってことは、かつあげされてる人を助けてるってことだろ?

 それなら、むしろ良い人なんじゃ……」

「……やり過ぎてるんだよ」


俺の言葉に、グリーは首を横に振る。


「ケガはそんなに大したことないらしいけど、中にはその時の恐怖を忘れられず、部屋に引きこもってしまう人もいるらしいんだ。

 もちろん、その不良達は自業自得なんだけど、そこまでやる『路地裏の悪魔』には、やっぱり気をつけた方がいい」

「そういうことか」

「……それと、その『路地裏の悪魔』の特徴なんだけど……」


グリーは少し言い淀んだ後、言いにくそうに声を出した。


「絵の具で塗りつぶしたような、不自然なほど黒い、漆黒の髪と目を持っていたらしい」

「……え?」


不自然な程黒い、髪と目……。

グリーも思い当たったんだろう。だから、言いにくそうな様子だったんだ。

……でも、まさか……。


「ねぇねぇハディ!早くお金!」


と、メリスがシリアスな雰囲気をぶっ壊してきた。

……こいつはあれか、2日前に聞いた話をもう忘れたのか。


「……ほら、1000あれば足りるよな?」

「………」

「返事をしろ。……言っとくけどこれ、昼ご飯代は入ってないからな?」


つまり、今渡すお金は完全に自由に使っていい金だ。

……なのに、1000(ゴールド)で足りないって、一体何買うつもりだこいつ。


「さっき宿屋の売店に、かわいい髪飾りが3000(ゴールド)で売って……」

「却下」

「即答!?」

「髪飾り1つ3000って、どんな高級髪飾りだ一体!?」

「あ、小さいけど宝石ついてたよ!」

「自分で金ためて買え!!」


少し補足だ、俺達3人の金は基本的に俺が管理しているが、山分けした分のお金は当然個人のものだ。

だから、欲しい物ができた時のために、俺やグリーは自分の分の貯蓄をちゃんとしている。

……ようするに。


「金を山分けする度、どんどん食い物に費やすお前が悪い」

「うっ……わ、私だってちゃんとお金ためてるんだよ!?」

「へぇ、今の残高は?」

「6(ゴールド)!!」

「はっ」

「鼻で笑われた!?」


逆にどうやったらそんな金額が残るんだか……。

……しょうがないな。


「ほら、メリス」

「……え?」


ご所望通り3000(ゴールド)を渡すと、メリスは呆けた顔で固まる。


「い、いいの?」

「いいに決まってるだろ。それはお前の分の取り分だからな」


無駄づかいしないように渡さずにいたけど、欲しい物があるんなら、やっぱり渡すべきだよな。


「……ありがとう、ハディ!!」

「あんまり無駄づかいするなよ?」

「うん!」


メリスはお金をしっかり持ち、笑顔で食堂を出ていった。

………さて、と。


「グリー、頼むから銃を下ろしてくれ。さっきからこめかみが痛い!!」

「おのれハディくん……!そうやってピンチのメリスを救うことでポイント稼ぎをするなんて、なんてずる賢いんだ!!」

「何の話だ!?」


グリーが謎の呪詛を唱えながら、銃口をこめかみに押し付けてくる。

痛い痛い痛い!!絶対跡残るぞこれ!!

嫉妬だろうけど、少し話をしただけでここまでやんな!!


「……ったく、お前のシスコ……妹思いも重症だな」

「失礼だねハディくん!僕はシスコンなんかじゃないよ!!」


言った!?

俺が今まで言わないように気をつけてた言葉をあっさり言いやがった!?


「って、え……?」

「待ってくれ、なんでそんな不思議そうな顔をするんだい?」

「いやだって、お前がシスコンじゃないとか、ありえないだろ。

 グリーといえばシスコン、シスコンといえばグリーだ」

「そこまで言うのかい!?」


なんかグリーが心外って顔をしてるけど、俺の中ではほとんど常識だぞ、これ。


「全く……いいかい、ハディくん?

 確かに僕はメリスを世界で一番大切な人だと思っているよ」

「はい、確定」

「早いよ!!

 ……だけど、それはあくまでも兄としての思いなんだ。僕はメリスに幸せになって欲しいんだよ!」

「へぇ、じゃあメリスが婚約者とか連れてきたらどうするんだ?」

「もちろん撃ち殺……祝福するよ」

「今撃ち殺すって言いかけたよな!?」


ダメだこいつ、目が本気だった。


「そういうわけで、僕はただの妹思いの兄であって、シスコンなんて変態ではないんだ。分かったかい?」

「あぁ、分かった」


お前がまごうことなきシスコンだってことが。


「さて、それじゃ僕も適当に歩いてくるよ。

 この町の地理も知っておきたいしね」

「んじゃ、俺もぶらぶらしてくるかな」

「もう一度言っておくけど、路地裏には入らないようにね?

 君なら心配はいらないだろうけど、念のためだよ」

「分かってるって」


一応こうやって俺の心配もしてくれるし、普段はいい奴なんだけどな……。


「……待てよ。ハディくんがやられてしまえば、僕とメリスが二人きりに……」

「そういう所がなければいいのにな!!」


それだけ言って、俺は宿屋から出ていった。











「武器屋、防具屋、雑貨屋はもちろん、土産屋、食料品店、骨董品屋に美術展、なんでもあるな、この町」


表通りを一通り歩くと、様々な種類の店が立ち並んでいた。

チョコレート町はお菓子の店ばっかりだったけど、この町は商人の町だけあって、店の種類がめちゃくちゃ多い。

……ふと気づくと、周りにあまり人がいなくなっていた。

いつの間にか郊外の方へ来てしまったみたいだ。

そろそろ宿屋に戻ろうと、来た道へ歩き出した、その時。


ドガッ!!


……音が、聞こえた。

何かを……いや、


「人を、殴る音……!」


聞こえてきた方を見ると、そこは裏通りへの道だった。

……裏通りには行くなって言われたけど。


「そんなこと、言ってる場合じゃねぇ!」


急いで路地裏へ入り、しばらく走ると、案の定、1人の少年が3人の不良らしき男に囲まれていた。

1人が少年の胸ぐらをつかみあげ、2人は少年の逃げ道を阻むように立っている。

とりあえずやめさせようと、声を出そうとした、その時。


「何やってんだ?てめぇら」


俺の前に、制止の声をかける人物がいた。

その人物は、不良達の後ろ、俺から見て右手からゆっくりと、コツコツと足音を鳴らしながら、歩いてきた。

不良達は何事かと、後ろを振り返る。

その時、暗がりだった路地裏に光が差し、その人物の姿が照らし出された。

俺はその人物を見て、一瞬背筋が凍りついたような思いをした。

……不自然なほど黒い、髪と目。

太陽に照らされているにもかかわらず、それらは、漆黒の色を保っていた。

3人の不良のうち、1人が、つぶやくように声を出した。


「……ろ、路地裏の、悪魔……!?」


それを聞いたその青年は、切れだった漆黒の瞳で不良達を見て、口元をつり上げたのだった。









それでは次回予告です!

今回からまた1人に戻します。


「ハディだ。

 路地裏で出会った漆黒の青年。

 ……正直、かつあげしてる奴が何されても自業自得だとは思う。

 だけど……!

 次回、冒険者ライフ!第39話『路地裏の悪魔』!

 人助けは、人を助けるのが目的だから、人助けなんだ!」



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