第3話 後先考えずに行動すると、たいてい後悔する
「やっほー!」
「……子供か、お前は……」
部屋で荷物を整理していると、メリスが遊びに来た。
さっき別れてから、五分ぐらいしか経ってねぇんだが……。
「お前、荷物整理終わったのかよ?」
「うん、大丈夫!」
「そうなのか?ずいぶんと早……」
「後でやれば大丈夫!!」
「大丈夫じゃねぇ!!」
何怠けてんだこいつ!?
普通女の方が荷物の整理って大変なんじゃねぇの!?
「え~?だって一人でいるとつまんないよー……、
そうだ!ハディ手伝って?」
「あ~?……まぁ、俺の方はもうすぐ終わるし、別に良いけ…」
「服とか下着とかの整理!」
「却下!!」
何でこいつはちょくちょく爆弾発言するんだよ!?
ほら!俺の後ろで恐ーいお兄さんが俺を凝視してるんだけど!?
振り向くな俺!振り向いたら死ぬ!!
「冗談だって、じゃ、行ってきまーす!」
「……冗談もほどほどにしてくれ……」
笑顔で去って行ったメリスに対し、俺は心身共に疲れていた。
……飯食ったら即、寝ようかな……。
半分真剣にそう考えていると、背後から声が聞こえた。
「……メリスも、もう大人になったってことか……」
そう呟く声は、少しさびしそうに聞こえた気がした……。
………何なんだ?
「ごちそう様ー!!」
「………」
夕食後、……いや、正確にはまだ食べ始めて30分しか経ってないんだが……。
「……お前さぁ、ご飯何杯食った?」
「え?二、三杯かな?」
「嘘つけ!!絶対八杯以上食ってただろ!!」
その細身の体のどこに入ったんだ一体!?
従業員の人も唖然としてたぞ!!
「えー?だって、今日お昼が少なかったし……」
「それでも食いすぎだ!!」
俺も食う方だけど、それでも三杯だぞ!?
「でもメリス、ハディくんの言うことも、もっともだよ?」
おぉ、グリー!兄として妹に一言、言ってやってくれ!
「お米ばっかりじゃ栄養偏っちゃうからね、肉や野菜もちゃんといっぱい食べなきゃ」
「いや!俺が言いたかったのはそういうことじゃなく!!」
「そっか!すいませーん!おかずのおかわりくださーい!!」
「お前まだ食えんの!?」
こいつが大食いなのは知ってたけど、
ここまでかよ!?
「大盛でお願いします!!」
「お前それでも女か!?むしろ人間か!?」
どんだけでかいんだよお前の胃袋は!?
「ハディくん、女の子にそんなこと言っちゃだめじゃないか」
「ハディひっどーい!!」
「普通の奴はそう言うっつーの!!」
こいつらには常識が全然通用しねぇ……!
うぉ!?そんなことを考えているうちに、
従業員が持ってきたメシがどんどん減っていく!!
「ふぅ、久しぶりにお腹いっぱい!」
「……この宿の夕食が食べ放題だったことに、心から感謝したい」
「あはは、大げさだよハディ!」
大げさじゃねぇよ!
お前たぶん、今の全財産で買える以上の食料食べたからな!?
「これで二、三日食べなくても大丈夫だよ!」
「ラクダかお前は……」
「ラクダ?」
「ラクダは一度に80L以上の水を飲んで、
一週間から10日くらい水なしで生きていけるらしいよ」
疑問符を浮かべるメリスに、グリーが補足する。
俺もそんな詳しいことは知らなかったな。
さすがグリー、いつも本を読んでるだけのことはある。
「あぅ~、負けた~」
「いや、ラクダと張り合うなよ!?」
体の構造上、勝つのは不可能だからな!?
……っつーか、勝ってどうする!?
「それじゃ、お風呂に入った後、僕達の部屋で今後の話をしようか」
「はーい!」
「元気だな、お前……」
普通、あの量食べたら腹が痛くなるぞ……。
って、普通はまず食えないけど。
「ん~、まぁこんなに食べたのは久しぶりだけど、食べようと思えばまだいけるよ?」
「………そうか。
―――お前人間じゃなかったんだな」
「何でそうなるの!?あれ、ハディどうしてそんな宇宙人を見るような目で私を見るの!?」
「大丈夫だよメリス!たとえ君が宇宙人でも、君は僕の妹だ!!」
「私宇宙人じゃないよ!?人間だよ!?」
「メリス、宇宙人も人間だぞ?人ってついてるだろ」
俺がからかい半分でそう言うと……。
「あ、そっか。じゃあ、いっか!」
「自分で言っといてなんだけど、いいのか!?」
ダメだ!俺がボケに回ると、ツッコミがいなくなる!!
「お邪魔ー………」
「お邪魔します、な。別に言わなくてもいいけど」
一時間半後、風呂を終えたメリスが部屋に来た。
え?俺ら?男の風呂なんてそんなにかからねぇよ、
俺は10分(シャワーだけ)、
グリーは一時間(湯を張る時間込み)で終わったぞ。
「………」
「ん?どうしたメリス?」
何か元気がねぇ……、
つーか、顔色が悪い……?
俺は一応心配した、程度だったが、
次にメリスが言った言葉に、驚きを隠せなかった―――
「………お腹痛い………」
「薄々分かってたけど、バカだろお前……」
―――うん、ビビった、マジで。
人が食える限界以上の量を勝手に食って、
まだ食えるとか言っといて、結果腹痛って………。
「だ、大丈夫かいメリス!?ハディくん医者を!!早く医者を!!メリスが死んでしまう!!」
「落ち着け!!医者呼ぶ程のもんでもないだろ!?」
ただの食いすぎだろうが!
「に、兄さん……私……死んじゃうの……?」
「メリス!!」
崩れ落ちるメリスを、グリーが抱きとめる……。
って、おいメリス!!お前も乗るな!!
食中毒とかなら危ないかもしれねぇが、
お前は確実にただの食いすぎだろ!!
「メリス!死ぬな!死ぬなーーーーーー!!」
「兄さ……ん……ガクッ(声)」
「メリスーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「………なぁお前ら、どっちから殴られたい?」
俺は握った拳にハーッと息を吹きかけながら、
バカ二人にそう聞いてやった。
『すみませんでした!!反省してます!!』
「分かればいい」
仲良く頭に一つずつタンコブをつけたバカ兄妹が、
直角に腰を曲げてきた。
え?どっちから殴ったかって?
二人同時だ。右手と左手で。
「だってメリスが腹痛だよ!?心配するに決まってるじゃないか!!」
「し過ぎだお前は!!」
しかも、後半は絶対ふざけてただろ!!
「腹痛ぐらい、ほっときゃ治るだろ!?」
「苦しんでる妹を、放っておけるわけないじゃないか!!」
「それはそうだろうけどよ……お前、メリスが風邪ひいたりしたらどうなるんだよ……」
「世界中を駆け回って、
世界一の医者を連れてくるに決まっているだろう!!」
「……連れてきたころには、もう治ってるだろうな」
こいつのシスコ―――妹好きも、重症だな……。
「メリス!てめぇも悪ふざけしすぎだ!」
「だって、本当にお腹痛いし……」
見ると、メリスは腹をさすっていた。
……まぁ、腹が痛いのは理解できるけどよ……。
「んじゃ、その辺座って休んでろよ。」
「あ、うん!」
メリスは傾いて、ベッドの上に寝っ転がる。
……そこ、俺のベッドなんだけど……。
「さて、それじゃあ今後のことを話そうか」
あ、よかった。グリー気付いてない。
「とりあえず、明日にはもうこの町を発つぞ」
「え?今日の朝着いたばっかりなのに?」
寝っ転がってたメリスが、驚いて起き上がる。
……お前、そんな動いてて、大丈夫かよ?
「しょうがないよメリス、依頼がないし、お金ももうないしね」
「そっかぁ……」
残念そうにするメリス、
店とか見たかったのかもな。
「一応明日の朝もう一度酒場に行ってみるけどな。
まぁ、期待はできないだろ」
「ん~、じゃあ次はどこに行くの?」
「ここから一番近い町は、チョコレート町かな。
かなり大きな町だから、依頼も期待できると思うよ。」
「チョコレート町!?」
うお、どうしたメリス?
「チョコレート町ってスイーツ王国の中でもお菓子、特にチョコレートが有名なんだよ!
一回食べてみたかったんだー!!」
……お前、今さっきまで腹痛で苦しんでたよな?
まぁいいけど……そういや、
この国ってお菓子が有名なんだっけ?
「ただ、たぶん向こうに着くのは夕方頃になっちゃうんだ」
グリーが困ったような顔で言う。
夕方から依頼を始めるってのはな……。
「……じゃあ、向こうで依頼を探すのは難しいな……」
「え?別に明日探せば……」
「メリス、向こうで一泊する金があると思うか?」
大きい町だし、たぶん、宿代もここより高いぞ?
「……そっか。道中の食費だけで精一杯だっけ……」
ちなみに一番食費使ってるのはお前だからな?
「となると、道は一つ、だね」
グリーが苦笑いを浮かべながら言う。
……アレか。
「ま、しょうがねぇな。
……『魔物狩り』、やるぞ」
「えぇ!?や、やるの!?」
メリスが嫌そうに声を上げる。いや、気持ちは分かるけど。
「しょうがねぇだろ?それ以外に金を稼ぐ手段がないんだ」
「安心してメリス、『処理』は僕達がやるからさ」
「うぅ……、わ、分かった……」
しぶしぶながら、メリスも了承。
んじゃ、これで決まったな。
「まとめると、まず明日の朝、酒場に行って依頼を探す。
目ぼしいものがあればそれをやる、なければこの町を発つ。
向かうのはチョコレート町、向こうで最低一泊できるだけの金を稼ぐために、道中『魔物狩り』をする。
これでいいな?」
「うん」
「チョ、チョコレート町に行くためだもんね!がんばる!!」
いや、まだ明日行くとは決まってないけどな……。
とりあえず、今日は早く寝て、明日に備えよう。
「……ないな。依頼」
「……うん」
翌日、目ぼしいものどころか、依頼は一つもなかった。
「んじゃ、決定だな」
「……うん」
メリスはまだ少し乗り気じゃないようだが……。
「……って、いつまでも嫌がっててもしょうがないよね!
うん!チョコレート町に行くためだもん!
どんどん魔物狩って行こう!!」
「いや、一泊分の金稼げりゃいいんだけど……。
まぁでも、稼いでおくに越したことはないか」
いきなり元気になったなメリス、
まぁ、落ち込んでるよりはいいけどな。
「それじゃ行くぞ!目指すはチョコレート町だ!」
「うん!」
「そうだね、行こうか!」
こうして俺達は、ビスケット町を発ち、
チョコレート町へ向かった……。
次回、ようやく魔法が出てきます。
キーワードに魔法ってあるのに、
今まで出てきませんでしたからね……。
やっと書ける……!
ただ、魔物を狩るので、
少し残酷な描写があるかもしれません。
特に動物好きの方はご注意を……。