第37話 星の賢者
※7/11 次回予告に少し付け加えました。
「……どう?」
「安心しろ、平熱だ」
不安げな顔をするメリスに、体温計を見せる。
その画面には、36.5℃と映っていた。
「よかったー!!これなら大丈夫だよね?」
「あぁ、って言っても病み上がりだからな。あんまり無理はするなよ?」
「分かってるよ!」
そう言ってメリスはうれしそうに笑う。
にしても、風邪が治って本当に良かった。
今日の夜10時までにタルト町のギルドに行かなきゃ、審査が受けられないからな。
別に無理して受ける必要はないけど、これで受けられなかったらメリス気にするだろうし。
今は朝の7時30分、念のために10時にはこの町を出るつもりだ。
「あれ、兄さんは?」
「グリーなら外で魔法の練習してる。審査までになんとか形にしたいってさ」
……でも、グリーってまだ練習始めて1週間ぐらいしか経ってないよな。
いくらなんでも無理なんじゃ……。
「大丈夫だよきっと!兄さん昔よく私の修業に付き合ってくれたし、魔力高いから!」
「……そうか、ところで俺は今『無理なんじゃ』って思っただけで、口に出してなかったんだけど」
「顔に書いてあったよ?」
さも当然というような顔をするメリス。
いや、普通の人間は読心なんてできないはずだろ。
「……前々から思ってたけど、お前実は異能者なんじゃねぇの?」
「えー何言ってるのハディ。『異能』なんてただの伝説でしょ?」
「いや、本当にいるらしいけどな。まぁ、見たことないけど」
「100万人に1人程度の確率で生まれるんだってさ。一生に1人見るかどうかだよ」
と、グリーが戻ってきた。
相変わらず物知りだなこいつ……。
「お、グリー、どうだ調子は?」
「そうだね……」
グリーは目を閉じ、『集中』を開始する。
……お、結構いい感じに光ってるな。
「生命の力よ 光と化して彼の者の傷を癒せ ヒール!」
グリーが突き出した右手から、白い光が現れる。
「おぉっ!!」
成功……と思ったその瞬間、光は消えてしまった。
「……ま、こんな感じかな。
直接触れないと届かないし、効力もたぶんほとんどないよ」
「いや、でも十分すごいだろ!」
「そうだよ兄さん!これでもうケガなんて怖くないね!!」
「そうとも!まぁ、ケガをしないのが一番だけどね、戦闘だとどうしてもケガをすることがあるから、その時はすぐに僕に言うんだよ、メリス!」
「うん!!」
「待てグリー、俺は?」
「……バンソウコウならそこにあるよ?」
「魔法は!?」
まさかの差別。泣きそうだ。
「もう兄さん!ハディが一番ケガをしやすいんだから!」
「わ、分かってるよメリス。ハディくんもちゃんと治療するよ」
グリーを説得してくれるなんて、いい所あるなメリス。
「ハディはおっちょこちょいでケガをしやすいんだから!」
「余計なお世話だ!!」
「えーだって、この前ブラッディヴァインと戦った時、油断して攻撃に当たってたでしょ?」
「うぐっ……」
「それに昨日、稽古の時に油断して、クイトくんから一発くらったって聞いたよ?」
「しゃべったのかあいつ!!」
くそ!ちゃんと口止めをするべきだった!
「……あんまり心配させないでよ」
「あ?何か言ったか?」
「な、なんでもない!!」
ぼそっと何かを呟いたから聞いてみたけど、メリスはすごい勢いで首を振るだけだった。
どうしたんだ、一体?
「……さぁ2人とも、そろそろ朝ご飯に行こうよ」
「そうだな……ってグリー?何か怒ってないか?」
「はっはっは……何を言ってるんだいハディくん。僕は全然全く少しもこれっぽっちも怒ってないよ……?」
「なら、銃に手をかけるな!!」
こわいコワい怖い!!
朝なのにグリーの殺気で辺りが暗く見える!!
「どうしたの2人とも?早く行こうよ!お腹空いちゃった!」
「そうだね、行こうか」
一瞬で辺りが明るくなる。
……殺気でここまでできるなんて、実はグリーも異能者なんじゃないだろうか。
「あ、みなさん、おはようございます!」
「おっはよー、メリスさん風邪の具合はどう?」
と、食堂に行く途中でビレン姉弟に会った。
「うん、もう大丈夫だよ!2人にも心配かけちゃったみたいでごめんね」
「いいっていいって!ほらみんな、朝ご飯できてるよ。それを知らせに行こうとしてたんだ」
「悪いなわざわざ……」
「いいってば!それに、みんなもうすぐ出発しちゃうんでしょ?
だったら最後ぐらいは、ね」
ランジは少しさびしそうに笑う。
会ってまだ3日目だけど、やっぱり別れってさびしいよな。
旅の冒険者なんてしてる以上、今まで何度も経験してきたけど、やっぱりさびしいものはさびしいし、これは別に、無理に慣れなくてもいいと思う。
「あ、あのハディさん!」
「ん?」
食堂で席に着き、料理を待っていると、リンが緊張した様子で話しかけてきた。
「朝食後にお時間ありますか?」
「え?まぁ、少しぐらいなら……」
「それじゃ8時30分に、昨日の修行場に来てもらってもいいですか?最後に稽古をつけてもらいたくて……」
「そうだな……うん、少しだけならいいぞ。クイトも一緒か?」
「はい!ありがとうございます!」
8時30分からか、じゃあ1時間ぐらいはできるな。
……いや、待て俺。今日その後、10時間歩くんだぞ。
1時間みっちり稽古した後10時間歩くってのは……。
「……あ、あのハディさん。稽古は一度お手合わせして頂ければ十分です」
「え?」
「タルト町まで歩いて行くと聞いてますから、これからそんなに歩くのに、何時間も稽古に付き合わせるわけにはいきません」
「そ、そうか?悪いな……」
「いえ、こちらこそ、勝手なお願いをしてしまってすみません」
「いや、それはいいけど……」
ってか、今考え読まれたような……。
そんなに顔に出やすいのか俺?
「うん!ハディは考えがすぐ顔に出るもんね!!
「……黙ってろ『読心のメリス』」
「何その異名!?かっこいい!!」
「気に入りやがった!?」
「ほら2人とも、料理できたよ」
騒いでいるとランジが料理を運んできてくれた。
「悪いな、騒がしくて」
「いいよ、朝はあんまりお客さんいないしね」
「あ、なぁランジ」
戻ろうとするランジを呼び止める。
「どうしたの?」
「お前は将来の夢とかあるのか?」
「将来の夢?」
「あぁ、昨日リンとクイトを一撃で沈めてただろ。
お前もその気になってしっかり鍛えれば、冒険者とか兵士として、かなりいい線いくと思うんだけど……」
「んー……そういってくれるのはうれしいけどさ」
ランジは照れくさそうに頬をかきながら言う。
「でも、やめとくよ。俺の夢は冒険者でも、兵士でもないから」
「じゃあ……」
「……俺の夢は、この宿屋なんだ。
今の内にお母さんをしっかり手伝って、大人になったらこの宿屋を受け継ぐ。それが俺の夢だよ。
冒険者も兵士も立派な職業だけどさ、お客さんをもてなす宿屋だって、それに負けないぐらい立派な職業だと、俺は思ってるよ」
「……だな。ごめんな、急に変なこと聞いて」
「いいよ、認めてもらえるのはうれしいし」
ランジは屈託のない笑顔でそう言うと、奥へと下がって行く。
「でも、どうしたのハディ?急にあんなこと聞いて……」
「いや別に、ただ……あいつら見てると、子供の頃とか思い出してな」
「十年一昔って言うし、ちょうど一昔ぐらい前だよね」
「子供見てると、もう大人になったんだなって、嫌でも思い知らされるよ」
「なんか年寄りみたいなセリフ……」
「うるせぇ」
「まぁ、僕達はまだまだ若者だけどね。でも、先輩として子供達に教えられることぐらい、あると思うよ」
「……だよな。んじゃ、しっかりやらないとな!」
そうこうしている内に食事終了。
……まぁ、メリスはもっと早く終わってたけど。
他愛もない話をしていると、気づけば時計は8時20分を指していた。
「それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい!!」
「がんばってきなよ」
一応早めに来たんだけど、クイトとリンはすでに到着し、素振りをしていた。
「あ、ハディさん!」
「よっしゃ来たな!今日もよろしくお願いしますっと!」
「2人共やる気満々だな、それじゃ昨日と同じように……」
「あ、いえ」
「ハディさん、今日は1人ずつ実戦稽古やってくれよ!」
「1人ずつ?」
確かに昨日も、1人ずつ稽古したりもしたけど、勝敗をつけるような実戦稽古は全部2対1だったのに。
「ほら、俺とリンって将来の夢違うだろ?
いつまでもつるんでるわけじゃねぇからな、1人で戦うことも考えないと、ってさ」
「そういうわけです」
「……なるほどな、それじゃ、先はどっちだ?」
「もちろん俺だ!!」
昨日と同じように、言うや否やクイトは木刀を振りかぶって突進してくる。
相変わらず子供にしては……いや、小さい子供だからこそできる高速移動だ。
この『勢い』こそがクイトの武器だろう。
……だけど、
「悪いな、その速さはもう慣れた!!」
突っ込んでくるクイトの木刀に狙いを定め、タイミングを合わせて自分の木刀をぶつける!
「ぐっ!……まだ、まだぁ!!」
昨日とは違い、弾き飛ばされまいと意地を見せるクイト。
……だけど、
「悪いな!」
「うわっ!!」
手に力を込め、力任せにクイトの木刀を弾き飛ばす。
全体重かけてきたけど、力は俺の方が上だったみたいだな。
「くっそお!!」
「それじゃ、次は私です!」
悔しがるクイトの前にリンが出てくる。
昨日の稽古からすると、リンは『不意打ち』が得意みたいだけど、1人で一体どうするのか……。
「参ります!!」
と、リンは木刀を振りかぶったまま高く跳躍した。
ただジャンプして斬りかかってくるだけか?
不思議に思いつつも、それを受け止めようと木刀を構える。
が、しかし、
「っ!?」
リンは木刀を縦ではなく斜めに振り下ろすことで、わざと攻撃を外した。
当然、衝撃に備えていた俺は不意をつかれ、無防備な状態になる。
やべっ、フェイントか!!
「はぁぁっ!!」
振り下ろした状態から木刀を反転させ、逆方向へと放つ。
その刃は確実に俺を捕える……はずだった。
ドガッ!!
「っ!!」
「惜しかったな」
リンの手から叩き落とされた木刀が地面に落ちる。
俺はリンがわざと斬撃を外した瞬間、反射的に体を半回転させ、今まさに向かってこようとした木刀を、自分の木刀で叩き落としたんだ。
今のは正直危なかった、もう少し遅かったら確実にくらってたな。
「ダメでしたか……結構自信あったんですが」
「俺もだよ、あーやっぱ現役冒険者は違うな……!」
「いや、2人とも昨日より強くなってたぞ。正直また驚かされてる」
昨日は子供なのに強かったことに驚いたけど、今日は成長具合に驚かされた。
「そりゃな!俺達だって昨日の稽古をもとにいろいろ考えたんだぜ!!」
「そうです!私達なりにがんばったつもりです!」
「そっか……昨日の稽古がためになったんなら良かったよ」
「はい!!……本当は、もっと稽古をつけて頂きたいんですが……」
「わがまま言うなってリン!この人達にはこの人達の目的ってのがあるんだからよ!」
暗い表情になるリンを、クイトがなだめる。
「ごめんな、けど、俺達はいろんな場所を旅して回ってるからな。
きっとまた会うこともあるって」
「それじゃ、その時、また稽古をつけて頂けますか?」
「あ、俺も俺も!!」
「おう!約束する!その時までしっかり稽古しろよ!」
いつになるかは分からないけど、その時、この2人はもっと強くなってるだろう。
俺も負けないようにがんばらないとな!
「と、それじゃそろそろ行くな」
「あれ、もう行くのかよ?」
「まだ9時前ですが……」
「いや、村を出る前に、行く所があるんだ」
「ふーん……?」
「それじゃ、またな!2人とも!」
「おう、ありがとうございました!!」
「また絶対会いましょうね!!」
手を振ってくれた2人に手を振り返し、俺はメリスとグリーの元へと急いだ。
「遅いよハディ!」
「悪い悪い」
「それじゃ行こうか。場所は聞いてきたからさ」
グリーの指示に従って、その場所へと歩く。
「ここか?」
「うん」
到着したのは、この村の中ではかなり大きな家。
チャイムを鳴らすと、返事が聞こえ、扉が開く。
「おや、あなた方は……」
「おはようございます村長さん」
「おっ、冒険者さん達じゃないか。
村長に用事か?」
「あ、エレルさんも、ちょうど良かった。
お2人に伝えたいことがあったんです」
「ほほぅ、どうされましたかな?」
「俺にも?」
不思議がる2人に、メリスが口を開く。
「私達、この村に来る少し前に、イアさん……イア・ランディアさんに会ったんです」
『!!』
メリスの言葉を聞いた2人が驚きをあらわにする。
「その時、イアさんと一緒に仕事をしたんですが、その仕事で、イアさんは大きな町を1つ救いました。
それだけじゃないです。
イアさんがいなかったら、きっと私達はその仕事で死んでた思います」
不意に、ジェネラルドラゴンと戦った時のことを思い出す。
イアさん達が助けてくれなければ、俺達は全員黒焦げになってたはずだ。
「イアさんは今も、兵士として国民を救い続けてます。
……『反逆者』だろうがなんだろうが、あの人はすごい人です!私の、憧れの人なんです」
『………』
メリスが禁句を言ったにも関わらず、2人は怒ることなく、むしろ、穏やかな笑みを浮かべた。
「……そうですな、例え他の者があの人をののしったとしても、あの人がこの村の恩人だという事実は何ら変わらない」
「禁句とか……少し神経過敏になってたのかもしれませんね。
まぁ、恩人をののしられたら、やっぱり許せないと思いますがね」
「旅の方々、それを我々に伝えて下さり、ありがとうございます」
「い、いいえそんな!私だってイアさんの悪口を言われたら許せません!」
「それが嬉しいのです。我々と同じように、あの人を尊敬する人がいるということが、ね」
「あ……」
村長さんの言葉に、メリスはうれしそうな笑みを浮かべる。
「と、引き止めちまって悪いな。あんたらもう出発すんだろ?」
「あ、はい」
「そうですか……。また、ぜひこの村に立ち寄って下され。
歓迎いたしますぞ」
「ありがとうございます。それじゃ」
2人に別れを言い、村から出発する。
さてと、これから10時間歩くんだよな……。
まぁ、途中休憩はさみながら行けばいいか。
「……ねぇ、ハディ」
「ん?」
と、隣を歩くメリスが話しかけてきた。
見ると、メリスは満面の笑みを浮かべていた。
「私の憧れの人は、やっぱり私の思った通りの人だったよ」
「……だな」
メリスの笑顔を見て、俺も自然に笑顔で返すのだった。
では次回予告です!
「グリーだよ」
「メリスです!……兄さん大変!
もう第四章終了だよ!?」
「次の第五章が最終章だからね。
いよいよこの物語も終わりが見えてきたって所かな」
「むー……少しさびしいなぁ……」
「仕方ないよメリス。
始まりがあれば終わりがあるものだよ。
逆に、終わりがあれば始まりがある。
受け入れて、前に進めばいいんだよ」
「……そうだね、兄さん!
それじゃ次回予告いってみよう!!
私達はやっとタルト町に到着して、
ギルドに申請へ向かうんだよ!
そして、ハディはこの町で、ある人と出会うの。
次回、冒険者ライフ!第五章『伝説』!第38話『タルト町』!!
兄さん、運命って信じる?」
「もちろん!僕とメリスが兄妹になったのは運命……、
コホン、ごめん、まじめに答えるよ。
運命を否定する気はないけれどね、
結局は考え方次第だと思うよ。
運命を信じれば運命、
信じなければただの偶然、って具合にね」




