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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第四章 3年前の物語
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第34話 国王の誤算

「それが、反乱か……」

「そういうことだよ」


確かに、反乱が起こるのも分からなくはない。

……ただ、これが自主的な反乱だとはどうしても思えない。

魔物の活発化と不作・干ばつだけなら、まだ不幸な偶然だと納得しようもある。

でも、兵士の記憶改ざんや行方不明は説明がつかない。

……誰かが、意図的にやってるとしか思えない。


「誰かの策略……なんだよな?」

「そうだね……先に話しちゃうとね、この国民達はだまされてたんだ」

「だまされてた?」

「うん。反乱の起こる数日前、十数人の商人風の者達が国民達に、この不作や干ばつは国王が魔法で、土地の栄養や雨雲を首都付近へ集めているために起きた。

 そう言って、怒った国民達に武器や兵器を与えたらしいんだ」

「って!いやいやちょっと待て!!なんだその露骨なやり方!?怪し過ぎるだろ!!」

「そう、普通ならそう言って、誰も取り合わなかっただろうね。

 でも、相手が悪かったよ」

「相手?」

「さっき言っただろうメリス?

 記憶の改ざんには忘却魔法と、操心魔法が使われたって」

「あっ……!」


やっぱり……!

操心魔法ってのは文字通り、心を操る魔法だからな。

それを使って反乱を起こさせたってわけか!


「で、でも兄さん!心を操るっていっても、実際は惑わせるのが精々でしょ?それに、反乱に参加した人は10万人もいるって……」

「確かにね。いきなり何の準備もなく人を、それも万単位の大人数を操って戦わせるなんて、例え『大魔導師(ハイウィザード)』でも、それこそ『賢者エンチャンター』でも不可能だよ」


賢者(エンチャンター)』……魔法使いの称号の中でも最高のものだ。

その称号を持ってるのは世界でもたったの7人、当然、全員が『魔塔』の一員だ。


「でもね、さっきメリスが言った通り、心を惑わせることなら可能だ」

「惑わせる……?」

「……っ!!グリー、まさか……!」

「たぶん、それが正解だと思うよ。ハディくん」

「え、何?なに!?」

「分からないのか!?不作や干ばつ、それにウソの情報を流したのも、国からの助けを妨害し続けたのも!

 国民達の国への不信感を高めて、操心魔法をかけるための前準備だったんだ!!」

「そ、そっか!!……って、だから!それでも!

 いくらなんでも10万人もの人を操るなんてそれこそ……」

「『大魔導師(ハイウィザード)』でもないとできない……かい?」


言いかけたことを先に言われて口をつぐむメリス。

ってか、『大魔導師(ハイウィザード)』が関係してるっぽいことはさっきも言ってただろ……。


「さっき言った通り、相手が悪かったんだ。

 その商人風の者達には、2人の魔法使いが手を貸していた」

「2人?」

「そう、1人はセイン・モーシン。

 『脈動の魔導師』という異名で知られ、『魔導師(ウィザード)』の中でも『大魔導師(ハイウィザード)』に近い魔力を持ってるって有名だったらしい」

「その人が操心魔法を……?」

「いや、この人は地属性と風属性の魔法に長けていたんだ。

 やったのは土地の栄養や雨雲を首都付近へ集め、不作や干ばつを引き起こしたことだよ」

「って、自分達でやってたのかよ!!」


よりによって自作自演かよ……!

まぁ、都合が良すぎるとは思ってたけど。


「忘却魔法や操心魔法の使い手はもう1人の方だよ。

 『惑いの魔女』フュー・プレキス、『大魔導師(ハイウィザード)』だ」

「っ!」


大魔導師(ハイウィザード)』……!


「ただでさえ不作や干ばつに襲われ、頼りの国からも連絡がこない。

 人々の心は不安や怒りに支配されていただろう。

 そんな人達の心を操ることぐらいなら、簡単だったんだろうね。

 ……何せ、世界に100人もいない『大魔導師(ハイウィザード)』の1人なんだから」

「許せない……魔法を、そんなことに使うなんて!!」


メリスが珍しく怒りをあらわにする。

こいつは子供の頃から魔法が好きで、がんばって修業してたもんな。

大好きな魔法が悪事に使われることが許せないんだろう。


「と、そうだ。グリー、話の続き」

「あぁ、そうだったね」


商人風の者達と2人の魔法使いの策略で、反乱が起こってしまった。

その後……どうしたんだ?


「国王は、やむを得ず兵士達に鎮圧を命じたんだよ」

「……まぁ、しょうがないよな」


いくら操られてるからって、攻撃をしかけてきたからには、相応の対応をしないといけない。


「ただし、相手は逆賊じゃないんだから、絶対に命は奪うな。って言ってね」

「流石、国王だな」


いくら10万人いても、冒険者学校の講師を除けばほぼ一般人だ。

優秀なスイーツ王国の兵士なら、流石に犠牲者0は難しくても、最低でも鎮圧は可能なはず……。


「でもね、報告した兵は首を横に振ったんだ」

「……横?縦じゃなくて?」


疑問符を浮かべるメリス。

ってか、横と縦じゃ意味が真逆になるぞ。


「横に振ったんだよ、不可能です。ってね」

「不可能?なんでだよ?」


犠牲者0は不可能って意味か?

まぁそれは国王も絶対ってわけじゃなくて、それぐらいの心構えで行けって意味じゃ……。


「人々は普通の武器はもちろん、戦車や魔導兵器を持って来たんだよ」

「戦車っ!?」


ちょっと待て何持って来てんだ!?

本当に戦争やる気満々じゃねぇか!!

……ちなみに魔導兵器ってのは、魔力を燃料にする武器、兵器の総称だ。

魔導銃とか、普通の銃よりかなり威力が高いらしい。


「まぁ、全部中古だったり旧式だったりと、そんなに強力な物はなかったらしいけどね。

 それでも、数がそろえば十分脅威だよ」

「中古とか旧式でも十分怖いけどな……」


やっぱり、その商人風の奴らがそろえたんだろうか。

まともな戦車や魔導兵器を何万人分も用意するのは無理だった、ってことか?


「……そして、もう1つ。

 その人々に、とんでもない人物が手を貸していたんだ」

「とんでもない人物?」


おいおい、まだいたのかよ。

でも、『大魔導師(ハイウィザード)』が手を貸してるんだしな。

ひょっとしてA(クラス)冒険者でも出てくるんじゃないか?

まぁ、これ以上どんな奴が出てきてもそう驚かな……、


「『八つの魔塔』の一角」

「……え?」


メリスの顔がこわばる。

たぶん、俺と同じことを考えてるんだ。

……ウソ、だろ?

……いや、違う。むしろ、そう考えたら納得がいく。

ここまで聞けば、『反逆者』の意味はもう予想がつく。

あの人に助けられたこの村で、その言葉が禁句になっていたことを考え合わせたら、この結論しかあり得ない。


「この時、反乱軍に手を貸したのは、『星の賢者』イア・ランディアだよ」

「………」


ちらりとメリスを見ると、ショックのあまり固まっていた。

……やっぱり、ショックだよな。

前から憧れてた人が、過去とはいえ、国に背いていたなんて。


「イア……さんが……どう、して……?」


震える口を懸命に動かして、グリーに疑問を投げかけるメリス。

そうだ、何でランディアさんは反乱軍に手を貸したんだ!?

操心魔法?ありえない!!

魔力は精神力にも大きく関わるからな、超一流の魔法使いであるランディアさんは、魔法への抵抗力も超一流なはずだ!

そんな簡単に操られるなんて……!!


「ランディアさんもまた、だまされていたんだよ」

「だ、だまされた?ランディアさんが?」

「正確には、だまされた人達を信じてしまったんだ」

「だまされた人達……って、不作や干ばつに苦しんでた人達だよな?」

「そうだよ。……2人とも、この時点でその人達にとって、国はどんなものだと思う?」

「……え?」


どんなもの……って。


「農業従事者にとって、土地の栄養や雨雲はそれこそ、自分達の命だろう。それを奪い、あまつさえ最初は善人面して助けると言ったくせに、それ以降は連絡をしてこない、こちらから連絡をしてもつながらない。当然、援助が来る気配は全くない」

「……最悪、だな」


そっか、その人達にとってはそうなるんだ。

……操心魔法なしでも反乱起こったんじゃないか?

いや、武器を取ったのはやっぱり極端か。


「残念なことに、ランディアさんはそんな人達と出会い、そしてその人達から話を聞いた」

「う……」


確かに、そこだけ聞いたら俺でも国が悪者だと思うな……。


「で、でも、この国の国王は国民思いって有名だし……」

「そこだよ」

「え?」

「……あっ!!に、兄さん!!」

「ん、メリスはやっぱり知ってるみたいだね」


知ってる……?


「ハディ、その時のイアさんはたぶん、そのことを知らなかったんだと思う」

「知らなかった?」

「うん。イアさんの故郷、イアさんが10歳ぐらいの頃に、盗賊団に襲われて、たくさんの人が殺されたんだって」

「なっ……」

「それで、生き残った人はほとんどが国や孤児院に引き取られたんだけど、イアさんはその時助けてくれた魔法使いに弟子入りして、それから10年近く山奥で修業してたんだって」

「山奥?」

「うん、そのお師匠さんが、あんまり人が多いのは好きじゃなかったみたい」

「……つまり、国王の人柄とかは、その“国を最悪だと思ってる人達”に初めて聞いたってことか」

「人生初かどうかは分からないけど、少なくとも10年近く聞いてなかった上で、その人達に話を聞いたとしたら……」

「この国は最悪だって勘違いしてもおかしくないな……」


それで反乱軍に手を……、


「で、でも兄さん!イアさんは『星の賢者』だよ!?

 土地の栄養とか、イアさんなら本当のことに気づけたんじゃ……!」

「……むしろ、それが決定打になったのかもね」

「え……?」

「さっき言っただろうメリス。

 “村や町の土地の栄養、雨雲は首都へと集まってる”って。

 たぶんランディアさんは、そのこと(・・・・)に気づいたんだ」

「げっ……!!」


うわ、それは確かに決定的だな……。

それで商人風の奴らの言うことを信じちまったのか……!


「……とは言っても、ね。

 僕の個人的な意見としては、たぶんランディアさんなら気づけたと思うんだ」

「え?」

「彼女は『星の賢者』、地属性魔法のエキスパートだ。

 それが『脈動の魔導師』のしわざだと気づけたっておかしくない。

 ……本当なら、ね」

「でも、じゃあ何でランディアさんは……」


ランディアさんが黒幕の悪事に気づいていたんなら、なんで反乱軍に手を貸したりなんか……!!


「……気づけなかったんだと思うよ」

「……は?」


いきなりグリーが正反対のことを言ってきた。

ちょっと待て、どういうことだ?


「本当なら、ランディアさんは気づけたと思うよ。

 でも、いくつかの要因が重なって、ランディアさんは気づけなかったんだと思う」

「要因?」

「そう、今話した中にあっただろう。

 “国が悪者”だという先入観。

 “土地の栄養や雨雲が首都へ集まっている”という事実。

 ……そして、“操心魔法”」

「なっ……はぁ!?待てよグリー!!ランディアさんに操心魔法なんて……」

「確かに高い魔力を持つ者には、操心魔法は効きにくいことが多い。

 でも、操心魔法に抵抗するのは、魔力じゃなくて精神力だ。

 そして、魔力と精神力は、必ずしも同じじゃない」

「イアさんの心が、弱かったっていうの……?」

「……そうは言ってないよ。

 ただ、これだけの要因が集まってしまった結果、ランディアさんは真実に気づけず、反乱軍に手を貸してしまった。

 僕はそう思ってる。本当の所は本人しか分からないよ」


……そうだよな。

結局、その人の心が分かるのはその人だけだもんな。


「さて、だいぶ脱線しちゃったね。

 話の続きに行こう」

「っと、そうだな。……どこまで聞いたっけ?」

「人々が戦車魔導兵器を持ってきて、さらに『星の賢者』が手を貸している。までだよ」

「そうそう、それで?」

「報告した兵は、今すぐ全力を以てかからなければ、町が占拠されます。って国王に言ったんだ」

「……だよな」


一般人10万人+普通の武器と戦車、魔導兵器+『星の賢者』。

……考えるだけでも恐ろしい。

それに黒幕の奴らもいるんだろ……。


「でも、国王はそれを許可しなかった。

 兵士は国民を守るためにいるんだ。って言ってね」

「……そうだよな、そういう人だもんな」


相手がそんな人達なら、鎮圧じゃなくて完全に殺し合いになる。

兵にも国民にも、かなりの犠牲が出るだろう。


「そして、今すぐ兵を退けと命じたんだよ。

 相手は逆賊じゃない、襲うのは兵だけで、町の人達に無用な危害は加えないはずだって言ってね」

「な、なるほど。でもグリー、それって……」

「そう、首都付近の町は、全て反乱軍に占拠されちゃったんだ」

「た、大変!!」

「大事件じゃねぇか!!」

「……その大事件を、なんで君達は知らないんだい?」


グリーがジト目になったのを見て、俺とメリスはほぼ同時に明後日を向く。

しょうがないだろ!知らないものは知らないんだ!!


「そ、それでグリー?その後どうなったんだ!?

 少なくとも今は、もう反乱なんて影もないぞ!?」


慌ててごまかすように言ったけど、本当のことだ。

少なくともこうしてグリーに聞くまで、反乱があったなんて想像すらしてなかったしな。

グリーは小さく嘆息した後、ゆっくりと口を開いた。


「『黒と白の英雄』だよ」










では次回予告です!


「メリスだよ!」

「ハディだ……って、もう1周したのかよ、早いな!」

「チッチッチ、甘いよハディ!

 前のは『ハディと私の次回予告』で、

 今回は『私とハディの次回予告』なんだよ!!」

「……違いが分からん」

「あ~もうノリ悪いなぁ!!」

「それよりメリス、早くしないと次回予告できなくなるぞ」

「あっ!え、えっと!次回も話の続きだよ!

 そして!30.5話で出てきたあの人達が登場!」

「話の中で、だけどな。

 次回冒険者ライフ!第35話『黒と白の英雄』!

 英雄ね、やっぱそういうのには憧れるよな」

「あはは、ハディも結構子供だね!」

「お前には言われたくねぇ!」



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