第33話 反乱という名の侵略
「ま、僕も全てを事細かに知ってるわけじゃない。
そもそも情報源が風の噂と本ぐらいしかなかったからね。
僕が話せるのは、あくまでも一般に広まってる概要だけだよ」
「情報源は風の噂と本だけか。
なるほど、それなら俺とメリスが知らなくてもおかしく」
「いや、少なくとも風の噂はみんな知ってるから。
いくら君達が辺境の村にいても、ちゃんとあそこまで届いてたからね?」
……やっぱ知ってないと変なのか。
『反乱があった』ってのはなんとなく聞いた覚えがあるんだけど。
「と、とにかく教えてくれよ。
『反逆者』って何なんだ?ランディアさんと関係あるのか?」
「え?イアさん?」
メリスがランディアさんの名前を聞いて目を丸くする。
そっか、こいつ寝てたから聞いてなかったもんな。
「その前に『反乱』の方だよ。これを知らないと全く分からないだろうからね」
「『反乱』って、この国で、だよな?」
「そうだよ。今から……3年と1か月前、かな」
少し間をおいて、グリーは話し始めた。
たぶん、思い出すのと話を整理するのに、少し時間がかかったんだろう。
「まずは反乱が起きた原因から始めよう。
3年と4カ月前、スイーツ王国の首都ケーキや、その近くの大きな町の周辺で、過去に例を見ないほど魔物の動きが活発になってたんだ」
「それが何か関係あるのか?」
魔物が活発になってたら治安維持が大変だろうけど、それで反乱が起きるなんて思えない。
そもそも反乱って、国への不満が爆発して起きるものだろ。
……そう考えると、この国で反乱が起きたなんて信じられないんだけどな。
現国王カプチノ・ブラウ・スイーツは国民思いの優しい王様で、民からの信頼も厚いって聞く。
実際この前のチョコレート町防衛で、『ソレイユ』から11人も出撃許可出してたしな。
「これは反乱とは直接は関係ないよ。
だけど、これが原因で、反乱の原因を排除することができなかったんだ」
「……どういうことだ?」
「ハディくん、単純に考えて、首都近くの魔物の動きが活発になった場合、国王はどうすると思う?」
「そりゃ、防衛とかを強化するだろ。
首都に魔物が入り込んだりしたら一大事だし」
「そう、つまり、首都やその周辺の町へ兵の人数を割くってことだよ」
「……つまり、それ以外の、辺境の町や村を見る余裕がなくなる……?」
「そういうこと。それと、事件はもう一つ起きていたんだ。
それが反乱が起きた原因……不作と干ばつだ」
「不作と干ばつ……?」
「そう、僕達の村は大丈夫だったけど、首都から離れた一部の町や村。
特に農業を主な産業としている場所が、大きな不作と干ばつに見舞われたんだ。
……具体的には、全ての作物が枯れ果て、雨が月に1度も降らなくなったそうだよ」
「はぁっ!?何だそれ!?」
「今から4カ月前、季節は春だ。
稲は出芽した直後、小麦は収穫まで後数カ月のものがすべて台無しになったらしい」
驚く俺をよそに、グリーは続ける。
小麦も米も全部台無しって……!
そんなことありえんのか!?
「蓄えがあるそこそこ大きな町なら、まだ何とかなるだろうけどね、小さな村は……それこそ存亡の危機だ。
ハディくん、君が村長ならこういう時どうする?」
「どうするって……」
「また植えれば!」
「小麦は時期が違い過ぎて無理だろ!あ、でも稲ならまだ……」
「実際、稲はすぐに植え替えたらしいよ。
……それもすぐに枯れたらしいけどね」
時期的に無理があったのか……?
ってか、雨が月に1回しか降らなかったらどの道無理か。
田舎の村の水って、雨に頼ってるもんな。
月に1回しか降らなかったら、それこそ飲み水も危ないんじゃ……。
……あれ、ってか普通この国の夏って、週に1回は雨が降るはずだよな?
「となると、国に援助を申し出るとか?」
なんとなく違和感を覚えつつも、俺は自分の意見を言ってみる。
さっき言った通り、国王は民に優しいって有名だもんな。
きっと快く援助を……、
「魔物の活発化」
グリーの言葉に俺はハッとなる。
そうだ、さっき言ってたよな。
この国の首都や首都周辺で、魔物達が活発化してるって……。
「………なぁ、グリー。
おかしくないか?流石に……」
今の話をまとめると……過去に例を見ないほど魔物が活発化して、国が辺境を見る余裕がなくなってるときに、その辺境の、特に農業を重視してる町や村で不作、干ばつ。
「そもそも、それ自体が不自然だろ。
何で急に全ての作物が枯れたんだ?
何で雨が月に1度も降らなくなったんだ?
俺達の村ではそんなこと全然なかったろ!」
3年前……俺達3人が旅に出る1年前だ。
その頃俺も、メリスも、グリーも、普通に村で暮らしてた。
もちろん作物は順調に育ってたし、雨も週に1回は降ってた。
なのに……、
「そうだ、1つ言い忘れてたよ。
その町や村はね、全て、冒険者学校がある所だったんだ」
「………え?」
それが一体……?
「話を続けよう。
ハディくんが言った通り、その町や村の長達は国に援助を申し出たんだ。
そして国王も、兵達からなんとか部隊を組んで、援助を出したんだよ」
「ん?空間転移とか使わなかったのか?」
「……あのねハディくん。
何百kmもの空間転移にはとてつもない魔力が必要になるんだよ」
「でも確か、チョコレート町でランディアさんが軽々と……」
「あれは『星の賢者』だからできた芸当だよ。
この時はまだランディアさんは軍に入ってないからね。
まぁ軍の魔法部隊全員が協力すればできたかもしれないけど、そんな余裕はなかっただろうしね」
なるほど、となると援助を出すにも持っていく兵士が必要だもんな。
防衛に人数を割いてるから厳しかったんだろうけど、それでもちゃんと援助を出す辺りが流石だ。
「ってグリー、それなら解決したんじゃ……」
「……そう、国王も、国の重臣達も、全員そう思っていたんだろうね。
それからは元通り首都や付近の町の防衛に徹して、2カ月ぐらい経って、ようやく魔物の動きも収まったらしい」
「援助も出せて、魔物も抑えられて。
全部解決したってことじゃないのか?」
「……ところがそうはいかなかったんだよ」
グリーが深刻な面持ちで呟く。
解決しなかったのか?一体何が……。
「魔物達の動きが収まった直後、とんでもないことが国王に耳に届いたんだ」
「とんでもないこと?」
「そう。町や村へ援助を出しに行った兵達が、突然、自分達は援助を届けていないと言い出したんだ」
「………は?」
ちょっと待て、意味が分からない。
「もちろんその兵達はちゃんと援助の品を持って城門を出て、想定された時間通りに帰ってきた。
そして、自分達は仕事を完遂したと報告した。
……にも関わらず、2カ月経ってから、急に自分達は援助を届けていない。
なぜ2か月前に、ウソの報告をしたのか分からない、と、全員が口々に言いだしたんだ」
「待て待て待て!!どう考えたっておかしいだろそれ!?
そいつらがふざけてるとしか思えな……」
「忘却魔法……」
メリスの静かな声が、俺の怒鳴り声をさえぎった。
「正確には、忘却魔法と操心魔法の組み合わせだよ。
忘却魔法で記憶を消し、操心魔法で心を惑わせることで、記憶の改ざんを可能にしたんだ」
「なっ……!?」
記憶の……改ざん!?
「ちょ、ちょっと待って!兄さん、その部隊の人達って、全部で何人いたの?」
「20名だよ。ただし、全員尉官以下の兵だけどね」
「に、20人!?無理だよ!いくら2カ月間だけだからって、そんな大勢の記憶を書き変えるなんて!!
そもそも忘却魔法も操心魔法もめったに見かけない珍しい魔法なのに、それこそ、それ専門の『魔導師』が5、6人か、そうじゃなかったら……」
「『大魔導師』なら、1人で可能だよ」
「っ!!」
グリーの指摘にメリスは言葉を詰まらせる。
おいおい、なんか雲行きが怪しくなってきたな……!
「続けるよ。当然国王はすぐにその町や村へ連絡を取ろうとした。
けど、何故か一切連絡が取れなかったんだ」
「妨害……?」
「そういうことだね。
さらに直後、最初に援助を出しに行った部隊が、独断でまた援助を出しに行っちゃったんだよ」
「え?」
「……責任とか感じたんだろうな」
「だろうね。国王はその時嫌な予感がしたらしくて、すぐに援軍として尉官10名、佐官2名で構成した部隊を出発させた」
この国の尉官って、冒険者で例えたらC~D級、佐官はそれこそB級並だよな。
「……けど、町や村の付近で連絡が途絶え、それからいくら待っても両部隊……いや、1人たりとも帰ってこなかったそうだよ」
「まさか……!」
「全員、行方不明になったんだ」
ちょ、っと待て、マジで……!?
「流石にここまで来て、国をあげて本格的に動くことにしたらしい。
国王だけじゃなく重臣達も危機感を覚えたんだろう。
あまりにもおかしい、とね」
「そりゃ、これでも動かないとかありえないだろ」
むしろもっと早く動けと言いたくなるんだけど、まぁ、それは今、話として聞いてるからそう思えるんだよな。
国王が援軍出した時点で動いてるとも言えるし。
「……けどね、遅かったんだ」
「……え?」
遅かった、って……。
「ハディくん、この時点で、辺境の町や村で不作や干ばつが起きてから、どれぐらいの時間が経ったと思う?」
「あっ……!!」
少なくとも2カ月……いや、部隊編成の時間や予想外の事態に対する混乱、それに行方不明になるまで待ってたならもっと……!!
「3カ月強……その間町や村への連絡は、最初の、すぐに援助を出すという一報のみだ。
住民達は、どう思っていたんだろうね」
「け、けど、待てよグリー!いくらなんでもそれだけで……」
言いかけて、不意に背筋に悪寒が走った。
待て、待てよ。
今までの話をまとめると……。
農業を中心にしている、冒険者学校のある町や村。
そこで起きた不作と干ばつ。
何者かの妨害で国からの援助は一切届かず、連絡もつかない。
その妨害に使われたのは、忘却魔法と操心魔法……!!
「……お、い、グリー……!!」
「……そうだね。結論から言おうか」
当たって欲しくない予感ほど、当たってしまうと聞いたことがある。
「その数日後のことだよ」
できれば、この予感は外れていて欲しかった……!!
「……その町や村の人々、約10万人が、暴徒と化して、首都近くの町を襲い始めたのは。
それも、冒険者学校の講師や生徒達が中心となって、ね……」
では次回予告です!
「メリスです!」
「グリーだよ。……何か今回の話、
僕がずっとしゃべってただけのような気がするな……」
「兄さんずるい!!私ここ最近台詞少ないのに!!」
「ごめんよメリス……!
そうだ!ここから先はメリスが話してくれれば……」
「さぁ次回予告だよ兄さん!!」
「え……うん」
「次回は今回の話の続きなんだけど……、
そういえば、今回の話ではイアさん出てきてなかったね」
「大丈夫だよメリス、次の話でちゃんと出てくるから。
……ただ、メリスは少し
がっかりしてしまうかもしれないけれど……」
「え?」
「いや、何でもないよ」
「変な兄さん。
それじゃ、次回冒険者ライフ!第34話『国王の誤算』!
次回はイアさんが大活躍!?」
「……まぁ、ね」