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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第四章 3年前の物語
44/71

第32話 辺境の村

「ほらメリス、女将さんが野菜粥作ってくれたぞ」

「……うん」


声をかけると、メリスは目を覚ましてゆっくりと体を起こした。

朝よりは顔色良くなってるけど、やっぱりまだ調子悪そうだな。

とりあえず野菜粥を手の届く位置に置き、俺とグリーは自分達の食事を始めることにする。


「あれ、2人もここで食べるの……?」

「おう、邪魔なら下の食堂行くけど」

「そうじゃないけど……風邪うつったりしたら」

「大丈夫だよメリス!!むしろ僕にうつして治してくれ!!」

「グリーちょっと黙れ。メリス、俺達より自分のこと考えろって」

「……うん、ありがと」


力なく笑ってメリスは粥を食べ始める。

うんうん、まぁあんまり食欲ないだろうけど、食べておかないと体がもたないもんな。


「ごちそう様ー」

「待てコラァ!!!」

「……どうしたの?」


十数秒で野菜粥をたいらげたメリスが首を傾げている。

……あれ?こいつ病人じゃなかったっけ?


「ハディくん静かにしなよ!メリスは病気なんだよ!?」

「てめぇが言うな!!」


ついさっき、部屋の前で騒いでた奴に注意されるなんて思わなかったぞ!!


「メリスもう食べたのかい?」

「うん!おいしかったー」

「うんうん、これならすぐに治りそうだね」

「本当?やったー!」


……むしろもう治ってるんじゃないか、と思う俺は間違ってるんだろうか。

いや、もういいや。メリスだもんな。


「……なんだか今、ハディに呆れられた気がする」

「気のせいだろ」


メリスがジト目で軽くにらんできた。

危ない危ない、風邪でも勘の良さは変わってないか。

……流石に心は読まれなかったみたいだけど。


「と、忘れてた、メリスこれ飲め」

「……何それ?」

「風邪薬。ランジがくれたんだ。これ飲めば軽い風邪ぐらい半日で治るってよ」

「……そっか、苦いの苦手だけどなー……」


そう言いつつも薬を受け取るメリス。

せっかくくれたんだし、人の好意を無下になんてできないよな。


「それと女将さんがミカンくれたぞ」

「わーい!」

「……食べるなら薬飲んでからな?」


かごを見せると同時に飛んできたメリスの手をかわしながら言う。

こいつ食い物のことになると本当早いな……。


「それと食べたらちゃんと寝ろよ?睡眠が一番の薬なんだからな」

「はーい……なんだかハディお母さんみたい」

「……俺は男だ」


百歩譲って保護者みたいなのは認めるとしても、お母さんはないだろお母さんは。

若干傷ついていると、扉が開く音がした。


「こんにちはー」

「おっす!」

「リンにクイト、どうしたんだ?」


部屋に入ってきたのは、冒険者志望の少女リンと、兵士志望の少年クイトだった。


「ハディさんだっけ?あんたにちょっと頼みがあるんだ!」

「それと、メリスさんのお見舞いです」

「ありがとー、大丈夫だよ」


メリスはミカンを食べる手を一旦止め、2人に微笑む。


「良かったです、何かあったら言って下さいね」

「うん!」

「んで、俺に頼みって?」

「そうそう!ハディさんあんた剣士なんだろ?俺達に稽古つけてくれよ!」

「稽古?」

「はい!昨日は断られましたけど、もう一度お願いに来ました!」


そう、実は昨日もリンに頼まれたんだよな。

昨日は明日には出発する予定だったのと、その時はもう夜だったから断ったんだけど……。


「ハディ、行ってきたら?」

「そうだよハディくん。メリスは僕が見てるからさ」

「……そうだな、2回も断るのも悪いし」


2人に促され、俺は稽古をつけることにする。

さて、それじゃあこれを言っておかないとな。


「メリス、グリーに何かされそうになったら大声を上げるんだぞ?」

「待ってくれハディくん、それは僕を侮辱していないかい?」

「うん、分かったー」

「メリス!?僕は変なことなんてしないよ!?ただメリスの可愛い寝顔をじっくり見るだけだ!!」


……どうしよう、グリーを見張っておいた方がいい気がしてきた。


「ほらハディ、2人とも待ってるよ?」

「と、そうだな。それじゃメリス、いざとなったらこのナイフを使えよ?」

「ちょっと待ってくれ!僕はそんなに信用がないのかい!?」


グリーが何か騒いでるけどこの際無視だ。


「それじゃ行くか!」

「はい、お願いします!」

「この宿屋の裏に広い空き地があるからさ、そこで頼むぜ!」


というわけで2人と一緒に空き地に行くと、訓練用の木刀が3本置いてあった。

準備いいな。


「さてと、稽古って言ってもどうするかな……」

「あの、ハディさんの使う剣術って、どういうものなんですか?」

「我流」

「我流!?」


俺の答えにリンは驚く。

いや、今の言い方だと少し誤解されそうだな。


「我流っていうか、型とかあんまり知らないんだ。

 昔から親父に教え込まれた剣術と、冒険者学校で習った剣術を適当に使ってる感じだ」


俺が知ってるのは剣の扱い方だけ、後は敵をしっかり見て斬るだけって感じだからな。

技とかも知らないし。


「そういうわけだから、基本とか技とかは教えられないんだ。できるとしたら実戦稽古ぐらいかな」

「じゃあそれでお願いします!」

「実戦稽古か、腕が鳴るぜ!」


2人とも予想外に食いついてきたな。

普通大人と実戦稽古なんて怖いと思うんだけど。


「分かった、2人の実力も見たいしな。

 ……子供だし、2対1でいいか」


俺がそう呟くと、2人は顔をしかめた。


「おいおい、子供だからってなめるなよ!」

「っと!」


言うや否や、クイトは木刀を振りかぶって突進してきた。


「参ります!」


それをかわすと、続けざまにリンが木刀を振りかざしてきたので、自分の木刀で受け止める。

子供にしては結構重い一撃だ。


「まだまだぁっ!!」


後ろからクイトが襲いかかってきたので、リンを振り払って、クイトの木刀をかわす。


「隙だらけだぞ!」

「なんのっ!!」

「っ!?」


攻撃をかわされ、体勢を崩したクイトに斬りかかると、クイトはその場で1回転し、その勢いで木刀をぶつけてきた。遠心力もあるんだろうけど、この攻撃も重い。

……この2人、下手な不良なんかより強くないか?


「やああぁっ!!」


それに驚いていると、いつの間にか後ろに回っていたリンが斬りかかってくる。

それを横跳びでかわして一旦引くと、2人は体勢を整え、木刀をまっすぐ構えてきた。


「軽くいなすつもりだったんだけど、ちゃんと本気でやった方が良さそうだな……」

「へへっ!俺達を甘く見るなよ!!」


クイトは満足げな笑いを浮かべた後、先程のように突進してきた。


「……悪いけど」


クイトが木刀を振り下ろすのに合わせて、下げておいた自分の木刀を振り上げる。


「それはもう慣れた!」

「うわっ!?」


当然力はこっちの方が上だ。

衝撃にクイトは耐え切れず、クイトの持っていた木刀は上空へと弾き飛ばされる。


「そっちもな」

「えっ!?」


振り返ると、ちょうどリンが木刀を振り上げて迫ってきているところだった。

腕の長さの分リーチはこっちの方が上なので、リンの頭に木刀を突き付けて動きを止める。


「う……」


リンは悔しそうな顔をした後、木刀を捨てて両手を上げた。


「くっそ!やっぱ本職には敵わないか……」

「流石です……」

「いや、2人も強かったぞ。正直驚いた」


流石に冒険者にはまだ届かないけど、この年でこの実力なら、十分見込みがある。


「それじゃ、稽古を続けるか。次は1人ずつな」

「はい!」

「おう!」


そんな調子で稽古を1時間ほど続けた後、一旦休憩をとることにした。



「あー疲れた!」

「2人ともお疲れさん」

「ハディさんもお疲れ様です」

「あんたすげぇな……一本も取れない」

「ま、一応冒険者だしな。2人も十分見込みあるぞ。

 冒険者学校の試験ぐらい余裕で通過できるって」

「俺は兵士学校だけど。

 でも、この国の兵士学校のレベル、冒険者学校と同じぐらいなんだってさ」

「スイーツ王国は兵士のレベルが高いからな」


と、学校について少し説明しておこう。

このスイーツ王国は世界でも珍しい『義務教育』があって、小学校までは義務教育で絶対通わないといけないんだ。

それを卒業した後は冒険者を目指すなら冒険者学校、兵士を目指すなら兵士学校、みたいに専門学校に入ることが多い。

この専門学校は試験とか年齢制限があることがあって、冒険者学校と兵士学校は共に、入学試験と15歳以上という年齢制限がある。

……ちなみに、学校に行かなくても実力さえあれば、冒険者の資格を得ることや軍に入ることは可能だ。

メリスは冒険者学校行ってないしな。


「っていっても、冒険者学校の生徒って半分ぐらいは素人だぞ」

「え、マジで?」

「おう、冒険者に憧れてるって子供は多いけど、実際本当に剣術とか習ってる子供は少ないからな。

 冒険者学校で初めて剣を持つって奴が大半だ」

「俺達も真剣は持ったことないけど……」

「じゃ、持ってみるか?」


腰に差している剣を引き抜くと、2人は声を上げる。


「い、いいんですか!?」

「すげぇ!!俺真剣持つの初めてだ!!」

「ま、普通のロングソードだけどな。

 ……振り回したりするなよ?」

「わ、分かってるって!!」


剣の柄をそっと握ると、クイトはまたも歓喜の声を上げる。


「わ、お、重い!すげぇ!!これが本物の剣か!!」

「ク、クイト!私も私も!!」


リンも剣を持つと、クイトと同じような反応をする。


「まぁ興奮するのも分かるけど、興奮しすぎないようにな?

 冒険者学校で調子に乗って剣振り回して、先生に拳骨くらって1時間説教された上に1週間外出禁止になった奴いたから」

「し、しねぇよそんなこと!!」


焦ってる所見ると少し怪しいんだけど……。

まぁ、本当にやったりはしないだろ。


「あの、ありがとうございました!!」

「ん、おう。どうだった?」

「なんか、感激はもちろんなんですけど、本当に重いんですね。

 冒険者はこんなのを軽々振り回してるんですね」

「兵士もな」

「使ってりゃ慣れるって。

 まぁ、子供の内は木刀とかの方がいいだろうけど。

 危ないのはもちろん、重くてまともに使えないだろうからな」


危ないっていったら木刀も十分危ないけどな、この子達はそんなヘマしないだろうし。


「そういうハディさんは、真剣いつから使ってたんだ?」

「俺は2人ぐらいの年から持ってた……ていうか親父に持たされてた。

 素振りぐらいならまだしも、稽古で使うのは本当に危ないんだけどな……。

 今思うとかなり無茶してた気がする」

「えーいいなー!

 俺親父に頼んでるんだけどさ、ガキには10年早いって買ってくれないんだよ」

「いや、そっちが正論だろ。

 俺の親父がおかしいんだって……」


武器への憧れってのもあるんだろうけど、扱い間違えるとケガじゃ済まないからな。


「さっきも怒られたし、やっぱ当分は無理かなー……」

「あれはクイトが悪いんでしょ?」

「そうだけどさ」


ふくれっ面になるクイト。そういえばさっき怒られてたよな。

確か……、


「なぁ、『反逆者』って何なんだ?」


俺がその言葉を口にすると、2人はビクッと肩を震わせ、押し黙ってしまった。

そう、さっきクイトはこの言葉を言ってエレルさんに怒られてたんだ。


「……ごめんなさいハディさん。

 その言葉、この村ではタブーになってるんです」

「あぁ、半年前からな」

「半年前って……盗賊に襲われた事件があった頃だよな?

 何か関係あるのか?」

「ごめん、あんまりその話したくないんだ。

 それに、俺達も詳しいことは知らないし」

「あ……悪い」


無理に聞くのはよくないよな。

……帰ってからグリーに聞いてみるか、あいつなら知ってそうだし。


「そういえば2人とも、さっき村長さんと仲良さそうだったけど」


なんだか空気を悪くしてしまったので、とりあえず話題を変えることにする。


「うん!俺村長大好きだぜ!!」

「私も!優しいし物知りだし、村のことを一番に考えてくれてるんです!」


2人は途端に笑顔になり、村長さんのことを話し始める。


「それにな!フッフッフ……」

「な、なんだ?」


含みのある笑いを上げ、少し間をおいてからクイトはこう言った。


「聞いて驚け!!うちの村長はな、『魔導師(ウィザード)』なんだぜ!!」

「な、なんだってー!?」


魔導師(ウィザード)』!?一般人が!?


「へへっ!すっげーだろ!?」

「お、おう、驚いたぞ。メリスみたいに本職ならともかく、一般人が『魔導師(ウィザード)』なんて……」

「あははハディさん、その言い方だとまるで、メリスさんも『魔導師(ウィザード)』みたいですよ?」

「いや、そうだぞ?」

『……え?』


2人の笑顔が固まる。


「だから、メリスは『魔導師(ウィザード)』なんだって」

『……えええええぇぇぇぇぇぇぇ!?』


大声を上げて仰天する2人。

……そういえば『魔導師(ウィザード)』って結構すごいんだっけ?

メリスを見てるとあんまりそう思えないんだけど。


「だ、だって!『魔導師(ウィザード)』なんて、冒険者で言えばD(クラス)とかC(クラス)並だろ!?」

「まぁ、魔力だけならな。それと俺とグリーはD(クラス)だぞ。

 つまり俺達3人は大体同格……」

『D(クラス)!!?』


俺の言葉をさえぎって仰天の声を上げる2人。

……なんかこれで驚かれるの久しぶりだな。


「ハ、ハディさんっておいくつですか?」

「俺?今年で21歳だけど」

「21!?」

「な、なぁリン、それってすごいん……だよな?」

「あ、当たり前でしょ!!

 普通20歳でE、30歳でD、40歳でC、

 凡人はそこまでで終わりだって言われてるんだから!!」


……そういやそんな通説あったっけ。

そう考えると13歳でCとか、レイラは本当すげぇな。

コウルさんも見た目20歳前半ぐらいだったし、あの人もかなりすごいんだよな……。


「で、でも!昨日ランジがハディさん達は昇格審査を受けに行くところだって……」

「おう、タルト町にな。間に合うかちょっと微妙だけど……」

「……あの、それって……」

「……C(クラス)の審査だ」


なんか自慢してるみたいで嫌だけど、本当のことだから正直に言っておく。

……と、また2人が固まった。


「C!?マジで!?無理だろ!?」

「失礼だなオイ」


いくら正論だからって、本人の前で言うなよ……。


「でも、もし受かったらすっごいですよ!?

 ……あれ、あの、メリスさんも受けるんですか?」

「ん?あぁ、あいつはE(クラス)だけどな」

「メリスさん、風邪なのに大丈夫なんですか?」

「ん……まぁ軽い風邪だから大丈夫だろ。

 審査そのものは4日後だしな」


流石にその頃にはメリスの体調も戻るだろう。

……問題は、明日の申請に間に合うかなんだけど。


「もしCも受かったら、あんたそのうちA(クラス)になるんじゃないか!?」

「話が飛びすぎだ!A(クラス)なんて世界に150人ぐらいしかいないって言われてんだぞ!?」


ちなみにその下のB(クラス)は世界に5万人前後って言われてる。

いきなり飛びすぎだよな……。

そのせいでBはピンキリがかなり大きいらしい。

まぁ、どっちにしろすごいことには変わりないけど。


「でもさ、10代の若さでA(クラス)になった人とかいるんだろ?『絶望』とか『神童』とか」

「2人とも伝説の冒険者だろ……」


そんな『化け物』と比べられても正直困る。


「と、もうそろそろ休憩は終りでいいか。もう十分休めただろ?」

「おう!よーし!D(クラス)冒険者から一本取ってやる!!」

「私もがんばります!!」


そう言って木刀を構える2人。

……そういえば、


「なぁ、2人ってどっちの方が強いんだ?」


ふと思い立ったことを聞いてみる。

すると、


「俺」

「私です」


2人がほぼ同時に返事をした。

……ただし、内容は真逆だったが。


「何言ってんだリン!!俺の方が上だろ!!」

「クイトこそ!私の方が年上でしょ!?」

「年は関係ないだろ!!何なら証拠を見せてやるぜ!?」

「望む所よ!!」


バチバチと火花を散らして木刀を互いに向ける2人。

……どうしよう、これ止めた方がいいよな……?

俺が悩んでいると、2人に近づく人影が……。


 ドゴッ!!


『っっっ!!?』

「2人ともやめなよ。ハディさんが困ってるよ」


涙目で頭にできたたんこぶを押さえる2人に、呆れたような顔を向けるのは、今しがたここに来たランジだ。

……ちなみに2人にたんこぶを作ったのは、他でもないランジのげんこつだったりする。


「お、おうランジ、どうしたんだ?」

「姉貴とクイトが稽古つけてもらってるって聞いてさ。

 差し入れ持って来たんだよ」


ランジが持ってるのはいわゆるスポーツドリンクだ。

なるほど、秋に近いとはいえまだ夏だ。

熱中症とか気をつけないといけないもんな。


「ラ、ランジ、あんたね……!」

「不意打ちとは卑怯だぞ……!」

「何か言った2人とも?」

『いえ、何でもありません!!』


すげぇ!!にらみだけで2人を黙らせた!!

そういや昨日、姉貴は自分より弱いって言ってたっけ……。

とりあえずこの3人の中では、ランジが一番強いみたいだな。


「そんじゃ、稽古を再開するか」

「はい!お願いします!」

「よっしゃ!先手必勝!!」

「……さっき不意打ちは卑怯って言ってなかったっけ?」


始まるや否や突進するクイトを見て呆れ顔になるランジ。


「……何の考えもなしに飛びこむのはやめた方がいいぞ」

「わっ!!」


さっきと同じようにタイミング良く木刀を当てて弾き飛ばす。

純粋な腕力で負けてる相手に、正面から飛びこむのって自殺行為だろ。


「後、毎回後ろに回り込むのもあんまり良くないぞ。ワンパターンだと簡単に読まれるって」

「う……」


こっちもさっきと同じように、頭に木刀を突きつけて動きを止める。

これじゃさっきと全く同じ……、


「隙あり!!」

「いてっ!?」


突然背後から頭に衝撃が来る。

そう、クイトが後ろから殴りかかってきたのだ。


「やった!D(クラス)冒険者に一発入れた!!」

「おい待て!剣術の稽古だろ!?」


いや、油断してた俺も悪いけどさ!!


「ほらクイト、ちゃんと木刀使いなよ」

「お、サンキューランジ!よっしゃ!次は木刀で一発入れてやる!!」

「いや、木刀で頭殴られたらシャレにならないだろ……」


木刀を拾ってきてくれたランジにお礼を言い、はりきるクイトに思わずそう言う。

一般人だったら最悪死ぬぞ。


「私もがんばります!!」

「いや、うん……まぁいいや」


そんな調子で俺は夕方まで2人に稽古をつけているのだった。

ちなみにそれ以降は一発もくらわなかったぞ。











「ただいま」

「あ、おかえりー!!」


部屋に帰った俺を迎えたのは、昨日までと変わらないぐらい元気なメリスの声だった。


「お、メリス。もう風邪は大丈夫か?」

「うん!全快だよ!!」


うん、顔色も良いし体調も良さそうだ。

メリスの身体能力は一般人と変わらないけど、旅をしてるおかげで体力はあるからな。

それにランジのくれた風邪薬も効いたんだろう。

これなら明日の朝出発しても大丈夫そうだ。


「熱も下がってたしね。でもまだ病み上がりだから、油断は禁物だよ」

「兄さん、明日間に合う?」

「もちろん。でも無理はしないようにね?」

「うん!」

「と、そうだグリー。ちょっといいか?」

「ん、なんだい?」

「『反逆者』って知ってるか?」

「………」


グリーはそれを聞くと、小さく嘆息してこう言った。


「ハディくん、まさか知らないのかい?」

「え?」

「兄さん、何それ?」

「……メリスも知らないのかい。

 この国にいれば普通知ってるはずなんだけどね……」


なんか呆れられてる……。

あれ、そんな常識的な言葉なのか?


「流石に、3年前に起きた『反乱』は知ってるよね?」

「あ、なんか聞いたことある」

「私も」

「……分かった、その程度の認識なんだね2人とも」


グリーは今度は大きく嘆息する。


「『反乱』のことから話さないとダメかな。

 ……少し長いけど、夕食までには間に合うと思うよ」


グリーはゆっくりと目を閉じ、語りかけるように話し始めた。


「それじゃ、話そうかな。

 3年前に起きた『反乱』……いや、『侵略』について、ね……」


グリーの真剣な雰囲気に、俺とメリスは思わず唾を飲み込む。

そして、グリーはゆっくりと口を開き、話し始めた……。


「っていうか2人とも、何度も言うけど、普通は知ってるからね?」


グリーに呆れ顔を向けられ、俺とメリスは苦笑いでごまかすのだった。










では次回予告です!


「ハディだ」

「グリーだよ。

 ……全く、君の世間知らずには呆れてものも言えないね」

「そこまで言うか!?」

「『星の賢者』のことも忘れてたじゃないか。

 ……世間知らずっていうより、

 物忘れが多いんじゃないかい?」

「俺はまだ21歳だっての!

 あーもう、次回予告行くぞ!」

「まぁ、今回の話から予想はつくだろうけど、

 3年前に起きた『反乱』について、

 僕が詳しく話をするんだよ。

 『反乱』というより、『侵略』と言った方が正しいんだけどね。

 ……それも、頭に卑劣な、とつくものだよ。

 次回冒険者ライフ!第33話『反乱という名の侵略』。

 卑怯な手も、戦いにおいては評価せざるを得ないよ。

 結果が全ての戦争においては特に、ね」

「でも、やっぱそういうのは嫌いだな」

「同感だね。そもそも僕は戦争自体嫌いだよ」

「同感だな」



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