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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第四章 3年前の物語
43/71

第31話 半年前の事件

ミカン村に到着した翌朝、予定ではもうミカン村を出てタルト町へ向かっているはずなのに、オレ達はまだミカン村にとどまっていた。

……なぜなら、


「……37度5分か」

「うぅ~……」


俺が告げると、メリスはベッドに寝たまま、悔しそうにうめき声を出す。


……そう、メリスが風邪をひいた。


「バカは風邪なんてひかないはずなのに……!」

「ハディひどい……」


いつもならもっと大声で反論してくるのに、今はそんな元気もないみたいだ。


「ま、そんなに熱があるわけでもないし、今日1日寝れば治るだろ」

「……昇格審査、間に合う?」

「心配すんな、明日出れば間に合うって」


元気づけるようにできるだけ明るく言うと、メリスは安心してくれたのか、また眠り始める。

とは言ったものの、どうするかな……。

タルト町のギルドが閉まるのは夜10時らしい。

ここからタルト町まで徒歩10時間だから、明日の11時に出れば十分間に合うけど、明日までに治ったとしても、メリスは病み上がりだ。

10時間歩き続けるってのは無理だろうから、途中で休憩をはさみながら行くことになる。

その場合どれぐらい時間がかかるか……。

……まぁ、別に急いで資格取る必要もないし、諦めることも考えておくか。


「ただいま……あれハディくん、メリスはまだ寝てるのかい?」

「あ、お、おう」


しまった、朝の修業に行ってたグリーが帰ってきた。

どう説明するか……いや、変にごまかすより、ありのままに言った方がいいよな。


「グリー、ちょっと」

「ん?なんだい?」


念のためにグリーを部屋の外に連れ出してから、話をする。


「グリー、落ち着いて聞いてくれ」

「どうかしたのかい?」


たぶん無駄だろうけど、前もって一言言っておく。

そして、


「メリスが風邪をひいた」


ありのままに現状を説明……あ、グリーが石化した。


「………メリスが……風邪……?病気……!?」

「お、おい、落ち着けグリー。ただの風邪……」

「メリスーーーーーーーーー!!!」

「落ち着けっつーの!!」


凄まじい速度で部屋に飛びこもうとするグリーをなんとか押さえ込む。

つーか近所迷惑だ!!


「メリスは大丈夫なのかい!?大丈夫なんだよね!?」

「ただの風邪だって言ってるだろ!!」

「薬!!そうだ『擬似エリクサー』があれば風邪なんて一瞬で治る!!」


擬似エリクサーってのは1束1万Gもする最高級の薬草のことだ。

確かに擬似エリクサーをせんじて飲めば風邪ぐらい一瞬で治るけど、こんな田舎にそんなものがあるとは考えにくい。

……つまり、


「ハディくん!!僕は今すぐ首都まで走って行って擬似エリクサーを買ってくるよ!!」

「落ち着け往復千km超える距離だぞ!?風邪のためにそこまでするな!!」


まぁ、こいつならそれぐらいするだろうとは思ったけど……!

冗談じゃなくて本気だから厄介だ!


「何騒いでるのさ二人とも?」

「あの、どうかされましたか?」


と、やはりうるさかったのか、2人の子供が俺達に話しかけてきた。

1人は昨日俺達を村に案内してくれた少年ランジ・ビレン。

もう1人はランジの姉のリン・ビレンだ。

年は12、3ぐらいで、ランジと同じ明るめの茶髪を二つ結びにしている。

将来は冒険者になりたいらしくて、昨日いろいろと話をして仲良くなったんだ。


「あー悪い、実はメリスが風邪をひいたみたいで」

「だから僕が今から首都まで走って行って……」

「やめろっつってんだろ!!お前が帰る頃にはもう風邪治ってるぞ!?」


グリーならたぶん不眠不休で走り続けるだろうけど、それでも往復5日以上はかかる距離だ。


「風邪?なら風邪薬があるから取ってくるよ。ひどいの?」

「いや、熱もそんなにないし、別に薬なしでも明日には……」

「遠慮しなくていいって、別にお金なんて取らないしさ。

 うちの薬はよく効くから、軽い風邪なら半日で治るよ!」

「そ、そうか?じゃあ頼むな」

「うん!」


ランジは笑顔でそういうと、小走りで薬を取りに行ってくれた。


「あらリン、何かあったの?」

「あ、お母さん」


ランジと入れ違いに奥から女将さんが出てきた。

手には小さなかごを持っていて、収穫したてらしきミカンが入っている。


「それが、メリスさんが風邪をひいちゃったみたいなの!」

「あらあら、それは大変!」

「今ランジが風邪薬を取りに行ってるよ」

「あらそう、あ、それじゃ旅人さんこれどうぞ」


女将さんは笑顔でミカンの入ったかごを差し出してくれた。


「え、でも……」

「遠慮なさらないで、風邪にはビタミンCが良いんですよ」

「そ、それじゃありがとうございます」


お礼を言ってみかんを受け取る。

なんか悪いな、こんなに物をもらうなんて。


「ランさんこんにちはー!

 お、あんたら噂の冒険者さん達かい?今日の朝出発するって聞いたけど」

「冒険者!?え、本物!?」


宿屋に2人の親子らしき人達が入ってきた。

30代前半ぐらいの色黒の男と、ランジと同い年ぐらいの逆立った黒茶色の髪が特徴の男の子だ。

……っていうか、俺達の噂もう広まってるんだな。


「あらあら、エレルさんにクイトくんこんにちは」

「こんにちはー」

「よっリン!遊びに来たぜ!」


クイト?なんか聞いたことあるような……、

あ、思い出した。


「君ひょっとして、兵士志望の子?」

「え!?なんで知って……あ、リンしゃべったな!」

「別にいいでしょ?」


そう、昨日リンに聞いた兵士を目指してる男の子だ。

精鋭部隊『ソレイユ』は言うまでもないけど、それ以外でもスイーツ王国の兵士は1人1人が強いって有名で、冒険者と同じように、憧れてる子供は多いらしい。


「冒険者もかっこいいけどな!やっぱ男なら兵士だろ!」

「そう?冒険者の方がロマンがあると思うけど」

「分かってないなリン!男は誰かを守ってナンボだろ?

 俺は『黄龍』エルド・ドラゴニスみたいなかっこいい男になるんだ!!」

「クイト、『黄龍』は女の人だよ」


ちょうど戻ってきたランジが鋭い指摘を入れる。


「それに、そういう理由で憧れるなら『星の賢者』の方じゃないの?」

「い、いいだろ別に!俺は魔法より剣の方が好きなんだよ!

 ……ところで、何持ってるんだランジ?」

「風邪薬だよ、冒険者の1人が風邪をひいたんだって」

「えぇ!?冒険者って風邪ひくのか!?」

「そりゃ、俺達だって人間だからな……」


そりゃ冒険者の戦闘力は人を超えてるとかよく言われるけど。

……そういう意味なんだよな?

全員バカだと思われてるとかそういうのじゃないよな?


「なんだ風邪ひいちまったのか?そんじゃランさん!これ使って栄養のあるメシ作ってやりなよ!ウチの野菜は世界一だからな!!」

「あらあら、ありがとうございます」


エレルさんが持っていた色とりどりの野菜を女将さんに渡す。


「はい、これ風邪薬だよ。食後30分以内に飲んでね」

「ありがとなランジ」

「あら、それならお昼に野菜粥を持っていきますね。

 ちょうど野菜をもらいましたし」

「ありがとうございます。

 ……なんか悪いな、風邪ぐらいでこんなにしてもらって」

「ハッハッハ!気にすることねぇって!困った時はお互い様だ!」

「そうですよ!それに……」


笑い声を上げるエレルさんに続いて、リンはこんなことを言った。


「『人を助けるのに理由なんていらない』って、あの人から教わりましたから、ね」


リンの言葉に他の人達も力強く傾く。

……あの人?

疑問を口に出そうとしたその時、またも宿屋の扉が開いた。


「こんにちは」

「あ、村長!」

「村長さん、こんにちは!」


入ってきた60代ぐらいの老人に、子供達はうれしそうに駆け寄って行く。


「こちらに冒険者の方が来ていると聞きましてな。

 村の長としてあいさつに来ましたぞ」

「わざわざすみません。僕はグルード、こっちは仲間のハディです」

「もう1人いるんですが、今風邪で寝込んでます」

「そうですか。いやようこそ旅の方々、我が村はあなた達を歓迎しますぞ」


村長さんはにこやかにそう言ってくれる。

っていっても、昨日からもう十分歓迎してもらってるけど。


「……失礼ですが、少し意外ですね」

「グリー?」


グリーが急に神妙な顔になる。

意外って……?


「僕の聞いた所、ミカン村は魔物のいない森の中にあるがゆえに、盗賊の標的になりやすい。とのことでしたので、もう少し警戒されるかと思ってました」

「盗賊!?」


グリーの言葉を聞いて、驚くと同時に昨日のランジの言葉を思い出す。

『危険なのは、魔物だけじゃないってこと』

あれは、そういう意味だったのか……。


「まぁ、僕達が冒険者だから大丈夫だろうと判断したんでしょうが、それでも、村の外の者にはもっと疑心暗鬼になってると思ってました。

 でも、実際には疑心暗鬼どころか……」

「ふむ……グルード殿の言うことももっともですな」


村長さんはグリーの言葉を聞き、それを肯定する。


「確かに、我が村の者は外の者……特に素姓の知れない者に対して少し警戒するくせがありました。

 半年前までは」

「半年前?」


グリーが聞き返すと、村長さんは大きくうなづく。


「半年程前、我が村は盗賊団に占拠されたのです」

「なっ!?」


占拠って……この村が!?

周りの人を見ると、その時のことを思い出したのか、子供達はもちろん、大人達も苦い顔をしていた。


「しかし、我が村の者は死者どころか、ケガ人すら出ませんでした」

「え?」

「たまたま村に泊まっていた旅の冒険者達が、己を犠牲に村の者達を逃がしてくれたのです」

「犠牲って……!」

「……命は助かりましたが、冒険者生命を左右される程の大ケガを負いました」


……なるほど、話が見えてきたな。


「それで、同じ冒険者である僕達は警戒しなかった、と」

「そういうことですな」

「それにそもそも、冒険者さん達俺に何もしなかったでしょ?

 その時点で警戒する必要なんてないって分かってたよ」


ランジが得意げな笑顔で言う。


「ってことは、風邪をひいたメリスに良くしてくれるのも?」

「それはもう1人の影響ですな。

 半年前我が村を救ってくれたのは、旅の冒険者の他にもう1人いたのです」

「それは?」


グリーが村長さんに尋ねるが、その顔にはもう予想はついてる、と書いてあった。


「私達は逃げる前に、我が村が盗賊団に襲われていると、国へ救助願を出したのです。

 それを受けた国は、軍から1人の兵士を寄こしてくれました」

「1人……?盗賊団相手にですか?」


盗賊団の規模は分からないけど、少なくとも村を占拠するぐらいの人数はいたはずだ。

なのに1人って……。


「1人で十分だったんですね?」

「えぇ、その時我が村に来て下さったのは、かの『八つの魔塔』が一角、『星の賢者』イア・ランディア殿でしたからな」

「えっ!?」


ラ、ランディアさんが!?


「なるほど、『星の賢者』なら盗賊団ぐらい、1人で片づけられますね」

「えぇ、グルード殿の言う通り、ランディア殿はたった1人で盗賊団を壊滅させ、殺されかけていた冒険者達を救い出し、森の奥へ避難していた私達に、そのことを伝えに来てくれました」


流石ランディアさん……。


「その時に、確か言ったのはリンだったな?」

「……うん」


リンが少しこわばった顔で傾く。


「私……この村に少しコンプレックスがあったんです」

「コンプレックス?」

「うん、こんな小さな村、国全体から見たら、あってもなくても一緒なんじゃないかって」


リンは少しうつむいて、小さな声で話す。

……正直、リンの気持ちは少し分かる。

俺も、メリスも、グリーも、この村と同じぐらい小さな村の出身だ。

グリーはともかく俺とメリスは、こんな小さな村で終わりたくないと思って村を出たんだ。

リンの考えは、辺境の村に住む子供が、一度は抱くものだと思う。


「それで私、イアさんにこう聞いたんです。

 『なんであなたみたいなすごい人が、こんな小さな村に来てくれたの?』って。

 そしたら、イアさんは私に周りを見るように言って、それからこう言ったんです。

 『人を助けるのに理由なんていりません。なぜなら、人を助けるということは、それ自体が誇るべき、尊いことだからです。今日あなた達を助けることができたこと、私はそれを、誇りに思います』って……」


そう話すリンは、とてもうれしそうな顔をしていた。

それを聞く周りの人達も同様に。


「その言葉を聞いてからというもの、俺達は困ってる奴をほっとけなくなっちまったのさ」


エレルさんが笑顔で言う。

きっとこの人達にとって、イアさんの言葉はとても胸に響くものだったんだろう。

今俺達が助けられてるのがその証拠だ。


「そうそう!あの人は俺達の恩人なんだ!

 『反逆者』だろうがなんだろうか知ったこっちゃ……」

「クイト!!!」


突然、エレルさんがクイトを怒鳴りつけた。


「その言葉は、絶対に使うなと言っただろう!!!」

「え、あ……ご、ごめん、親父……」


泣きそうな顔でエレルさんに謝るクイト。

ど、どうしたんだ、急に……。


「……落ち着きなさいエレルくん。

 クイトも他意があったわけではない」

「……そう、だな。悪いなクイト、いきなり怒鳴っちまって」

「う、うん……」


村長さんがエレルさんをなだめると、エレルさんも落ち着いたようで、クイトに謝った。

でも、『反逆者』って、一体……?

聞こうにも、口に出せるような雰囲気じゃないし……。


「見苦しい所をお見せしてしまいましたな。

 ……さて、そろそろお昼時、お暇しますかな」

「あらあら大変、お昼の支度しなくちゃ!2人とも手伝ってくれる?」

「うん!」

「はーい!」

「クイト、俺達も行くぞ。詫びにアイスクリームを買ってやる!」

「2本?」

「1本だ!よくばるな!!」


すぐに元の雰囲気に戻り、その場は解散となった。

ただ、俺の感じた疑問は残ったままだけど……。










次回予告です!

今回から対話形式でやってみます!


「ハディだ」

「メリスだよ!

 ……ハディ!今回私出番少なくない!?」

「風邪で寝込んでるんだからしょうがないだろ。

 それより次回予告だ!」

「あ、うん!

 風邪で寝込む私を2人が看病してくれるんだけど、

 2人の子供がハディを呼びに来るんだよね。

 次回、冒険者ライフ!第31話『辺境の村』!

 って待って!これ次回も私出番が少な……」

「絶対見てくれよな!」

「無視しないで!!」


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