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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第四章 3年前の物語
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第30.5話 ある英雄の追憶

~サイドアウト~


ここはスイーツ王国の首都ケーキからのびる1本の道。

その道の真ん中に、2人の人物が立っていた。


「………ねぇ」

「ん?」


2人の内の1人、光を思わせる純白の髪を持つ子供の声に、もう1人の、闇を思わせる不自然なほど黒い黒髪の少年が返す。


「止められ……ないのかな」

「はぁ?何言ってんだ、今から俺達が止めるんだろうが」

「そうじゃなくて……」

「戦わないで、か?」


傾く白髪の子供を見て、黒髪の少年はため息をつく。


「無理だろ、決定的な証拠でも上がらない限り、もうあいつらは止まらねぇよ」

「じゃあ、黒幕を……!」

「あいつら止めるのが先だ。じゃないと、黒幕つぶしに行ってる間にあいつらが首都を襲っちまう」

「……そう、だよね。

 ……うん、僕達が止めないと……!」


黒髪の少年の言葉に、白髪の子供の迷いが消える。


「何人だっけ?」

「3万人。ちなみにボロ戦車が1000台、乗り込み型の中古魔導兵器が50台だ。後は全員馬に乗ってる」


黒髪の少年の言葉に、白髪の子供はまゆをひそめる。


「勝てる……かな」

「はぁ?何言ってんだお前?この程度(・・・・)楽勝だろうが」

「……え?」

「え?じゃねぇよ、お前自分の力まだ分かってねぇのな。お前はあの人の修業を半年も受けて、生き延びてるんだ。

 ただでさえ化け物じみてたが、お前の実力はもう、『化け物』をも超えてる」

「そう……かなぁ」


不思議そうな顔をする白髪の子供に、黒髪の少年はため息をつく。


「それより厄介なのは、相手が一般人(・・・)だってことだな」

「え、何で?」

「決まってんだろ、手加減がめんどくせぇ」

「めんどくさいって……」


顔をしかめる黒髪の少年を見て、白髪の子供は苦笑いを浮かべる。

と、その時、遠方からの音に2人は同時に気づいた。


「と、来たぞ」

「あ、うん」


特に慌てることもなく、遠方へ目線を向ける二人。

それから10分程して、ようやく先頭集団が見えてきた。


「んじゃ、俺左半分やるから、お前右頼むわ」

「うん」


そう言って黒髪の少年は移動を始めるが、ふと立ち止まり、白髪の子供を振り返った。


「そうだ、念の為に一つ言っとくぞ」


白髪の子供が顔を向けると、黒髪の少年は、真剣な顔でこう言った。


殺すな(・・・)よ」

「分かってるよ」


返事を聞き、黒髪の少年は移動を再開した。

黒髪の少年が遠くまで行ったところで、白髪の子供は、小さく呟いた。


「……普通、そこは『死ぬなよ』じゃないかなぁ」


自分の命なんて全く心配していないことに、喜ぶべきか呆れるべきか迷っていると、もうかなり近い位置に、先頭集団が来ていた。


「……まずは、相手を止めるんだよね」


自分の為すべきことを確認しつつ、相手を待つ。

……そして、


「っ!!? と、止まれ!!」


男の声と共に、馬に乗った先行部隊が足を止める。

白髪の子供から見える限り、人数は100人程度だろうか。


「おい君!!こんな所で何してるんだ!?危ないからどこか遠くに避難を……」

「……あの」


自分の心配をしてくれる男の声を聞いて、白髪の子供の決心が揺らぐ。

……本当に、戦わないといけないんだろうか?と……。

それと同時に、ひょっとしたら……と、白髪の子供の瞳に、わずかな希望が宿る。


「やめて、くれませんか……?」

「……何?」

「あなた達は誤解をしてるんです。今からでも、遅くありません。

 ちゃんと、話を……!」

「……国王の回し者か、こんな子供を戦場に出すなんてな……!」


男は怒りをはらんだ言葉を吐き捨てる。


「君、今すぐここから立ち去りなさい!ここだと、巻き込まれる可能性がある!」

「ま、待って下さい!!話を……」

「話し合いなんて、もう無意味だ!!」


男は白髪の子供の言葉を一蹴する。

その時、白髪の子供は気づいた。

男達の後ろから、地平線を覆い尽くす程の戦車、魔導兵器、そして、怒れる人々が迫ってきていることに……。


「……分かり、ました」


白髪の子供は顔をうつむかせる。

さっき、黒髪の少年の言った通り、もうこの人達は止まらないのだと、白髪の子供は理解した。


「それじゃあ早く遠くに行ってくれ。

 悪いけど俺達は急いで……」


男の言葉はそこで止まった。


「おい?どうし……」


訝しんだ隣の男が声をかけるが、その言葉も途中で止まる。

そして、次の瞬間、



 ドサッ、ドササッ……



「なっ……おい!!どうした!?」


さっきまで白髪の子供と話していた男を筆頭に、十数人が落馬し、動かなくなる。

それを皮切りに、男達は次々に馬から落ちていく。


「な、何だ!?何が起きてる!?」

「わ、分からな……」


返事の途中で、その男もまた同じ運命をたどった。


「ひっ!!」


理由も分からないまま仲間が倒れていくのを見て、顔が恐怖に染まる男。

その時、一瞬男の視界に、緑色の刀が写った。

それを知覚した瞬間、その男も意識が飛び、落馬してしまう。



……1分、1分だ。

ほんの1分後、その場に立っているのは、白髪の子供ただ1人になっていた。


「………」


白髪の子供は、先程までとは違い、暗い光を帯びた瞳を遠方へと向ける。

そして、子供の体が、黄色い光に包まれる。


「轟け サンライガ」


次の瞬間、空を裂く轟音と共に、多数の巨大な雷が人々に襲いかかった。


「……『悲しい物語』にも意味はある。

 『辛い物語』から、学べることだってある。

 ……だけどね」


人に直撃しようものなら、即死しかねない程の威力の雷。

だがそれらは人ではなく戦車や魔導兵器に向かい、その動きを止めていく。

そして、轟音によって人々が乗っていた馬は錯乱し、軍勢は大混乱に陥っていた。


「『誰も救われない物語』なんて、僕は認めない……!!」


静かな殺気をはらんだ少年は、一振りの刀を手に、軍勢へと歩き出す。


「僕は、君達を止める。

 こんなことをしたって、君達は誰一人救われないから」




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