第30.5話 ある英雄の追憶
~サイドアウト~
ここはスイーツ王国の首都ケーキからのびる1本の道。
その道の真ん中に、2人の人物が立っていた。
「………ねぇ」
「ん?」
2人の内の1人、光を思わせる純白の髪を持つ子供の声に、もう1人の、闇を思わせる不自然なほど黒い黒髪の少年が返す。
「止められ……ないのかな」
「はぁ?何言ってんだ、今から俺達が止めるんだろうが」
「そうじゃなくて……」
「戦わないで、か?」
傾く白髪の子供を見て、黒髪の少年はため息をつく。
「無理だろ、決定的な証拠でも上がらない限り、もうあいつらは止まらねぇよ」
「じゃあ、黒幕を……!」
「あいつら止めるのが先だ。じゃないと、黒幕つぶしに行ってる間にあいつらが首都を襲っちまう」
「……そう、だよね。
……うん、僕達が止めないと……!」
黒髪の少年の言葉に、白髪の子供の迷いが消える。
「何人だっけ?」
「3万人。ちなみにボロ戦車が1000台、乗り込み型の中古魔導兵器が50台だ。後は全員馬に乗ってる」
黒髪の少年の言葉に、白髪の子供はまゆをひそめる。
「勝てる……かな」
「はぁ?何言ってんだお前?この程度楽勝だろうが」
「……え?」
「え?じゃねぇよ、お前自分の力まだ分かってねぇのな。お前はあの人の修業を半年も受けて、生き延びてるんだ。
ただでさえ化け物じみてたが、お前の実力はもう、『化け物』をも超えてる」
「そう……かなぁ」
不思議そうな顔をする白髪の子供に、黒髪の少年はため息をつく。
「それより厄介なのは、相手が一般人だってことだな」
「え、何で?」
「決まってんだろ、手加減がめんどくせぇ」
「めんどくさいって……」
顔をしかめる黒髪の少年を見て、白髪の子供は苦笑いを浮かべる。
と、その時、遠方からの音に2人は同時に気づいた。
「と、来たぞ」
「あ、うん」
特に慌てることもなく、遠方へ目線を向ける二人。
それから10分程して、ようやく先頭集団が見えてきた。
「んじゃ、俺左半分やるから、お前右頼むわ」
「うん」
そう言って黒髪の少年は移動を始めるが、ふと立ち止まり、白髪の子供を振り返った。
「そうだ、念の為に一つ言っとくぞ」
白髪の子供が顔を向けると、黒髪の少年は、真剣な顔でこう言った。
「殺すなよ」
「分かってるよ」
返事を聞き、黒髪の少年は移動を再開した。
黒髪の少年が遠くまで行ったところで、白髪の子供は、小さく呟いた。
「……普通、そこは『死ぬなよ』じゃないかなぁ」
自分の命なんて全く心配していないことに、喜ぶべきか呆れるべきか迷っていると、もうかなり近い位置に、先頭集団が来ていた。
「……まずは、相手を止めるんだよね」
自分の為すべきことを確認しつつ、相手を待つ。
……そして、
「っ!!? と、止まれ!!」
男の声と共に、馬に乗った先行部隊が足を止める。
白髪の子供から見える限り、人数は100人程度だろうか。
「おい君!!こんな所で何してるんだ!?危ないからどこか遠くに避難を……」
「……あの」
自分の心配をしてくれる男の声を聞いて、白髪の子供の決心が揺らぐ。
……本当に、戦わないといけないんだろうか?と……。
それと同時に、ひょっとしたら……と、白髪の子供の瞳に、わずかな希望が宿る。
「やめて、くれませんか……?」
「……何?」
「あなた達は誤解をしてるんです。今からでも、遅くありません。
ちゃんと、話を……!」
「……国王の回し者か、こんな子供を戦場に出すなんてな……!」
男は怒りをはらんだ言葉を吐き捨てる。
「君、今すぐここから立ち去りなさい!ここだと、巻き込まれる可能性がある!」
「ま、待って下さい!!話を……」
「話し合いなんて、もう無意味だ!!」
男は白髪の子供の言葉を一蹴する。
その時、白髪の子供は気づいた。
男達の後ろから、地平線を覆い尽くす程の戦車、魔導兵器、そして、怒れる人々が迫ってきていることに……。
「……分かり、ました」
白髪の子供は顔をうつむかせる。
さっき、黒髪の少年の言った通り、もうこの人達は止まらないのだと、白髪の子供は理解した。
「それじゃあ早く遠くに行ってくれ。
悪いけど俺達は急いで……」
男の言葉はそこで止まった。
「おい?どうし……」
訝しんだ隣の男が声をかけるが、その言葉も途中で止まる。
そして、次の瞬間、
ドサッ、ドササッ……
「なっ……おい!!どうした!?」
さっきまで白髪の子供と話していた男を筆頭に、十数人が落馬し、動かなくなる。
それを皮切りに、男達は次々に馬から落ちていく。
「な、何だ!?何が起きてる!?」
「わ、分からな……」
返事の途中で、その男もまた同じ運命をたどった。
「ひっ!!」
理由も分からないまま仲間が倒れていくのを見て、顔が恐怖に染まる男。
その時、一瞬男の視界に、緑色の刀が写った。
それを知覚した瞬間、その男も意識が飛び、落馬してしまう。
……1分、1分だ。
ほんの1分後、その場に立っているのは、白髪の子供ただ1人になっていた。
「………」
白髪の子供は、先程までとは違い、暗い光を帯びた瞳を遠方へと向ける。
そして、子供の体が、黄色い光に包まれる。
「轟け サンライガ」
次の瞬間、空を裂く轟音と共に、多数の巨大な雷が人々に襲いかかった。
「……『悲しい物語』にも意味はある。
『辛い物語』から、学べることだってある。
……だけどね」
人に直撃しようものなら、即死しかねない程の威力の雷。
だがそれらは人ではなく戦車や魔導兵器に向かい、その動きを止めていく。
そして、轟音によって人々が乗っていた馬は錯乱し、軍勢は大混乱に陥っていた。
「『誰も救われない物語』なんて、僕は認めない……!!」
静かな殺気をはらんだ少年は、一振りの刀を手に、軍勢へと歩き出す。
「僕は、君達を止める。
こんなことをしたって、君達は誰一人救われないから」