第2話 金が全てではないけれど、やっぱりお金は大切だ
「ごちそう様ー!」
「……まぁ、腹の足しにはなったな」
十分後、とりあえず腹ごしらえは済んだ。
おにぎり二個じゃとても満腹にはならないが、ないよりはいい。
「そういえば、この依頼って報酬どれくらいなの?」
「ん?どうしたメリス、お前が報酬を気にするなんて珍しいな」
いっつも金なんて全っ然気にしないくせに。
「え~っと、なんだか今回は本当に困ってるみたいだから……」
なるほど、おにぎり四個じゃ満足できないってわけか、こいつ見かけの割によく食うしな。
「6000Gだ」
「……え?」
メリスの表情が固まる。
「えっと……、ここの宿屋の代金って、いくらだっけ……?」
「……一人部屋2000G、二人部屋3800G」
「ちょっと待って!?」
おぉ、さすがにメリスでも気づいたか。
「それじゃ、今日宿屋に泊ったら200Gしか余らないよ!?」
ちなみに、さっき食べたおにぎりは六個合わせて600Gだったらしい。
200Gか、小学生のお駄賃より少ないな。
「いや、そんなことはないよメリス」
慌てるメリスに、グリーが優しく声をかける。
「僕達は『冒険者』なんだ。
冒険者の資格を持っている人は、宿屋の代金が半分になるんだよ」
グリーの言うとおりだ。
まぁ、A級やB級の冒険者はさらに安くなるみたいだが、C級以下は半額だ。
俺達はD級だから半額になる。
ちなみにメリスは資格を持ってないが、資格を持ってる人と一緒なら『仲間』と見なされて半額になる。
「だから、余るのは200Gじゃなくて、3100Gだ。
まぁ少ないが、道中の食料ぐらいは買えるだろ」
「逆にいえば、食料だけで精一杯……だね」
……痛い所突いてくるな、グリー……
「まぁ、そうだな。だからメリス、もう勝手にアクセサリなんて買うなよ………?」
少し殺気を出してそう言う。
あ、目をそらしやがった。
「ご、ごめんってば……、あの時はつい……」
「つい、で済んだら軍はいらねぇ」
実は、今俺達が金欠になったのは、メリスのせいだったりする。
元々あまり金に余裕がなかったのに、
昨日この町に来る途中、メリスが勝手に家計から金を出して、
旅の商人からブローチを買ったんだ。
――――5000Gの。
一般感覚からいえば安物の部類に入るかもしれないが、俺達からしたら大金だ。
おかげで旅費がなくなっちまった。
もちろんそのブローチは、今もメリスの左胸で輝いている。
……いや、きれいだけど、似合うけど。
「だって、かわいかったんだもん……」
しゅん、とうなだれて、上目づかいで俺を見てくる。
やめろ!そんな目で俺を見るな!!
「あ、いや………」
俺は思わず目をそらしてしまう。
落ちつけ俺!相手はメリスだぞ!?
いや、メリスはかわいいけど……ってそうじゃない!!
赤くなるな俺の顔!早くなるな俺の心臓!!
そして俺に銃を向けるなグリー!!
「ハディくん………?
何をメリス相手に赤くなってるのカナー……?」
怖い怖い怖い!!!
何かグリーの周りに悪魔が見える!?
「いや!過ぎたことを気にしてもしょうがないよな!!」
とりあえずこの話はもう終わりにしよう!!
俺の命に関わる!!
「ふぅ……、何とか終わったな……」
午後六時、『子守り』という依頼を無事終えた俺達は、
宿屋に向かっていた。
……無事、かどうかは微妙だが、
おむつを変えるのに手間取ってたら、しっこをかけられたり。
メリスがミルクを温めたら、人肌の温度だって言ったのに、
80℃にしたり。(後でグリーが冷まして温度を調整した)
セールスマンに俺とメリスが夫婦だと間違えられたり。
………殺されるところだった。グリーに。
……最後のは赤ん坊関係ないけど……。
赤ん坊の世話って大変だな。世の中のお母様方は偉大だ……。
「でも、いい経験になったよ。私もいつか母親になりたいし!」
メリス、ごく自然に爆弾発言するな!!
待てグリー!何故俺を見て殺気立つ!?
「そういえば、明日にはこの町を発つんだよね?」
「うん、そうだよ」(何事もなかったかのような笑顔で)
ナイスメリス!よくこの空気を変えてくれた!
「それについては、夕食の後でゆっくり話そうか、………おや、ハディくん?何故黙っているんだい?」
「い、いや……」
てめぇのせいだ!!てめぇの殺気に威圧されてたんだよ!!
分かって言ってるだろ!!
「いらっしゃいませ」
宿屋に到着した俺達。
とりあえず部屋頼んで、少し休むか……。
「二人部屋一つと一人部屋一つお願いします」
「はい、では5800Gになりま……」
「あ、いえ」
女将の言葉をさえぎり、左腕につけた鉄製の腕輪を見せる。
女将が一瞬、驚きの表情を浮かべる。
これは『冒険者の腕輪』、これを見せることで冒険者であることを証明できる。
ちなみに級によって腕輪が異なり、Aは金、Bは銀、Cは銅、Dは鉄、Eはアルミで作られている。
俺はD級だから鉄製で、Dという文字が刻まれている。
「失礼しました。冒険者の方でしたか。
では、確認させていただきます」
「あ、はい、お願いします」
女将は何事もなかったかのように平然と振る舞っている。
さすが、プロだな。
腕輪を外して、女将が取り出した、幾何学模様が描かれた白い箱の中に入れる。
ふたをして数秒後、箱が青く光った。
「はい、確認できました。お返しします」
「はい」
返してもらった腕輪を左腕につける。
冒険者の腕輪には、特殊な魔力が込められているらしい。
それを調べることで、その腕輪が本物かどうかを確認することができる。
今の箱はその魔力を調べ、本物だと確認できれば青く、
できなければ赤く光って教えてくれる魔導具だ。
「では、2900Gになります」
お金を渡し、帳簿に名前を書き込んで、鍵をもらう。
「夕食は食堂でご用意いたします。
時間は七時から九時までとなっておりますので、その間にお越しください」
「はい、分かりました」
後40分か。
……そう思いながら歩いていると、ひそひそと話す声が聞こえた。
「……おい、今の奴冒険者だってよ……」
「しかも、鉄製の腕輪ってことはD級……、
マジかよ、あの若さで……!?」
「ねぇねぇ、今何か話されてたね!」
「……ま、冒険者は『国家資格』だからな。
こんな小さい町では珍しいんだろ」
部屋に向かう途中、メリスと話す。
でも、一応ここ町だろ?そんなに珍しいか?
「それより、ハディくんの年でD級、ってことに驚いてたんじゃないか?」
「あ~、なるほど」
確かに、普通俺ぐらいの年なら、
E級か、
もしくは冒険者の資格をとれてもいないか、だ。
「つってもよ、冒険者は完全実力主義だし、
俺より年下で俺より格上って奴もいるだろ?」
「それは世に言う『天才』とか、『化け物』ってやつだろうね」
だろうな。まぁ、D級ぐらいじゃ天才なんて呼ばれないだろ。
俺ぐらいの年でC級だったら、たぶん呼ばれるだろうけど……。
そんなことを話していると、部屋が見えてきた。
ま、今日は疲れたし、荷物の整理でもして、
夕食までゆっくりしてるか……。
冒険者の設定を出しました、が、
そのせいで後半、ギャグがありませんね……。
次回からもこんな感じで、
ギャグの中に、真面目な話が混ざってくると思います。
つまらなかったら、適当に読み飛ばしてやって下さい。
……え?ギャグがつまらない?
………精進します。
では、これからも
『冒険者ライフ!』をよろしくお願いします!!