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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第三章 弱肉強食
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第29話 陰陽和合(いんようわごう)

「……よーするに、リサイクル?」

「うん、まぁそんな感じだよ」


疑問符を浮かべるメリスに、グリーが笑顔で答える。


シーサーペント騒動の後、メリスがグリーに一つの質問をしていた。

内容は、アザが使っていた『魔法変換(チェンジング)』について、だ。


「前に使った魔法を再利用して別の魔法を発動する魔法、それが魔法変換(チェンジング)だよ。

 利点としては『集中』を省略できること、それと、普通に新しく魔法を使う場合に比べて、大幅に魔力を節約できることが挙げられるかな」

「へー、そんなのあるんだな」


今グリーが言った利点は、魔法使いにとってはかなり大きいだろ。

魔法の弱点である、速さと魔力切れを補えるんだから。


「ただ、欠点もあるよ。

 『詠唱』が省略できないとか、全体の威力は前に使った魔法以下になるとか、あんまり遠くにある魔法は再利用できないとかね」

「万能じゃないってことか」

「そういうこと。でも、使いどころを選べばかなり有効な魔法でもあるよ」

「僕の場合はまず結界魔法で相手の攻撃を防いで、それを攻撃魔法に変えて反撃する、って戦法が多いかな」

「そっか!それなら一人でも戦えるもんね!」


それを聞いて、メリスはぽん、と手を打つ。

魔法使いは普通補助的な役回りが多いからな。

まぁ、『魔塔』のランディアさんとか、『大魔導師(ハイウィザード)』のプラムさんレベルなら、一人でも大丈夫かもしれないけど。


「いいなー!私も覚えてみよっかな……」

「うーん、少なくとも、今のメリスにはあんまり向いてないと思うよ?」

「え、何で?兄さん」

「この魔法は変換するだけだからね、状況によって魔法を使い分けるために使うものなんだよ。

 メリスは攻撃魔法……というか、基礎魔法しか覚えてないでしょ?」

「あ」

「そうか、結界魔法とか、もしくは同じ攻撃魔法でも形が違うものとか、そういうのを覚えてないと使っても意味ないんだな」


基礎魔法ってほとんど攻撃魔法だもんな。

しかも、相手に向かって飛ばすようなものばかりだし。


「それとこの魔法、同じ属性か、もしくは形が近いものじゃないと使えないんだ。

 例を挙げると、アクアムに魔法変換(チェンジング)を使ってブレイアムを発動、とかは無理」

「えぇっ!?」


メリスが驚きの声を上げ、その後、目に見えて落胆する。

こいつそれを狙ってたんだな。

アクアムで攻撃した後にブレイアムでとどめ、か。

……確かに、できたらかなり強力そうだ。


「んー、それもしできたとしても、ブレイアムの威力がアクアム以下になっちゃうよ?」

「あ、そうか」

「まぁ、アクアムは分散する魔法だから、一つにまとめれば威力はそこそこあるだろうけどね」


アザにそう指摘される。

『全体の威力は前に使った魔法以下になる』んだっけ。

と、そこで違和感に気づく。


「……ちょっと待った、さっきアザ、魔法変換(チェンジング)使った魔法でシーサーペント倒してたよな?」

「うん、だから、その前の結界魔法を強力なものにしたんだよ」


そういやあの銀色の壁、シーサーペントの一撃を受けてもひび一つ入ってなかったな。


「つまり、一つ目を強力なものにすれば二つ目も強力に、逆に一つ目が弱かったら二つ目も弱くなるのか」

「後者は正解だよ、前者はそうとも限らないけど」

「前に使った魔法『以下』だからね」


アザとグリーの補足が入る。

となると、速さや魔力切れを補うっていうより、強力な魔法を連続で使うって感じか。

あ、でも補助魔法も合わせられるだろうし、結構応用性が高そうだな。

……どっちにしろ、メリスには使いこなせないんじゃ……。


「ハディ、今失礼なこと考えなかった?」

「いや、別に」


危ねぇ!良かった、完全には読まれなかったみたいだ!


「メリスさんには、『魔法変換(チェンジング)』より『魔法強化(ブースター)』の方がいいんじゃないかな?

 それなら基礎魔法レベル1をレベル2にしたりできるし」

「『魔法強化(ブースター)』?」

「ただ他の魔法に変換するんじゃなくて、より強力なものにする魔法だよ。

 ……でも、そっちは魔力をめちゃくちゃ消費するんだ、しかも高度な魔法だから、習得するのも大変だしね。

 僕としては、こういう魔法を覚えるのは、もっと簡単な応用魔法を覚えてからでいいと思うよ?」

「んー、そうだね!私まだ応用魔法一つも覚えてないし!」


結論、まだメリスには早いってことか。

俺は別に良いけどな、今でも十分助けられてるし。


「おーいそこの四人!お前らが主力なんだからあんまり固まらないでくれよ?」

「あ、すいません!」


船長のベセルさんにしかられる。

固まってたら人数がいる意味がないもんな。


「それじゃ、護衛を続けようか」

「おう!」


さっきと同じ配置に戻る俺達。

さて、また魔物が来るかもしれないし、


「いつでも戦えるようにしておかないとな……」

「っていっても、そんなに気負う必要はないよ」

「わっ」


釣りをしているギナトの後ろにいると、急にアザに声をかけられた。

危ない、少しぼーっとしてたな。


「せっかく釣り竿も貸してもらったんだしさ、最低限警戒して、後は気楽にやればいいと思うよ。

 気を張りすぎると疲れちゃうし」


笑顔でそう言ってくれるアザ。

……なんていうか。


「アザって、今何才?」

「え、16だよ?」

「16……」


いや、見た目からたぶんそれぐらいだろうとは思ってたけど、本当にそれぐらいの年なんだな。

俺なんかよりよっぽどしっかりしてる……。


「どうしたの?」

「いや、別に……」


少しふてくされていたその時、


「なぁ、少しいいか?」


ギナトが声をかけてきた。

釣り竿はいったん引き上げたみたいだ。


「ん、どうした?」

「ちょっと、二人に聞きたいことがあるんだ」

「あ、僕も?」


ギナトは傾くと、

少し間をおいて、やがて決心したように口を開いた。


「冒険者が魔物を殺せないのは……悪いこと、なのか?」


いつもより少し小さな声、

だけど、それは確かに俺達の耳に届いた。


「……ファトのこと、か?」

「あぁ」


ギナトは俺の目を見て傾く。


「さっき、アザがシーサーペントを倒したのを見て、すげぇよな!って声をかけたら、沈んだ声で、そうだねって、表情も暗くて……」

「それって、目の前で魔物が殺されたからか?」

「いや、違う。あいつは自分が殺すのがダメなだけだからな。

 ……でもあいつ、そのこと少し気にしてるみたいなんだ。

 俺が魔物を仕留めた時とか、たまに謝ってくるし……」


……なるほど、自分ができないから、ギナトに殺させてしまってる、って思ってるのか。

アザが魔法で敵を倒したのを見て、それを思い出したのかもな……。


「俺は……何も言ってやれなくて、あいつは弱いから……だから、俺が、守ってやらなきゃいけないのに……!」


ぎり、とギナトが歯を食いしばる。

その顔には、自責の念がありありと出ていた。


「……僕の知り合いに、ね。

 殺しが大っ嫌いな人がいるんだ」

「え?」


アザの話に、ギナトはきょとんとする。


「その人はどんな悪人でも人は絶対に殺さないし、魔物でも、必要な狩り以外は殺さない、襲いかかってきても追い払うだけ。

 ……その人の殺さない理由、なんだと思う?」

「え……」


ギナトは少し考えた後、分からないと首を振る。

正直、俺も分からない。

人を殺さないのはともかく、魔物にもそんな気をつかう理由なんて……。


「『死ぬのを見るのが嫌いだから』、だよ」

「………え」

「それ、だけ?」


俺が聞くと、アザは少し笑って傾く。

いや、死ぬのを見るのが嫌いって……そりゃ、それは好きっていう方がおかしいだろうけど。


「魔物を殺せないのは、悪いことなんかじゃないよ、そもそも、生物は『死』を嫌うものなんだから。

 でもね、戦いで相手を殺さずに倒すのは、一番難しい勝ち方だよ。

 僕の知り合いは、とてつもなく強いからそれができる。

 ……ファトさんに、その強さはあるの?」

「っ!!だから、俺が……!」

「例えギナトくんが代わりに強くなったとしても、ファトさん自身も強くならなきゃダメだよ。

 戦いに出ている限りは、ね」


アザの厳しい意見に、ギナトは顔をうつむかせる。

それを、アザはいつもよりも鋭い目で見ていた。

……結局、バラバラじゃダメってことなんじゃないか?

二人は、仲間なんだ、それなら……。


「一緒に強くなれば、いいんじゃないか?」


俺の呟きに、ギナトが顔を上げる。


「一緒に……?」

「お前らは仲間なんだろ?だったら、互いに助け合えばいいんじゃないか?

 力が足りないんなら、二人で協力すればいい、ファトが不安がってるなら、ギナトが励ませばいい、仲間って、そういうもんだろ」

「あ……」


ギナトはまた顔をうつむかせ、何かを考える。

何を思ってるかは……大体分かるけど。


「名案だね」


アザがギナトにほほ笑みを向ける。


「ギナトくん、君は、ファトさんを守りたいんでしょ?

 だったら、心も守ってあげなよ」

「………」


少し間をおいて、ギナトが顔を上げる。

それは、最初にあった時のような、さわやかな笑顔だった。


「おう!やってやる!!」


ギナトの調子が戻ったのを見て、俺はアザと顔を合わせるのだった。






~メリスサイド~




「どーしたのファトちゃん、なんだか顔が暗いよ?」

「あ、いえ、何でもないです……」


口ではそういうけど、とてもそうは見えない。

ひょっとして船酔いかな……?


「さっきのシーサーペントかい?」

「え……」

「シーサーペントがどうかしたの?」


アザくんが倒したから、もう心配はいらないと思うんだけど……。


「いや、プラムさんも言ってたでしょ、棒術の特徴は不殺って。

 だから、ひょっとしてファトさんは、血とか見るのがダメなんじゃないかと思ってね」

「え、そうなの?」


確かに私も苦手だし……女の子にはちょっとね。


「あ、いえ、確かにあまり好きではありませんけど、それほどじゃ……」

「じゃあなんで、そんな顔してるの?」

「………私」


か細い声で、ファトちゃんは話し始めた。


「魔物を……殺せないんです」

「……え?でも、冒険者やってたら……」

「戦うのは、大丈夫なんです。

 でも、殺すのは……どうしても、怖くて、いつも、ギナトくんに押しつけてて」

「さっきの魔物を見て、それを思い出してたのかい?」


傾くファトちゃん。

流石兄さん、すごい洞察力……!


「私、ギナトくんに迷惑かけてるんじゃないかって、思っちゃって……」

「そっか、それで悩んでたんだ」


傾くファトちゃんに、私は片手を頭に乗せ、なでる。


「あ、あの……?」

「大丈夫だよ!ギナトくんそんな顔してなかったもん!私これでも、人の心には鋭いんだから!」

「そうだね、大丈夫だと思うよ」


兄さんも太鼓判を押してくれる。


「迷惑かどうかはギナトくんが決めることだけど、もし迷惑だと思ってるのなら、二人は一緒にはいないんじゃないかい?」


兄さんの言葉を聞いて、ファトちゃんははっとした顔になる。

そして、少しうるんだ目で、


「ありがとう、ございます……!」


と、言ってくれた。


「ほら、泣いちゃダメ!笑顔笑顔!」

「あ……はい!」


涙をぬぐって、笑顔になる。

うん!やっぱり女の子は笑顔だよね!


「ところで、ファトちゃんって何才?」

「え、えと、この前成人しました」

「あれ、じゃあ20才!?年上じゃん!ごめんね、ちゃん付けなんてして!!」

「い、いえ、別に……」

「って、何でファトちゃん敬語なの!私の方が年下なんだから!ギナトくんには普通に話してたでしょ!」

「え、えぇっと……」


こんな感じで盛り上がっていた、その時。


「お、引いてるよ!」

「わ、本当だ!」


兄さんが急いでリールを巻き始める。

何かな、何かな!


「シャアアアアアァァァァァ!!」


……魔物でした。

って襲いかかってくる!?


 ドガッ!


「え」


とっさに反応したのは、私じゃなくてファトちゃんだった。

長い棒で魔物を船の床に叩き落としたの。


「だ、大丈夫?」

「あ、うん!ありがとう!」


私がそう言うと、ファトちゃんも笑顔になってくれる。

……そういえば、


「今、敬語じゃなかったね」

「え、あ……」

「それでいいよ!ファトちゃん!」

「………うん」


二人で笑い合った、その時。


「おのれこの魚……!よくもメリスに襲いかかったな!!!」


直後、30回ぐらい銃声が響き続けた……。






~ハディサイド~




「撃ち過ぎだアホ!!!ホンットお前こういう時アホだよな分かってはいたけど!!」

「落ち着きなよハディくん」

「てめぇが言うな!!!」


1匹の魔魚に30発って!ハチの巣どころじゃねぇよ!あの魔物原型留めてなかったぞ!!

っつか、俺が止めなかったらまだ撃ち続けてただろ!!


「下の部屋が倉庫で良かったよ。

 人がいたらちょっと危なかったかも……」


流石のアザも少し呆れてるみたいだ。

いや、もっと大いに呆れるべきだと思うんだけど。


「この船の全体図は覚えてたからね。人がいる所になんて撃たないよ」

「そんだけ冷静ならそもそも撃つな!!」


俺にどなられても笑うだけのグリー、ダメだ、ほとんど反省してねぇ……!


「おーい!そろそろ港に帰るぞ!」


と、ベセルさんの声がした。

もう1時半か……意外と早いもんだな。


船体が港に向かって走り出すのを感じて、俺はそんなことを思うのだった。




港に到着し、あれだけいた客も帰ってしまった後、俺達もベセルさんと一緒に、船から降りた。


「最後は少し問題あったが、お前らのおかげでケガ人も出ずに済んだ、ありがとよ!」

「……すみません」

「面目ないです」


グリー笑うな、せめて反省だけでもしろ!


「そんじゃ報酬だ、受け取りな!」


ベセルさんが一人ずつ、報酬を渡していく。


「うおー!久しぶりの報酬だ!!」


……ギナト、喜び過ぎだ。

そりゃうれしいだろうけどさ。


「いやー、いきなり依頼して最初は大丈夫かと思ったがな!

 助かったよ!プラムちゃんにもよろしくな!」

「はい、それじゃ!」


依頼を完了し、ベセルさん達と別れる。

……前の屋台のおじさんもそうだったけど、プラムさんっておじさん方にはちゃん付けされてるのか?






『お前もありがとなアザ!』

『いいよ、いつも乗せてもらってるからさ』

『ハッハッハ!今度キャティ嬢ちゃんやピユ坊も連れてこいよ!『家族』で釣りをするのもいいもんだ!』

『……うん、そうだね……』






港からギルドまでの帰り道、俺達三人が前に行き、ギナトとファトは隣り合って歩いていた。



「……ねぇ、ギナトくん」

「ん?」

「私、ギナトくんに迷惑とか、かけてないかな……?」

「かけてねぇよ」

「あ……うん……」


見えないけど、振り向かなくても分かる、今、ファトがどんな顔をしてるのか。


「なぁ、ファト。どうしても、嫌か?魔物を殺すのは……」

「……うん」

「……そっか」


別に不満げでもなく、むしろ安心したかのように、

ギナトは呟いた。


「ファト、一緒に強くなろうな!魔物を殺さなくても大丈夫なぐらい!」

「……うん!」


……良かった、うまくいったみたいだな。


「ハディ、盗み聞きはよくないよ?」

「うるさい……ってか、お前も聞いてただろ」


後ろを歩く二人に聞こえないよう、小さな声でメリスと話す。


「でもあの二人、結構お似合いだよな。

 少なくともファトはギナトのこと好きみたいだし」

「……え?」

「え?ってなんだよ?普通に見てて分かるだろ、ギナトは気づいてないみたいだけどな」


話聞いた感じあからさまだと思うんだけどな、

なんでギナトは気づかな……、


「待てメリス、なんでいきなり俺を睨む!?」

「べっつにー……」


なぜか急に不機嫌になるメリス。

………俺、なんか変なこと言ったか?


そうこうしているうちにギルドに到着する。

さて、プラムさんに依頼完遂しましたって報告しないとな!









サブタイトル解説

陰陽和合(いんようわごう)

相対する二つのものが、ほどよく調和している様子。

夫婦仲が良いって意味もあります。

ギナトとファトのことですが、

ハディとメリスにもあてはまる……でしょうか?


では次回予告です!


「メリスだよ!

 全く、何でハディは他の人のことは気づくのに、

 自分のことは気づかないんだろうね!

 ……と、とにかく!

 次回私達はついに港町ヨーグルトを発つんだよ!

 っていっても、実際いたのは3日だけなんだけどね……。


 次回、冒険者ライフ!第30話『行雲流水(こううんりゅうすい)』!

 風の吹くまま気の向くまま!私達は旅を続けるよ!」



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