第28話 一騎当千(いっきとうせん)
少し書き方変えてみました。
「これが俺達の乗る船……?」
「うん!」
とまどう俺達五人に、アザはにっこりと傾く。
え、何にとまどってるのかって?
船のデカさにだよ!!この船全長50mはあるぞ!!
「漁船……なんだよな?この船」
「そうだけど、沖の方に行く船は普通これぐらいの大きさだよ?」
「何ぃ!?」
バカな!?普通漁船ってもっとショボ……小さいんじゃないのか!?
「ハディ、ショボいなんて失礼だよ!」
「言い直したしそもそも口に出してねぇ!っつーかわざわざ言うな!!」
くそっ……こういう時メリスの読心術は厄介だ!
なぜか俺しか読まれないし……。
「ハディくん、海は魔物の巣窟だよ?
沿岸部ならまだしも、沖の方なんて、危険度DとかCの魔物がうじゃうじゃいるんだからさ。これぐらいしっかりした船じゃないと……」
「マジで!?」
と、グリーの言葉に反応したのは、俺じゃなくてギナトだった。
「き、危険度DとかCって……!俺達危険度Eとかそれ以下しか戦ったことないのに……」
「う、うん……」
ギナトとファトが不安げな顔をする。
と、その時、船の中から人が、笑い声を上げながら出てきた。
「ハッハッハ!安心しな!今回は少し沖の方に出るだけだからよ!それに万一の時は『氷海の王』がついてるしな!」
「あ、ベセルさん!」
「よぉアザ!今日はよろしく頼むぜ!」
「うん、あ、みんな、この人はベセル・シーマンさん。この船の船長だよ」
「よろしくな!」
なんか、いかにも海の男って感じの人だな。
浅黒色の肌に真っ白な歯、頭には白いバンダナをまいてて、それがこれ以上ないぐらい似合ってる。
全員自己紹介を終えた後、俺達は船に乗り込んだ。
「……中は普通ですね」
「そりゃあそうだ!普段は俺達が漁に使ってる船だからな!」
豪快な笑い声を上げるベセルさん。
デカい船=豪華ってのは偏見か……。
「予定としては少し沖の方まで行って釣りをしてもらい、1時半に切り上げて港に戻るって感じだ」
「……釣るだけなんですね」
こんなデカい船だから、他にもなんかあるのかと思ったけど。
「客の半数は顔見知りだからよ!あんたらも気楽にやってくれてかまわねぇぜ!」
「顔見知り?」
「もしかして、この海釣りツアーって、定期的にやってるんですか?」
グリーがベセルさんに質問する。
てっきり思いつきでやったのかと思ってたけど、よく考えると、それにしては予約客が多過ぎるよな。
「いや?つーか思いつきでやったからな」
って思いつきだった!?
「ベセルさん顔広いからね」
「おう!知り合いの釣り人はもちろん、そいつらの知人・親戚・はたまた子供の通ってる学校にまで宣伝しまくったぜ!!」
漁師より向いてる職があるんじゃないかこの人。
「まっ、そういうわけだ。そいつらにもしものことがあったら、俺はもう立ち直れねぇ。
……よろしく頼むぜ?」
ベセルさんは笑顔でそういったが、それを聞いた俺達の間には緊張が走った。
……もし、もしも魔物にこの船を沈められでもしたら、100人以上の乗客の命が危険にさらされる。
乗客全員の命が俺達にかかってる、ってのは言い過ぎかもしれないけど……絶対に失敗できない。
それだけは、よく分かった。
「大丈夫だよ」
緊張感を破ったのは、アザだった。
「そんなに心配しなくても……僕が、ちゃんと守るから」
そして、真剣な顔でベセルさんに告げる。
たぶん、俺達六人の中で一番年下なのに、その言葉は、とても頼もしく感じた……。
「おう、よろしく頼むぜアザ!」
「任せて!」
笑顔で向き合う二人。
『守る』。
こういう時においては、使い古された言葉だ。
言うだけなら簡単、だけど、実行するのはとても難しい。
人によっては、この言葉を簡単に使うことは、軽率だと思うかもしれない。
……だけど、今のアザには一点の迷いすらも感じられない。
信じられる、少なくとも、俺はそう思った。
「ほれ」
「え……釣り竿?」
客も乗り込み、出航し沖へと向かう途中、船内で暇を持て余していると、ベセルさんに2本の釣り竿とエサを渡された。
「あんたらもやるといい、魔物さえ出なきゃ暇だろうしな。
ただし、護衛はしっかり頼むぜ?」
「はい、ありがとうございます!」
お礼を言って釣り竿を受け取る。
って、釣りなんてしたことないんだけど。
「2本だから、3人で1本かな?」
「いや、僕はいいよ。普段からよくやってるし」
「それじゃ、2人と3人に分かれて……」
「グリー、その前に俺、やり方分からないんだけど……」
「あ、私も!」
「すみません、私も……」
「俺は分かるぜ!」
「それじゃ、僕、メリス、ファトさんと、ギナトくん、ハディくんで分かれようか。
知ってる人がいた方がいいだろうからね」
言い方からして、グリーも知ってるんだろうな。
……本当物知りだよなこいつ。
「ついたぞーーーーーー!!!」
と、ベセルさんの大声が聞こえてきた。
案外早いもんだな……。
「おー………」
「海!!海だよ海!!!」
「いや、海は港でも見たけどな?」
デッキに出ると、周りには大海原が広がっていた、まぁ、メリスがはしゃぎたくなるのも分かる気がするな!水平線まで青一色だ。
もちろん周囲にはお客さんがもう来てて、早い人はもう釣りを始めているみたいだ。
「それじゃ、配置を決めておこうか」
グリーに言われて集合する俺達。
簡単に説明すると、俺とギナトは船の進行方向右側、グリー、メリス、ファトは逆側で釣りをしながらお客さん達の護衛。
アザはその辺を歩きながら護衛するみたいだ。
「うん、それじゃみんなしっかりね!散開!」
アザの号令で俺達は散り、担当の場所で釣りを始めた。
「それで、これどうすればいいんだ?」
「まずは……あれ?」
釣り竿を見て、ギナトは手を止める。
「これ、もうこのまま釣りできるぜ」
「え?」
「仕掛けも重りもついてるし……後はリールのロックを外して、放り込むだけだ」
「こう、か?」
言われた通りにして海に放り込む。
さて、一体何が釣れるか……。
「うわっ!!」
と、すぐ隣で叫び声が聞こえた。
「ギナトこれ頼む!」
「え、お、おう!」
釣り竿をギナトに渡して、そっちに目を向けると、
釣り糸の先の魚が釣り人に飛びかかろうとしていた。
とっさに剣を引き抜き、魚を切り裂く。
魔物特有の黒い血が飛び散り、魚は地に伏せた。
「大丈夫ですか?」
「はい、いやーすみません、焦って一気に釣り上げちゃって」
魔物に襲われかかったのに平然としてるような……。
釣り人っぽいし、慣れてるんだろうか?
「あれ、魔物を釣った時って、ゆっくり引き上げた方がいいんですか?」
「そりゃそうですよ!
魔物ったって魚ですからね、その方が空気を吸って弱るし、何より距離をとれば襲いかかってきても逃げられますからね」
これは良いことを聞いたな。
……いや、考えてみたら当たり前なんだけどさ。
ギナトの所に戻ると、ギナトが呆然としていた。
「ギナト?どうし……」
「すっげぇ!!」
「え?」
「すげぇよハディ!!とっさの一撃で魔物を倒しちまうなんて!!
しかもあれ危険度Eの魔物だろ!?」
「いや、魔物にはあんまり詳しくないから分からないけど……」
「D級って聞いてたから予想はしてたけど、やっぱりすげぇな!!」
ダメだ、聞いてない。
……いやでも、こういうのも、なんか良いな。
最近、自分よりすごい人ばっかりに会ってたから、ほめられるのが新鮮に感じるっていうか……。
「でも、ギナトだってこれぐらいできるだろ?」
「いや、俺は魔法使いだから、『集中』とかあるし」
「あ、そっか。じゃあ、ファトは?」
「あいつは……」
ギナトはそこで口をつぐむ。
そして、少し間をおいてから口を開いた。
「あいつは、殺しはちょっとな……」
「殺しって……魔物だぞ?」
そりゃあまぁ、魔物だって生き物だから、殺しには違いないだろうけど……。
「魔物でもダメなんだよ、蚊でもためらうぐらいだからな……」
そう言ってギナトは顔を伏せる。
……そういえば、
「プラムさんが言ってたのって……」
棒術の特徴、不殺。
プラムさんは、見抜いてたのか……?
「でも、それなら何で冒険者に?」
「……分かんねぇ。冒険者になる前から何回も聞いたけど、教えてくれねぇんだ。
なんか知らねぇけど、俺と一緒に冒険者になるって」
……ん?
「二人っていつから一緒にいたんだ?」
「いつって、物心ついたころからだぜ。いわゆる幼馴染ってやつ!」
「……じゃあ、ギナトが冒険者になった理由は?」
「そりゃ子供の時からの夢だって!男といえば冒険者だろ!!」
きっぱりと言い切るギナト。
……あー、なんとなく分かった。
「……苦労してそうだな、ファト」
「え?」
「いや、別に」
ギナトには悪いけど、ここは適当にごまかしておく。
こういうのは当人同士の問題だからな……。
……っていうか、実際にいるんだな、こんな鈍感な奴。
普通気づくだろ、一緒にいたくて冒険者になったんだって。
「ま、そんな感じでさ。あいつは弱いから、だから、俺が……」
と、ギナトが言いかけた、その時だった。
船の近くに、大きな水柱が立った。
そこから小さな波が起き、船が小さく揺れる。
持ち上げられた水が重力に従い、海へと落ちていくにつれ、それは姿を現わしていった。
「……竜……いや、ヘビ……!?」
そこにいたのは、竜ともとれるような巨大な大蛇。
その大きさは、海から出ている部分だけでも5m近くある。
「『シーサーペント』!!」
後ろからグリーの声がした。
「シーサーペントって……」
「危険度Cの上位魔魚だよ!!」
「危険度C!?」
慌てて剣を引き抜き、シーサーペントに向かって構える。
「ギナト!下がってろ!!」
「あ、お、おう!」
いくらなんでも、新米には荷が重い相手だ。
ってか、俺達にも十分荷が重いんだけど……!
と、そこで、俺はようやく違和感に気づいた。
「………あれ?」
今の状況を改めて説明する。
ここは海の上、しかも沖で、逃げ場のない船の上だ。
しっかりとした船ではあるけど、目の前の魔物は、この船を沈めるのに十分な力を持ってるだろう。
つまり、絶体絶命の大ピンチ……にもかかわらず。
……乗客に、ほとんどおびえた様子がない。
子供達でさえ、親の後ろに隠れてる程度だ。
「こりゃあまた、大物が出てきやがったな」
「ベセルさん!」
それは船長であるベセルさんも同じだった。
おびえるどころか、のんきに煙草をふかしている。
「あ、あのっ、な、何でみなさん、そんなに冷静、なんですか……?」
ファトがシーサーペントを見て、小刻みに震えながらベセルさんに問う。
そう、今のファトの反応が普通……いや、これでも冷静な方に入るだろう。
一般人だったら、パニックになっててもおかしくない。
「まぁ、いつもなら大騒ぎだけどな。
今日は大丈夫だ、……なんせ」
その時、一人の少年が、クリーム色の髪を揺らして、魔物の前に躍り出た。
「なんせ、あの『氷海の王』が護衛についてるんだからな!」
そういってベセルさんはアザを見る。
その目には、確かな信頼が感じられた。
「お、おいアザ!?一人で何やって……」
「下がってて」
聞こえたのは、いつもの中性的なものより、少し低い声。
気のせいか、その声には威圧感が感じられた。
「ハディくん」
グリーにさとされ、俺は邪魔にならないよう、数歩後ろへ下がる。
「見てみようよ。『氷海の王』の実力を」
そう言いながらも、グリーは銃を手に握ったままだ。
いざって時には加勢するつもりだろう。
………しかし、グリーのその心配は、杞憂に終わるのだった。
シーサーペントと対峙したアザの周りが銀色に光る。
今更だけど、『集中』は使う魔法の属性によって色が違う。
銀色は……なんだっけ?
「グガアアアアアアァァァァァ!!!」
それを見て、シーサーペントは口を開き、アザに牙を向けて襲いかかってくる。
「危な……」
「銀の障壁」
アザとシーサーペントの間に、その名の通り銀色の壁が現れる。
一見ただの氷にしか見えないその壁は、シーサーペントの牙を受けても、ひび一つ入っていなかった。
「魔法変換!」
アザの声を受けて、銀色の壁が溶けだし、その姿を変えていく。
「あれは……!?」
「輝ける生命の化身よ!その鋭き力を以て彼の者を貫け!」
アザの手に集まった氷は長細くなっていき、それに伴って先端は鋭く、そしてその後ろから段々と太くなっていく。
巨大なランス……といえば分かりやすいだろうか。
それをしっかりと手に持ち、アザは『呪文』を紡ぐ。
「氷結の大槍!!」
ガシュッ!!!
ミサイルのような速度で飛びだした巨大な氷の槍は、一瞬でシーサーペントの腹に大きな風穴を空けた。
「オオオオォォォォォォォ…………」
致命傷を受けたシーサーペントは、断末魔の声を上げながら……船に倒れこんでくる!?
「お、おい!やばっ……」
俺が慌てる間もなく船に倒れ込んだシーサーペントの死体は、
「危ないなぁ……」
アザが、しっかりとキャッチしていた。
……シーサーペントの体重って、何kgあるんだ……?
「ふぅ、みんな無事?」
アザはシーサーペントをゆっくりと船に下ろし、俺達を含めた乗客全員に問いかける。
その瞬間、
「すげえええええぇぇぇぇぇ!!!」
「わっ!びっくりした!」
まず、ギナトの大声がアザを迎えた。
次に、
「さっすが『氷海の王』だ!!」
「お兄ちゃんすっごーい!!」
「あのシーサーペントを一撃とはたまげたぜ!!」
周りにいたお客さん達からの歓声が飛び交った。
アザは少し照れくさそうに、紅潮した頬をかいていた。
「流石、としか言えないね」
「A級とそん色ない、か」
プラムさんが言ってたのは、冗談でもなんでもなかった。
いるんだな、こんなすごい奴も……。
年下に負けてくやしいとか、そんな感情すら持てない。
あまりにも、レベルが違い過ぎる。
目の前の少年の力は、俺に、精鋭部隊『ソレイユ』さえ思い起こさせた……。
サブタイトル解説
一騎当千
一人で多勢の敵に対抗できるほど強いこと。
アザのことですが……しまった!
戦ったのは強敵であって、多勢の敵じゃない!
……では次回予告です!
「ハディだ!アザの実力をその目で見た俺達。
もちろん丸投げする気はないけど、
これならもう心配はいらないって感じだよな!
……と、ギナト?どうしんたんだ、浮かない顔して……。
次回、冒険者ライフ!第29話『陰陽和合』!
後輩の相談に乗るのも、先輩の務めだよな!」