表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ライフ!  作者: 作者X
第三章 弱肉強食
35/71

第27話 臥竜鳳雛(がりょうほうすう)

「こんにちはー!」


翌日、俺達はまた冒険者ギルドに顔を出した。

お金は大丈夫だけど、稼げるときに稼いどいた方がいいからな。

一昨日の様子だと、このギルドまだ依頼ありそうだし。


「あ、いらっしゃーい!」

「こんちはー!」

「こ、こんにちは……」


あいさつを返してくれたのはコウルさん、そして見知らぬ二人の男女だった。


「コールさん、この人たちもギルドの先輩っスか?」

「コウルだってギナトくん。この三人は旅の冒険者だよ」

「昨日、ギルド所属は二人だけって言ってたでしょ」

「そーいやそうだっけ?忘れてた」

「……やっぱり」


頭をかきながら軽快な笑い声を上げる黒髪の青年と、それに呆れたような声を出す黒髪の女性。

この二人は初めて見るけど……。


「紹介するよ。今日からギルドに所属することになった、ギナト・プライアくんとファト・ラメリさんだよ」

「よろしく!年近そうだし、気軽にギナトって呼んでくれ!」

「よ、よろしくお願いします」


さわやかな笑顔のギナトと、少しおどおどした様子のファト。

……なんか、対照的なコンビだな。


「俺はハディ・トレイト、D(クラス)冒険者だ、よろしくな」

「よろしく!私メリス・テーナス!『魔導師(ウィザード)』だよ!」

「僕はメリスの兄のグルード、グリーでいいよ。ハディくんと同じでD(クラス)だよ」

「うぇっ!マジで!?」


自己紹介を終えると、ギナトが驚嘆の声を出す。


「てっきり同じE(クラス)かと思ったのに!

 その年でD(クラス)に『魔導師(ウィザード)』ってすっげぇな!

 俺なんてまだ基礎魔法レベル1しか使えねぇのに」

「あ、ギナトは魔法使いなのか?」

「おう!前線はファトに任せてるぜ!な、ファト!」

「う、うん……」


少し遠くから小さな声が聞こえた。

見ると、ファトは数歩下がっていた。


「こいつ少し人見知りなんだよ。おーい!大丈夫だって」

「………」


ギナトの声を聞くと、少し不安そうな顔をしながらも近づいて来た。

背負ってる長い棒が得物なのかな。

……本当長いな、良く見ると2m近くあるぞ。


「え、えっと、棒術をやってます……」

「棒術?」

「その名の通り、長い棒を武器として使う武術だよ。

 一般的に1.8m前後の長さらしいね」


グリーの豆知識講座。

とりあえず、冒険者にはあんまり聞かない武術だな。


「こう見えて強いんだぜ!町の不良100人ぐらい余裕だからな!」

「む、無理だよっ!?」


冗談だろうに本気に取って泣き顔になるファト。

100はいくらなんでもな……。


「え、無理なの?」

「絶対無理!!」


あ、本気で言ってた。


「とにかく!ファトが前線で敵を抑えて、俺が魔法で決める!これでも俺達けっこう恐れられてるんだぜ!!」

「……ギナトくん、

 私達まだほとんど依頼こなしたことないよ」

「……そうだっけ?」


得意げな顔が一瞬で消えるギナト。

……誰に恐れられてるんだ一体。


「ねぇねぇ!二人は誰に恐れられてるの?」


うわ、メリスの奴聞きやがった!!


「え、だ、誰って……え~……ふ、不良とか!悪ガキとか!ワイルドウルフとか!」


冷や汗をかきながら明後日の方向を見るギナト。

……おいメリス、キラキラした目をやめろ、逆に追い詰めてる。


「護衛の商人とか!!」

「待った!!」


出てきちゃいけない単語が出てきた気がする!!


「なんで護衛対象に恐れられるんだ!?」

「いやー!なんか頼りないとかなんとか!」

「ご、ごめんなさい……」


あっけらかんと笑うギナトと、うなだれるファト。

……本当対照的だな、この二人。


「ま、まぁとにかくこの二人はギルドの新入りなんだ!今日からビシバシ働いてもらうよ!!」


ものすごくうれしそうだなコウルさん。

……人が増えても、プラムさんはコウルさんに容赦なく接しそうだけど。


「って、あれ、プラムさんは?」


今更ながらプラムさんがいないことに気づく。


「あぁ、ギルド長なら残念ながらそろそろ……」

「コウル、何が残念なのかしら?」


ナイス(バッド?)タイミングでプラムさん登場。

……コウルさん、新入り二人を盾にしないで下さい。


「お、おは、おはようございますギルド長!!」


震えまくってるなコウルさん。


「コウル、ちょっと話があるわ。後で私の部屋に来なさい?」


部屋に呼ぶとは大胆だな。きっと今コウルさんはドキドキしてることだろう。

……もちろん恐怖で。


「あの!ギルド長ってことは……あなたがあの『紫黒の魔女』!?」

「えぇ、そうよ」

「マジっスか!?うわ、ものすごい魔法使いって聞いてたから、てっきりもっとおばさんかと思ってたのに!!」

「誰がオバさんよ」


額に青筋を浮かべるプラムさん。

……やっぱり、この年頃の女性ってこの単語に敏感なんだな……。


「いや!全然おばさんなんかじゃないっスよ!予想外に美人でびっくりしただけで!!」

「あ、あらそう?」


頬を緩ませるプラムさん。

この人なら言われ慣れてそうだけど、うれしいものはうれしいんだろうな。


「ギナトくん、別にお世辞なんて言う必要……」

「あんたは黙ってなさい」

「はい!!」


弱いなコウルさん!


「一応初対面だし、自己紹介しましょうか。

 私はプラム・ブラックネス。このギルドのギルド長を務めてるわ。

 ようするに、あんた達の上司よ」

「ギナト・プライア20歳!魔法使いっス!」

「ファ、ファト・ラメリです、よろしくお願いします」

「あら、珍しいわね、棒術士かしら?」

「え、あ、は、はい!」


背中の棒を見て言い当てるプラムさん。

やっぱり冒険者には珍しい武術みたいだな。


「冒険者の武器だと、やっぱり剣とか槍が多いけど、硬い鱗を持つ魔物には棒術も有効よ。

 もちろん、腕力は必要になるけどね」

「そうなのか?」

「まぁね、硬度の高いものは、斬るより砕く方がやりやすいだろうし」


なるほど、確かに竜の鱗とか、そう簡単には斬れないもんな。

……っていっても、ただの棒で砕くのも簡単じゃないと思うけど。


「後は棒術の特徴といえば……」


プラムさんはファトの顔をチラリと見て、言った。


「不殺……かしらね」

「っ!」


その瞬間、ファトの目が見開いた。


「え、あ、あの……」

「さて、それじゃ、そろそろ仕事の話に移りましょうか」


うろたえるファトをしり目に、プラムさんは話を変えてしまった。


っていうか、いきなりどうしたんだ?急にうろたえたりして……。


「仕事ってことは依頼っスよね!?」

「そりゃそうだよ!ギルド長!今日はこの二人に任せて俺は休……」

「残念ながら期限が迫ってる依頼は一つしかないから、それはコウルにやってもらうわね」

「無視!?」


なげくコウルさんだけど、どっちにしろ休みってことはないだろ……。


「ちなみに依頼は『町のドブ掃除』よ」

「何ですかその依頼!?」


うわ、よりによってドブ掃除か……。


「ギルド長!!そういう雑用は新入りにやらせるべきじゃ……」

「何よ?せっかく入ってくれたのに、いきなりドブ掃除をやらせる気?」

「う……」


痛い所をつかれて、ぐうの音も出なくなるコウルさん。


「あ、別に大丈夫っスよ!な、ファト!」

「え……う、うん」


一瞬嫌そうな顔をしたが、ギナトに押されてファトも合意する。


「大丈夫よ、優しい先輩がちゃんとやってくれるから」

「いや、俺はやりたくな……」

「冥界より闇の集いを呼ぶ……」

「やります!!!」


またも脅し……、っていうかプラムさん、今の詠唱って、闇属性基礎魔法レベル2じゃ……。


「そうスか?じゃあコウルさん、よろしくお願いしますっス!」

「よ、よろしくお願いします」


ギナトは特に気にした様子もなく言い、ファトは申し訳なさそうに言う。


「うぅ、今日は町中のドブ掃除をした後、ギルド長にボコボコにされるのか……」

「あぁ、そっちはなしでいいわ」

「ドブ掃除を!?」

「違うわよ、部屋に呼んだ方」


プラムさんが呆れ顔でそう言うと、コウルさんは顔を輝かせる。


「やったぁ!!ギルド長の部屋に行かなくて済む!!」

「殴るわ」

「なぜ!?」


拳を握りしめたプラムさんからコウルさんが逃げ惑う。

……うん、まぁ、確かに今の言い方は失礼だよな。


と、その時だった。


「こんにちはー!」


ギルドの扉が開き、中性的な声が響いた。


目を向けると、そこには一人の少年が立っていた。

声と同じく中性的だが、男だとは分かる顔立ち、瞳は普通の黒だが、毛髪は……クリーム色、といえばいいだろうか、少し黄みがかった白だ。


「あら、誰かと思ったらアザじゃない。どうしたの?」

「あ、うん。実は………何してるの?」


プラムさんとコウルさんの様子を見て、アザと呼ばれた少年は怪訝な顔をする。


……まぁ、女が男の胸ぐらをつかみ上げて、今にも殴りそうな体勢になってるからな……。


「またコウルくんをいじめてるの?ダメだよプラムさん!」

「いつもそうだけど、悪いのはこいつよ」

「そうだったとしてもダメ!」


声を荒げられ、しぶしぶといった様子で手を離すプラムさん。


「コウルくんも、何があったか知らないけど、いたずらにプラムさんを怒らせないようにね?」

「はーい……」


ケンカ両成敗、といった感じでコウルさんにも説教をするアザ。

この二人を言葉だけで制するなんて、一体何者だ?


「それで?どうしたのよアザ。

 獲物はいつも週末に持ってくるのに」

「あ、今日はそうじゃなくて、依頼を出しに来たんだ」

「依頼?あんたが?」

「うん、それで、えっと……その人達は?」


疑問符を浮かべて、俺達に目を向けるアザ。

まぁ、初対面だもんな。


「あぁ、黒髪二人はギルドの新入りで、残りは旅の冒険者よ」

「新しい人入ったんだ!良かったねプラムさん!」


うれしそうな笑みを浮かべるアザ。

……なんか、笑った顔女っぽいんだけど、男……だよな?


「黒髪の男がギナト、女がファト、茶髪の男がハディ、女がメリス、帽子かぶってるのがグリーよ」


なんかめちゃくちゃ簡潔に紹介された。


「僕はアザ・シーラー、よろしくね」

「……アザ・シーラー?」


名前を聞いて、グリーが反応する。


「君ひょっとして……『氷海の王』かい?」

「え?」


氷海の王……?


「あ、あはは、そう呼ばれてるみたいだね」


それを聞き、アザは苦笑いを浮かべる。


「グリー、『氷海の王』って?」

「この人の異名だよ。たまに武道大会なんかに出場しては、上位の成績を納めてるらしいね。

 ……ところで、君は冒険者なのかい?」

「え?うん、一応そうだけど」


冒険者?

……そういやさっき、獲物がどうとか言ってたな。


「いや、とんでもない実力者らしいのに、冒険者としての噂はほとんど聞いたことがないからさ」

「そりゃそうよ。アザはE(クラス)だもの」


グリーの疑問にプラムさんが答える。


「っていっても、その実力はA(クラス)とそん色ないわ。魔力なんてこの私よりも上なのよ?」

『えぇっ!?』


グリーを除く初対面組四人の声が重なる。


「プ、プラムさんよりも上……!?

 ってことはこの人も……」

「この子は『大魔導師(ハイウィザード)』じゃないわ。

 っていうか、『魔導師(ウィザード)』ですらないわよ」

「……え?」


ど、どういうことだ?

プラムさんよりも魔力が上なら、当然『大魔導師(ハイウィザード)』のはずじゃ……。


「……なるほどね。

 『大魔導師(ハイウィザード)』はあくまでも称号、いくら実力があっても、本人が望まなければ取れないよね」

「そういうことよ」

「ってことは、冒険者の方もそうなのかい?」

「うん、僕冒険者としての地位なんて興味ないし」


なんか三人で勝手に話が進んでる……。

まぁでも、今のでなんとなくは分かったな。


「………?」


約一名分かってない奴がいた。


「???」


訂正、約二名だった。

ちなみに一人目がメリスで二人目はギナトだ。


「……ようするに、『大魔導師(ハイウィザード)』の称号も、A(クラス)の地位も、取ろうと思えば取れるけど、取ってないってことだ」

「なるほど!………でも、何で?」


メリスが首をかしげる。

確かに、称号は取っておくに越したことはないと思うんだけど……。


「今言った通りだよ。僕は別に魔法使いとしての地位にも、冒険者としての地位にも、興味ないんだ。

 資格を取ったのは、ギルドに獲物を売り込むためだよ」

「獲物って……」

「漁師なのよこいつ。船でその辺にくり出しては、襲ってくる魔物を狩りまくってるわ」

「一応、一日に狩る上限は決めてるんだけど……」


つまり、魔物狩り専門の冒険者ってことか。

そういや、実力の高い冒険者だと、半端な依頼よりこっちの方が稼げるって聞いたことあるな。


「それで?そんなお強いあんたが依頼を持ってくるなんて、一体どんな依頼なの?」

「正確には、依頼主は僕じゃないんだけどね。『海釣り船の護衛』。それが依頼の内容だよ」

「海釣り船?まさかあんたの?」

「まさか。僕の知り合いの漁師さんが、旅行客とかを標的に、海釣りツアーを組んだんだ。

 それも、少し沖の方まで行くから、危険な魔物が出るかもしれない」


海釣りツアーか。

この町は魚とか有名だから、釣りをしたがる客もいるかもな。


「それで?」

「知り合いのよしみで、僕が護衛をやることになってたんだけど……さっき見てきたら、予想以上に大きい船だったんだ」

「つまり、あんた一人じゃ守り切れない、ってこと?」

「船に襲いかかってくる魔物はまだしも、お客さんが釣り上げた魔物までは処理しきれないよ」

「どれぐらいいるのよ?」

「予約してるだけで100人」


そう言って肩をすくめるアザ。

その数のお客さんを一人一人見てるなんて、一人じゃ不可能だな……。


「それで、ギルドから応援が欲しいってこと?」

「頼むよ、船の出航は今日の11時なんだ」


11時って……後2時間ないな。


「あんたの『家族』に頼まないの?」

「家まで戻ってる時間ないって……」

「……そりゃそうね。いいわ、ちょうど労働力もそろってるしね」


プラムさんはそう言って俺達の方へ目を向ける。


「最初は簡単な依頼から始めるつもりだったけど、アザがいるんなら大丈夫でしょうし。

 ハディ達もお願いできるかしら?念のためにね」

「はい!」

「よーし!久しぶりの仕事だ!!がんばろうな、ファト!」

「う、うん」

「ちなみにアザくん、報酬は?」

「人数が必要だからって、一人5000(ゴールド)だよ」


ってことは、俺達三人で合計1万5000か!一昨日の依頼と同額だな。


「それじゃ、ギルド長として命じるわ。あんた達五人で、依頼を完遂してきなさい!」

『はい!!』


さて、昨日は祭りを十分楽しんだんだ。今日は精一杯仕事に励むとするか!











「……あの、ギルド長、俺は?」

「何言ってるの?あんたはドブ掃除よ」

「やっぱり!?」


……コウルさん、気持ちは分からなくもないですが、新入りの前で泣くのはやめた方がいいと思います。








サブタイトル解説

臥竜鳳雛(がりょうほうすう)

将来大成する素質のある人物、

または、まだ世に出ない優れた人材のたとえ。

前者は新人という意味でギナトとファト、

後者は名誉や地位に興味のないアザのことです。

……使い方間違ってるかもしれません。


では次回予告です!


「コウルだよ!

 依頼を受けた五人は船に乗って護衛を始めるんだ。

 その間俺はドブ掃除……、おのれ悪のギルド長め!!

 いつか俺が成敗してや……

 ギ、ギルド長いつからそこに!?


 じ、次回、冒険者ライフ!第28話『一騎当千(いっきとうせん)』!

 ご、ごめんなさい冗談で……いだだだだだだだっ!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ