第26話 暗中飛躍(あんちゅうひやく)
~プラムサイド~
あの三人を祭りに送った後、私は町から少し離れた海辺を一人歩いていた。
「この辺りにもいないわね。……もう少し奥かしら。
そういえば、この奥には小さな洞窟があったはず……」
首から下げた『紫黒石のネックレス』を握り締め、『集中』を始める。
黒い光が宝石の部分に吸い込まれていき、紫黒石は淡い紫色の光を放ち始めた。
……よし、行こう。
「……敵の戦力が分からないから、できればコウルにも来て欲しかったんだけどね……」
そう呟いて、今朝のことを思い出す……。
『よぉ』
『……?』
町を歩いていたら、急に声をかけられた。
振り向いてみると、そこには14、5歳ぐらいの少年がいた。
その少年を……正確には少年の毛髪を見て、一瞬、息を呑む。
……黒、確かに黒色だ。
しかし、その言い方では少し違和感を覚える。
……漆黒。
こっちの方が合っているような気がする。
それほど、不自然なほど黒い黒髪だった。
『……何か用かしら?』
『いや、別に』
少年はそう言って不敵な笑みを浮かべる。
……用がないなら、何で話しかけてきたのかしら。
『ただ……あんたはそれでいいのかと思ってよ』
『……は?』
意味が分からない。この子何を言ってるの?
『生まれつき魔導師級の魔力……大した才能だな』
『……っ!!』
自分の目が見開くのが分かった。
『……どこかで、お会いしたかしら?』
『いーや、初対面だぜ?』
少年はからかうような笑みを浮かべる。
『見りゃ分かるさ、あんたは大して魔法の修業をしてない。
なのにかなりの魔力を持ってるってことぐらいな』
『……それで?』
『ちょっと気になっただけだ。
……それだけの才能がありながら、何で魔法の修業をそんな中途半端にしかしてないんだ?』
『……それは……』
言いかけて、気づく。
どうしてこんな初対面の子供にそんなことを言わなければいけないのか。
……しかし、拒絶することが、私にはできなかった。
本能……とでもいえばいいだろうか、それが、全力で警鐘を鳴らしていた。
……この少年に逆らうな、と……。
『強過ぎるから、よ……』
ほとんど無意識の内に、私は話し始めていた。
『魔力が強過ぎて……制御できないの』
『なんだ、修業中にケガ人でも出したのか?』
『っ!!』
思わず、少年を睨みつけてしまう。
『図星か。
……それで、お前は逃げてるわけだ』
『ち、違うわ!!私は!!』
『お前の考えはこうだろ?
いくら強い魔力を持っていても、魔法として使わなければ周りに危害を及ぼすことはない。
だったら自分は魔法なんて使わなければいい、ってな』
『そ、そうよ!!私が魔法なんて使わなければ、誰も……!!』
『それが逃げだっつってんだよ。
別にお前が魔法なんて興味ないってんならそれでも良かったんだけどな』
少年はイラついたような口調で言う。
『お前は逃げきれてねーんだよ。
何か問題が起きたら、例えば不審者に襲われたりしたら、魔法を使えばなんとかなる、とか思ってんじゃねーの?』
『……それは……!!』
『人にケガをさせるぐらいの魔法は使えるんだろ?
……今のお前は安全性のない爆弾と同じだ。
次はケガで済めばいいな』
『………』
私は、何も言い返せなかった……。
『お前が天才的な魔力を持ってることも、もう魔法を覚えちまってることも、揺るぎない事実だ。
……その事実から逃げてんじゃねーよ』
『……あんたに……!』
キッと目の前の少年を睨みつける。
怒りで自分の体が震えていた。
『あんたに何が分かるの!?
私だって……逃げたくなんてなかった!!
魔法を、使いこなしたかったわよ!!』
『………』
少年は何も言わず、じっと私を見ていた。
『私があの時使ったのは……基礎魔法レベル1、一番殺傷力の強い闇属性とはいえ最も簡単な魔法よ……!?なのに、壁一つが吹き飛んだわ……!!』
話している内に、あの時の光景を思い出してしまう。
大きな風穴の空いた壁、余波でケガをして泣いてる友達、恐怖の目で私を見ている仲間や先生……!!
その時、理解した。
私は……魔法なんて使っちゃいけないって……!!
『あんたに……!!あんたに何が……!!』
『分からねーな』
少年の声が聞こえた、その瞬間。
私は凄まじい寒気に襲われた……。
『っ……!?』
『それだけの力と、力を発現する手段を持っていて、それを使いこなしたいと思っていながら、
なんで制御する努力をしようとしないのか、分からねぇ。
……魔力が強過ぎて制御できない?お前より強い魔力を制御できてる奴が、目の前にいるだろーが』
寒気の正体は……少年から放たれている、凄まじい魔力だった。
自分の才能なんて、魔導師級の魔力なんて、ほんのちっぽけなものに思えてしまう。
それほどの、膨大な魔力……。
『あなた……人間じゃ……!!』
『おいおい、失礼なこと言ってくれるじゃねーか。
一応俺は人間だぜ?ただ……』
少年は、不敵な笑みを浮かべた。
『ただ、化け物なだけだ』
寒気が、消える。
そして、理解した。
あれだけの魔力の波動を出したり消したりできるってことは、この子は本当に、完全に、魔力を制御できてるんだって。
『お前のそれは、叶えちゃいけない欲望か?
それとも、そう思い込んでるだけの願いか?』
『それ……は……』
『……イラつくんだよ。
叶えられる願いを勝手に無理だと決めつけて、自己完結して被害者ヅラしてる奴見てると』
『わ、私……は……!!』
何も言い返せず、震える私を、少年は漆黒の瞳で睨みつける。
『お前の選べる道は三つだ。
一つ目は、このまま何もしない。
運が良ければ、特に何も問題ねーかもな』
『………悪かったら?』
『さーな、自分で想像してみろ』
さっき言っていた、不審者とか、かしら。
……確かに、無理にでも魔法を使わなきゃいけないような事態になったとしたら、私は、きっと……。
『続けるぞ。二つ目は、魔力を封印してただの人間になる』
『!! そんなこと、できるの……!?』
『できるぜ?俺ならな』
嘘だとは思えなかった。
この少年なら、本当にそれができるんだと、思った。
……でも、それで……いいの?
そんなの、それこそ逃げなんじゃ……。
『できればこれはやめて欲しいけどな。つまんねーから』
『……私は本気で悩んでるんだけど』
『俺だって本気で言ってるぞ』
……とりあえず二つ目は却下。
なんか負けた気がしてむかつくから……!!
それに、私が望んでいるのは、そんなものなんかじゃない。
『で、最後、三つ目』
少年は口元をゆがめる。
三つ目の内容は、なんとなく予想がついた。
きっと、それが私が選ぶべき答えだってことも……。
『俺の修業を受ける』
『……え?』
予想とは少し違う選択肢に、少しとまどう。
てっきり、勝手に修業しろって言われるかと……。
『当然魔力をコントロールする修業だ。
まぁ、俺は一週間後にこの町出るから、直接指導できるのはそれまでだけどな』
『………』
『何まぬけ面してんだ?』
呆然としている私を見て、少年は不敵な笑みを浮かべる。
『まさか、これだけ口出ししておいて、俺が何の手助けもしないとでも思ったのか?』
自分よりも5、6歳は年下だと思うのに、その言葉も、笑みも、とても頼もしく感じた。
『いいわ、受けてやろうじゃない。
あんたの修業……!』
『そりゃ良かった。
ちなみに授業料はいらねぇが、俺もまだ一応修業中の身だからな。
付き合えるのは午前4時から7時までだ』
『あら、丁度いい時間ね。その時間なら私も暇よ』
正直、午前4時に起きるのは大変だけど、そんなことを言っている場合じゃない!
もう絶対に無理だと思っていた夢が、叶うかもしれないんだから!
『そういえば、名前まだ言ってなかったわね。
私はプラム。プラム・ブラックネスよ』
『プラムか、よろしくな。俺の名前は………』
「………長!!ギルド長!!」
「ん………」
目を覚ますと、コウルが私の顔を覗き込んでいた。
「やっと起きた。
ギルド長、今日の朝は祭りの手伝いを頼まれてたじゃないですか。
遅れちゃいますよ?」
「……今何時?」
「8時前です」
「……まだ一時間あるじゃない。
9時にギルドを出れば十分間に合うわよ」
「朝ご飯食べない気ですか?」
そう言ってコウルは簡単な朝食を持ってくる。
うーん、毎朝作ってもらうと流石に少し罪悪感が……
沸かないわね別に、コウルだし。
「……ギルド長、今俺無性にご飯の中に毒を入れなきゃいけないような気が……痛い痛い!!冗談です冗談!!」
「良いことを教えてあげるわ。
冗談にも言って良いものと悪いものがあるの」
「じゃあ今のはセーフだと思……痛ぁっ!?アウトですごめんなさい!!」
二度に渡って手首をひねり上げると、流石にこりたのか静かになる。
「ほら、着替えるから出ていきなさい」
「別に言われなくてもギルド長の着替えなんて見たくもな……いだだだだだっ!!
ごめんなさい嘘です見たいで……」
ドゴォッ!!
ふざけた事をぬかすコウルを蹴り飛ばして部屋から追い出す。
全くあのバカは……!!
「それにしても、ギルド長が寝坊なんて珍しいですね。
いつも6時に起きてるのに」
朝ご飯を食べてると、コウルが戻ってきて質問をしてきた。
「……別に、ちょっと昔の夢を見てただけよ」
一旦手を休めて、コウルの質問に答える。
「昔って……ひょっとして『師匠』さんの夢ですか?」
「えぇ、そういえば話したことあったかしら」
「はい、『地獄の修業』をさせられたんですよね!」
「違うわ、『地獄すら生ぬるく感じる修業』よ。
……それと、何で嬉しそうな顔をしているのかしら?」
「いえ別に!ギルド長がひどい目にあっている所を想像してよろこんでいたわけじゃ……痛い!!」
変な妄想をしていたようなので、とりあえず頭に軽く一撃を入れておく。
「ま、師匠って言っても、直接指導を受けたのは一週間ぐらいなんだけどね」
「あ、確か魔力や魔法を制御する修業を受けたんでしたっけ?」
「えぇ、他にも体術とか、後は魔法も一つ教えてもらったけどね。
……あの人に会ってなかったら、私は魔法なんて一生使わなかったと思うわ」
言いながら、師匠の言葉を思い出す。
『今のお前は安全性のない爆弾と同じだ』、
……確かにそうだったと思う。
だけど……
「とはいってもね、あの人の修業を受けてなくても、私は普通の人生を歩めたと思うわ」
だから、あの人は別に命の恩人とかそういうのじゃないし、はっきりいってあんまり恩も感じてない。
あの人自身、『俺はやりたいことをやってるだけだから、恩を感じる必要なんてない』って言ってたしね。
……ただ、一つだけ、恩を感じていることもある。
「でも、今ここにいて、あんたと一緒に仕事ができてるのは、あの人のお陰だけど、ね」
あの人に会わなければ、魔法を使うことなんてなかった。
つまりその後剣術を学んで冒険者になることも、このギルドのギルド長になることもなかったはずだから。
「ギルド長……」
コウルが少しうるんだ目で私を見てくる。
……しまった、少ししゃべりすぎたわ。
「ギルド長!!」
「な、何よ。うるさいわね……」
「俺ギルド長のこと、わがままで自分勝手で部下のことを考えてくれない最低の上司だと思ってますけど……」
「歯を食いしばりなさい」
「待って!!最後まで聞いて下さい!!」
殴ろうとするのを止められる。
最後まで聞いたら殴っていいのね?
そんなことを思っていると……
「でも俺、ギルド長のこと大好きですよ!!」
………一瞬、思考が停止した。
「ギルド長?」
いきなりコウルが顔を覗き込んできて、顔がカァッと熱くなる。
「ギ、ギルド長?なんか顔が赤いですけ……ちょ!?何で『集中』するんですか!?」
「うるっさいこのバカ!!闇よ集え シャド!!!」
「えぇえ!?それシャレにならな……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「……全く、あのバカは……!!」
思い出したらまた腹が立ってきた!
何であのバカは、あぁも人を怒らせられるのかしら?
……人の、私の心を、かき乱せるのかしら……。
私が小さくため息をついた、その時だった。
「ギルド長!!」
「っ!?」
後ろから、あのバカの声がした。
振り向くと、案の定そこには、コウルが笑顔で走ってきていた。
「あんた、何で……」
「俺も手伝います!!」
「……ケガは?」
「あれぐらい、慣れっこですよ!」
コウルは、笑顔のままだ。
……全く、本当に、こいつは……。
「勝手にしなさい」
私はそう言って歩き出した。
後ろから、コウルがニコニコと笑いながらついてくるのを感じながら……。
「そういえば、今日って『英雄の日』なんですよね」
しばらく歩いていると、コウルがそんなことを言ってきた。
「そうだけど……祭りに行きたいのなら行けばいいじゃない」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですが。
……聞いた感じ、似てるなぁと思って」
「何が?」
「ギルド長の『師匠』と、その……『英雄』が……」
「………」
『英雄』……か。
「私は……本人だと、思ってるわ」
「……実在、するんですか?『黒の英雄』……」
「確証はないわ。ただ、いろいろと重なるのよ」
そう言って、今朝見た夢を……師匠のことを、思い出す。
「国王にタメ口聞く図太さとか、3万人の軍隊をたった二人で無力化するでたらめな力とか。
……憎まれ口を叩きつつも、結局見ず知らずの相手を救ってしまうお人よしな所とか、ね」
「……でも、『黒の英雄』がいるってことは」
「えぇ、いるんでしょうね。
……『白の英雄』も」
たった3年前の出来事にも関わらず、人物が特定できていないこと、そして、やったとされていることが
にわかには信じ難いことのため、ただの伝説になってしまった『二人の英雄』。
「そっちは心当たりとか……」
「ないわ。そもそも、私は師匠のことをほとんど知らないもの」
自分から話すことはあんまりなかったし、私も特に聞こうとは思わなかった。
「あ、でも、師匠さんの名前くらいは知ってるんですよね?」
「そりゃあね。あんたも冒険者をやってる以上、一度は聞いたことがあるはずよ」
「え?」
「……『絶望』」
「っ!?」
師匠の異名を教えると、コウルは驚愕をあらわにする。
「ぜ、『絶望』って、あの……!?」
「えぇ、14歳で冒険者になり、それからたった半年でA級にまで上りつめた、伝説の冒険者」
「1000人の大盗賊団を一晩で壊滅させたとか、危険度Aの上位竜を一人で倒したとか……」
「ある悪人はこんなことを言ったらしいわ。
『ヤツは人間じゃない。人の恐れる絶望そのものだ』ってね」
それぐらい恐ろしかったってことでしょうけどね、気持ちはよく分かるわ。
「……でも、『絶望』って最近名前聞きませんよ。
死んだんじゃないかとも……あ、すいません!」
「それは絶対にないわよ。
師匠が死ぬ所なんて想像すらできないもの」
「ギルド長……」
なぜかコウルが感動したような目で見てくる。
うっとうしいんだけど……。
「ほら、見えてきたわよ!」
そう言って、前方の洞窟を指差す。
「いるとしたら、後はあそこぐらいよ」
「でも、ここって目撃情報があった場所からだいぶ離れてますよ?」
「移動したんでしょ。
……おかげで見つけるのが遅れたわ」
近づいて洞窟をそっと覗きこむと、そこには、3体のブラッディヴァインの姿があった。
丁度寝てるみたいね、ラッキーだわ。
「ほらね」
「でも、どうしてここだって分かったんですか?」
「別に、ブラッディヴァインの生態を考慮に入れて、ニームル養殖場から比較的近い場所を洗っただけよ」
ブラッディヴァインは基本的に一匹狼だけど、たまに少数の群れを作ることがある。
念のために調べておいて良かったわ。
「3体もいますけど……どうします?」
「殲滅するに決まってるでしょ。
私が2体やるから、あんたは1体倒しなさい」
「……まぁ、なんとかやってみます。
それじゃ精霊を……」
「バカ、『集中』の時点で気づかれるわよ」
コウルにストップをかけて、紫黒石のネックレスを握り締める。
「それ……確か、魔力をためておけるネックレスでしたっけ?」
「えぇ、さっきためておいたわ。
これで『集中』を省略できる。
始め私が引き受けるから、その間に精霊呼びなさい」
「了解」
それだけ言って、私は気づかれないように気配を消しながら洞窟の中に入る。
ある程度近づいてから、紫黒石にためておいた魔力を解放する!
「闇よその姿を具現せよ
我が意思によりて敵を喰らう力と化せ!
ダークネスソード・浮遊する剣!!」
私の周りに5本の黒い剣が現れるのと、1体のブラッディヴァインが目を覚ましたのはほぼ同時だった。
向かってくる赤いつるを、2本の剣を交差させて受け止め、切り裂く!
「ギシャアアアアアアァァァァ!!!」
さらに2本のつるが左右から挟みこむように向かってくるが、それぞれに1本ずつダークネスソードを突き刺し、その上から重ねるように切断する。
「あら、みんな起きちゃったわね」
続いて目を覚ます2体のブラッディヴァイン、流石にこのレベルの魔物相手に3対1は面倒ね……。
「ナナ!!」
その時、後ろから鋭くとがった氷が飛んでいき、ブラッディヴァインのつるに突き刺さった。
「遅いわよ」
「いや、よゆうで間に合ってるじゃないですか」
不満そうにいうコウルのそばには、少女の姿をした氷の精霊、オンディーナのナナと、少年の姿をした風の精霊、シルフのフルがいた。
「あら、2匹も呼んだの?
1匹ずつしか攻撃できないのに。
それになんでサラマンダーを呼ばないのよ、こいつらの弱点炎よ?」
「攻撃はできなくても手助けはしてくれますから。
後、ヒヒには朝働いてもらったので休んでもらってます。
氷も効きやすいから大丈夫ですって!」
「そう」
と、その時赤いつるがまた迫ってきた。
バカの一つ覚えね……。
浮遊していた剣を両手に持ち、迎え撃つ。
「黒紫霧葬流、紫咲閃!」
紫電が閃き、つるを貫く。
一拍遅れてつるは分断され、黒い液体が飛び散る。
「ギュララララララ!!」
さらに2本のつるが迫ってくるが、冷静に二振りの黒剣を構える。
「咲閃舞!」
紫電が舞い、つるを幾度となく切り裂いた。
私が走り抜けたのと同時に、2本のつるは先端からバラバラになる。
「相変わらず魔法使いとは思えない身体能力ですね……」
「魔法使いは身体能力が低い、なんて考えは偏見よ」
コウルと話してる内に、今切り裂いたつるが再生してしまう。
……めんどうね、一気に終わらせようかしら。
「魔法変換!!」
私の声に反応して、5本の闇の剣が集まってくる。
「闇よその姿を具現せよ!
絶対たる力を以て我が前の敵を殲滅する力と為せ!!
ダークネスソード・殲滅の巨剣!!」
闇が5本の剣を飲み込み、さらに広がっていく。
3m程の長さになった所で、闇は剣へと変化した。
「くらいなさい!!」
私の意思によって剣は浮かび上がり、切っ先をブラッディヴァインの核へと向けて突進する。
ブラッディヴァインの赤いつるが立ちはだかるが、それらをやすやすと切り裂き、巨大な剣は赤い葉ごと核を貫く。
「ギシャアアアアアアァァァァァ………」
断末魔の叫びを上げて崩れ落ちるブラッディヴァイン。
「次!」
コウルが1体を引き受けている内に、最後の奴も倒してしまいましょう。
「ギュラララララァァァァ!!!」
迫ってくる巨大な黒剣を止めようと、5本の赤いつるを飛ばすブラッディヴァイン。
「無駄よ」
でもそんなものは、殲滅の巨剣の前には紙キレも同然。
あっという間につるを切り裂き、巨大な剣は核へと向かう。
「悪いわね、私にはあの町を守る義務があるのよ」
最後の壁である赤い葉を貫き、剣を核に突き立てる。
敵が絶命したのを確認して、役目を終えた剣を消した。
……さてと、無事ブラッディヴァインも倒せたことだし。
「帰りましょうか」
「待ってギルド長!!俺は!?」
「何よ、まだ倒してないの?」
「最弱の部類とはいえ危険度Cですよ!?
俺一人じゃ足止めが精一杯ですって!!」
なげいている割には結構優勢みたいだけど……まぁいいわ。
『集中』を10秒ほど行い、
「冥界より暗黒の集いを呼ぶ 我は闇を作る者なり
消え去れ シャドネス!」
闇属性基礎魔法レベル3、シャドネスを発動。
黒い霧から現れた巨大な黒いドクロは、まっすぐブラッディヴァインの本体へと向かっていき、赤い葉と核を食い破った。
「ふぃー……。
ありがとう、ナナ!フル!またよろしく!」
コウルの呼びかけに応えた後、2匹の精霊は消える。
「全く、1体ぐらい倒しなさいよ」
「無茶言わないで下さいよ……。
って、ギルド長どこ行くんですか!?」
「どこって、帰るに決まってるでしょ。
久しぶりに動いて疲れたしね」
「いやいや!!後始末どうするんですか!?」
ブラッディヴァインの死体を指差すコウル。
何を言ってるんだか。
「あんたがやるに決まってるでしょ」
「俺一人でやるんですか!?」
「任せたわよ、当然死体はちゃんと持ち帰ってきなさい」
諦めたのか、ため息をついて死体を集め始めるコウル。
……そうだ、あれをまだ言ってなかったわね。
「そういえばコウル、一つ朗報があるわ」
「朗報?」
「えぇ、今朝電話があったのよ」
笑みを浮かべて、電話の内容を伝える。
「ギルドに所属したいって、冒険者からね」
「え!?ほ、本当ですか!?」
「本当よ。一応今日の夜に面接を受けてもらうけど、よっぽど問題がない限りは合格にしなさい」
「分かってますよ!!やったぁ!これで俺の負担が減る!!」
天に拳を突き上げてガッツポーズを決めるコウル。
……面接を押しつけられてることには気づいてないのかしら?
まぁいいけど。
……今度は、厳しくし過ぎて逃げられないように、気をつけないとね……。
サブタイトル解説
暗中飛躍
人に知られないように密かに活躍すること。
今回の二人の活躍のことです。
では次回予告です!
「プラムよ。
やっと新しい冒険者が来てくれることになったわ。
新米みたいだからしっかり教育しないとね。
……あら、珍しいお客さんが来たわね。
次回、冒険者ライフ!第27話『臥竜鳳雛』。
世の中には、『大魔導師』より強い『魔導師』だっているもんよ」