第25話 牛飲馬食(ぎゅういんばしょく)
朝6時、いつもならまだ眠っている時間だが、俺は運動のできる服に着替えて外にいた。
「さて、始めるか」
そう呟いて剣の柄を持ち、ゆっくりと構える。
剣先が首の後ろにくるぐらいまで振りかぶり、力をこめて振り下ろす。
「……素振りなんて久しぶりだな」
思わずそう呟いた。
子供のころは毎日のように親父にやらされてたけど、冒険者になって仕事を始めてからは、こういう普通の修業なんて全然やってなかった。
理由は簡単、仕事で疲れてしまうこと。
そして、仕事だけで十分修業になってると思ってたことだ。
「それが、俺とレイラの一番大きな差だったんだろうな……」
素振りを続けながら、今はいない戦友を思い出す。
レイラは命懸けの大きな仕事の前でも、基礎的な鍛錬を欠かさなかった。
それも、常人なら疲れ果てるような量を、軽々とこなしていた。
13才でC級冒険者、レイラが天才なのは間違いないだろうけど、あいつはそれ以上に秀才なんだ。
「努力に勝る天才なし、ね。
昔の人は本当、うまいこと言うもんだよな」
そう言った時、素振りの回数は丁度100回になっていた。
流石に少し汗が出てくるけど、まだまだ……!
一通り素振りを終えた後、俺は走り込みを始めた。
走るコースはあんまり考えてなかったから、とりあえず、海沿いを適当に走ることにした。
「……結構長いな、おい」
しばらく海を見つつ走っていたが、予想以上に道が長い。
とりあえず適当な所で折り返し、元来た道を走っていく。
宿屋まであと少し……の所で、妙な気配に気づいた。
「なんだ……これ」
町の外れの方向、人気のない道の先から感じる。
……これは、魔力……?
いぶかしげに思いながら、好奇心に負けてその方向へと歩いていくと、そこにいたのは……。
「……グリー?」
グリーの周りが微妙に淡い虹色に光っていたが、俺が声をかけると、光はすぐに霧散してしまう。
「びっくりした……。
どうしたんだいハディくん、こんな所で」
「いや、グリーこそ」
「……見て分からないのかい?」
そう言ってグリーは一冊の本を見せてくる。
『魔法入門』、昨日もグリーが読んでた本だ。
「なるほど、魔法の修業か」
「そうだよ、ハディくんは?」
「俺は普通の修業、素振りとか走り込みとか、後、筋トレもやるつもりだけど」
「へぇ、そんなことしてたんだね、知らなかったよ」
「いや、知らなかったもなにも、今日からだ」
「なんだ、それなら知らないわけだよ」
「そういうグリーは?」
「三日前からだよ」
グリーが肩をすくめて言う。
俺もグリーも、まだ始めたばっか、ってことか。
「……ところでメリスは?」
「まだ寝てるよ」
「メリスだけはいつも通りか」
まぁ、朝早くからメリスが修業してるってのは、ちょっと想像しがたいしな。
「あのねハディくん。
昨日メリスはほぼ魔力を使い切ってたんだ。
魔法使いが魔力を回復する方法は、基本的に休憩ぐらいしかないんだからね?」
「そういうやそうだっけ……」
「瞑想で回復を早めるぐらいならメリスもできるけど、こっちは気力が削れるしね。
ただでさえ魔法は使うのが大変なんだ、そんなことしてたら倒れるよ」
「かといって魔力が回復してなかったら、いざという時困るからな。
しっかり休んでもらわないと、ってことか」
「そういうこと」
グリーはまた本を開き、読み始める。
「どんな調子だ?」
「まだ始めて三日だよ?『集中』がやっと。
魔力を集束することすら上手くできてないから、当然魔法の発動なんて無理だよ」
「そういや魔法って、基礎魔法レベル1でも習得に2年かかるんだっけ?」
「僕の場合、魔力はもう十分だから1年だよ。
そもそもそれは『習い事』程度なら、だし、メリスのお手本をいつも見てるからね、もっと早く習得して見せるよ」
グリーはそう言って『集中』を始める。
グリーの周りが淡い虹色に光……らない。
微妙に光ってるような気もするが、正直、発光なんて呼べるレベルじゃない。
少しだけ強く光ったように見えたかと思えば、その光はすぐに消えてしまう。
……苦戦してるみたいだな。
「それじゃ、俺も修業に戻るな」
俺はグリーに軽く一声かけ、修業に戻った。
「おはようございまーす」
「ございまーす!!」
朝食後、俺達はギルドに来た。
昨日祭りの手伝いを頼まれたからな。
「……おはよう、早かったわね」
イスに座ったプラムさんが応えてくれるけど……なんか、機嫌悪くないか?
「あれ、コウルさんは?」
「……休みよ」
「え、休み?どうして……」
確か昨日、『ケガでもしない限り強制参加』って……。
「バカだから」
「は?」
「バカだから休みなのよあのバカは……!!」
プラムさんは怒りゆえか、顔を真っ赤にして、体を震わせる。
メリスとグリーの方を見るが、当然二人とも首をかしげる。
……コウルさん、あんた何したんですか……?
1時間後、時間になったので、なんとか落ち着いたプラムさんと一緒に祭りの会場へ向かう。
「ここよ」
「なんか、屋台でいっぱいですね」
「当たり前でしょ、ちなみに神輿パレードも盆踊りもこの通りでやるわよ」
俺達が今いるのは、ヨーグルト町で一番大きな通りだ。
その両端には隙間もないぐらい多くの屋台が並んでいる。
ちらほらと人も来てるみたいだな。
まだ始まったばかりらしいから、これからもっと増えるんだろう。
「おいしそう……!!」
「後にしろ後に!」
今にも屋台へと走っていこうとするメリスを引き止め、プラムさんについていく。
「それで、手伝いって何をするんですか?」
「あれよ」
プラムさんが指差したのは、一つの無人の屋台。
のれんには大きく焼きそばと書かれている。
「……え?」
「助かったわ、コウル一人じゃ不安だったし、コウルは休みになっちゃったしね」
「あの、屋台の手伝い……ですか?」
「えぇ、知り合いから頼まれたのよ」
「知り合い!?ギルドとして依頼を受けたとかじゃ……」
「あら、そんなこと言ったかしら?」
プラムさんはいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべる。
「まぁ確かに、『祭りの手伝い』ではあるね……」
「少し用事があるらしくてね、昨日も言ったけど、10時まででいいわ。
焼きそばの作り方を書いた紙があるはずだから、しっかり頼むわよ」
「って、プラムさんは?」
「私?帰るわよ」
「他人任せですか!?っていうか、祭りの案内してくれるんじゃ……」
「はい」
プラムさんは笑みを浮かべて祭りのパンフレットを渡してくる。
「タイムテーブルはそこに書いてあるわ。
後、祭りの会場はこの通りの端から端までよ。
以上」
案内いらねぇ!?
「それじゃ、よろしく頼んだわよ」
プラムさんはそう言って帰ってしまった。
……なんか、してやられたって感じだ……。
「ま、引き受けたからにはちゃんとやろうよ」
「うん!」
「なんか釈然としないけど……まぁいいか」
「それじゃ、役割を決めようか。僕が焼きそばを作るから……」
「私味見役やりたい!!」
「却下!!つーか味見役なんていらねぇ!!」
「えぇー……」
「メリスは客寄せな!俺が接客やるから!」
「うん、分かった!」
そんなこんなで、俺達は祭り……というか屋台の手伝いを始めるのだった。
「それじゃ、後はよろしくお願いします!」
「おう!ありがとな兄ちゃん達!!」
1時間後、俺達は屋台の持ち主に仕事を引き渡した。
ってか、思ったよりあっという間だったな。
「いやー助かったぜ!プラムちゃんに感謝しないとな!」
「え?」
「屋台に少し遅れるって言ったら、無償で手伝いを寄こしてくれたんだ。
ホント良い子だよあの子は」
あれ、この手伝いってプラムさんから引き受けたのか?
しかも無償で。
「ま、その分あんたら冒険者は大変だろうがな。
あの子のことよろしく頼むよ!」
「あ、いえ、俺達はギルド所属じゃ……」
「そうだ。こいつは礼だ、持ってきな!」
そう言っておじさんは焼きそばを3つくれた。
「あ、ありがとうございます」
「おう!今日はめでてー日なんだ!しっかり祭りを楽しんでいけよ!!」
がっはっはと笑うおじさん。
……めでたい日?今日は『英雄の日』……だよな?
「それじゃ、一旦解散するかい?」
「そうだな」
焼きそばを食べた後、俺達は分かれてそれぞれ祭りを見ることにした。
ちなみにメリスは焼きそばを30秒で食べ切った。
本当にこいつは人間じゃないというか、人間じゃないというか、人間じゃないというか。
「ハディ、何で3回も言うの?」
「言ってねぇ!!」
「ほらほら、ハディくん、取り分は?」
「と、そうだったな。ほら」
俺は二人にそれぞれ3000Gを渡す。
「少なくない?」
「祭りでそれ以上使う気かお前は」
確かに昨日の稼ぎからしたら、取り分は一人1万G以上になるだろうけどな。
グリーはまだしも、メリスにそんな大金渡したら、絶対食い物だけで使い切るだろ!
「ん~、まぁいっか!これだけあれば十分食べれるし!!」
やっぱ食い物につぎ込む気だったか……。
「1時間後にこの周辺で集合、でいいかい?」
「おう」
「うん!それじゃまた後でね!」
メリスは走って、近くにあったりんご飴の屋台に行く。
「それじゃ、僕も行くよ」
「おう、また後でな」
グリーとも別れ、一人になる。
さて、どうしたもんかな。
腹はあんまり減ってないし。
ぶらぶらと歩いていると……。
「そこ行くお兄さん……。ちょっと寄って行かんかえ?」
声の方を見ると、ローブをはおった怪しげなおばあさんがいた。
机の上には紫色に光る水晶玉がある。
のれんには、占いの館と書いてあった。
………。
「さて、そろそろ何か食うかな」
「ちょっ!?何で無視するんだい!?」
いや、何でって言われても……。
「すみません、俺占いとか信じてないんで」
「そんなこと言わずに!!今なら一回たったの300Gだよ!!」
300Gか。
それならまぁ……。
「じゃあ、せっかくだしお願いします」
「それじゃ、何について占おうか?」
「えーと……、じゃあ総合運でお願いします」
「よしよし……むむむ……!」
おばあさんは手を水晶玉に当て、何やら念を送り始める。
まぁ、よくある占い……
「え?」
よく見ると、おばあさんの体がうっすら黒く光っていた。
……まさか、『集中』?
もし魔法を使うんだとしたら、ひょっとしてちゃんとした占いだったりするのか……?
「影によりて彼の者の未来を写し出せ ディヴィネーション!!」
言葉に反応し、水晶玉が光り出す。
その中心には黒い闇がもやもやと動いていた。
「ふむふむ、これは……」
おばあさんは水晶玉を覗き込み、それをじっくりと観察する。
そして、ゆっくりと顔をあげて、真剣な顔で語り出した。
「近々、あんたの生活が大きく変わることになるだろう」
「え?」
「明日、明後日の話じゃない。
けれど、そう遠くない未来、あんたは『何か』を手に入れ、今の生活が大きく変わることになる」
「何か……?」
「それが何なのか、どんな影響を与えるのかは分からないけど……。
それを手に入れる直前、あんたは大きな危機に直面するだろう。
もしかしたら命を失うかもしれない」
「っ!?」
命を……失う!?
「その危機は、あんたにはどうにもできない程大きなもののようだね……。
けれど、大丈夫。あんたが諦めさえしなければ、その危機を乗り越えることは可能だ」
おばあさんがそこまで言うと、水晶玉は光を失う。
……なんか、不吉っていうか……。
いや、そうも言い切れないか?
冒険者は普通に命懸けの仕事だし。
「さて、先程言った危機についてだが……」
おばあさんは真剣な面持ちで続ける。
「なんとかする方法があるよ」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ」
おばあさんは懐からネックレスを取り出した。
「この『魔除けのネックレス』さえあればね!!」
………ん?
「これさえあれば危機を乗り越えられるよ!!
今ならたったの2000G!!」
「お邪魔しました」
「嘘!!嘘だよ!!200Gだ!!」
いきなり10分の1かよ。
ってか、別に買いたくないし……。
「……でも、結構きれいだな……」
宝石とかがつけられてるわけでもない、ただのガラス玉のネックレスだけど。
なんというか……。
……メリスに、似合いそう。
「って、何考えてんだ俺!?」
「どうしたんだい?」
いきなりブンブンと顔を振る俺を、おばあさんは怪しげな目で見る。
……まぁ、200Gならいいよな。
「買いますよ、せっかくだし」
「おぉそうかい!なら1000……」
「さようなら」
「じゃなくて!!200Gだよ!!」
慌てて言い直すおばあさんに200Gを渡し、ネックレスを受け取る。油断も隙もないな……。
「それじゃ、あんたが危機を乗り越えられることを祈ってるよ」
「……ありがとうございます」
素直にお礼を言っておく。
……今の占い、魔法を使ってたとしたら、信憑性高いよな……。
「ま、なんとかなるか」
俺はネックレスをしまって、改めて祭りを楽しみ始めるのだった。
「あ、一番乗りか」
集合時間丁度、焼きそばの屋台に戻ってきたけど、メリスやグリーの姿はない。
「すみません、メリスとグリー見てませんか?」
「あの嬢ちゃんと帽子かぶった兄ちゃんかい?見てねぇな」
屋台のおじさんも知らないみたいだ。
少し待つか……。
周りの屋台を見ながら数分待っていると、
「あ、ハディ!!」
メリスが来たみたいだな。
「おう、メリ……」
声の方を向いて、俺は声を呑む。
「えへへ……どう?」
「……どこから持って来たんだ?その浴衣」
メリスは何故か浴衣を着ていた。
そんなの持ってなかったはずだけど……。
「近くに浴衣を貸してくれる店があったから、借りてきちゃった!」
うれしそうな笑顔に一瞬見とれる。
「……ハディ?」
「い、いや!何でもない!!」
な、何だ!?顔が少し熱い!!何故!?
「それで?」
「え?」
「え?じゃなくて!!
その……何か言うことないの?」
メリスは何故か顔を紅潮させて、そんなことを聞いて来た。
「あ、あぁ、に、似合ってるぞ」
「本当?良かった……」
またメリスは笑顔になる。
それはさっきよりも魅力的に見えて……俺はまた、メリスに見とれていた。
「メ、メリス!?」
「あ、兄さん!!」
グリーも戻ってきたな。
……一体どんな反応を……。
「そ、その浴衣はどうしたんだい!?いやそんなことはどうでもいい!!似合う!!ものすごく似合っててかわいいよメリス!!あまりのかわいさに僕の脳がどうにかなってしまいそうだ!!あぁ、こんなかわいいメリスを見ることができるなんて!僕は今日という日を絶対に忘れないだろう!!はっ!このままではメリスが他の男達にも見られてしまう!!そんなことになったらナンパされまくるに決まっているじゃないか!!仕方がない!不穏な輩には僕が正義の鉄槌を……!!」
「落ち着けグリー!!」
銃を取り出そうとするグリーを慌てて引き止める。
やばい、こいつ目が本気だった!
「止めないでくれハディくん!!
僕はメリスを守らなければいけないんだ!!」
「止めるに決まってんだろ!!
こんな所で銃を乱射したらシャレにならねぇぞ!!」
「兄さん、ナンパなんてされてないから大丈夫だよ」
メリスはのんきに笑っている。
……っていっても、グリーの言うことも分からなくはないんだけどな。
正直メリスはナンパされてもおかしくな……
「君かわいいねー!俺と一緒に祭り回らねー?」
「え?」
ものすごいバッドタイミングでナンパが来た!!
「ハディくん、離してくれ」
「撃つなよ」
一言忠告して恐怖の魔王……もといグリーを解放する。
「い、いえ、連れがいるので……」
「いーじゃん別に!そんなの気にしなくて……ヒィ!?」
ドス黒い殺気を放ちながらゆっくりと近づいてくるグリーを見て、ナンパ男は悲鳴を上げる。
「僕の連れに何か用かい?」
「あ、いえ、あの……」
「何カ用カイ……?」
「す、すみませんっしたーーーーーーー!!!」
恐怖の魔王を前にナンパ男は畏怖し、ただなすすべもなく逃げ去るのだった。
「メリス!!大丈夫かい!?変なことされてないかい!?」
「誘拐されたわけじゃないんだからよ……」
「でも、びっくりしちゃった。ナンパなんてされることあるんだね」
男からしてみたらそんなに驚くことでもないんだけど……まぁ、いいや。
「そういや、なんかイベントとかあるんだっけ?」
「うん、最初は……12時から神輿パレードがあるよ」
「じゃあそれまでは適当にぶらついてるか」
そんなこんなで時は過ぎていき、気づけばもう辺りは暗くなっていた。
「ふぅ、いろいろイベントがあるな……」
「楽しかったよね!」
「神輿持った人間が闘牛みたいに走ってくるのはびびったけどな」
「でも盆踊りは普通だったよね。
ハディも踊れば良かったのに!」
「いや、踊り方知らないし」
「別に周りに合わせればいいと思うよ?」
「グリー、お前も踊ってなかったよな?」
「さて、次が最後のイベントみたいだね」
「無視かこの野郎」
グリーはどこ吹く風でパンフレットを見ている。
「兄さん、次はなに?」
「花火だよ。
7時からだから、もうすぐ始まるみたいだけど……」
「どこで打ち上げるんだ一体……」
この辺りほとんど建物だけど……もしかして、屋上から打ち上げるのか?
と、その時、
ヒュゥゥゥゥ……ドーーーーーーン!!
「あ、始まったみたいだね」
空を見ると、今の花火が消えていく所だった。
しかし、次から次へと新しい花火が打ち上げられ、暗くなった空に色とりどりの花を咲かせる。
「きれい……」
メリスはその光景を、うっとりとした表情で見ていた。
やっぱりこいつも女だもんな、こういうのは好きみたいだ。
ブローチとか、装飾品の類も好きだし。
「あ」
と、そこで朝買ったネックレスのことを思い出す。
「あーっと、メリス」
「ん、何?」
グリーに見つからないよう、こっそりとメリスに話しかける。
「これ」
そして、ガラス玉のネックレスを差しだした。
「それ……」
「『魔除けのネックレス』だってよ。
……まぁ、嘘っぽいけど、きれいだから、やるよ」
「………」
押しつけるように渡すが、メリスは無言のまま。
……まぁ、安物っぽいしな、こんなのもらっても別に……
「うれしい……」
「え?」
「ありがとう、ハディ」
そう言ったメリスは、本当に、うれしそうな笑顔を浮かべていて、何でそんなに喜んでくれるのか、何でメリスは顔を紅潮させてるのか、そして……何で、俺の顔は熱くなってるのか。
そんなの、どうでも良くなるぐらい、かわいくて、魅力的だった……。
「終わっちゃったね、花火……」
花が消えた夜空を見て、メリスは悲しそうに呟いた。
「……だな」
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」
「……うん」
まだ少ししょんぼりとしているメリス。
「……メリス、祭りぐらいまたあるって」
「でも、私達旅をしてるから……この祭りには、たぶんもう来ないよね……」
「来ればいいだろ」
「え?」
俺の言葉にメリスはあっけにとられる。
「いつ祭りがあるかは分かってるんだから、来年、またこの町に来ればいいだろ」
「そうだよ、メリス。僕達は、旅をしてるんだからさ」
「……うん!!」
メリスに笑顔が戻った所で、俺達は帰路についた。
「……そういえば、祭りでプラムさんもコウルさんも見なかったな」
「私も見てないけど……、コウルさんは休みって言ってたよ?」
「いやだから、仕事を休んで祭りに行ったのかと思ってたんだけど」
「確かに、プラムさんはともかく、コウルさんはこういう祭りとか好きそうだしね」
「んーでも、大きな祭りだし、単に見なかっただけかもな」
俺は特に深く考えず、二人と一緒に宿屋へと帰るのだった……。
サブタイトル解説
牛飲馬食
多量に飲み食いをすること。
メリスの代名詞です。
では次回予告です!
「グリーです。
次回は今回の舞台裏……かな?
ギルドの二人が中心のお話だよ。
次回、冒険者ライフ!第26話『暗中飛躍』。
目立てば良いってもんじゃないよ。
もちろんその逆も然り、だけどね」