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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第三章 弱肉強食
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第23話 孤軍奮闘(こぐんふんとう)

「っ!!」


俺達がなんとか赤いつるをかわすと、つるはその勢いのまま、床に叩きつけられる。


 ボゴオォォン!!


「いっ!?」


水と共に、床のコンクリートが小さく砕け、飛び散る。


一撃でコンクリート砕きやがった!?


「うおおおぉぉ!!」


剣を思い切り振り上げ、赤いつるに向かって振り下ろす!


「っ!?」


赤いつるが切り裂かれる……が、太すぎて完全に斬ることができず、途中で止まってしまう。


「ハディ上!!」


慌てて剣を抜き、思い切り右に跳ぶ。

直後、もう一つのつるが上から降ってきて床を叩き砕く。


なんつー力だ……!!


「ギリュルルルルル………」


ブラッディヴァインは不気味な音を発しながら赤いつるを手元へ戻す。

どうやら向こうも警戒してるみたいだな……。


「……グリーあいつは……」

「危険度Cの上位魔草、ブラッディヴァイン。

 戦闘力はミドルドラゴンより少し上って所かな……」

「攻撃方法はあのつるだけか?」


見た所、バトルプラントみたいにエネルギー弾を撃ってきたり、ドラゴンみたいに炎を吐いてくるような様子はない。


「そうだよ……ただ、つるの力がとんでもない上に、ほら」


グリーに言われてさっき俺が斬りつけたつるを見る……と。


斬られた部分が肉塊のようなものでふくらみ、次の瞬間、斬られる前の状態に戻っていた。


「再生!?」

「切断しても燃やしても、何度でも再生するよ」

「……弱点は?」

「本体の中にある核。人でいう心臓みたいなものだから、そこをつぶせば終わるよ、ただ……」

「あの、赤い葉か?」


グリーは苦々しい顔で傾く。


五本の赤いつるが出ている赤い葉がくるまれたような物体。

たぶんあれが本体なんだろう。

となると、あの赤い葉は核を守る壁ってところか……。


「あの葉はコンクリートよりも硬い上に、耐火性・耐熱性もある。

 ……メリスのブレイアムが直撃しても壊せないかもしれない」

「おいおい……」

「どうする?逃げた方が得策かもしれないよ?」

「………」


逃げる、か……。

確かに相手は危険度C、D(クラス)冒険者の俺達の手に余る相手だ。


前に同じ危険度Cのミドルドラゴンを倒したことがあるけど、あれはレイラとかエンジさんとか、手を貸してくれた人達のおかげでなんとかなったんだ。


……でも今、その人達はいない……!


「グリー、逃げた方がいいと思うか?」

「………」


グリーは少しうつむき、考えた後話し出した。


「仮に逃げたとして……すぐに救援を求めることができるのは、ギルドぐらいだよ。

 ……一般兵じゃ、こいつの相手はきついだろうしね」

「コウルさんは別の依頼に行ってるけどな」

「で、でも!プラムさんなら……!!」

「プラムさんはいるだろうね……ギルドに」


グリーの言った意味を理解したんだろう。

メリスも顔を伏せる。


ここからギルドまで徒歩で30分、その間は町中だ。

もしこいつが俺達を追ってきたら、ヨーグルト町は多大な被害を受けることになる。


「僕達を追ってこなかったとしても、最悪この施設が壊滅するね」


グリーの言う通りだ。

町も、この施設も守るには、俺達がここでこいつを倒すしかない……!!


メリスも、グリーも、同じ結論に達したんだろう。

決意を秘めた目で、ブラッディヴァインを見る。


「……できれば、こんな危険な魔物の相手なんて、したくないんだけどね」

「ジェネラルドラゴンに銃弾撃ち込んだ奴が何言ってんだよ」


グリーはフッと小さく微笑む。


「ハディくん、一つ言い忘れてたよ。

 この魔物、ジェネラルドラゴンに比べたら、雑魚だ!!」

「了解!!やってやろうじゃねぇか!!」


ブラッディヴァインに向かって、剣を構える。

体の震えは、もう起こる気配もない。


俺達の戦意に気づいたのか、ブラッディヴァインも二本の赤いつるをゆっくりと持ち上げる。


「グリー、作戦は?」

「作戦なんて呼べる程のものじゃないけど、つるを斬って斬って斬りまくって!

 相手も生物なんだ、再生には限界があるし、何よりブラッディヴァインは、体のエネルギーが不足すると赤い葉がもろくなる!」

「要は持久戦か!!」


俺達がやられるのが先か!

こいつがエネルギー切れを起こすのが先か!



一直線にブラッディヴァインに向かって走ると、向こうも赤いつるを振り上げる。


二本の赤いつるが振り下ろされるのと同時に右に跳び、床を砕き先端が埋まっているつるを斬りつける!


「ギシャアアアアァァァ!!」

「っ!!」


悪寒を感じて体を伏せると、俺のすぐ上を赤いつるが通っていき、今俺が斬りつけたつるに直撃する。


「大気より火の集いを呼ぶ……燃えろ フレイア!!」


メリスから燃え上がる炎が掃射され、重なった三本のつるを包み込む。


「ギュララララララ!!!」

「こっちだ!!」


残った二本のつるがメリスに向かうのを見て、俺は核を包んでいる赤い葉に剣を向ける。


 ガギィィィン!!


ちっ!!やっぱり斬れねぇ!!

ドラゴンの鱗と同じで、傷をつけるのが精一杯か!


でも注意を引き付けることはできたみたいだ。

三本の赤いつるがこっちに……。


………三本?


「うおおぉっ!?」


まとめて上から降ってきた三本のつるを、跳び退いてぎりぎりかわす。もう再生したのかよ!?


「メリス!大丈……」

「フレイア!!」


俺に意識がいってたせいか動きを止めていた二本のつるを、メリスが炎でまとめて焼き払う。


「ハディくん後ろ!!」

「っわ!!」


後ろから飛んできた赤いつるを身をひるがえしてかわし、敵から間合いを取る。


危ねぇかすった!!


「ギリュルルルルルル………」


ブラッディヴァインは黒焦げになった二本をゆっくりと持ち上げる。

次の瞬間、その二本は肉塊のようなものでふくらみ、あっという間に再生する。


「ギシャアアアァァ!!」


叫び(?)と共に振り下ろされるつるを右に跳んでかわす。


速いし、威力はとんでもないけど、戦法がワンパターンだ!!


これなら簡単にかわせ……


「ハディ伏せて!!」


剣を振り上げようとした瞬間、メリスの声が聞こえ、とっさに前のめりに倒れ込む。


 バチィィィイイン!!


直後、俺の頭のすぐ上で二つのつるがぶつかりあい、空気が弾ける。


ゾッとしながらも床に手をつき、すぐに跳び退いて間合いを取る。


 ドドドオォン!!


三発の銃声が響き、床にめりこんでいるつるに、一直線に並んだ穴が空く。


「ハディくん!」

「おう!!」


剣を振り上げ、その穴をなぞるように切り裂く。

これなら切断できる!


「ギリュルルルル!!」


切断されたつるが持ち上げられ、断面から肉塊のようなものが伸びていく。

そして、完全に再生されてしまった。


「……本当に限界あるんだよな?」

「そのはずだよ……ただ、ここの水のカズラを食べ尽くしてるから……」

「腹いっぱい=エネルギー満タンってことか……」

「さらにいうと、床に張ってる水、これ栄養が含まれてるでしょ」

「……まさか、そこから補給するとか?」

「そのまさかだよ。

 ただ、補給はそんなに早くはないと思う。補給するより早く減らすしかないね」

「俺達にとっては動きにくいだけだし……環境は最悪だな」


でも、時間を置くと相手が栄養を補給するなら……。


「なぁグリー、いっそのこと全力で攻撃しまくった方がいいんじゃ?」

「……その場合、賭けだね。

 それで倒せなかったらかなりマズイ状態になるよ。

 具体的にはメリスの魔力とか」


グリーがメリスに目を向けて言う。


メリスは魔力が高い割に、魔力が少ない(・・・)

休憩したおかげでほぼ回復してただろうけど、それでも、もうフレイアを二回使ってる。


「メリス、後どれぐらいいける?」

「……ブレイアムを使ったら、もうほとんど魔力なくなっちゃうと思う。

 フレイアなら後3~4回ぐらい」

「……できればブレイアムで一気に消耗させたいんだけど……」


メリスの魔法がなくなるのはかなり厳しい。

どうしたものか……。


「メリス、ブレイアムを使う分を残したら、どれぐらい使える?炎魔法限定で」


炎魔法限定なのは、ブラッディヴァインは植物、つまり炎が効きやすくて水が効きにくいからだろうな。

幸いつるは宙に浮いてるから床の水も邪魔にならないし、それを使って消火する頃には黒焦げだ。


「フレイアなら一回、フレイなら……なんとか三回、かな」

「そうか、それなら……ハディくん!!」

「っと!!」


突き出されるつるを跳んでかわす。


「作戦会議ぐらい、ゆっくりさせろっての!!」


そのつるを剣で斬りつけ、さらに上から降ってきたつるを跳び退いてかわす。


「それじゃ、頼んだよメリス!」

「うん!任せて兄さん!!」


間合いを取って剣を構えていると、指示を出し終わったらしいグリーが前へと出てくる。


見ると、メリスが『集中』を始めていた。


「グリー、メリスを一人にして大丈夫か?」

「僕達がこいつをしっかり抑えていれば、ね」


そういってグリーは銃を構える。


「抑えるったって……」

「ハディくん、こいつ再生する時は動きが止まるみたいなんだ」

「……なるほど、再生で手一杯にさせて、その間にメリスが魔法の準備をするのか」


でも、そんなに長い準備が必要になるってことは……。


「ブレイアムか?」

「うん、ブレイアムで本体を狙うよ」

「でもさっき本体はブレイアムでも厳しいって……」

「万全の状態だったらね。今はだいぶ消耗してるはずだし、今からも削るんだ。

 最低でも穴ぐらいは空くはずだよ」

「そういうことか……来るぞグリー、前にいて大丈夫かよ?」

「なめないで欲しいね、僕だってD(クラス)冒険者なんだ。

 前衛が本職の君よりは劣るけどね」


赤いつるが持ち上げられるのを見て、軽口を言い合う。

グリーはメリスと同じで後衛にいることが多いけど、身体能力もけっこう高い。


「ハディくん、撃ちまくるけど構わないよね?」

「んなこと構ってる場合じゃないだろ」


振り下ろされる三本のつるを、同時に跳んでかわす。

グリーは着地する前から銃を構え、一気に連射し、一本のつるを分断する。


「……やっぱり分断するとなると、五発は必要だね」

「切り離した方がいいのか?」

「そっちの方が再生量が多くなるから、エネルギーを多く消耗させられるんだよ」


銃弾を装填しながらグリーが言う。

じゃあ、できるだけ切断するようにするか……。


と、つるが横から薙ぐように向かってきた。

やべ、横から来られると横っ跳びじゃかわせねぇ、しゃがむか跳び上がるかでなんとか……!


焦りながらも剣を構えていると、グリーがそのつるに向かって三回撃つ。


「ハディくん!」

「おう!!」


先ほどと同じように三つの穴が空いたつるを、向かってくるタイミングに合わせて切断する。

攻撃は最大の防御ってな!


「ギリュルルルルルル……!!」

「でもすぐに再生するよな……!」


嫌気が差しながらも剣を構えていると、ブラッディヴァインは五本のつるをゆっくりと振りかぶってきた。


……おい、まさか!?


「ギュララララララララァァァァ!!!」


三本のつるが上から振り下ろされ、二本のつるが左右から地を這う軌道で向かってくる!

後ろに跳んで……ダメだ!リーチが長くてよけきれねぇ!!


「ハディくん右を頼むよ!!」


グリーが叫びながら、左から向かってくるつるに銃を連射する。


……やるしかないか!!


「うおおおおおぉぉぉぉ!!」


俺は右から向かってくるつるに突進する。

とりあえず移動しないと上から叩きつぶされるからな!

左はグリーがなんとかしてくれるはずだ、俺は右をなんとかする!!


……切り裂くのは無理だ。

なら、正面から抑えつける!!


 ドスッ!!


まっすぐ構えた剣が、赤いつるに突き刺さった。

重い衝撃が腕にのしかかり、吹き飛ばされそうになりつつも、なんとか耐え切る。


直後、すぐ後ろからコンクリートが砕け散る音が聞こえる。

危ない危ない……!!


刺さっていた剣を引き抜き、空洞目がけて振り下ろす!

一回じゃ無理だけど、二回あれば切断できるな!


「グリー無事か!?」

「当然だよ!」


またも銃の装填をしながらグリーが言う。

グリーの銃、一度に六発までしか装填できないもんな、分断するのに五発は必要って言ってたし、毎回ほぼ全弾使い切ることになる。


「ギリュルルルルル……!!」


本来の長さより短くなった二本のつるが持ち上げられ、ゆっくりと再生していく。


……気のせいか?再生の速度が遅くなってる気が……。


「……大気より炎の集いを呼ぶ……

 ……我は炎を束ねる者なり……!!」


後ろからメリスの『詠唱』が聞こえてきた。

メリスの手に集束した五つの炎が、1mを超える程の炎の塊となる。


「燃え盛れ ブレイアム!!」


メリスが撃ち放った巨大な炎は、凄まじい勢いでブラッディヴァインの本体へ迫る!


 ドッガアアアアアアアアァァァァァァァァン!!!


「よっし!!」


ブレイアムがブラッディヴァインに直撃し、爆発と同時に炎がまき散らされる。

それを見て、俺は勝利を確信した。


あれだけ消耗させてたんだ!絶対無事じゃ済まないはず!!


「………なっ!?」


しかし、目に飛び込んできた光景を見て、俺は驚愕に目を見開く。


ブラッディヴァインの本体は、無事だった。

……なぜなら、五本の赤いつるが本体の盾になっていたから。

そのつるは全て半分ほど吹き飛び、根元近くまで炎に包まれていた。


しかし、赤いつるはまたも再生し始める。


「くそっ!!まだ再生するのか!?」


毒づきながら剣を構える。

文句を言っていても、仕方がない……!!


そのとき、俺は異変に気づいた。

またすぐに全部再生してしまうと思っていたのに、赤いつるは二本しか再生せず、残りは焼け焦げたままだった。


これは……!!


「エネルギー切れ!!」


思わず口元がほころぶ。


そうか!そうだよな!!

いくらなんでも、あれだけ再生していれば、エネルギー切れを起こして当然だ!!

これなら赤い葉も相当もろくなってるはず!!あと少しだ!!






「ハディ!!」

「……え」


我に返ったその瞬間、赤いつるが、目の前まで来ていた……。



 ドッ……!!


「っ………!!」


当然よけるのは間に合わず、ギリギリ剣の柄で受け止める。

とんでもない衝撃に腕が悲鳴を上げる。

危ねぇ、直接くらってたら絶対折れてた……!!


「っあああああああァァァァァ!!!」


大声で叫び、なんとか赤いつるを押し返す。


「フレイア!!」


メリスが最後の魔力を使って、赤いつるを焼き払う。

つるは後一本だけだ!!


「ハディくん、つるは任せて!君は本体を頼む!!」


「おう!!」


痛む腕にむちを打ち、剣をしっかり握りしめて本体へと駆ける。

途中最後のつるが襲いかかってくるが、グリーの射撃により、食い止められる。


「はあああああぁぁぁぁぁ!!」


核を守る赤い葉を切り裂き、その先にある核に目を向ける。


そこにあったのは、1m程の大きさのいびつな黒い球体。

……本当に人の心臓みたいな形だな。


「これで……終わりだ!!」


振りかぶった剣を全力で振り下ろし、核を切り裂く。

魔物特有の黒い血が勢いよくあふれてきて、全身が真っ黒になるが、そんなのどうでもいい。


これで………!


「ギシャアアアアアアアアアアァァァァァァァ…………」


ブラッディヴァインは断末魔の叫びを上げ、つるも、残っていた赤い葉も、水の張る床へと崩れ落ちる。


これで………!!



「終わった……!!」


大きく安どのため息をつき、俺も床へとしゃがみこむのだった……。










サブタイトル解説

孤軍奮闘(こぐんふんとう)

孤立した中でよく戦うこと。

……そのままですね、

たった三人で戦ったハディ達を指してます。


では次回予告です!


「ハディだ!

 いや、なんとかなるもんだな。

 ……マジで死ぬかと思ったけど。

 まぁとにかく、ブラッディヴァインを倒した俺達は

 クアルさんにそのことを報告する。

 ……そういや、何でこんな奴がここにいたんだ?


 次回、冒険者ライフ!第24話『真相究明(しんそうきゅうめい)』!

 何事にも理由はあるもんだよな。

 ……聞いたらがっかりするようなものかも知れないけど」



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