第18話 大食いと別れ
「………う………」
俺が目を覚ますと、そこは酒場の部屋だった……。
って普通だな。
軽い頭痛を感じながらゆっくり起きあがり、周りを見渡す。
「……昨日と同じか」
俺は小さく呟いた。
部屋には今起きた俺と、まだ寝ているメリス、グリーの姿がある。
つまり、レイラの姿がない。
昨日と同じで、外で筋トレでもしてんのか?
俺がそう思っていると、ふと視界の端に時計が見えた。
「……あ~、やっぱ同じじゃないな」
そう言って、ポリポリと頭をかく。
その時、時計の針は12時丁度を指したのだった。
「……やっと起きたのかお前ら」
メリスとグリーを起こして一階に降りると、レイラが呆れた顔で俺達を迎えた。
「悪い、めちゃくちゃ寝坊した……」
「……頭痛い……」
「………」
「……いつもの元気はどうしたお前ら」
見事に二日酔いになった俺達を見て、レイラはさらに呆れたようだ。
「ったく、成人してるくせに情けねーな!」
「……私成人してない」
「俺よりは成人に近いだろーが」
そりゃ13歳に比べたらな……。
「ってかレイラ、お前何でそんなに元気なんだよ……」
俺は二人も思っているであろう疑問を口にする。
こいつ一番年下なのに……。
「昨日言っただろ、飲み慣れてるってよ」
「……お酒に耐性がついてるの?」
「それもなくはねーけどな。
どれぐらい飲んだら明日やばいか、とか体が覚えてんだ」
「どんだけ飲み慣れてるんだお前……」
感心するべきか呆れるべきか迷う。
「……おい、グリー大丈夫か?」
「………」
やばい、さっきからグリーが一言もしゃべってない。
こいつ昨日飲み比べで泥酔状態になってたもんな……。
「兄さん、大丈夫……?」
「だ、大丈夫だよメリス……」
おぉ、メリスの呼びかけには答えるか。流石だグリー。
「メ、メリスの膝枕で休めば、すぐに良くなるんだけど……」
「どさくさに紛れて何言ってんだグリー!?」
「うん、分かった~」
「メリス!!お前もやろうとするな!!」
こいつらまだ酔ってやがる!!
つーか、大声出したせいで頭痛がひどくなったんだけど!?
「やっぱお前らおもしれーな!」
「見てる方はいいだろうけどな!
やってる方は疲れるんだっての!!」
レイラの方が元気なんだから代わりにツッコんでくれ……!!
「ね~、そんなことよりお腹すいたー」
「イスでも食っとけ!!」
そんなことってなんだこの野郎!!
俺がどれだけ苦労してると……
「……待てメリス!!本当に食べようとするな!!」
イスの脚を持って口に運ぼうとするメリスを慌てて止める。
やばい!こいつ目が本気だった!!
「おいおやじ!!なんか料理持ってきてくれ!!このままじゃメリスが無機物を食べ始める!!」
「おー、ついに人の域を超えるか」
「それはとっくに超えてるけどな!!」
レイラだってメリスの胃袋のデカさは知ってるだろ!!
「構わないが……、足りるのか?」
酒場のおやじが渋い顔をする。
……確かに、昨日帰ってから十時間近く空いてるからな。
今の様子から見ても、メリスの胃袋はおそらく空。
下手すりゃ酒場の冷蔵庫が空になる!
「言っておくが、料金はちゃんと払ってもらうぞ?」
うわ、酒場のおやじ容赦ねぇ!!
依頼金総額5万Gはもうもらったけど、こんなことで一気に使うのは嫌だ!!
「……じゃあよ」
レイラが何かを思いついたようだ。
「外に行こうぜ」
「……外?」
「あるだろ。そこそこお値打ちで量がとんでもねー店がよ」
レイラはそう言って、ニッと笑みを浮かべた。
「いらっしゃーーーーーーい!!!!」
店に入ると、前と同じ……いや、それ以上の大声が響き渡った。
……そう、俺達が来たのはおとといの昼食に来た、あの小さなラーメン屋だ。
「こんにちはー!また来ました!!」
「おう!!お嬢ちゃんよく来たな!!!」
身長2m程ある店長が、メリスを見てうれしそうな顔をする。
……ってか、何かメリスが元気になってるな。そんなに好きか、食べるのが。
「好きな席で待っててくれ!!今お嬢ちゃん用の特別最強ラーメンを作るからな!!!」
「うん!!!」
店長の大声に張り合い、声を張り上げるメリス。
……特別最強ラーメンか、そういやそんなこと言ってたな……。
「後のは並盛ラーメンでいいか!!?」
「おう!」
「あ~、俺とグリーはミニサイズでお願いします」
正直この店の『並盛』は食べ切れる気がしない……!
「おう!!それじゃあ20分待ってな!!!」
店長はとても良い笑顔でそう言うと、奥へと入っていった。
……なんだろう、とっても不吉な予感がする……!!
「ほらハディ!早く座ろう!」
メリスに背中を押されて、俺は店の中に入る。
……と、カウンターに見知った三人を見つけた。
「……あら、あなた達!」
「………」
「はっはー!奇遇だなー、青年!」
そう、ランディアさん、シルムさん、エンジさん。
『ソレイユ』の三人だ!
「わーイアさん!!」
「メリスさん、こんにちは」
目を輝かせて隣に座るメリスに、ランディアさんはにっこり笑いかける。
「……すみません、勝手に」
「………構わんがな」
「え?」
シルムさんは俺達に目を向けることなくそう言うと、またラーメンをすすり始めた。
……まぁ、いいんだよな?
メリスが座った方にはもう席がなかったので、俺達はエンジさんの隣から座った。
「はっはー!よく会うなー青年!」
「はい」
「運命かもなー?」
「すみません、俺にはそっちの趣味はないです!」
「はっはー!冗談だ!俺にはもう愛する奥さんがいるしなー!」
エンジさんはそう言って、左手を見せる。
その手の薬指には、白く輝くプラチナの指輪がはめられていた。
……既婚者なのか、この人。
まぁ、結婚しててもおかしくない年だと思うけど。
「どうした青年?……そうか!俺と奥さんの馴れ初めが聞きたいのかー!」
「いや、そんなこと言ってま……」
「あれは十年前のことだったなー。
俺が新米兵士として赴いた土地で……」
ダメだ全く聞いてない!!
っていうか昨日といい、この人話をするのが好きなのか!?
助けを求めようと周りを見ると、ランディアさんとメリスは会話に花を咲かせていて、シルムさんは無視、グリーは机に突っ伏していて、レイラは任せた!とサインを送ってきた。
こうしてラーメンが運ばれて来るまでの間、俺はエンジさんのノロケ話を聞いていたのだった……。
「お待たせぇ!!!」
20分後、店長がミニラーメン(普通の店の並盛ぐらいの量)二つと、並盛ラーメン(普通の店の大盛りぐらいの量)を一つ持ってきた。
た、助かった!正直これ以上ノロケ話は聞きたくねぇ!!
「それでなー、その時俺は言ったんだ。
『俺の女に手を出すなー!!』ってなー」
ダメだ!!この人話をやめる気ねぇ!!!
「エ、エンジさん?早く食べないとラーメン伸びちゃいますよ?」
「おー、本当だなー。
青年のラーメンも来たみたいだし、これぐらいにしとくかー」
エンジさんはそう言うと、ラーメンを食べ始める。
た、助かった……。
良かった、一応良識が少しはある人で……。
「おーい兄ちゃん!!大丈夫かー!?」
と、店長が机に突っ伏しているグリーに声をかける。
……常人の怒鳴り声ぐらいの大きさで。
「う……」
流石にグリーも起きたみたいだ……ってか、起こされたって感じだよな……。
「グリー、大丈夫か?」
「あぁ……うん。少しは楽になったよ」
確かにグリーの顔色は、起きた時に比べればだいぶ良くなっていた。
「料理来たけど、食えんのか?」
「………まぁ、これぐらいの量なら……」
グリーは目の前に置かれたラーメンを見て、少し顔を引きつらせる。
……そもそもあんまり食べないもんな、グリー。
「そういうレイラは大丈夫か?その量……」
「あ~、お前らと違って二日酔いもねーからな」
レイラはそう言うと、いただきます、と言って並盛ラーメン(この店の基準で)を豪快に食べ始める。
「ほれ、兄ちゃん!!」
「あ、どうも」
俺にもミニラーメン(この店の基準で)が運ばれてきた。
……まだ少し頭痛がするけど、この量なら食べ切れるな。
俺が箸を割ろうとした、その時。
「そして!!これがお嬢ちゃん用の特別最強ラーメンだ!!!」
ドゴォン!!!
……待て、何だ今の音?
俺はそれが置かれたであろうメリスの方を見て………硬直した。
そこにあったのは、金属だった。
円筒形の胴体と、それを上から押さえるふた、そして胴体の上の方には運びやすいように取っ手がついていて、ふたも外しやすいように、中央に同じ物がついている。
……世間一般では、それをこう呼ぶ。
「………鍋!!?」
そう、メリスの目の前に置かれているのは、文句のつけようがない程立派な鍋だ。
もちろん大きさも立派だ!!つーか、ついに器に盛るのをやめやがった!!!
「……え~と……」
「………」
「はっはー!……何の冗談だー?」
『ソレイユ』の三人ですらまさかの鍋に驚きを隠せていない!!
この人達をここまで驚かせるなんて、この店長……できる!!
なんて冗談言ってる場合じゃねぇ!!
「ふっ……俺が丹精込めて作った一品だ!!いっちまってくれお嬢ちゃん!!!」
「いや!!器からして一人が食べる量じゃねぇだろ!!!そんなもん無理矢理食べたら冗談抜きに逝くぞ!?」
食べすぎて死ぬなんて聞いたことないけど、これを一人が食べたらそんな奇跡が起こる気がする!!
「………お」
と、それを見て呆然としていたメリスが、何かを呟いた。
「おいしそうーーーーー!!!」
「お前には危機感ってものがねぇのか!!?」
問題なのは味じゃねぇ!!量だ量!!
「それじゃあお嬢ちゃん!!勝負を受けてもらおうか!!!」
………勝負?
「時間無制限!!お嬢ちゃんがこれを食べ切れたらお嬢ちゃんの勝ち!!!残しちまったら俺の勝ちだ!!!」
バン!と具がはみ出してしまりきってないふたを叩く店長。
「と言っても!!俺が勝ってもお嬢ちゃんにペナルティはないがな!!
お嬢ちゃんが勝ったら、この店の無期限無料券を進呈しよう!!!」
「ほ、本当!!?」
顔を輝かせるメリス。
……いや待て。
「メリス、俺達いつまでもこの町にいるわけじゃないぞ?」
「……あ、そっかー……」
それを聞き、メリスはがっくり肩を落とす。
いくら無期限無料でも、この店でしか使えないんじゃ持っててもあんまり意味ないからな……。
「そうか!!お前らこの町の奴じゃないのか!!!」
「は、はい!!!」
「……ならば!!これをやろう!!!」
ビッ!と店長は自分の後ろを指さす。
そこにあったのは、大きなダンボールいっぱいのお菓子だった。
「……お菓子!!!」
メリスがうれしそうな声を上げる。
「俺の息子は菓子職人でな!!!
たまに作った菓子を送ってくるんだが……俺は甘い物が苦手で残しちまう!!!
残り物で悪いが、お嬢ちゃんには良い賞品だと思ったんだ!!!」
「うん!!!すっごくうれしい!!」
メリスは顔をキラキラ輝かせる。
……ってか、店長の息子菓子職人なのか、この大男の息子が……。
……血筋って分からないな……。
「……あ、あのメリスさん?」
「はい!なんですかイアさん?」
「……それ、食べ切れるのですか?」
ランディアさんは苦笑いを浮かべて、メリスの前に置かれた鍋を見る。
……まぁ、当然の疑問だよな。
ってか今気づいたけど、ランディアさんの器、大盛り用なような……。
……この人見かけによらず結構食べるのか?
「………イアさん」
「はい?」
メリスはランディアさんに真剣な眼差しを向け、こう言った。
「何事も挑戦です!!!!」
「無謀すぎるだろ!!!」
食える自信ねぇのかよ!?
そんなんでよく食べる気になったな!!!
「……が、がんばって下さい!」
ランディアさんは苦笑いを浮かべたまま、拳を握り、ガッツポーズを見せる。
「それじゃ!!時間無制限だが一応計るぜ!!!」
店長はストップウォッチ、そしてメリスは箸を構える………!!
「よぉい………ドオォン!!!!」
ドラゴンの咆哮並みの大声と共に、勝負が始まった……!!
……俺は、いや俺を含めた全員は、その光景を、唖然と見ていた。
……え?勝敗はどうなったのかって?
野暮なことを聞くんじゃねぇよ。
……強いて言うなら、俺達は、『人が人を超える所を見た』……それだけだ。
~サイドアウト~
「……すっげーなメリス……」
レイラはその光景を見て、思わず呟いた。
他の全員も唖然としている。
……と、その時。
「……小娘、一ついいか?」
レイラが声の方を向くと、誰もいなかった席に、いつの間にかロギが座っていた。
「なんだ?」
レイラは心なしか上機嫌で対応する。
……もちろん理由は、『坊主』や『小僧』ではなく、『小娘』と呼ばれたことだが。
「お前が戦う時に纏っていた、あの白いオーラ。……あれはどこで身につけた?」
「どこって……ウチの道場で、親父から教わったものだぜ?」
レイラは質問の意図が分からず、内心首を傾げつつ、答える。
「……そうか、やはりな」
ロギはそれを聞き、小さく呟く。
「……お前、『拳魔一同流』の跡取りか」
「……ウチの道場を知ってんのか?」
レイラは少し驚きつつ、ロギに問う。
「俺は知らないが……隊長から聞いたことがある」
「隊長?」
「……スイーツ王国騎士部隊隊長だ」
「!!」
レイラは驚き目を見開いた。
「……そういや、親父がそんなこと言ってたな……」
「………話はそれだけだ」
ロギはそういうと、ゆっくりと自分の席へ戻ろうとする。
が、レイラを通過する所で、一旦止まる。
「……その緑色の瞳。お前も、『あの体質』を受け継いでいるのか」
「……悪いかよ?」
「……いや、同情をする気もない。『それ』が役に立つこともあるだろうからな」
「へっ」
短い会話を終え、ロギは自分の席へと戻る。
「………」
レイラは誰にもばれないよう、小さくため息をついた。
「……別に、『精霊』に嫌われたって、死ぬわけじゃねーんだからな」
狭い店内だったが、ロギ以外はメリスに気を取られていたため、その呟きが耳に入った者はいなかった。
~ハディサイド~
『ごちそう様でしたー!!』
「おう!!また来てくんな!!!」
俺達は勘定を終え、外へと出た。
……にしても、本当にすごかったなメリス。
正直夢だったんじゃないかと思えて仕方がない……!!
しかし、メリスが持っているダンボールいっぱいのお菓子が、俺を現実に引き戻した。
「ハディ!ぼーっとしてないで手伝ってよ!!」
「あ、あぁ、悪い」
俺はそう言って、店長がくれた大きな袋にダンボールの中のお菓子を半分ほどつめる。
「そーいや、あんたら兵士なのにいつまでもこの町にいていいのか?」
レイラが『ソレイユ』の三人に質問をする。
「あ、いえ、明日からはまた仕事がありますので、今日の夕刻にはこの町を発ちます」
「えぇ!?」
ランディアさんが行ってしまうと聞いて、メリスはショックを受けたみたいだ。
「そ、そんなぁ………」
「仕方ないよメリス、仕事なんだから」
そんなメリスをグリーがなだめる。
「……でも、夕刻に出て明日の仕事に間に合うんですか?」
俺は疑問に思ったことを聞いてみた。
ここから首都までって、歩いたら一週間以上かかるって聞いたけど……。
「大丈夫ですよ、空間転移を使いますから」
あ、なるほど、それなら一瞬だもんな。
「……あれ?空間転移ってそんな長距離できるんですか?」
「この町の物は可能みたいです。魔力は私が補給しますし」
グリーの疑問に、またもランディアさんが答える。
魔力を補給するってことは、魔法じゃなくて、魔導装置か何かを使うのか?
一応説明すると、空間転移ってのは離れた場所へ一瞬で移動する時空魔法の一種だ。
当然応用魔法だけど、その中でもかなり難しくて、基礎魔法レベル4ぐらい難しいって言われてる。
それと同じことができる魔導装置があって、むしろこっちの方が一般的だな。
……ただし、それは個人で買えるような代物じゃないし、大きすぎて持ち運べないらしいけど。
「今日の午後5時に発つ予定だからなー!良かったら見送りに来てくれなー!」
「あ、はい!」
「絶対行きます!!」
「ありがとうございます。それでは、また!」
『ソレイユ』の三人は、俺達から離れ、町を歩き始めた。
「………ここでいいんだよな?」
午後五時、俺達は広場に来ていた。
そう、昨日出発前に冒険者達が集まった広場だ。
「……魔導装置っぽい物なんてないけどな……」
俺はきょろきょろと周りを見るが、それらしいものは見当たらない。
……代わりに、『ソレイユ』を見送りに来たであろう、たくさんの冒険者と町の人達が目に入った。
その人達は丁度店が並んでる前にいて、広場を取り囲んでいた。
俺達もそれにならって広場の周りに座る。
たぶん、中央に『ソレイユ』が来るんだろうな。
「……やっぱり、みんな来てるな」
「そりゃそうだよ!!」
「今回の依頼は、『ソレイユ』の力なしじゃ絶対成功しなかったからね」
グリーの言う通りだ。
『ソレイユ』がいなかったら、犠牲者0どころか、下手すりゃ全滅してた。
ランディアさん達だけじゃない。
この町の『防衛』についた五人と、ビスケット町の『防衛』についた三人。
その人達がいたから、気兼ねなく『殲滅』に取り組めたんだ。
「……あ、来たよ!!」
メリスの声が聞こえ、それとほぼ同時に広場が歓声に包まれた。
『英雄達のお出ましだぁ!!!』
『精鋭部隊ソレイユ万歳!!!』
『あんたたちのおかげで生き残れたぞ!!!』
『感謝しても感謝しきれねぇ!!!』
『本当にありがとう!!!』
ランディアさんを含めた11人の『ソレイユ』に、冒険者と町の人が感謝の声を上げる。
『ソレイユ』はそれを聞いて、誇らしげな様子だったり、照れていたりした。
……なんか、シルムさんも少し照れてるように見える、ような……?
「皆さん!!」
と、先頭にいたランディアさんの声が聞こえ、歓声が一旦止む。
「私達『ソレイユ』の見送りに出向いて下さり、ありがとうございます!!」
ランディアさんは頭を下げるのではなく、人々の顔を見回し、本当にうれしそうな笑顔でそう言った。
……なんか、若い男冒険者が数人顔を赤くしてるような。
「私達から、皆さんに伝えたいことがあります!」
……伝えたいこと?
疑問に思ったが、口には出さずにおいた。
他の人も同じみたいだ。
ざわめきは起こらず、全員がランディアさんの次の言葉を待っていた。
「まず、チョコレート町在住の皆さん!
今回の危機は去りました!そのことについてはご安心下さい!!
そして、もしまたこのようなことが起こったとしても、スイーツ王国軍が総力を以て、皆さんをお守りいたします!!」
ランディアさんの力強い言葉に、町の住人達から歓声が上がる!
「そして、冒険者の皆さん!
今回は皆さんのお力により、誰一人の犠牲もなく、この町を守ることができました!!本当に、ありがとうございました!!」
「感謝するのはこっちの方なのにな」
レイラがそんなことを呟く。
でもその顔は、まんざらでもない、といった感じだ。
「これから先も、皆さんのお力を借りることがあると思います。
その時は、どうかお力添えをお願いします!!」
『もちろんだーーー!!!』
『あんたらのためなら何でもするぜーーー!!!』
『イアさーーーーーーーん!!!』
……最後のはメリスだな。
気持ちは分かるけど、名前呼ぶだけってお前……。
歓声が治まると、チョコレート町の町長が、ランディアさんに感謝の花束を渡した。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ!この町を守って下さり、本当にありがとう!!!」
町長とランディアさんは堅く握手をし、町長は下がった。
……なんか若い男冒険者が数人、村長に妬みの視線を送っているような……。
「中将、お願いします」
「はい!」
と、シルムさんが広場の中央に行き、そこにあったくぼみに手をかけ、引き上げた。
その穴の中には、直径30cm程の紫色の丸い玉があった。
「あれは……?」
「……魔宝玉だね。
魔力を蓄える性質のある宝石の一種だよ」
ランディアさんがそれを持ち、『集中』を始める。
『集中』によって集まった茶色い光は、その魔宝玉に吸い込まれていく。
そして、魔宝玉は紫色に発光し始めた。
「はい、これで十分だと思います」
「ありがとうございます」
シルムさんはそれを受け取り、穴の中に入れ、ふたを戻す。
「マウロさん!お願いします!」
「了解!!」
酒場のおやじは広場にある一番大きな女神像のそばにいた。
おやじは像の背中にあるレバーを降ろす、と。
広場の中心から半径五m程の地面が淡い紫色に輝き、そこに淡い虹色の魔法陣が浮かび上がる。
さらに、紫色の光は地面の浅いくぼみに合わせて、広場全体へと広がる。
それもまた、複雑な魔法陣を描いていた。
「これは……!?」
「……そうか」
驚く俺達を尻目に、グリーが呟く。
「……この広場全体が、魔導装置なんだ」
淡い虹色の魔法陣から白い光が立ち上り、『ソレイユ』11人を包み込む。
「それでは皆さん!
……またいつか、お会いできる日を楽しみにしています!!」
ランディアさんの声が聞こえたその直後、白い光が消え、同時に『ソレイユ』の姿もその場から消えていた。
「……行っちゃったね……」
「……あぁ……」
メリスの呟きに、俺も呟くように答える。
『ソレイユ』の見送りはもう終わった、が。
冒険者も町の人も、しばらくの間広場に留まっていた。
そして、『ソレイユ』が、自分たちの恩人がさっきまでいた場所を、誇らしげに見つめているのだった………。
なんか思ってた以上に長くなりました!
二話じゃなくて三話に分けた方が良かった気がしてきた……。
まぁなんとか書きたい所までは行けたので、
予定通り次回で第二章は終了できると思います!
ちなみに、レイラの『体質』については
『冒険者ライフ!』ではあんまり掘り下げない予定です。