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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第二章 魔塔と竜
24/71

第18話 大食いと別れ



「………う………」


俺が目を覚ますと、そこは酒場の部屋だった……。


って普通だな。


軽い頭痛を感じながらゆっくり起きあがり、周りを見渡す。


「……昨日と同じか」


俺は小さく呟いた。


部屋には今起きた俺と、まだ寝ているメリス、グリーの姿がある。


つまり、レイラの姿がない。

昨日と同じで、外で筋トレでもしてんのか?


俺がそう思っていると、ふと視界の端に時計が見えた。


「……あ~、やっぱ同じじゃないな」


そう言って、ポリポリと頭をかく。


その時、時計の針は12時丁度を指したのだった。









「……やっと起きたのかお前ら」


メリスとグリーを起こして一階に降りると、レイラが呆れた顔で俺達を迎えた。


「悪い、めちゃくちゃ寝坊した……」

「……頭痛い……」

「………」

「……いつもの元気はどうしたお前ら」


見事に二日酔いになった俺達を見て、レイラはさらに呆れたようだ。


「ったく、成人してるくせに情けねーな!」

「……私成人してない」

「俺よりは成人に近いだろーが」


そりゃ13歳に比べたらな……。


「ってかレイラ、お前何でそんなに元気なんだよ……」


俺は二人も思っているであろう疑問を口にする。

こいつ一番年下なのに……。


「昨日言っただろ、飲み慣れてるってよ」

「……お酒に耐性がついてるの?」

「それもなくはねーけどな。

 どれぐらい飲んだら明日やばいか、とか体が覚えてんだ」

「どんだけ飲み慣れてるんだお前……」


感心するべきか呆れるべきか迷う。



「……おい、グリー大丈夫か?」

「………」


やばい、さっきからグリーが一言もしゃべってない。

こいつ昨日飲み比べで泥酔状態になってたもんな……。


「兄さん、大丈夫……?」

「だ、大丈夫だよメリス……」


おぉ、メリスの呼びかけには答えるか。流石だグリー。


「メ、メリスの膝枕で休めば、すぐに良くなるんだけど……」

「どさくさに紛れて何言ってんだグリー!?」

「うん、分かった~」

「メリス!!お前もやろうとするな!!」


こいつらまだ酔ってやがる!!

つーか、大声出したせいで頭痛がひどくなったんだけど!?


「やっぱお前らおもしれーな!」

「見てる方はいいだろうけどな!

 やってる方は疲れるんだっての!!」


レイラの方が元気なんだから代わりにツッコんでくれ……!!


「ね~、そんなことよりお腹すいたー」

「イスでも食っとけ!!」


そんなことってなんだこの野郎!!

俺がどれだけ苦労してると……


「……待てメリス!!本当に食べようとするな!!」


イスの脚を持って口に運ぼうとするメリスを慌てて止める。


やばい!こいつ目が本気だった!!


「おいおやじ!!なんか料理持ってきてくれ!!このままじゃメリスが無機物を食べ始める!!」

「おー、ついに人の域を超えるか」

「それはとっくに超えてるけどな!!」


レイラだってメリスの胃袋のデカさは知ってるだろ!!


「構わないが……、足りるのか?」


酒場のおやじが渋い顔をする。


……確かに、昨日帰ってから十時間近く空いてるからな。

今の様子から見ても、メリスの胃袋はおそらく空。

下手すりゃ酒場の冷蔵庫が空になる!


「言っておくが、料金はちゃんと払ってもらうぞ?」


うわ、酒場のおやじ容赦ねぇ!!

依頼金総額5万(ゴールド)はもうもらったけど、こんなことで一気に使うのは嫌だ!!


「……じゃあよ」


レイラが何かを思いついたようだ。


「外に行こうぜ」

「……外?」

「あるだろ。そこそこお値打ちで量がとんでもねー店がよ」


レイラはそう言って、ニッと笑みを浮かべた。











「いらっしゃーーーーーーい!!!!」


店に入ると、前と同じ……いや、それ以上の大声が響き渡った。

……そう、俺達が来たのはおとといの昼食に来た、あの小さなラーメン屋だ。


「こんにちはー!また来ました!!」

「おう!!お嬢ちゃんよく来たな!!!」


身長2m程ある店長が、メリスを見てうれしそうな顔をする。

……ってか、何かメリスが元気になってるな。そんなに好きか、食べるのが。


「好きな席で待っててくれ!!今お嬢ちゃん用の特別最強ラーメンを作るからな!!!」

「うん!!!」


店長の大声に張り合い、声を張り上げるメリス。


……特別最強ラーメンか、そういやそんなこと言ってたな……。


「後のは並盛ラーメンでいいか!!?」

「おう!」

「あ~、俺とグリーはミニサイズでお願いします」


正直この店の『並盛』は食べ切れる気がしない……!


「おう!!それじゃあ20分待ってな!!!」



店長はとても良い笑顔でそう言うと、奥へと入っていった。


……なんだろう、とっても不吉な予感がする……!!


「ほらハディ!早く座ろう!」


メリスに背中を押されて、俺は店の中に入る。


……と、カウンターに見知った三人を見つけた。


「……あら、あなた達!」

「………」

「はっはー!奇遇だなー、青年!」


そう、ランディアさん、シルムさん、エンジさん。

『ソレイユ』の三人だ!


「わーイアさん!!」

「メリスさん、こんにちは」


目を輝かせて隣に座るメリスに、ランディアさんはにっこり笑いかける。


「……すみません、勝手に」

「………構わんがな」

「え?」


シルムさんは俺達に目を向けることなくそう言うと、またラーメンをすすり始めた。


……まぁ、いいんだよな?


メリスが座った方にはもう席がなかったので、俺達はエンジさんの隣から座った。


「はっはー!よく会うなー青年!」

「はい」

「運命かもなー?」

「すみません、俺にはそっちの趣味はないです!」

「はっはー!冗談だ!俺にはもう愛する奥さんがいるしなー!」


エンジさんはそう言って、左手を見せる。

その手の薬指には、白く輝くプラチナの指輪がはめられていた。


……既婚者なのか、この人。

まぁ、結婚しててもおかしくない年だと思うけど。


「どうした青年?……そうか!俺と奥さんの馴れ初めが聞きたいのかー!」

「いや、そんなこと言ってま……」

「あれは十年前のことだったなー。

 俺が新米兵士として赴いた土地で……」


ダメだ全く聞いてない!!

っていうか昨日といい、この人話をするのが好きなのか!?


助けを求めようと周りを見ると、ランディアさんとメリスは会話に花を咲かせていて、シルムさんは無視、グリーは机に突っ伏していて、レイラは任せた!とサインを送ってきた。



こうしてラーメンが運ばれて来るまでの間、俺はエンジさんのノロケ話を聞いていたのだった……。






「お待たせぇ!!!」


20分後、店長がミニラーメン(普通の店の並盛ぐらいの量)二つと、並盛ラーメン(普通の店の大盛りぐらいの量)を一つ持ってきた。


た、助かった!正直これ以上ノロケ話は聞きたくねぇ!!


「それでなー、その時俺は言ったんだ。

 『俺の女に手を出すなー!!』ってなー」


ダメだ!!この人話をやめる気ねぇ!!!


「エ、エンジさん?早く食べないとラーメン伸びちゃいますよ?」

「おー、本当だなー。

 青年のラーメンも来たみたいだし、これぐらいにしとくかー」


エンジさんはそう言うと、ラーメンを食べ始める。


た、助かった……。

良かった、一応良識が少しはある人で……。


「おーい兄ちゃん!!大丈夫かー!?」


と、店長が机に突っ伏しているグリーに声をかける。

……常人の怒鳴り声ぐらいの大きさで。


「う……」


流石にグリーも起きたみたいだ……ってか、起こされたって感じだよな……。


「グリー、大丈夫か?」

「あぁ……うん。少しは楽になったよ」


確かにグリーの顔色は、起きた時に比べればだいぶ良くなっていた。


「料理来たけど、食えんのか?」

「………まぁ、これぐらいの量なら……」


グリーは目の前に置かれたラーメンを見て、少し顔を引きつらせる。


……そもそもあんまり食べないもんな、グリー。


「そういうレイラは大丈夫か?その量……」

「あ~、お前らと違って二日酔いもねーからな」


レイラはそう言うと、いただきます、と言って並盛ラーメン(この店の基準で)を豪快に食べ始める。


「ほれ、兄ちゃん!!」

「あ、どうも」


俺にもミニラーメン(この店の基準で)が運ばれてきた。


……まだ少し頭痛がするけど、この量なら食べ切れるな。


俺が箸を割ろうとした、その時。



「そして!!これがお嬢ちゃん用の特別最強ラーメンだ!!!」



 ドゴォン!!!



……待て、何だ今の音?


俺はそれが置かれたであろうメリスの方を見て………硬直した。



そこにあったのは、金属だった。

円筒形の胴体と、それを上から押さえるふた、そして胴体の上の方には運びやすいように取っ手がついていて、ふたも外しやすいように、中央に同じ物がついている。


……世間一般では、それをこう呼ぶ。




「………鍋!!?」


そう、メリスの目の前に置かれているのは、文句のつけようがない程立派な鍋だ。

もちろん大きさも立派だ!!つーか、ついに器に盛るのをやめやがった!!!


「……え~と……」

「………」

「はっはー!……何の冗談だー?」


『ソレイユ』の三人ですらまさかの鍋に驚きを隠せていない!!

この人達をここまで驚かせるなんて、この店長……できる!!


なんて冗談言ってる場合じゃねぇ!!


「ふっ……俺が丹精込めて作った一品だ!!いっちまってくれお嬢ちゃん!!!」

「いや!!器からして一人が食べる量じゃねぇだろ!!!そんなもん無理矢理食べたら冗談抜きに逝くぞ!?」


食べすぎて死ぬなんて聞いたことないけど、これを一人が食べたらそんな奇跡が起こる気がする!!


「………お」


と、それを見て呆然としていたメリスが、何かを呟いた。



「おいしそうーーーーー!!!」

「お前には危機感ってものがねぇのか!!?」


問題なのは味じゃねぇ!!量だ量!!


「それじゃあお嬢ちゃん!!勝負を受けてもらおうか!!!」


………勝負?


「時間無制限!!お嬢ちゃんがこれを食べ切れたらお嬢ちゃんの勝ち!!!残しちまったら俺の勝ちだ!!!」


バン!と具がはみ出してしまりきってないふたを叩く店長。


「と言っても!!俺が勝ってもお嬢ちゃんにペナルティはないがな!!

 お嬢ちゃんが勝ったら、この店の無期限無料券を進呈しよう!!!」

「ほ、本当!!?」


顔を輝かせるメリス。


……いや待て。


「メリス、俺達いつまでもこの町にいるわけじゃないぞ?」

「……あ、そっかー……」


それを聞き、メリスはがっくり肩を落とす。


いくら無期限無料でも、この店でしか使えないんじゃ持っててもあんまり意味ないからな……。


「そうか!!お前らこの町の奴じゃないのか!!!」

「は、はい!!!」

「……ならば!!これをやろう!!!」


ビッ!と店長は自分の後ろを指さす。

そこにあったのは、大きなダンボールいっぱいのお菓子だった。


「……お菓子!!!」


メリスがうれしそうな声を上げる。


「俺の息子は菓子職人でな!!!

 たまに作った菓子を送ってくるんだが……俺は甘い物が苦手で残しちまう!!!

 残り物で悪いが、お嬢ちゃんには良い賞品だと思ったんだ!!!」

「うん!!!すっごくうれしい!!」


メリスは顔をキラキラ輝かせる。


……ってか、店長の息子菓子職人なのか、この大男の息子が……。

……血筋って分からないな……。


「……あ、あのメリスさん?」

「はい!なんですかイアさん?」

「……それ、食べ切れるのですか?」


ランディアさんは苦笑いを浮かべて、メリスの前に置かれた鍋を見る。


……まぁ、当然の疑問だよな。

ってか今気づいたけど、ランディアさんの器、大盛り用なような……。

……この人見かけによらず結構食べるのか?


「………イアさん」

「はい?」


メリスはランディアさんに真剣な眼差しを向け、こう言った。




「何事も挑戦です!!!!」

「無謀すぎるだろ!!!」


食える自信ねぇのかよ!?

そんなんでよく食べる気になったな!!!


「……が、がんばって下さい!」


ランディアさんは苦笑いを浮かべたまま、拳を握り、ガッツポーズを見せる。


「それじゃ!!時間無制限だが一応計るぜ!!!」


店長はストップウォッチ、そしてメリスは箸を構える………!!


「よぉい………ドオォン!!!!」



ドラゴンの咆哮並みの大声と共に、勝負が始まった……!!



……俺は、いや俺を含めた全員は、その光景を、唖然と見ていた。


……え?勝敗はどうなったのかって?

野暮なことを聞くんじゃねぇよ。

……強いて言うなら、俺達は、『人が人を超える所を見た』……それだけだ。






~サイドアウト~




「……すっげーなメリス……」


レイラはその光景を見て、思わず呟いた。

他の全員も唖然としている。



……と、その時。


「……小娘、一ついいか?」


レイラが声の方を向くと、誰もいなかった席に、いつの間にかロギが座っていた。


「なんだ?」


レイラは心なしか上機嫌で対応する。

……もちろん理由は、『坊主』や『小僧』ではなく、『小娘』と呼ばれたことだが。


「お前が戦う時に纏っていた、あの白いオーラ。……あれはどこで身につけた?」

「どこって……ウチの道場で、親父から教わったものだぜ?」


レイラは質問の意図が分からず、内心首を傾げつつ、答える。


「……そうか、やはりな」


ロギはそれを聞き、小さく呟く。


「……お前、『拳魔一同流』の跡取りか」

「……ウチの道場を知ってんのか?」


レイラは少し驚きつつ、ロギに問う。


「俺は知らないが……隊長から聞いたことがある」

「隊長?」

「……スイーツ王国騎士部隊隊長だ」

「!!」


レイラは驚き目を見開いた。


「……そういや、親父がそんなこと言ってたな……」

「………話はそれだけだ」


ロギはそういうと、ゆっくりと自分の席へ戻ろうとする。

が、レイラを通過する所で、一旦止まる。


「……その緑色の瞳。お前も、『あの体質』を受け継いでいるのか」

「……悪いかよ?」

「……いや、同情をする気もない。『それ』が役に立つこともあるだろうからな」

「へっ」


短い会話を終え、ロギは自分の席へと戻る。


「………」


レイラは誰にもばれないよう、小さくため息をついた。


「……別に、『精霊』に嫌われたって、死ぬわけじゃねーんだからな」


狭い店内だったが、ロギ以外はメリスに気を取られていたため、その呟きが耳に入った者はいなかった。









~ハディサイド~



『ごちそう様でしたー!!』

「おう!!また来てくんな!!!」


俺達は勘定を終え、外へと出た。


……にしても、本当にすごかったなメリス。

正直夢だったんじゃないかと思えて仕方がない……!!


しかし、メリスが持っているダンボールいっぱいのお菓子が、俺を現実に引き戻した。


「ハディ!ぼーっとしてないで手伝ってよ!!」

「あ、あぁ、悪い」


俺はそう言って、店長がくれた大きな袋にダンボールの中のお菓子を半分ほどつめる。


「そーいや、あんたら兵士なのにいつまでもこの町にいていいのか?」


レイラが『ソレイユ』の三人に質問をする。


「あ、いえ、明日からはまた仕事がありますので、今日の夕刻にはこの町を発ちます」

「えぇ!?」


ランディアさんが行ってしまうと聞いて、メリスはショックを受けたみたいだ。


「そ、そんなぁ………」

「仕方ないよメリス、仕事なんだから」


そんなメリスをグリーがなだめる。


「……でも、夕刻に出て明日の仕事に間に合うんですか?」


俺は疑問に思ったことを聞いてみた。


ここから首都までって、歩いたら一週間以上かかるって聞いたけど……。


「大丈夫ですよ、空間転移(テレポート)を使いますから」


あ、なるほど、それなら一瞬だもんな。


「……あれ?空間転移(テレポート)ってそんな長距離できるんですか?」

「この町の物は可能みたいです。魔力は私が補給しますし」


グリーの疑問に、またもランディアさんが答える。


魔力を補給するってことは、魔法じゃなくて、魔導装置か何かを使うのか?


一応説明すると、空間転移(テレポート)ってのは離れた場所へ一瞬で移動する時空魔法の一種だ。

当然応用魔法だけど、その中でもかなり難しくて、基礎魔法レベル4ぐらい難しいって言われてる。

それと同じことができる魔導装置があって、むしろこっちの方が一般的だな。


……ただし、それは個人で買えるような代物じゃないし、大きすぎて持ち運べないらしいけど。


「今日の午後5時に発つ予定だからなー!良かったら見送りに来てくれなー!」

「あ、はい!」

「絶対行きます!!」

「ありがとうございます。それでは、また!」


『ソレイユ』の三人は、俺達から離れ、町を歩き始めた。
















「………ここでいいんだよな?」


午後五時、俺達は広場に来ていた。

そう、昨日出発前に冒険者達が集まった広場だ。


「……魔導装置っぽい物なんてないけどな……」


俺はきょろきょろと周りを見るが、それらしいものは見当たらない。


……代わりに、『ソレイユ』を見送りに来たであろう、たくさんの冒険者と町の人達が目に入った。

その人達は丁度店が並んでる前にいて、広場を取り囲んでいた。


俺達もそれにならって広場の周りに座る。

たぶん、中央に『ソレイユ』が来るんだろうな。


「……やっぱり、みんな来てるな」

「そりゃそうだよ!!」

「今回の依頼は、『ソレイユ』の力なしじゃ絶対成功しなかったからね」


グリーの言う通りだ。


『ソレイユ』がいなかったら、犠牲者0どころか、下手すりゃ全滅してた。


ランディアさん達だけじゃない。

この町の『防衛』についた五人と、ビスケット町の『防衛』についた三人。

その人達がいたから、気兼ねなく『殲滅』に取り組めたんだ。



「……あ、来たよ!!」


メリスの声が聞こえ、それとほぼ同時に広場が歓声に包まれた。



『英雄達のお出ましだぁ!!!』

『精鋭部隊ソレイユ万歳!!!』

『あんたたちのおかげで生き残れたぞ!!!』

『感謝しても感謝しきれねぇ!!!』

『本当にありがとう!!!』



ランディアさんを含めた11人の『ソレイユ』に、冒険者と町の人が感謝の声を上げる。


『ソレイユ』はそれを聞いて、誇らしげな様子だったり、照れていたりした。


……なんか、シルムさんも少し照れてるように見える、ような……?



「皆さん!!」


と、先頭にいたランディアさんの声が聞こえ、歓声が一旦止む。


「私達『ソレイユ』の見送りに出向いて下さり、ありがとうございます!!」


ランディアさんは頭を下げるのではなく、人々の顔を見回し、本当にうれしそうな笑顔でそう言った。


……なんか、若い男冒険者が数人顔を赤くしてるような。


「私達から、皆さんに伝えたいことがあります!」


……伝えたいこと?


疑問に思ったが、口には出さずにおいた。


他の人も同じみたいだ。

ざわめきは起こらず、全員がランディアさんの次の言葉を待っていた。


「まず、チョコレート町在住の皆さん!

 今回の危機は去りました!そのことについてはご安心下さい!!

 そして、もしまたこのようなことが起こったとしても、スイーツ王国軍が総力を以て、皆さんをお守りいたします!!」


ランディアさんの力強い言葉に、町の住人達から歓声が上がる!


「そして、冒険者の皆さん!

 今回は皆さんのお力により、誰一人の犠牲もなく、この町を守ることができました!!本当に、ありがとうございました!!」



「感謝するのはこっちの方なのにな」


レイラがそんなことを呟く。

でもその顔は、まんざらでもない、といった感じだ。



「これから先も、皆さんのお力を借りることがあると思います。

 その時は、どうかお力添えをお願いします!!」



『もちろんだーーー!!!』

『あんたらのためなら何でもするぜーーー!!!』

『イアさーーーーーーーん!!!』



……最後のはメリスだな。

気持ちは分かるけど、名前呼ぶだけってお前……。



歓声が治まると、チョコレート町の町長が、ランディアさんに感謝の花束を渡した。


「ありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそ!この町を守って下さり、本当にありがとう!!!」


町長とランディアさんは堅く握手をし、町長は下がった。


……なんか若い男冒険者が数人、村長に妬みの視線を送っているような……。



「中将、お願いします」

「はい!」


と、シルムさんが広場の中央に行き、そこにあったくぼみに手をかけ、引き上げた。

その穴の中には、直径30cm程の紫色の丸い玉があった。


「あれは……?」

「……魔宝玉だね。

 魔力を蓄える性質のある宝石の一種だよ」


ランディアさんがそれを持ち、『集中』を始める。

『集中』によって集まった茶色い光は、その魔宝玉に吸い込まれていく。

そして、魔宝玉は紫色に発光し始めた。


「はい、これで十分だと思います」

「ありがとうございます」


シルムさんはそれを受け取り、穴の中に入れ、ふたを戻す。


「マウロさん!お願いします!」

「了解!!」


酒場のおやじは広場にある一番大きな女神像のそばにいた。

おやじは像の背中にあるレバーを降ろす、と。


広場の中心から半径五m程の地面が淡い紫色に輝き、そこに淡い虹色の魔法陣が浮かび上がる。

さらに、紫色の光は地面の浅いくぼみに合わせて、広場全体へと広がる。

それもまた、複雑な魔法陣を描いていた。


「これは……!?」

「……そうか」


驚く俺達を尻目に、グリーが呟く。


「……この広場全体が、魔導装置なんだ」


淡い虹色の魔法陣から白い光が立ち上り、『ソレイユ』11人を包み込む。



「それでは皆さん!

 ……またいつか、お会いできる日を楽しみにしています!!」


ランディアさんの声が聞こえたその直後、白い光が消え、同時に『ソレイユ』の姿もその場から消えていた。




「……行っちゃったね……」

「……あぁ……」


メリスの呟きに、俺も呟くように答える。


『ソレイユ』の見送りはもう終わった、が。

冒険者も町の人も、しばらくの間広場に留まっていた。

そして、『ソレイユ』が、自分たちの恩人がさっきまでいた場所を、誇らしげに見つめているのだった………。








なんか思ってた以上に長くなりました!

二話じゃなくて三話に分けた方が良かった気がしてきた……。


まぁなんとか書きたい所までは行けたので、

予定通り次回で第二章は終了できると思います!


ちなみに、レイラの『体質』については

『冒険者ライフ!』ではあんまり掘り下げない予定です。




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